17-10.挨拶に来たヒュンケル
雅則たちがソアラとセーラとともにアリオン神国方面に旅立って半月ほど経った。
館には美緒、ソリア、カリナ、ジル、イビルにコーネリアが残っていた。だが、毎日、美緒はコーネリアを連れてスミスコーポレーションの本社へ、ジルはスミス電力へ、ソリアは冒険者協会へ仕事に出かけ行く。
イビルは館の中でじっとしている性格ではないので、宮殿や街の巡回に出かける。館にはカリナが一人残り、新しい自動車や雅則から引きついだ無線機の設計・開発にいそしんでいる。
カリナが喉を潤そうと台所に向かうと、ヒュンケルが現れた。以前にもカリナが留守番をしているときにヒュンケルがスラーレンから転移してきたことがあった。
しかし今日はヒュンケルだけではない。メイド服を着た女も連れてきた。
「また驚かせて申し訳ない。今日もカリナだけか」
「はい。みんな仕事に出ています。ハーロックさんと悠介さんはアリオン神国方面に出ています」
「アリオン神国?」
カリナは、そのいきさつをヒュンケルに話した。
「そんなことがあったのか。するとコーネリアは?」
「美緒さんがコーポレーションに連れていってます」
「そうか。重要な話があったんだが、ああ、紹介しておこう。私の世話をしてくれているシズ・イプシロンだ」
「シズです。はじめまして」
シズがカリナに笑顔で挨拶した。
「もしかしてデュラハンの? イビルやリンメイさんから聞いたことがあるので・・」
「デュラハンをご存知?」
「いえ。見たことも会ったこともありません」
「首を取ってみせましょうか?」
シズがにこやかに言った。それがカリナには逆に怖く思ったが。
「いえ、は、は、は。遠慮しておきます」
「みんないないなら、ではまた出直してこよう」
ヒュンケルが帰ろうとすると
「美緒さんなら電話で伝えることが出来ます」
とカリナが言った。
「電話までつくってしまったのか」
カリナがスミスコーポレーション本社の美緒に電話した。
「ヒュンケルが? 今からすぐ戻るから待っていてもらって」
そう聞いたカリナが
「直ぐ戻って来るそうなので待っていてほしいそうです」
とヒュンケルに伝えた。
「転移魔法で連れてきてもいいが、そのスミスなんとかというところには行ったことがないから無理だな」
「飲み物、出しますね。私も喉を潤したくて(二階から)下りてきたんです。牛乳もあるけど・・ワインもありますよ」
「美緒さんがつくったというワイン?」
「はい。赤ワインと白ワインもあります」
「是非飲んでみたいが、誘惑に負けそうだから牛乳にしておこう。スラーレンにも牛乳はなかったから」
待っていると美緒とコーネリアが帰ってきた。
「ヒュンケル、お久ぶり」
「自動車で戻って来ると聞いたが、わからなかった、転移してきたのか?」
「自動車で戻ってきたのよ。カリナがエンジンの音が大きく聞こえないように改良を重ねてくれているのよ」
「それは素晴らしい」
カリナは褒められて思わず照れていた。
「忙しそうで。でも楽しそうだな」
「ええ。こっちの世界に来て最初はとまどっていたけど、今は楽しく暮らしているわ」
「コーネリアも元気そうだな」
「はい。仕事は楽しいです」
「どんな仕事をしている?」
「美緒さんの会社でいろいろ・・」
美緒が事情を説明した。
「雅則くんも、悠介さんもリサも出かけちゃっているから私がしっかり守っていないと。コーネリアには私の傍で雑用をしてもらっているの。私も大助かり」
「カリナから聞いた。(ハーロックたちは)アリオン神国のほうに出かけたとか」
「ええ、そうなの」
「どのくらいで戻る予定なんだ?」
「わからないわ。無事戻ってくるとは思うけど」
正直、美緒も無事に戻ってくることを毎日祈っている。コーネリアも心配そうな顔をした。
「コーネリアは俺が預かり、力になってやりたいが、報告があって来たんだ」
「報告?」
「このシズと旅にでようと思う。ああ、シズをここに連れてきたのは初めてだから。カリナには紹介したが、シズ・イプシロン。俺に仕えてくれるデュラハンだ」
「話は聞いているわ」
「はじめまして。シズ・イプシロンといいます」
シズは美緒にも丁寧に挨拶した。
「ハーロックにはスラーレン法国の玉座に座らせてもらったが、自分には政は向かないと悟った。で、今はロワール城で暮らしているのだが、あらためてこの世界について調べてみようと思って。学生時代も社会科はあまり得意ではなかったが、古城や神社仏閣を見て回るのは好きだった。スラーレン法国の国王をしていたときはスラーレン法国の歴史やロワール城との関係も調べてみたこともある。スラーレン法国やワリキュール王国を建国した人族たちも別の土地から移ってきた民族であることも知った。そこで他にも国があるだろうと興味が湧いてね。シズと二人で旅をしてこようと決めたんだ。ハーロックが居ないときに力になれないのは申し訳ないが」
「私たちに気遣いは無用よ。コーネリアには私以外にもジルやスレーンも居るし。直ぐに出かけるの?」
「いや、急ぐこともないから、行先も決まってないから。・・もらえるなら美緒さんがつくったワインが欲しいのだが」
「ヒュンケルもお酒が好きだと聞いているわ。ジルと酔いつぶれるまで飲んだんですって?」
「あれは反省している。と言いながら彼と二、三回飲み明かしたか」
「夕方にはジルもイビルも帰ってくるから、今夜は泊まっていけば? ワインは私もつきあうから」
「誘惑に負ける自信はある。では言葉に甘えよう」
「シズさんも飲むの?」
「いえ、私はヒュンケルさまのおつきあいでお酒を覚えましたけど。たぶん底なしかと。酔うことはありません」
「デュラハンはアルコールに強いというか、反応しないのかな」
「お風呂にも入ってもらえば?」
カリナが提案した。
館の大きなお風呂にヒュンケルもシズも驚いた。
「館に長居したら、帰りたくなくなるかも」
その夜は、ジルやイビルも混ざって酒宴になった。
翌朝。
「ハーロックが戻ったら、よろしく伝えておいてくれ」
ヒュンケルとシズは転移してロワール城に戻っていった。




