16-1.マリアント城
ジルが元居た世界のマリアント国にポーションを作るための薬草があることを知った雅則たちは、ルセールにその世界に転移してもらう。そしてジルの故郷でもあるホーエン村で薬草の採取をする。
一方、雅則たちが異世界に転移している間に、クハノウ領の人族、ケルトン族がシームア領に入って来てエルフ狩りをはじめ、温泉の存在を知った彼らはニドルが経営する『ロッテ荘』にも迫ってきた。
が、リンメイと魔王シゲルが追い払う。
執拗に押しかけて来るケルトン族に、温泉の危機を知った美緒がリリアたち衛兵隊とともに温泉に行き、ケルトン族を撃退する。
そんな騒動が起こっていることも知らずに、ジルがマスカット姫に会うためにマリアント城に行く時、雅則たちも同行するが・・。
◇
雅則たちは村から麓の町まで馬車で送ってもらった。遠くに城が見えた。
「マリアント城です」
ジルは指を指して、なつかしそうな顔をした。
「あそこにマスカット姫が居るのか」
悠介もゲームで遊んで知ったマスカット姫に会えるのを楽しみにした。
城に近づくと城下町が見えてきた。街というほど大きくはない。
「そしてここがジェナタウン。薬草はこの町で買い取ってもらっています」
町の入り口まで馬車で送ってもらい、町に入った。
悠介は見かける女たちを見て
「みんな割と綺麗揃いだな」
と満足そうだった。
「お酒が飲める店もありますよ。俺もこの町でお酒を覚えました」
「じゃあセキュバスの店もあるのか?」
「いえ、こっちの世界にはセキュバスはいません。でもお酒を飲める店は何軒かあります」
「そうか・・ゲームの世界では水商売の店はなかったな」
町を通り抜けると城まで続く道に出た。
城門に近づいていくと、槍を持った衛兵のような男たちが駆けつけてきて、雅則たちに槍先を向けた。
「いきなり?・・」
「これより城に近づくことは許さん」
ジルが
「民に槍を向けるとは、何を考えている」
と言い放った。
「その顔は・・失礼しました」
兵はジルの顔を確認して敬礼した。
「前は城に近づくのに、こんなに警戒していなかったろう」
「最近になって魔族が現れはじめたので警戒しているのです」
「魔族が?」
「このゲームの世界では魔族は出てこなかったぞ」
悠介が思い出して言った。
「俺も出会ったことはないです」
ジルも驚いていた。
◇
雅則たちがジルについて城に入ると
「戻ったのか」
と貴族らしい男が現れた。
「ご心配かけました」
ジルが、その男に頭を下げた。
「連れの者たちは?」
男が言うと悠介が
「ここでも同じ質問だ」
と苦笑いしそうになった。
「私のような、いや、私より強い仲間です」
「連れて来てくれたのか」
「結果的にそうなりました」
挨拶を済ませたジルが雅則たちに
「侯爵のシーメン。国王に仕えてもらっている」
と紹介した。
「ジル・・」
女も現れた。
「あれは・・妃のキャンベル。ゲームの世界の女はやっぱり綺麗だな」
悠介は顔をほころばせた。
「悠介の美人ランキングにあったか?」
「美人だが、歳がちょっと上だからランクを下げておいた」
「やっぱり若いほうがいいのか」
雅則があきれるような顔で言った。
「キャンベル様、戻ってきました」
「どこへ行っていたのです? それよりマスカット姫は連れていかれました」
「え? 誰に?」
「ドワーフ国です」
「遂に出て来ましたか」
「それにピオーネ様も病にかかって・・」
シーメンが暗い顔をして言った。
ジルがキャンベルやシーメンの後をついていくと、雅則たちもついていった。部屋に入っていくと、そこには国王であるマスカットに父、ピオーネが臥せっていた。
ナターシャはピオーネの伏せっている状態を見て
「これは・・呪詛です」
と言った。
「呪詛って・・呪い?」
ゲームはあまりしないが異世界物の本は読んでいた雅則は、呪詛が何であるか知っていた。
「そんな・・やはり魔族が現れたからでしょうか」
キャンベルは驚いた顔をした。
「まだ軽いほうなので、私でも解くことが出来るかもしれません」
ナターシャが言うと
「じゃあ頼む」
雅則がナターシャに頼んだ。
ナターシャはピオーネに向かって呪文を唱えはじめた。そのうちピオーネの身体が光りはじめた。
