17-5.悠介とマチルダ
時間を少し戻す。
悠介たちはナルティーナ王女たちとドリアルタウンにやってきた。
雅則がリサと寝屋で過ごすと聞き、悠介は部屋に居ても退屈に思い、街に出てみた。
ドリアルタウンの街は、雰囲気がワリキュールやエランデルより、元の世界の都会に似ていると思った。不思議に活気づいていた。
「資金があればスナックにでも入ってお姉さんに声をかけてみたいところだが・・」
路地裏に不穏な気配を感じた。
「誰かが追われているような気配。・・ザコは数人」
二人の女が男たちに路地裏に追い込まれていた。
「俺たちがガハルスタウンに連れて行ってやると言ってるんだ。大人しくすれば乱暴はしないから」
二人の女は怯えるように身を寄せ合っていた。
「ここで白馬の王子様が登場っていうのは、話の定番かな。たまには王子様になるのも悪くない」
悠介が二人の女を助けに出ようとすると
「そこで何をしている」
と威勢のいい女が登場した。しかも鎧を身にまとっている。
「ベアーキラーダだな。捕縛する」
「警備兵が怖くて、ここで活動出来るか。返り討ちに合わせてやる」
男が炎を出して攻撃してきた。女は剣を抜くと、その居合のような剣さばきで炎を消し去った。
「おお、強そうな女。あこがれるタイプじゃないな」
悠介は女を見て、そう思った。
「マチルダか。警備兵に剣を使う魔術師が居ると聞いていた。俺はお前を倒す仕事も請け負っている。探す手間が省けた」
魔術師が女に対峙した。そして炎で身をまとった。
「俺は炎を使う魔術師。剣の腕ではお前にかなわないだろう。炎の槍」
炎が槍のように伸びて女に襲い掛かった。
女はそれを剣で払った。
「炎の槍を剣で払える?」
「剣に魔力を込めているからな」
女は魔術師に襲い掛かった。だが、女の剣は魔術師を斬れなかった。
「俺の炎はシールドでもある。攻撃も出来れば防御も出来る。ファイヤーバレット」
魔術師から放たれた炎が女を襲い、女はその勢いに飛ばされた。だが女はすぐに立ち上がった。女は防御魔法で炎の攻撃から身を守ったようだ。
「剣を使えるだけじゃなく、魔法も使えるのか。だが、魔法力も俺の方が上だ。覚悟してもらう」
強気の魔術師に女は剣を構えた。
悠介が
「加勢してやってもいいけど」
と女に言った。
「だれ」
「偶然、立ち会った者だけど、そろそろ助け時かなと思って。本当は俺が女の子二人を助けようとしていたんだ」
「見ていたのならわかるでしょう? かなりの魔術師よ」
「のようだね。使えるのは炎だけ?」
悠介は男に聞いた。
「俺は炎を使う魔術師だ。だが、その威力はかなりのものだぞ」
「ああそう。俺が倒していい?」
悠介は女に聞いた。
「倒せるの?」
「楽勝だと思うけど」
「おちょくっているのか!」
「闘えばわかるさ」
ここは格好のつけ時、しばらく力も出していないし。
「一気に片付けてやる。ファイヤーバースト」
魔術師が悠介に炎を浴びせてきた。
「恰好つけて出てきたのが運のつき・・え?・・」
炎が消えると、悠介は毅然と立っている。
「雅も耐火魔法を身につけたらしいが、俺も同じか」
悠介はそれを自覚すると
「お前のレベルはたいしたことがないことが分かった。観念しろ」
と魔術師に言った。
「嘘だろう。お前は何者だ」
「魔王サンダースを名乗ろうとしたこともある。自分でも気に入らなかったがな」
「俺はまだ本気で力を出していない。この街を炎で焼き尽くす力もある」
魔術師は身体を炎でまとった。
「自分の身体を火元にして街を焼く気か。なら炎を消さないと。アームウイング」
悠介は腕を一振りして突風を起こすと、魔術師の炎を消し去った。
「俺の炎を消しただと!」
魔術師は驚き、信じられない顔をした。
「彼を倒していいか?」
悠介が女に聞くと
「出来れば殺さないでほしい」
と言われた。
「しょうがない。後の始末は任せるよ。パワーストライド」
悠介は魔術師を宙に飛ばすと、壁に激突させて落とした。
女は警備兵に指示し、他の男たちを捕獲させた。
「力になってくれたことに感謝する。私はトリアルタウンの警備隊の副隊長、マチルダ。魔法は使えるようだが、ラバスナ国の者か」
マチルダは上から目線で悠介に聞いた。
「いや、俺は旅人。たまたまこの街にたどりついたものだ」
悠介は恰好つけるように言った。そして
「で、気になるのは追われていた二人だが」
とマチルダに聞いた。
「彼女たちはきっとガハルスタウンに連れていかれようとしていたようだ」
「事情が呑み込めないが」
「アリオン神国から恩恵を受けているラバスナ国が、武力を持って近隣の国を支配しはじめた。ベアーキラーダは、その契機に乗じて悪事を企んでいる組織のひとつだ。各国から浚った女性をガハルスタウンに囲って、売買しているとう噂だ」
「人身売買か。こっちの世界も広いようだな」
「こっちの世界?」
「気にするな。それより二人をどうする」
「我々は警備が仕事で、住民の面倒は見られない。ここは近隣の国を追われた人々が集まる孤立した共和国。大小、いざこざもある街だ」
「自分の身は自分で守れって?」
そう言われてマチルダは
「警備隊に入って街のために尽くしているようなつもりでいるが、本当は自分が情けなく思っている」
と拳を握りしめていた。
「私も元は流れ人。腕を買われて今は警備隊の副隊長にまでなったが・・私は宿舎もあるから、とりあえずは私が借りている家で休んでもらってもいい」
悠介とマチルダは、追われていた女二人から話を聞いた。
「私はユリエーナ、そして妹のミサエーナです。姉のマリエーナはガハルスタウンにいるとの情報を得たんですけど、そこに連れて行ってくれるといった彼らが、姉をさらった一味でした」
「そういうこと」
「ガハルスタウンなら山を一つ越えたところにあるわ。そこがベアーキラーダの本拠地なら行ってみる価値があるかも」
「警備隊がガハルスタウンに乗り込んで囚われている女性たちを救ってくれるって?」
「それはないわ。警備隊は動かない。警備隊もお金で雇われているだけだから。それに・・山には魔獣も居るし」
「まさか一人で・・」
「私の姉もそこに居る可能性があるの。姉は闘える魔法は使えないけれど、治癒魔法や生活魔法は使えるの。警備隊に入れば、ベアーキラーダの情報も掴めると思って入ったのよ。姉と二人の姉だけでも助け出す」
「気持ちは称賛するが、無鉄砲すぎないか?」
「このまま自分だけ温い環境に居るのは耐えられないわ。情報も手に入ったのに」
「しょうがない。2,3日で済むことなら力になってもいい。後が閊えているからな」
「力を貸してくれると? 山を越えればガハルスタウン。そう遠くはない」
マーベリック邸に戻った悠介は、街で起こった事情を雅則に話した。
「じゃあ、そのマチルダと行ってくるのか? 邪魔しちゃ悪いからついて行かないでいいな」
「念のため、後から追いかけてきてくれてもいい」
「マチルダと浮気しないか、確かめてくるか」
「そういう心配はしなくていい」




