16-7.シームア領の危機
ダマリンはリンスから報告を受けた。
「新たなケルトン族がシームア領に入ってくるそうです。マキギ族がハーロックに縁のあるリンメイという人族に教えたとのことです」
「ほんとうか? それが本当なら、シームア領の危機だな。調査を続行してくれ」
「はい」
リンスから報告を受けた後、ダマリンはルルから
「シシロウ族のレオン様が来ました」
と報告を受けた。
「どうしたレオン」
「クハノウ領からシームア領に向けて人族の移動が始まっている。その一部がオーク高原側から向かって来ている。そこからシームア領に入って来るようだ」
「それを知らせに?」
「シームア領を人族に荒らされたくないからな。ケルトン族は女、子供を含めてかなりの数だが、武具を持って入ってくるのは多くて2000ぐらいだ」
「報告を感謝する。ちょうどリンスからケルトン族の報告を受けたところだった」
「人族をあなどるなよ。魔法を使える者も居るようだ」
「ともに戦う気はないか」
「数では勝ち目が無い。シームア領を統括するダマリンの器量に期待している」
レオンは去っていった。
「結局は他人任せか。こんなだから人族に土地を奪われるんだ」
ダマリンはため息をつくと
「またハーロックを頼るか。こっちも協力してやっているからな」
とつぶやいた。
◇
ダマリンは鳥獣オウムで雅則に知らせようとした。
「ハーロックは居るか」
「ハーロックはエドワールにリサと行っているわ」
イビルがこたえた。
「そうか。また緊急事態なんだ。シームア領が狙われている」
「え? どういうこと?」
「シームア領付近にケルトン族がやってきている」
「ケルトン族って、美緒さんが居住地を潰してきたって言ってたけど」
「それとは別のケルトン族らしい」
「じゃあリサに連絡入れるけど」
イビルからリサに連絡が入った。
雅則とリサが宿泊しているホテルにオウムを連れてきていた。
「ハーロック様、イビルからでダマリン様が緊急事態だそうです」
「話せるか?」
リサはオウムでダマリンと交信出来るようにした。
「ダマリン、緊急事態とは?」
「シームア領がケルトン族に狙われている」
「俺たちが異世界に行っている間に美緒が潰してきたという?」
「それは一部らしい。全部で数万人の規模らしい。それがシームア領に居住地を設けるらしい話をリンスがリンメイとかいう人族から聞いたそうだ」
「リンメイが? 離れていても頼りになるな。しかし、この世界の人族は本当に自己中心的だな。出張って行くようか。久々にイミナスにも行ってみるかな」
「喜んで歓迎する」
「少し待っていてくれ」
雅則はダマリンとの交信を終えると
「イミナスにどうやって行こうか」
と考えた。
「馬車で行きますか?」
リサに聞かれた。
「馬車でも2日はかかる。飛行船でエランデルに行って、そこから馬車で行くか、キャンピングカーで行くか・・燃料が心配だな」
雅則はいろいろ考えた。
翌朝、SLでワリキュールに戻ると悠介と美緒に相談した。
「ケルトン族が? まだ生き残っていたの?」
「ケルトン族は他にも居るらしく、クハノウ領を出て新天地を求めているらしい。ダマリンたちもシームア領も守りたい」
雅則が言うと
「カリナが作ったスポーツカーなら早く行けるだろうが、燃料は片道分しかもたない」
と悠介も考えてくれた。
「テルザで行くか」
「え? 嘘だろう。雅は高所恐怖症だろう?」
「そんなこと、いつまでも言っていられない。克服しないと」
すると
「飛行船で直接イミナスに向かったら?」
美緒に言われて
「何でそれに気づかなかったか」
と雅則は反省した。
「私も行っていいかな」
美緒もその気になりはじめた。
「みんなで行ってくるか?」
「いいけど館は?・・」
「今はワリキュールは安全だろう。リサもイビルも一緒に行ってくれ」
「OK」
雅則はジルに
「館の番を頼めるか? ジルが頼りだ」
と頼んだ。
「わかった。留守は任せてくれ」
「コーネリアは、またヒュンケルのところに行っててくれるか?」
