15-9.美緒出番
ワリキュールでは・・。
雅則、悠介、リサ、イビル、もジルの世界のマリアント国に転移したので、館には美緒とソリア、カリナにソアラ、それにコーネリアが残っている。
イーナはモディナ族の居住地と館を行ったり来たりしている。
ソアラはワイン醸造工場で働きはじめ、生き生きとした顔をしている。
「働くって楽しいですね。ベナ神殿で修行しかしていなかった時代がもったいない気がしてます」
「そう。ソアラはアルコールも強いようだし、ワイン工場に連れて行ったのは正解だったかな」
「ベナ神殿にはワインのような美味しい飲み物はないし」
「ワイン作りも慣れてきたところで、白ワインつくってみない? どんなものか教えるから」
美緒はまだ赤ワインしかつくっていなかったので、ソアラに白ワインを作ってもらおうと考えた。
「はい」
ソアラはどんなものかは理解していないが、快く引き受けた。
コーネリアは美緒が預かって牧場に連れて行った。コーネリアもチーズやバターをつくるのは楽しかった。
そんなある日、鳥獣オウムが騒ぎ出した。館に残っているのはカリナだけだ。
オウムが鳴き声ではなく、何かをしゃべっているような気がするが、カリナには理解出来なかった。
「何か訴えているようだけど、リサもイイビルもいないのに・・どうしたのかしら」
夕方、牧場から戻った美緒にそれを伝えると
「リサもイビルも雅則くんたちと異世界に行っているから・・」
と美緒もどうしようもなく思った。すると
「もしもし、聞こえたら返事してくれ」
オウムから聞いたことのある声が聞こえた。
「だれ?」
「その声は美緒か?」
「そうだけど」
「よかった、ダマリンだ」
「ダマリン? お久しぶり。元気?」
美緒はワリキュール軍がイミナスに進行してきたとき、イミナスでダマリンと会っている。リサやイビルを従える魔族であることは知っている。声を聞くのも久しぶりだ。
「俺はいつでも元気だ。挨拶をしている暇はない。と言いながら昼間から呼び出しているんだけど。ハーロックはまだ戻らないか」
「そうなの。あと何日かは戻らないと思うわ」
ダマリンも雅則たちがジルの世界に転移していることは知っている。
「エランデルが危機なんだ」
「え?」
「情報だと、温泉がケルトン族に襲われているらしい」
「ケルトン族ってどんな魔族?」
「魔族ではない。人族だ。魔法は使えるらしいが。リンスからの報告だ」
「人族が温泉を? リンスは無事なの?」
「今のところはな」
「私がエランデルに行ってもいいけど、コーネリアを預かっているのよ」
「そうか・・ケルトン族はエルフ狩りもしているらしい。シームア領とは別のところに居るエルフだが、俺に助けを求めてきた。エルフも助けたい。温泉に俺たち魔族が助けに行くわけにはいかない。コーネリアはこっちで預かってもいい。預かった経験がある」
「でも、どうやってここからイミナスに行くの? リサもイビルも居ないの」
「そうだな。それにワリキュールからイミナスまで馬車でも何日もかかるな」
コーネリアは
「私、ここで待ってますから」
と美緒に言った。
「大丈夫だと思うけど、何があるかわからないから。もしコーネリアの身に何かあったら雅則くんに申し訳ないわ」
美緒は今までにも何回かコーネリアを預かりながら危険なめに合わせている。
一旦あきらめた美緒は
「あと頼りになるのはヒュンケルくらいかな。・・でもコーネリアは」
とコーネリアを気遣った。
「ヒュンケルさんならいいですよ」
とコーネリアが言った。
コーネリアも妹のように思ってくれるヒュンケルには心を許している。
「そう? でも、どうやって連絡をとりあえばいいかな」
するとクックが騒ぎ出した。
「どうしたの?」
しばらくしてヒュンケルが現れた。
「何かあったか?」
突然ヒュンケルが現れて美緒は驚いた。
「ヒュンケル、来てくれたの?」
「クックの胸騒ぎを感じたからな」
美緒はヒュンケルに事情を話して
「コーネリアを預かってくれない?」
と頼んだ。
「俺は喜んで引き受けるが、コーネリアは」
「私はヒュンケルさんと一緒にいてもいいです」
