< 幕間 リンメイとマキギ族 >
ワリキュール王国の雅則たちの館を出て来たリンメイはエランデル国の温泉に行き、オーナーのニドルに雇ってもらった。
ニドルの甥のトリルと薬草採りに山に入ったリンメイは、シームア領に向けて流れてきた人族であるケルトン族に追われるエルフに遭遇し、トリルと一緒に彼を助ける。
が、それが発端となり、温泉がケルトン族に襲われる事態になる。偶然、温泉にやってきた魔王シゲルと協力し、彼らを追い返していたが、エランデル国の衛兵隊や美緒もやってきて温泉を守ることが出来た。
だが、美緒がケルトン族の居住地に行き、全滅させてきたことを知り、リンメイの心の傷はまだ癒えそうになかった。
◇
トリルがまた温泉にやってきた。そして
「薬をつくってきました」
とニドルに渡していた。
「助かるよ。これで胃腸の具合は悪くならないで済む」
トリルが
「リンメイさんに薬草採りを手伝ってもらってよかった。薬にすると結構売れるんだ」
とリンメイに言った。
「私は薬草はわからないから」
ニドルが
「そうだ。リンメイを街に連れて行ってくれないか」
とトリルに言った。そしてリンメイは
「リンメイもたまには気晴らしをしてくるといい。リンメイはもう家族のようなものだ」
とニドルに言われた。
「リンメイにはいつまでもここに居てほしい」
「オーナー」
リンメイはニドルに家族と言われてとまどった。
◇
リンメイはトリルに連れられてエランデルの街に行った。
「ここが僕の家で、隣で薬を作っている」
裏町の一軒家だった。隣の建屋に薬屋の看板を掲げている。
店の中に女が一人居た。
「お帰り、お客さんじゃないようだね」
女はリンメイを見て言った。
「ただいま。僕の母」
トリルが女をリンメイに紹介した。
「何だ。連れて来るなら先に言っておいてほしかったね」
「え?」
「いつまでも独り身だから心配していたんだけど」
「ち、違うよ母さん」
トリルが母の誤解を察してあせった。
「このリンメイさんは、ニドルおじさんの温泉で警備をしてくれている・・」
トリルは、母が彼女を連れてきたと誤解したと思った。
「あら、勘違いして、ごめんなさい」
「はじめまして・・リンメイと言います」
「私はトリルの母のアーサ。よろしくね」
リンメイはトリル家に泊まることになった。
「ニドルも娘が帰ってきたようで嬉しいだろうね」
アーサはトリルからリンメイのことを聞いて、そう呟いた。
「ニドルにも奥さんが居て娘も居たんだけど、亡くなったんだよ。家族で山に入ったとき、道に迷ってね。それをエルフが帰り道を案内してくれた。だが、そこに現れた人族がエルフを殺しに現れた。奥さんと娘はエルフを逃がそうとしてエルフと一緒に男たちの手にかかってね。魔法を使えないニドルは奥さんと娘を助けられなかった」
その話を聞いたリンメイはショックを受けた。ニドルにそんな過去があったとは。
「僕が薬師を目指したのは、その件もあったからなんだ」
トリルも話してくれた。そして
「リンメイさんが薬草採りに一緒に山に入ってくれたんだ」
とアーサに話した。
「そう。トリルも多少魔法は使えるけど、ギルド協会で魔力検査してもらったら、レベルは20。弱くはないけどハンターの仕事はしてないの。リンメイさんは魔力検査した?」
「はい。今はレベル100です」
「100?」
アーサも驚いた。
「そんなにレベルの高い魔術師はハンターの中にもほとんどいないよ。強いのはいいけど、あまり強いとトリルがお尻の下に敷かれちゃうわね」
と言いながらアーサは微笑んだ。
「母さん、そういう話はしないの」
「もしリンメイに手伝ってもらえるなら、バンショーコーを採ってこられるといいわね」
「え?」
「バンショーコーとは薬草の一つで、傷を治すのに効果があるんだ。でもそれがある山には魔物が出やすい。温泉のほうよりね。彼らの縄張りでもあるようなんだ。今までハンターも入ってくれたことがあるんだけど、犠牲者も出ててね。それなりの力を持った魔物だと思うよ」