「はい」
雅則はクックに
「言葉が分かるならヒュンケルを呼んでくれないか」
と話しかけた。
いつもは大人しいクックが泣きはじめると、ヒュンケルが転移してきた。
「ヒュンケル。またコーネリアを預かってほしい」
「それは喜んで預かるが、何かあったのか?」
「シームア領のダマリンから緊急事態の救援を頼まれた。みんなで出かけてくる」
「わかった」
「よし、明日出発だ」
◇
雅則とリサ、イビルは鳥獣テルザで、悠介と美緒は飛行船でイミナスに向かうことにした。
「ハーロック様、もし落ちることがあっても、テルザが拾ってくれますから」
リサが雅則を気遣ってくれた。
「それは心強い。でも落ちないように頑張る」
イビルが
「先に言ってるわよ」
と飛んでいった。
「あんなに早く飛べるのか」
「追いかけますか?」
「いや、ゆっくり行こう」
雅則とリサがイミナスに着くと、イビルとダマリンが宮殿でまっていた。
「無事飛んでこられたようだな」
「楽しくはなかったぞ」
「そうか。俺も乗ったことはないから楽しいかどうかはわからん」
「ダマリンは重そうだし」
「空を飛べるなんて楽しいじゃん」
イビルは子供のようにはしゃぎながら言った。
「後から悠介と美緒が飛行船で来る」
「聞いている。先に報告しておくが、人族を奴隷にするのはやめて人族のエリアをあてがった。彼らも俺たちに危害を加える意思はなくなったようだから」
「いい傾向だと思うよ。種族を超えて仲良く出来れば、それに越したことはない」
「助けを求めてきたトルエン族のエルフの居住地もつくった。山でも街でも過ごせるようにした」
「ダマリン様様だな。ごくろうさん」
「いつもの宿でいいな。ネネも楽しみにしているようだ」
「エルフのネネか。しばらく来ていないからな。俺もなつかしい」
悠介と美緒もイミナスにやってくると
「ケルトン族の動きは配下に調べさせている。魔族との小競り合いは始まっているが、それが引き金になっているのか、分散しているケルトン族が集まりはじめたようだ」
とダマリンが報告した。
「ケルトン族ってどういう人族なんだ?」
悠介が聞いた。
「調べによると、クハノウ国に仕える一族だったらしい。そのクハノウ国がアリオン神国に進攻されて国は潰れ、ケルトン族もクハノウ領を追われたらしい」
「アリオン神国?・・ソアラの国か」
雅則も思い出した。
「明日からに備えて、今日はゆっくり休んでおくか」
雅則たちは街の飯店に行った。
エルフのネネが出迎えた。
「お待ちしてました」
「久しぶり。世話になるよ」
「エルフも美人で可愛いな」
悠介がネネを見て言うと
「エルフにも手を出すか?」
と雅則が聞いた。
「イミナスがこんなに変わっているとは驚き。ゴジラで街を破壊したのが夢のようだわ」
美緒もエルフがつくった街並みに驚いていた。
◇
翌日、宮殿で対策会議が行われた。
「シームア領は豊かな水や食べられる植物も多く、いろんな生き物が共存している。人族がイミナス国やエランデル国をつくるためにそれらを追い出し、いまのようになった、これ以上、人族の縄張りを広げさせないために、我々は戦ってきた。そんなシームア領に新たな人族、ケルトン族が侵入しようとしている」
ダマリンが話した。
「ケルトン族というのはクハノウ領に住んでいた人族だとは聞いたが、どういう人族なんだ?」
雅則があらためて聞いた。
「魔法の力もある種族のようね。性格は凶暴といった印象。温泉にもしつこくやってきたようだから」
美緒が思い出して言った。
「じゃあ潰すか」
「いいんじゃない。私も一つの集落を潰しちゃったし」
「リンスからの報告だと、クハノウ領側に近いマキギ族も被害に遭っているらしい」
「みんな迷惑を被っているわけだ」
「思い出したけどさ、グレコ族も心配。葡萄の件で仲良くなったし」
美緒がまた思い出して言った。ワインをつくるためにグレコ族から葡萄の木をもらったことがある。
「今のうちに確認してきてもいいかも」
「エタンデル国の山の麓だろう? 隣近所じゃないぞ」
悠介が突っ込む。
