15-8.リンス出番
ケルトン族が毎日、温泉にやってきてはリンメイとシゲルが追い返していた。
ニドルは
「やつらがやってくる間は、温泉は休業するしかないな。魔物より厄介だな。それにいつまでもリンメイとシゲルさんに頼っていても・・」
と、先のことを考え、ギルド協会にハンターの要請に出かけた。
ギルド協会では。
エリーナがナルーシャに
「ニドルさんから、ケルトン族から温泉を守ってくれるようにハンターの要請が来ました」
と報告した。
「温泉がケルトン族に? ケルトン族って知らないけど・・」
「ケルトン族って魔族じゃないそうです」
「どういうこと?」
ナルーシャは二階から下りてニドルに会った。
「ニドルさん、どういうことです?」
ナルーシャはニドルから事情を聞いた。
「まさか温泉が人族に襲われるなんて・・」
「そうなんだ。魔物より厄介なやつらだ。魔法も放ってくる。そこでハンターの力を借りたいと思って・・」
「会長に知らせます」
ギルド協会は騒然となった。今までにない事例だった。
ギルド協会の騒々しい気配に、リンスもナルーシャのところに現れた。
「リンス、ケルトン族って知ってる?」
ナルーシャがリンスに聞いた。
「いいえ、知りません」
「温泉がケルトン族に襲われているらしいの」
そう聞いたリンスは
「温泉を確認してきます」
とナルーシャに言って温泉に向かった。
◇
リンスはダマリンからエランデル国の人族の監視を命じられている。しかし温泉のほうはおろそかにしていた。温泉が魔物に襲われようが、どうなろうが、リンスもダマリンも知ったことではない。
そしてリンスは温泉にリンメイとシゲルが居ることを知った。
「どうしてここに・・」
リンスはリサからリンメイが雅則たちの館から姿を消した情報を得ていた。
そしてリンメイとシゲルは、襲ってくる人族を相手にしていた。
リンスは二人に見つからないように温泉に忍び込み、部屋で傷を負っているエルフを発見した。
「人族のところにエルフ?」
リンスは部屋に忍び込んで
「しっ」
リンスはエルフに声を出さないように言った。
「怪我をしているの? 私は魔族のリンス」
「魔族?」
「ええ、シームア領の魔族。あなた、ボルナン族のエルフじゃないわね」
すると
「シームア領の? ダマリン様を知ってる?」
と聞かれた。
「ええ・・」
「僕はトルエン族のクルス。ダマリン様に助けてほしいんです。仲間を」
「事情を教えて」
「人族のケルトン族が僕らの山に入って来てエルフ狩りとか言って脅かすんです。それでシームア領のダマリン様に助けてもらおうと思って・・」
「ボルナン族のエルフは知っているけど、何処に棲んでいるの?」
「クハノウ領。そこのケルトン族が、新たな地を求めて移動しているらしいんですけど、エルフ狩りと称して僕たちの仲間を襲っているんだ。だからダマリン様に助けてもらおうと思って・・」
「わかった。ダマリン様に報告するから」
リンスはクルスから聞いた話をダマリンに報告した。
「クハノウ領のトルエン族が助けを求めている?」
ダマリンは悩んだ。クハノウ領はダマリンたちの領域外。つまり縄張りの外だ。他の縄張りのことに介入することは普通はしない。それはそれぞれの生き物にも干渉することになるから縄張りの外のことには口出しをしない。
しかし今回はクハノウ領に棲むエルフがダマリンに助けを求めてきた。ダマリンは悩んだ。
どうするか迷っていると、レオンがダマリンを訪ねてきた。
レオンは同じシームア領に棲むシシルウ族という魔族で、白い鬣の凛々しい姿は、魔族の女性(?)の憧れでもあった。
魔法も使えてシームア領の魔族の中ではダマリンに次ぐ力を持つとも言われている。
ただ、性格は温厚で戦いは好まない。シシルウ族もシームア領内に居住地を設けて棲んでいるが、レオンはダマリンの配下になることは拒否し、ダマリンとは一線を引いている。
「どうしたレオン。俺の配下になりに来たか」
「そういう気はない。ケルトン族という人族がシームア領に向かってきている。そればかりか向かって来ながら魔獣やエルフなど目に付くものの命を奪っている」
それを聞いてダマリンは
「クハノウ領に棲んでいるエルフのトルエン族が俺に助けを求めてきた」
と打ち明けた。
「ダマリンの名も売れているようだな」
「茶化すな。そんな気はない。そのケルトン族は同じ人族も襲っているらしい」
「人族もいろいろ居るようだな。で、トルエン族はエルフとはいえ縄張りの外の部族だ。助けるのか」
「俺を直接頼っているらしいからな。シームア領に呼んで棲んでもらう。今、思いつくのはそれくらいだ」
ダマリンも心を決めた。
「俺も力を貸そう。お前の配下になるつもりはないが、シシルウ族もシームア領を縄張りにしている。それにエルフであるトルエン族は縄張りの外の種族とはいえ、シームア領に棲んでもらうのに不都合はない」
「助かる。非常事態と言っていいだろう。協力してくれる手はいくらあってもいい」
ダマリンはリンスに
「トルエン族の力になろう」
と返事した。
◇
ギルド協会では。
「人族相手の戦いではハンターもそう集まらないわ」
とナルーシャは不安を募らせていた。
「ハーロックさんたちなら何とかしてくれるかも・・」
しかし
「ハーロック様たちは異世界に転移しているので来ません」
とリンスがナルーシャに言った。
「そうだったわ。いつ戻ってくるかしら」
「5日くらいで戻るとは言ってました」
「それまではどうしようもないわよね」
ナルーシャは祈るしかなかった。
リンスはそれを見てダマリンに報告するか悩んだ。
魔族が人族のために動くなど考えられなかったことだ。だが親しくなったナルーシャを見ていると力になってやりたい気持ちが起きてくる。
「ダマリン様。ケルトン族は温泉も襲っています」
「温泉? それは何だ」
「温かい湯のようなもので、人族が利用している施設です」
「人族の施設か」
ダマリンも人族を助けるとか、人族のために力になる気はさらさらない。
「助ける価値はあるのか」
「それは・・私にはわかりませんが。ハーロック様たちも利用することがあります」
「ハーロックが?・・無碍には出来ないか。・・しかし人族を助けるなど考えられることではない。・・ハーロックと出会うまではな」
「ハーロック様は種別を超えて共存を望んでいます」
「うむ。らしいな。だが魔族が人族を助けるなど前代未聞だぞ。それにハーロックたちは異世界に行っているのだろう? 戻ってきたときのことを考えると悩むところだが」
「美緒は残っているようです」
「知らなかったでは済まなくなるかも知れないから、連絡だけでもしておくか」
ダマリンはワリキュールの館に居るオウムと交信を試みた。




