16-9.取り戻した日常
雅則たちがイミナスに出かけている間に、ナターシャがジルのマリアント国から持ち帰った薬草のゲンショーコーからポーションをつくりはじめていた。ゲンショーコーと他の薬草を組み合わせることで、いろいろなポーションがつくれる。
ナターシャがマリアント国に転移していた間は、教会を閉鎖し、ルナも羽を伸ばしていた。雅則の館で過ごしながら、昼間はチーズの店『マキバ』で働いた。そして何より楽しみにしていたのが、館の大きなお風呂だった。ソリアやカリナと入りながら
「みんなで入らないともったいないわ」
と喜んでいた。
イミナスからワリキュールに戻った雅則は、またリサと一緒にエドワールに行って火力発電所と変電所の建設に携わった。
ワイン工場で働きはじめたソアラが美緒のアドバイスを元に白ワインをつくった。
「ソアラもワインを作れるようになったのか」
悠介が感心すると
「私は商社全般をみないといけないから、チーズもバターも従業員たちに任せているのよ」
と美緒が忙しそうに言った。
「美緒ちゃんは商社の副会長だものな」
イビルが
「私とジルは飲むほうで協力するから」
と嬉しそうに言った。
「ジルが休日前だけにしておけ。イビルは肝臓がないかも知れないと言っていたな」
悠介が思い出して言った。
美緒が
「ワインをエドワールやエランデルにも出荷するようになったら生産が間に合わなくなるから、工場も増やしたいのよ」
と悠介に相談をもちかけた。
「わかった。次の自治総会の議題に出してもらうよ」
カリナが
「新しい自動車を作っていい?」
と悠介に聞いた。
「どんな自動車だ」
「今まで作った自動車より、もっと速い自動車」
「やめておけ。自動車で死にたくない」
「雅則くんは高所恐怖症で、悠介さんはスピード恐怖症かぁ」
美緒が言うと
「カリナの自動車に乗ってみろ。ほんとうに怖いぞ」
と悠介は顔をひきつらせた。
◇
悠介は白ワインを持って自治会長のベルトンを訪ねた。
「新しいワインですか」
ベルトンは白ワインを口にして
「これもいい味だ。赤ワイン同様、売れるでしょう」
と評価してくれた。
「それで、エドワールやエランデルにも出荷するのに工場を増やしたいらしい」
「ニューゴールドタウンなら、まだ土地に余裕があるでしょう。葡萄の木も栽培していることだし・・」
「雇用も増やせるし、次に総会で承認を得てほしいと思って」
「わかりました」
帰りに『なんでも屋』のナディを訪ねた。
「ジーンズを穿いている美脚は誰かと思ったらナディか」
「似合う?」
「うん。色気も増してきたし」
「え?・・ニナさんの衣料品店も繁盛していて、街の西側にもジーンズの2号店を出したそうよ。それにエドワールとかエランデルからも注文が増えて配送を頼まれて忙しそう」
「嬉しい悲鳴というやつか? 喜んでもらっているならいいけど」
「配送は私が頼まれているから私も儲けさせてもらっているけど」
「『なんでも屋』は以前から街にはなくてならない存在だったらしいからな。運送業も手がけてみる? ラッセルも鉄道会社の社長になって宅配業までやれなくなったし、トラックとか自動車は俺が提供出来る」
「いいわね。私も自動車が好きになっちゃって。用もないのにドライブするようになったし」
「事故を起こさないでくれよ」
「SLで温泉旅行に連れていってもらったけど、キャンピングカーではまだどこにも連れていってもらってないけど」
「ああ、そういえばそんな約束もしたよね。でもキャンピングカーで温泉に行くのは止めよう。途中で魔物が出ると思うから」
「悠介さんなら、みんなやっつけてくれるでしょう?」
「ナディを守れる自信はあるけど」
「うん・・」
ナディの口が重くなった。悠介は、その真意を汲み取れないでいた。
「俺もニナに新しいジーンズを頼んで帰ろうかな」
◇
悠介はニナを訪ねた。
「繁盛しているようだね」
「ジーンズの評判がよくて。織物の注文を出しているんだけど、量産は出来ないからって言われているの」
「織物はトリア地区以外からは手に入らない?」
「今は、そこでしか作ってないから」
「じゃあ確認してくるか」
悠介はドライブが好きになったナディにトリア地区に連れて行ってもらった。織物職人のマーサに会うためだ。
「マーサさん、しばらく」
悠介はジーンズの生地について聞いた。すると
「仕立て屋のニナから注文は入っているけど、建屋も機械も限りがるから。職人は戻ってもらえるけど、増築の資金がないんだ」
「なら、資金は俺が出そう」
「頼もしい男だ。娘の婿にもらいたくなる」
「え? 娘さん?」
「嫁いで行ったけどね」
「異性問題で悩む必要はないようだな」
悠介はホッとした思いをして、建屋の建築、改築はナディに手配してもらった。