「ほんとうか? うれしい」
いかつい顔のヒュンケルは、顔をほころばせて喜んだ。
「じゃあ、頼んでいい?」
「任せておけ。ハーロックが帰ってくる頃につれてくる」
コーネリアがヒュンケルとロワール城に転移すると
「ソアラ、私を宮殿に転移出来ない?」
と聞いた。
自動車で宮殿に行くよりソアラに転移してもらったほうが早いと考えた。
「そのくらいなら大してライフも消費しないけど」
「じゃあ、お願い。エランデルに行ってくるわ。ソリア、あとの館のことを頼んでいい?」
「わかった」
美緒はソアラに宮殿に転移してもらった。そしてハンス侯爵を呼び出した。
「エランデルが大変なの。ハーロックは出かけちゃっているからエランデルまで飛行船で送ってほしいの」
「しかし・・それに夜(飛行船を)飛ばすことになるから・・」
突然の美緒の頼みにハンスも困惑した。
「一刻も急ぎたいの。エランデルを救いたいのよ。駄目ならいい。協力してくれないなら、ハーロックが戻ってきたら報告するから。あとは知らないわよ」
美緒はハンスを脅すように言った。
雅則を怒らせたら、あとが怖い。ハンスは急いで機場長のボイドと連絡をとりあった。
「夜中に飛ばすことになるが・・」
すると
「そのための王宮専用飛行船でしょう?」
ボイドが言ってくれた。
美緒はその夜のうちに飛行船でエランデルに向かった。
◇
美緒が乗り込んだ飛行船は、朝になってエランデル上空に着いた。
空港に降りると飛行船を確認したランスロットとリリアが美緒を出迎えてくれた。
「ケルトン族騒動に美緒さんが来てくれたのか」
「事情は知っているようね」
「街を巡回していたらギルド協会が騒然となっていて、温泉がケルトン族とかに襲われたと知って。ランスロットに話したら動こうとしないのいよ。他所の領から流れてきた一族に温泉を襲われて黙っているの? とハッパをかけてやったのよ」
リリアが頼もしいことを言ってくれた。
「雅則くん、いえハーロックたちは異世界に行っているのよ。だから私が・・」
「何それ」
「知らない?」
雅則たちが異世界のマリアント国に行くことをリリアたちには言ってないようだった。
「で、ケルトン族って、どんなやつら?」
「さあ・・聞いたことがない」
「ちょっと。・・大丈夫?」
イミールとナナもやってきた。
「魔法戦士隊も揃いました」
「よし、温泉に出発だ」
最初、渋っていたランスロットが号令をかけた。
「温泉に入りに行くんじゃないからね」
城の外でリンスが待っていた。
「温泉でリンメイと魔王ヤマトシゲルがケルトン族を相手にしています。それと多くのハンターも行っています」
「そう。わかった。リンス、いつもありがとう。頼りになるわ」
「ダマリン様から聞いて待っていました」
美緒とリンスは衛兵隊と温泉に向かった。
温泉に近づくと、ハンターたちとケルトン族らしき者たちが魔法攻撃で戦っていた。
「魔法戦士隊、攻撃開始!」
イミールの指揮でケルトン族に攻撃を開始した。
◇
ケルトン族が退散していくと、オーナーのニドルも驚いていた。
「衛兵隊まで来てくれるとは・・」
「領を守るのは我々の役目ですから」
ランスロットがニドルに言うと
「美味しいところを持っていくわね」
と美緒がリリアに言った。
「そういうところは抜け目ないから」
美緒はシゲルも居るのを確認して
「ご苦労さん。魔王も役に立っているわね」
とねぎらった。
「なんとか役に立てている。最初、美緒さんに出会えたことを感謝している」
そして美緒はリンメイも居るのに気付いた。
「ここに居たんだ。雅則くんも心配していたけど」
リンメイは気まずい顔をして
「館を出て来たのは申し訳なかったと思います」
と言った。
「いいのよ。リンメイの心の傷は私にもわかるから」
「美緒さん・・」
「元気でいればいいわ。安心した」
美緒が笑顔で言うと
「エルフを助けられませんか?」
とリンメイに言われた。
美緒はクルスの居る部屋に案内された。クルスは傷を負っていて、動くのもつらいようだった。
「私も治癒魔法は使えないから。・・でも何でも使えるはずよね」