その夜はトリルの家で寝ることになったが、ニドルの話などを聞いて、リンメイはなかなか寝付かれなかった。
◇
翌日、リンメイはトリルとバンショーコーを採りに山に向かった。
「そんなに深く山に入らなくても薬草は採れると思うんだけど、前に魔物が出てきたのはもっと奥だったから」
リンメイが周りを警戒し、トリルが薬草を探した。
「あった。よかった。この辺りで問えれば無事戻れるだろう」
「そうでもないみたい」
リンメイは何かが近づく気配を感じた。
正面にのっぺらとした顔をした者たちが現れた。
「魔物というより魔族に近い?・・」
二本足で立って近づく者たちを見てトリルは声を発した。すると
「魔族と思われるのは不快ではないが、生憎魔法はあまり使えない」
と現れた者が言った。
「言葉がわかる?」
リンメイも驚いた。
「人族の言葉を理解した。何回も山に入ってきたからな。俺は他の仲間より魔法にも長けている。何しに来た」
「薬草を採りに・・」
「薬草か。ハンターには見えないから信じてやるか。今までハンターとかいう人族が山に入ってきて俺たちを狩っていった。お金になるらしい。人族の目的はそれ以外に居住地の拡張もあるようだが、俺たちにも棲み処は必要だ。逆に縄張りを広げようと考えている」
「そんなことをされたら薬草が採れなくなる」
トリルが言うと
「そんなことは知るか。もともと人族が土地を奪ってきたんだ」
と言われた。
リンメイは彼らを殺せば薬草も採れるし、彼らの侵入を止めることが出来ると思った。
しかし・・。
「人族のために他の生き物を殺す・・」
リンメイは雅則とオルコックの会話を思い出した。そして雅則は種別を超えて共存していくことがいい、とも言っていた。アーサのニドルの家族の話も心に引っかかっていた。
「提案があるわ。話し合わない?」
リンメイは切り出した。
「話し合う? 何をだ」
「いろいろ」
「・・お前は強そうだな。このまま闘えば俺たちにも犠牲が出そうだ。その話し合いとやらを飲もうじゃないか。俺はマキギ族のキーリス。この領に棲むマキギ族の族長をしている」
「私はリンメイ。魔術師よ」
トリルはリンメイとキーリスの会話に驚いていた。
「私たちは薬草が採れればあなたたちを負う払いようなことをする気はないわ」
「だが同じ人族でもケルトン族という人族がやってきて俺たちの居住地を荒らしている」
「え? ケルトン族?」
「それってエルフ狩りをして温泉にも押しかけてきたやつらじゃないか?」
トリルも思い出して言った。
「ケルトン族は美緒さんたち、私たちの仲間が退治してきたと言っていたけど」
「ケルトン族は幾つもの集団があり、それぞれ居住地を確保している」
「そうなの?」
「どうも同じ人族に追い出されているようだ。そこで新しい地に新しい国を作ろうとしているらしい」
「オーナーがケルトン族について何かを知っているふうだったわ」
リンメイはそれを思い出した。
「彼らはおまえたちエランデル国があることを知って迂回するように移動している。エルフも彼らの被害に遭っている」
「もし僕が知っているエルフならシームア領の魔族に助けを求めていた。
「なに、それはもしかしてオラン族のダマリンか」
マキギ族がダマリンを知っている?・・
「ダナリンはシームア領を守るために統治者として選ばれた、我々はクハノウ領に近い山に棲んでいるから交流はないがな」
「何族かも、どんな魔族かも知らないが、きっと無事保護されたと思う」
トリルがキーリスに話した。
「ほんとうか」
「本当よ。私も関わったから」
「それなら安心だが、きっと彼らはシームア領に住み着く。そこは水も食べられる植物もあり、住むには適している」
美緒たちが倒してきたケルトン族以外のケルトン族がシームア領を狙っている?
