17-6.森の魔獣とガハルスタウン
翌日、悠介がマチルダとガハルスタウンに行くことになり、雅則とリサも後からついていった。
「あれが警備隊の副隊長らしいマチルダか。それと連れが増えているようだが、悠介が街で助けようとした姉妹かな」
雅則が推測するとリサが
「悠介さんもラブラブデート出来ないみたいですね」
と言った。
「ラブラブだったらナディに報告しないと」
悠介はマチルダと並んで歩きながら
「なんか冒険者になった気分だな。エランデルではギルドハンターの登録もしたし、ワリキュールでは冒険者の登録もしたけど、冒険者らしい仕事はほぼしていなかったからな」
とピクニックのような気分で居た。
「それはどこにあるの?」
「遠いところ。この世界ではあるけど・・で・・何で二人も連れてきたんだ?」
ドリアルタウンで待たせるつもりでいたユリエーナとミサエーナの二人もマチルダが連れてきた。
「街で待たせるつもりだったけど、二人にせがまれて・・私が戻らなかったら途方に暮れるし。その後からついてくる二人は誰?」
マチルダも後からついてくる雅則とリサに関心を示した。
「あれは俺の友達。俺のように強いから」
◇
ドリアルタウンから足を進めてきたマチルダが
「近道に森を抜けていくわよ」
と悠介に言った。
「森にはどんな魔物が居るんだ?」
「ほとんど小物よ。大きいのが出てきたらあなたに任せるわ」
「それで俺を連れてきたのか? ナルティーナも気の強い女のようだが、マチルダもしたたかものだな」
「ナルティーナってテルニア国の王女?」
「知っているのか?」
「剣を交えたことがあるわ。力比べでね」
「こっちの国の女性はアマゾネスなのか?」
森がざわつきはじめた。
周りに現れたのは
「キャットヴィッツよ」
「キャットというよりネズミに似ているな」
体型は小型だが
「かまれれば痺れるわよ。毒を持っているの」
マルチダが注意を促した。
「耐毒魔法も効力を発揮すると思うが、わざわざ噛まれてやることはないな」
悠介は襲ってくるキャットヴィッツを指弾で打ち倒し撃ていった。
「何その魔法」
マチルダは悠介の指弾に驚いていた。
「魔法というか、俺はただの魔法攻撃よりパワーを使った攻撃のほうが得意なんだ」
「あなたのような魔術師ははじめてだわ」
マチルダも剣で切り殺していった。
「接近したものだけだが、一応相手に触れずに切れるようだな」
悠介は美緒のソードアタックを思い出してマチルダの剣技を確認した。
「剣に魔力を封じ込めることが出来るから」
マチルダは自慢げに言った。
リサが雅則に
「ハーロック様は力を貸さないんですか?」
と聞いた。
「楽しそうだから。二人の邪魔はしないでおこう」
進んでいくと大きなネズミ、いやキャットヴィッツが現れた。
「あれが親玉のようね」
「この森のラスボスか?」
「もっと凶暴な魔獣も居るはずよ」
「あいつに勝てるか?」
「闘ったことはないけど、切り刻んでやるわ」
マチルダは巨大なキャットヴィッツに切りかかった。だが跳ね返された。
「嘘でしょう、魔力を込めた剣を跳ね返すなんて」
「防御魔法が使えるのか」
悠介はキャットヴィッツが大きいだけではないのを知った。
「我をただの巨大な獣と思うな」
キャットヴィッツがしゃべった。
「しゃべれるのか」
悠介が話しかけた。
「知恵もある。魔法も使える」
「巨大な魔獣でも話せるものに出会ったことはなかった。世界は広いな」
マチルダは悠介がキャットヴィッツに話しかけているのに驚き
「話せるの?」
と悠介に聞いた。
「マチルダは言語翻訳魔法が使えないのか?」
「そんな魔法、知らないわよ」
「それも驚きだ」
キャットヴィッツが悠介に襲い掛かった。
「図体が大きいだけかと思ったら、動きも素早いな」
悠介は態勢を立て直すと
「ナックルストロンガー」
キャットヴィッツに拳を振り上げた。キャットヴィッツは、その衝撃にのけぞって転倒した。
「うそ!」
悠介の力にマチルダは驚いた。
「パワー系が得意と言ったろう?」
悠介は
「俺は人族の悠介。名前があるなら教えてくれ」
とキャットヴィッツに聞いた。
「我はベロン。この森に生息するもの」
「我々はキャットヴィッツに危害を加えに来たのではない。森を抜けたガハルスタウンに行きたいだけだ」