美緒は、魔力検査であらゆる色の魔法が使えると言われたのを思い出した。
クルスを助けたいと思った美緒は
「使い方を知らないだけなのかも」
クルスに手をかざし、癒えるように念じた。
するとクルスの体が光はじめ、それが消えるとクルスの体の傷が癒えていった。
「よかった」
「ありがとう・・ございます」
元気になったクルスは
「仲間が・・」
と思い出して心配顔をした。すると
「大丈夫。ダマリン様がエルフのトルエン族を保護しに向かったはずだから」
とリンスが言った。
「ほんとうに?」
◇
「衛兵隊も来てくれたおかげで、温泉は守られたが・・」
とニドルはまだ心配げな顔をした。
「どうしてこうなったのか。説明して」
美緒が言うと
「僕は薬師のトリルといいます。僕から説明します」
と話してくれた。
リンメイが温泉にやってきて警備の仕事をはじめてから、ニドルの甥でもある薬師のトリルが薬草を採りにリンメイを誘って山に入った。そこでケルトン族の男たちに追われるクルスを助けた。
その後、ケルトン族がクルスと温泉を目当てに襲ってきた。丁度温泉に入りに来たシゲルとリンメイがケルトン族を追い返してたが、日に日に彼らの攻撃もエスカレートしていった。そこでニドルがギルド協会にハンターを依頼した。
一方、リンスから連絡を受けたダマリンが、美緒に救援を頼んだ。
ケルトン族は、かつてクハノウ国に仕えていた人族の種族だが、クハノウ国がアリオン神国に対抗し、潰れた後、領主を失って落ちぶれていった人族で、クハノウ領方面から来た一族らしい。
「このままでは、またやって来るかもね。なら、こっちから乗り込みましょう」
と美緒が言うと
「え? 本気?」
とシゲルは驚いた。
「でも、山の中は迷いそうだけど」
「それなら、私に任せてください。案内は出来ると思います」
リンスが名乗り出た。
「じゃあ、リンス、頼むわよ」
「まさか、またゴジラを召喚するとか?」
リリアが嬉しそうな顔で言った。
「場合によっては遠慮なく召喚するわよ」
「彼らがクハノウ領から来たのなら、大体の居場所は分かるわ。私もついていっていい?」
「リリアは私のようにおてんばね」
美緒とリリアは、リンスの先導で山に入っていった。
◇
山を越えたところに集落があった。
「ケルトン族の集落ね」
「じゃあ、挨拶に行く?」
美緒たちが山を下りて行くと
「3人だけで来たのか」
と族長のジャグルが現れた。
「来た理由はわかっているわよね」
「おまえたちの狩りを楽しむことにする」
「狩れるものなら狩ってみなさい」
ケルトン族の魔術師たちが美緒に魔法を放つ体勢をとった。美緒は
「セイントソード」
聖剣を出すと、彼らに一振りした。すると彼らは身体を切り裂かれた。
「なんという聖剣。召喚獣出でよ」
ジャグルが大魔獣を召喚した。
「やはりゴジラの出番ね。ゴジラ召喚!」
美緒が叫ぶと、空に雲が渦を巻きながら現れ、そこからゴジラが降り立った。
「なんだ、あの召喚獣は」
ジャグルも驚いた。
ゴジラの力は召喚獣の比ではなかった。簡単に倒してしまった。
「ゴジラ、村を焼き払って」
美緒が言うとゴジラは村に火を放って燃やしていった。
「アイスフェンサー」
村の周りの山々が火事にならないように、美緒とリンスが水星魔法で周りを凍らせた。
ソードマスターでもあるリリアもケルトン族を剣で倒していった。
◇
温泉に戻った美緒はニドルに
「ケルトン族は潰してきました。もう温泉に現れることはないでしょう」
と報告した。
「美緒さんたちに来てもらってよかった。また温泉の営業をはじめられる」
「で、エルフのクルスはどうするの?」
リンスが
「私がダマリン様のところに連れていきます」
と言った。
「じゃあ、お願いね」
シゲルも
「俺も村に戻ります」
とカリア村に戻っていった。
一連の騒動は解決を迎えたが、リンメイの心は複雑だった。
雅則がスラーレン法国の貴族街を『流星雨』で壊滅状態にし、美緒もケルトン族の居住地を潰してきたと言う。
美緒は温泉に浸かったあと、ワリキュールに戻った。