光が消えると、ピオーネが目を覚ました。
「陛下」
キャンベルがピオーネに近寄って手を握り締めた。
「私は助かったのか」
ピオーネは身体を起こし
「ジル、戻ったのか?」
とジルを見つけて言った。
「国王にも心配をかけました」
「私はどうしてたんだ・・」
「呪詛にかけられていたようです」
雅則が言うと
「この方たちが・・」
キャンベルが雅則たちが助けてくれたことをピオーネに伝えた。
あらためてジルが、雅則たちをピオーネに紹介した。
「異世界からの魔術師?・・助けてくれてありがとう」
ジルが
「マスカット姫は・・」
とピオーネとキャンベルに聞いた。
「マスカットはドワーフ国からマリアント国を守るために人質としてドワーフ国に行った。大切に預かるからと連れて行ったから心配はないと思うが・・」
「詳しく聞かせてください」
「数百年前まで我が国や近隣の諸国は近代化が進んで機械を使って戦争を繰り返していた。そして土地は荒れ、人口も減ってしまった。お互いの国が目を覚まして協定を結んでお互いの武器や機械を格納して機械を使わない暮らし、生き方をはじめた。
しかしドワーフ国が協定を破って近代武器を使って諸国を侵略しはじめた。それを我が息子のロザリオやジルがそれを阻止するために立ち上がり、ドワーフ国を制圧した。
再び平和が訪れたと思ったら、ジルが姿を消した。その後、ロザリオが近代的武器を持ち出して、ドワーフ国に代わって諸国を制圧しようと動き始めた。マスカットはそんな兄のロザリオの野望を止めさせようとしたが、ロザリオは邪魔なマスカットを、こことドワーフの中間辺りにあるセビラタウンに連れていった。そこは昔は機械文明が発達した街だった。今は廃墟化しているはずだが」
「どうしてロザリオ王子が諸国を制圧しようなどど・・」
「欲だよ。ドワーフを制圧するほどの機械の存在を知ったロザリオは、世界征服の夢を抱いてしまったらしい」
「俺がゲームを止めてから、そんなふうになっていたんだ。ってゲームの製作者のストーリーを超えてしまっているだろう」
悠介は、まだゲームにこだわっていた。
雅則たちは城で休ませてもらった。
◇
「気づいてないか? ピオーネ国王にキャンベル妃、ロザリオ王子にマスカット姫。みんな葡萄の名前だよ」
悠介が博識を披露する。
「いや、葡萄には興味ないから。まんまり食べないし。それより誰が国王に呪詛をかけたかだ」
雅則は、そこに関心を示した。
ジルにも心当たりがない。
「ジル。マスカット姫を助けに行くか?」
悠介がジルに聞いた。
「手伝ってくれるんですか?」
「この世界には薬草を採りに来ただけだが、まだ日にちはあるし」
「マスカット姫は悠介の美人ランキングで、ベストスリーに入っているからな」
「よこしまな考えで助けに行くんじゃない。それは間違ってないけど」
「セビラタウンまで距離にしてどのくらいあるかな」
「ドワーフ国までは約100キロほど。セビラタウンはその手前だが、馬車で行くのも難儀な場所だ」
◇
翌朝には、ピオーネも体調を回復させた。
雅則たちは改めて自己紹介した。そしてジルがこの世界から消えた理由も話した。
「そうだったのか。しかし驚いた。信じられない話だ」
「国王。ハーロックさんたちとマスカット姫を救出してきたいと思います」
ジルはピオーネに言った。
「頼めるか」
「国王。近代的機械の中に姫を連れ帰るのに使えるものがあれば借りたいのだが。武器として使用することは考えていない」
雅則がピオーネに言うとシーメンが
「国王を救ってくれた恩人ではあるが、国王に対しての口の聞き方を謹んでいただきたい」
と雅則に言った。だが
「俺たちは異世界の者。こちらとは何も関係がない。よってあなた方に媚びるつもりはない」
と雅則は強気だった。
ジルも
「ハーロックさんたちは魔王を名乗るほどの力を持ち、大国を潰した実績もあります」
とピオーネに言った。
「では客人として扱おう」
ピオーネが下りたので、ジルがあらためて
「ハーロックさんたちはSLや自動車などを作って街に寄与しています」
と話した。
「平和的利用なら先祖も許してくれるだろう。マスカットを連れ戻してくれるなら使えるものを使ってくれ」




