17-12.その後の日常
美緒は総合商社スミスコーポレーションの副会長をしている。会長は牧場のオーナーでもあるスミスだ。
最初、美緒の発案でチーズつくりからはじまり、新しいものに好奇心をもって賛同してくれたスミスの協力により、牛乳以外にチーズやバターの乳製品を製造するスミス乳業、ワインを醸造するスミス醸造、電柱を立てて街に電気の明かりを灯す事業をてがけるスミス電力。雅則が電話も手掛けたことから、スミス電話電力会社に大きくした。それらを総合的に扱う商社、スミスコーポレーションを立ち上げ、美緒はその全体に経営をこなしている。
ジルを電力会社に、ソアラを醸造会社に斡旋したり、その他女性職員、いわゆるOLなどの人材育成にも力を入れている。
白ワインの製造はソアラに任せてみた。そして白ワインも赤ワインも売り上げを伸ばしていった。そのソアラもセーラとアリオン神国に戻っていった。
悠介は『サンダース自動車販売』の営業を再開し、自動車の販売も手掛けるようになった。その傍ら、トリア地区のマーサを訪ねた。
織物地区の増改築も終わり、ジーンズ用の織物も増産出来るようになっていた。
「こんど街でファッションショーとかをするらしく、仕立て屋が来て、生地について相談された。従来の生地の増産を頼まれた。街は変わっていくようだねぇ」
マーサが戸惑いながら嬉しくもあるようだった。
「ニナは早速イベントを始めるのか。マーサさんもそのときは招待するように言っておくから」
「私はいいよ。街にはあまり出かけない。自然に囲まれながら暮らす方が性に合っている。娘は街に出て行ったけどね」
「マーサさんに出会えてよかったと思っている。これからも世話になると思うし。そうだ、自転車をプレゼントするよ。乗れると便利だよ」
◇
雅則とリサはエドワールにしばらく滞在した後、エランデル国に向かった。
飯店『ハナ』への宿泊予約をリサからリンスに頼んでおいた。
エランデル国に近づくにつれて魔獣が列車の近くに現れた。
「犀魔獣ですね。体当たりされたら脱線しかねます」
「列車の警護に冒険者も乗り込んでいるようだが、レベルは高そうにないな。リンメイくらいレベルがある者たちなら安心して任せていられるけど。リンメイはエランデルの温泉に居るんだったな」
「どうでしょう。リンスに確認しますか?」
「いや、リンメイはそっとしておこう。・・冒険者に代わって列車を守ってやるか」
雅則は近づくカウボーグに衝撃弾を浴びせて追いやった。
アリシクル駅に着くと街を散策しながら飯店『ハナ』に向かった。
「エランデルの街は変わらないな。外灯も灯油だし、交通手段は馬車だ」
雅則たちはワリキュールやエドワールの街を近代化させているが、ときどき余計なことをしているのではないか? と思う時がある。
「この世界に来て、余計なことをしているんだろうか」
そう思いながら飯店『ハナ』に入っていった。
「いらっしゃい。お待ちしてました」
ユリがいつものように笑顔で迎えてくれた。
「お部屋は1つでいいんですか?」
「え?」
「今日は部屋がほとんど空いているのでお使いいただけますよ」
「そうなんだ。・・でも1部屋でいいよ」
「わかりました」
ユリがニタリ顔をして部屋の鍵を渡してくれた。
リサが
「あの笑顔は何でしょう」
と雅則に聞いた。
「さあ。・・リサの部屋は別に用意しなかったけど、リンスと会って来ていいぞ」
とリサに言った。
「はい」
リサとはエドワールの大飯店で腕枕をしながら休むこともあるから、久しぶりの二人っきりという関係でもない。
部屋に入るとリサが
「リンスです」
と言った。そしてリンスが窓から入ってきた。
「ナルーシャが一緒に食事をするのを楽しみにしています」
「わかった。あとで迎えに来て」
「はい。それと・・リンメイがニドルの娘になりました」
「そう。・・え?・・」
「ニドルがリンメイと従業員のユニを娘にしたそうです」