「それが本当なら、森を通さないでもない。我々も犠牲者は出したくないからな」
「助かる。この森にはお前たちしかいないのか?」
「いや、他にも居る。だがお前たち人族が恐れる魔獣は、人族のカニールがガハルスタウンに連れて行き使役している」
「使役? カニールって聞いたことがあるような・・」
「そういう魔法を使って同じ人族を襲っている。カニールも人族で言う上位魔術師らしい。魔獣を使役して扱う魔術師だ。このままではこの森はいずれ人族に荒らされてしまう」
「思い出した。美緒ちゃんをこの世界に連れてきた男だ。あいつは許せない。俺がカニールを倒してやろう」
悠介はカニールを思い出して気を高揚させた。悠介たちが異世界に転移したのは、元はと言えばカニールのせいとも考えられる。
「我々の味方をしてくれると?」
「アイツには恨みがある。それに、この世界はいろんな生き物が生存している。それらが共存出来る世界がいいと思う人族も居る。俺もその一人だ」
「信じていいのか? まあ、逆らっても我々には勝ち目はないようだが」
「朗報を待っていてくれ」
悠介たちは森を抜けた。
◇
「あれがガハルスタウンよ」
マチルダが前方を指差して悠介に教えた。城壁とかで囲われてはいない。
「悪人の砦のような感じではないな。ドリアルタウンよりは小さいか」
「普通の街よ。ただ、ベアーキラーダが街のどこかに自分たちの拠点をつくっているらしいわ。そして浚ってきた女性たちを監禁している場所もあるはず。街中の宿をとりましょう。資金は持ってきているから」
マチルダに言われ、悠介は
「悪いが、俺の友達の世話も頼めるか。恩は返すから」
とマチルダに頼んだ。
悠介の力を信じているマチルダは
「いいわ」
と雅則とリサの世話もしてくれた。
「しかし、警備隊の鎧姿は街中では目立つんじゃないか?」
「いいこともあるのよ。大抵の悪ガキは寄り付かないわ。お店にとっても防犯の役割にもなるから」
「考えようだな」
「休んだら、私はこの街の何処かに居る姉を探しに出てくるわ。浚われた女性たちの監禁場所も探りたいし」
「ここまで同行してきたんだ。つきあってもいいけど」
「結構よ。休んでいて」
マチルダは一人で街に出て行った。
「まさか俺が振られるとは・・こっちの女は違うのか?」
そうつぶやく悠介に
「ユリエーナとミサエーナの相手をしてやったら?」
と雅則が気遣った。
「いくら女好きでも、むやみに手を出していないからな。それに彼女らはベアーキラーダとかいう連中に囚われているらしい姉の心配をしている。それよりキャットヴィッツが言っていたことが気になる。森の魔獣を使役しているというカニールというやつだ。もし、彼が美緒ちゃんをこの世界に連れてきた男なら許せない」
「責任取ってもらって、元の世界に戻してもらうか」
「いや・・元の世界は混乱しているようだ。下手をすると核戦争を起こしていかも知れない。もし平和ならナディを連れて帰りたいと考えたこともあるが。・・この世界で暮らしているうちに、こっちも悪くないと思うようになった」
「それは俺も同じだ。・・もし美緒ちゃんにカニールを見つけたことを知らせたら、何てこたえるだろう。・・リサ、イビルと交信出来ないか?」
「ワリキュールとエランデルくらいならオウムで可能ですけど、ここからはオウムを連れてきたとしても無理です」
「そうか。この世界も広いな」
「マチルダが一人で探索に出かけたけど、大丈夫だろうな?」
悠介が心配すると
「私がマチルダを探して見張りましょうか」
リサが役を買って出てくれたが
「リサには危険なことはさせたくない」
と雅則はリサを心配した。
「<心波>で交信出来ますから」
「そうだった。悠介とも出来るか?」
「試してみます。・・悠介さん」
リサは悠介を見つめた。
「そんなに見つめられても、ワリキュールに戻ればナディも居るし・・」
「<心波>が使えるか試すだけです」
すると
『俺とも交信させてもらえるのか?』
悠介が<心波>でリサに交信してきた。
『変な気は起こすなよ。抱かなくていいからな』
雅則も交信に加わった。
『たまには一緒にお風呂に入ってくれるくらいはいいだろう?』
『ナディに報告しておく』
『今のは取り消す』
悠介とも<心波>が使えるようなったリサは街に出て行った。