「テルザを使えば?」
イビルが提案した。
「俺は勧めない」
まだ高所恐怖症を完全に克服していない雅則は消極的だ。すると
「テルザを使ってハングライダーのように飛んでいけば?」
と美緒が提案した。
「え?」
「テルザの首から吊るすようにして座っていくの」
「美緒ちゃんは次から次へと発送するけど、いいね、それ」
「でしょう?」
◇
美緒と悠介がリサの先導でテルザをハングライダーのように使ってエランデルに向かった。
エランデルではリンスが待っていた。
リンスも3人がテルザにぶら下がるようにして飛んできたのには驚いた。
悠介と美緒はリンスから、リンメイがマキギ族と出会ったことを聞いた。
「お手柄よリンス。ここからは馬車ね。リンス、お願いね」
「はい」
美緒は悠介とリンスとグレコ族の居住地に向かった。リサはエランデルに残り、リンスの代わりを務めた。
美緒たちがグレコ族の居住地に近づくと監視されていたようで、族長のグルムが出迎えた。
「今頃来るとは思っていなかった。歓迎はするがな」
「ワインは持ってこなかったの、ごめんね。ちょっとグルムたちが心配になったから」
「もしかして人族のことか」
「やっぱり被害は出ているのか?」
悠介が聞くと
「まだ直接の被害は出ていないが、周りの生き物は犠牲が出始めている」
「それをなんとかしたいと思って出張ってきた」
「我々を助けたいと?」
「友達でしょう?」
「感謝する。しかしどうやって」
「それはこれから考えるけど、ハーロックも来ているし。私たち3人で何とかするわ」
「たった3人で?」
「見くびらないでよ」
リンスが
「シームア領のダマリン様もグレコ族を心配しています」
とグルムに言った。
「ダマリンの噂は聞いている。同族からも思われるのは嬉しい。彼も苦労していることだろう」
「グルム、マキギ族を知っている?」
美緒がグルムに聞いた。
「存在は知っている。だが会ったことはない」
「マキギ族もケルトン族という人族の被害に遭っているようなの」
「美緒たちは人族から魔族を守ってくれるのか」
「魔族も人族もない。共存出来ないやつらは排除しないと」
悠介も雅則のような発言をした。
「俺も人族を見直さなければならないかな」
「それは任せるけど」
「イミナスに戻るけど、何かあったら遠慮なく頼って」
「わかった」
帰り、美緒は
「リンスにお願いしていい? リンメイに状況を報告してほしいの。マキギ族のことも力になるつもりよ。リンメイはまだ私たちとは会いたくないでしょうから」
「わかりました」
「温泉はしばらくおあずけか」
悠介と美緒とリサはテルザでイミナスに戻った。
◇
雅則はダマリンとシームア領の山麓に向かっていた。
「いいところだな」
「そうだろう。人族には入って来てもらいたくない場所だ」
進んでいくとダマリンの配下の魔族がやってきて
「ケルトン族はオーク高原の反対側にテントを張りました。後から別の群れが向かってくるようです。まとまって攻めて来るのは数日後と予想しています」
とダマリンに報告した。
「なんか官軍を思い出した」
と雅則がつぶやいた。
「カングン?」
「いや、俺たちの世界の話だ。人間も昔から戦を繰り返してきた。国のためとか正義のためとか言いながら殺しあってきた。他人の命を奪いながら自分の行為を正当化しているに過ぎない」
◇
美緒たちがイミナスに戻ると、リンスは温泉に行った。そして
「美緒様から伝言が。ハーロック様たちとケルトン族から魔族を含め生き物を守ってくれるそうよ。もちろんマキギ族も」
とリンメイに伝えた。
「ハーロック様が?・・」
「ハーロック様とシームア領の魔族、ダマリン様とは絆で結ばれています」
「・・わかったわ」
リンスの言葉にリンメイは雅則と魔族、ダマリンとの関係には驚いたが、どうやってケルトン族から魔族たちを守るのか。・・また極大魔法『流星雨』を使うのだろうか。
多くの人族の命を奪う。その代わりに、多くの生き物が救われる。
リンメイは、その夜は寝付けなかった。