「養女にしたということかな? リンメイもスラーレンには帰る家がないからよかったんじゃないかな」
雅則はそう推測したが、リサにもリンスにも理解出来ないことのようだった。
「報告ありがとう」
雅則がリンスに礼を言うと
「失礼します」
リンスは窓から出て行った。
◇
夕食はナルーシャが食事処に4人分の予約をしていたが、リサとリンスは相席を遠慮した。雅則とナルーシャの二人で食事をすることになった。
「ハーロックさんと二人だけで食事をするのは初めてかも・・」
とナルーシャが戸惑うような顔をして言った。
「そうだね。いつもお邪魔虫がいたからな」
「まあ、誰のことを言っているんですか?」
「冗談。悠介ほど口は上手く無いけど」
こういう場は、雅則のほうが苦手だった。幼馴染の美緒とは小学生のころから言葉を交わしていたが、異性は苦手だった。
「でも・・なんだか嬉しいな」
「え?・・」
「ハーロックさんは全然変わらない」
「そう? まあ、変えるつもりもないけど」
変えたくても変えられるものでもない。
「せっかくだから二人で温泉にも行きたいな」
ナルーシャのほうから雅則を誘った。
「ああ、いいけど・・」
ナルーシャのほうが積極的に見える。多分、歳は雅則より上のはずだ。しかし
「混浴はしませんよ」
と言われた。
「なんだ」
「あさってでよければ温泉に行ってもいいですよ。私も行きたいし、仕事は休めますから」
「じゃあ、行こうか。今回はそんなにのんびりするつもりはないんだ。新しい街にしなければならない仕事があるから」
「そうなんですか」
「明日は城に上がって挨拶などをして、あさって温泉に入って、それから帰るよ」
すると
「もうワリキュールの人になってしまったんですね」
と寂しそうな顔をして言われた。
「結果的にね」
そう、この世界に来て最初に過ごしたのはエランデル国だった。そしてナルーシャとめぐりあった。今はワリキュール王国に館を手に入れて、そこを拠点にしている。
食事のあと
「家まで送るよ」
とナルーシャに言うと
「エランデルの街はワリキュールの街と違って、夜に楽しむところはあまりないから・・外灯もないし。だから夜は極力外歩きしないんです」
とナルーシャが教えてくれた。
「そうなんだ」
「今はリンスが居てくれるから、守ってもらえるけど」
「魔族とも仲良くなっておくといいだろう?」
「そうですね」
話しながら歩いていると、ナルーシャの家に着いた。
「寄っていきます?」
まさか誘われるとは思っていなかった。が
「いや、宿に帰るよ。お休み」
と遠慮した。
「お休みなさい」
『ハナ』に戻ると、リサは出かけたままだった。
「今夜は一人で寝るようかな」
◇
朝日が昇るとリサが部屋の中に居た。
「おはよう」
「おはようございます」
「今日は城に上がってくる。明日はナルーシャと温泉に行ってくる。帰りはSLと飛行船と、どっちがいい?」
リサに聞くと
「エドワールではなくて館に帰るんですか?」
と聞かれた。
「ハンスと仕事の打ち合わせをしたいから」
「私はどちらでも・・」
「リサ、イビル、リンスの中で、リサが一番遠慮深いな。欲はそんなにないのか?」
「私は・・いつも誰かに従ってきましたから」
「そうか。・・時間節約に飛行船で帰るか」
「はい」
「リンスに飛行船の予約を頼んでおいて。それと・・従うなら、ベッドに入ってくれるか? まだ起きるには早い」
「はい」
雅則は、素直に従うリサに腕枕をしながら二度寝した。
◇
雅則は一人で城に上がった。
詰め所を覗くとリリアが居た。
「ハーロックさま」
「おはよう。元気そうだね」
「今回は何用で・・」
「リリアたちに会いたかったのと、セバスと情報交換が出来ればと思って・・」
「男爵にはそのように伝えます。ランスロットとナナは今日は休暇をとっています」
「そう。衛兵隊が暇なのはいいことだ。平和だなぁ」
◇
翌日はリンスとリサに馬車を調達してもらってナルーシャと温泉に出かけた。