「それで彼らの人数は?」
リンメイはキーリスに聞いてみた。
「幾つかに分散しているみたいだが、合流すれば何万人にもなるはずだ」
「私ひとりで何とか出来ることじゃないわね」
「話し合いは最初から無理なことだったか」
「待って・・時間をくれる? 何か考えてみるから」
「我々を人族から守ってくれるというのか」
「あなたたちと人族が共存出来る方法を考えてみる」
「共存? 彼らは血気に逸っている。我々と共存など考えていない」
「エルフ狩りして温泉も襲ってきたようなやつらだったし」
それはトリルも認めた。
「何かいい方法がないか考えてみるから」
リンメイはキーリスに約束して街に戻った。
リンメイはトリルから
「ほんとうにいい方法を考えるの?」
と聞かれ
「思いつかないけど、どうにかしたいと思ったのは本当よ。薬草はあまり採れなかったけど・・ごめんね」
と言って温泉に戻った。
◇
温泉に戻るとニドルから
「お帰り。浮かぬ顔だな」
と言われた。リンメイはどんな顔をしているのか自覚した。
「オーナー、家族のことをアーサから聞きました」
リンメイが言うと
「余計なことを・・」
とニドルは戸惑うような顔をした。
ニドルには妻や娘を失ったことは秘めておきたいことだった。
「忘れたくても忘れることは出来ないものだ。家族を奪われた者の哀しみは奪われた者しかわからない。・・別にリンメイを娘の代わりに思っているわけではない。・・が、去らないでほしい」
「オーナー」
リンメイは話題を替えるように
「ケルトン族について聞かせて」
とマキギ族という魔族に出会ったことを話した。
「ケルトン族がシームア領に入って来る?・・ケルトン族についてはお客さんから聞いただけで、詳しいことはわからん。ここにいると、お客さんとの会話が楽しみの一つでね。いろんな情報も得ることが出来る。・・で、リンメイは魔族と仲良くなりないのか」
「そういうわけじゃ・・」
「この前、温泉を一緒に守ってくれた魔王シゲルとかいう彼から聞いた話だが、この前来てくれた美緒という女性。ハーロックの友達でもあるらしいが、魔族と仲良くなって葡萄の木をもらっていったそうだ。なんでもそれからワインとかいう飲み物を作るんだとか言っていた」
そのワインは、リンメイも飲んだことがある。美緒がスミス牧場にワイン工場を作っているのも知った。
「最初、信じられなかったが、ハーロックたちは魔族と仲良くなれる力を持っているのかねぇ」
それはリンメイにも信じられなかった。
◇
リンメイは何も考えられず、日々が過ぎていった。雅則に相談することも考えたが、今さら会いづらいし、今は異世界に行っていると美緒からも聞いた。しかし、このままではケルトン族の動向が心配でもある。
そんなときリンスが現れた。
「リンス」
「私はエランデルを監視する担当だから。ここもエランデル領だから私の管轄」
「そうなんだ。リンスはシームア領の魔族なの?」
「そうだけど」
「ケルトン族がシームア領に入ってくるか住み着くかも」
「え?」
「マキギ族から聞いたの」
リンメイは薬草を採りに山に入ってマキギ族に出会ったことを話した。すると
「マキギ族は私は今まで出会ったことがないけど。その話をダマリン様に報告するわ。それと・・ハーロック様は異世界から戻ったから私から報告してもいいけど」
「それは任せるけど。・・私、館を出てきちゃったから会いづらいのよ」
とリンメイはリンスに正直に話した。
リンスはそれを聞くと黙って去った。
リンメイは何の進展もないまま時間だけが過ぎていった。