「ハーロック様、飛び蟻とか、けっこう魔物が出てきそうです」
御者をしてくれているリンスが教えてくれた。
「魔物退治は二人に任せる。手に負えないときは言って。・・魔物たちも歓迎してくれているのかな?」
「ハーロックさんがいれば、どんな魔物が出てきても安心していられます」
ナルーシャも不安なく言った。
そして温泉に着いた。
「いらっしゃいませ。・・ハーロックさま・・」
客の出迎えに玄関に出てきたのはリンメイだった。
リンメイは、雅則が馬車から降りてくるのを見て驚いた顔をした。
「元気そうだね」
「はい・・」
突然の訪問に驚くリンメイに、雅則は多くの言葉をかけなかった。
そしてオーナーであるニドルに会った。
「またお世話になります」
「いつでもおいでください」
ナルーシャはリサとリンスと入り、雅則は一人で温泉に浸かった。
そしてひと風呂浴びてから、雅則はニドルの接待を受けた。
「リンメイを養女にしました。ハーロックさんとも縁があるそうで」
「本人から詳しい話は聞いていないんですか? まあ、そう話したいことではないだろうけど」
「温泉はハーロックさんや美緒さんたちに助けられてきたし、縁で結ばれているような彼女はいい娘でね。手放したくなくなって・・」
「リンメイはニドルさんに出会えて、養女にしてもらってよかったと思う。よろしくお願いします」
雅則はニドルに頭を下げた。
雅則は今でもリンメイの心を傷つけたことは悔いている。
ただ、自分のしてきたことに後悔はしていない。
若い娘が飲み物を持ってきた。
「ユニという。リンメイと一緒に養女にした」
ニドルから紹介された。コーネリアのような若い女だった。
「ユニです。ハーロックさまの話はオーナー、いえ父から聞いています。よろしくお願いします」
ユニに頭を下げられた。
「二人も養女に出来て、ニドルがうらやましい」
「照れるわい。あ、は、は」
ナルーシャも温泉から上がって来ると帰ることにした。
「ハーロックさま・・」
リンメイが帰ろうとする雅則に声をかけてきた。だが、何を伝えればいいのか、自分でもわからないでいるようだった。
雅則は
「リンメイが幸せなら俺は安心していられるから。来たい時にはいつでも館に来ればいい」
と声をかけて馬車に乗り込んだ。
馬車を走らせながら、リンスが
「明日の飛行船の予約がとれていますから」
と雅則に言った。すると
「またワリキュールに行きたいな」
とナルーシャが言った。
「来られるときに連絡くれれば迎えに来るよ。リンスも一緒に来ればいい」
そう言われてリンスも喜んだ。が
「でも・・エランデルを空けることになるから・・」
と真顔になった。
「その時は、俺がダマリンに掛け合ってやるから」
「はい」
リンスは笑顔になった。
そして翌日、空港にリリアとナナも見送りに来てくれた。
「いつも突然来るから・・」
とナナに不満顔で言われた。
「ごめん。計画を立てられないから。いつかナナちゃんもワリキュールに呼んであげるから」
「楽しみにしてます」
飛行船に乗り込み、空高く上がると、ワリキュールに向けて飛んだ。
リサは外の景色を楽しんでいたが
「席を窓際に替わりましょうか?」
と雅則に気遣うように言った。
が、雅則は
「いい。リサが外の景色を楽しんで」
と遠慮した。
「まだ高所恐怖症は解消しないんですか?」
「無理だと思う」
雅則、悠介、美緒の三人は、いつ元の世界に戻れるか、まだわからないでいるが、転移してきた異世界での暮らしを楽しんでいる。
そして数年が過ぎていった。
新たな脅威が迫ってくることを、まだ三人は知らなかった。
物語は続きますが、一旦、区切ります。
そして、この物語を、もう一人のヒロイン、リンメイ側から描いたストーリーを投稿します。
ニドルが温泉をはじめた理由など、本編では、あまり描けなかったことも別の面から描くことにより、
異世界を、より具現化出来たらと思います。




