15-1.宮殿の攻防と結末
ワリキュール王国の街にはSLや自動車が走り、電気の灯りも増えてきた。エドワールにも電気の灯りを灯すため、火力発電所が建設されていた。
そんな中、スラーレン法国のアレイン家のマーラが成人になるのを機に、王家奪還を目論み、行動を開始する。が、計画は思うように進まず、叔父であるブランド家のドルインが第二計画を実行する。
◇
スラーレンの王宮を奪還しようと、宮殿に貴族たちの反乱軍が押し寄せてきた。
「プロティナ様、宮殿の外が・・」
第3の塔でプロティナの世話をする侍従がプロティナに教えた。多くの兵が宮殿を囲んでいた。
「あの者たちは・・」
かつて父が王であった頃の兵軍の旗もひらめいていた。
「誰が兵を起こしたの?・・もしかして魔王を宮殿から追い出すために?・・」
プロティナにも知らされていなかったマーラの第2計画案だった。
宮殿の周りは1000人どころではない。数えきれないほどの兵服に身を包んだ者たちが囲んでいた。
「ヒュンケル様、人族には多勢に無勢という文句があるそうです」
シズがヒュンケルに言った。
「いくら魔王の俺でも、あの人数を相手には出来ない。魔獣を召喚しても1匹だけだからな」
そう、彼はこの世界に魔王ヒュンケルとして転移してきた元の世界では佐藤誠という営業マンに過ぎなかった。
「宮殿には魔族も100人ほど居ます。戦闘は無理な者も居ますが、全力で戦えば負けないかと・・」
「人族とやりあうようになろうとは・・出来れば避けたい。・・ハーロックに力を請うか。しかし、前回のように館に居なかったら自分たちで何とかしなければならない」
「ヒュンケル様だけでもロワール城にお逃げください」
「馬鹿なことを言うな。シズたちを犠牲にするつもりはない」
ヒュンケルはロワール城に転移してきて、シズたち魔族や魔物たちと暮らしていた。いわば家族のような存在だ。
「では、人族と一戦を交えますか?」
「仕方ないだろう」
ヒュンケルも肝を据えるときが来たと思った。だが、大きな戦いは得意ではない。
◇
貴族の兵たちは、宮殿に魔法攻撃を浴びせてきた。
「シズ、ハーロックが居るかいないか、ワリキュールに行ってくる。リンメイだけでも無事返さないとハーロックに怒られるからな」
「はい」
リンメイは縁があって雅則たちと暮らし始めたスラーレン法国の魔術師だ。訳あってスラーレン法国に戻り、ドルインたちの宮殿奪還計画を知った。だが逃げる途中、傷を負うがシズに助けられる。
リンメイは
「私だけ逃がしてもらうわけにはいきません」
とヒュンケルに言った。
「俺も手に余る事態だ。リンメイに怪我を負わせただけでもハーロックに済まないと思っている。無事に戻すよう約束したからな」
リンメイにそう言うと、ヒュンケルはシズに
「魔獣を召喚するから隙を見て魔族たちをロワール城に逃がしてくれ」
と言った。
「わかりました」
ヒュンケルは召喚獣・ゲオを召喚すると、リンメイを連れてワリキュールの雅則たちの館に転移した。
◇
館には、雅則も悠介も居た。
「今日は居てくれたか」
ヒュンケルと転移してきたリンメイが足に傷を負っているのを雅則も悠介も確認した。
「リンメイに傷を負わせてしまった。すまない」
ヒュンケルが雅則に謝った。
「大丈夫か」
「私は大丈夫です。それより宮殿が・・」
話を聞いた雅則は
「不安が的中したな」
と言った。
「ハーロックの力を借りたい」
ヒュンケルが助けを求めた。
「分かっている。だが、こっちも狙われているんだ」
スラーレンの魔術師でもあるソドルの配下のハユナとマユナがハーロックを狙っていた。
美緒が
「私が行ってゴジラで兵を蹴散らす?」
と提案した。
「それもいいけど・・ジル、人間を相手に戦えるか?」
雅則が聞くと悠介が
「ジルたちはゲームの中で侵略してくる人間を相手に戦っていた。もちろん、人並み優れた人間たちとな」
と思い出すように言った。
ちなみにジルの世界では人間は人間と呼び、人族とは言わない。
「それにジルは召喚獣も出せたな」
悠介はジルがゲームの中でマスカット姫から召喚獣を召喚する力をもらって、そのエリアをクリアしたことも思い出した。だが
「リサにあっけなく倒されたけど」
と、ジルは雅則と闘ったとき、召喚獣をリサにあっけなく倒されたことがあり、気落ちしていた。
雅則はジルに
「一緒に行って戦ってくれるか?」
と頼んだ。
「・・わかった。力になる」
「よし、俺とジルでスラーレンに行ってくる」
「俺も連れていけ」
そういう悠介に
「買っても褒美に女は抱けないぞ。デュラハンのシズなら抱かせてくれるかもしれないけど」
と雅則は言った。
「首が取れる女は抱きたくないな」
「ハユナたちがやってきたら倒しておいてくれ」
雅則がヒュンケルとスラーレンに転移しようとすると、リンメイが
「私も連れて行って。ソドルを倒したいの」
と頼んだ。
「仇をとらせてやると約束したからな。しかし怪我の治療が先だろう」
「このくらいの傷は何でもありません」
「わかった」
雅則とジル、リンメイがヒュンケルとスラーレンの宮殿に転移した。
◇
宮殿に転移すると、召喚獣ゲオが魔法攻撃を受けて倒れそうになっていた。
「シズ、戻ったぞ」
シズはヒュンケルが雅則たちを連れてきたので安心するように喜んだ。
「魔族の大半はロワール城に向かいました」
「よくやった。しかしゲオは思ったより弱いな」
ヒュンケルは自分の召喚獣の力に唖然とした。
「ジル、召喚獣を出して、兵を蹴散らしてくれ」
雅則がジルに頼んだ。
「任せてくれ」
ジルが召喚獣ギガスを召喚して兵を追いやろうとした。だが、魔術師たちがギガスも攻撃した。雅則は
「ギガスもレベル100もないだろう。リサの金星魔法にも倒されるくらいだ。やっぱり美緒を連れてきてゴジラで追い払ったほうがよかったか」
と思ったが
「久々に『流星雨』を降らせるか」
と、その気になった。
「人族を殺すのか?」
雅則の『流星雨』を見たことのあるヒュンケルは、その威力を間近に体験したことがある。
「俺にとってこの世界の人族は他の魔族や魔獣と同じ、助けるものは助けるし、邪魔なものは殺す」
雅則は宮殿の屋上に上がって点を仰ぐようにして
「召喚、流星雨!」
と叫んだ。
空が曇りはじめると渦が巻きはじめ、そこから大きな火の玉が落ちてきた。それは宮殿の周りに次々に落下した。
宮殿に攻め入った兵たちは驚いて逃げ惑った。そして貴族街に戻っていった。
「さすがハーロックの極大魔法」
ヒュンケルは雅則の魔法を羨ましく思った。
リンメイもジルも『流星雨』を目の当たりにするのは初めてだった。その極大魔法に驚いた。
「来たついでだ。徹底的に貴族たちを叩いておこう」
「え?」
雅則は宮殿の屋上から貴族街を眺めた。庶民と違って大きな屋敷を建てて優雅に暮らしているように見えた。
「まったく自分たちを何様だと思っているのか」
雅則は力を誇る人間が嫌いだった。それはまるでガキ大将のようで、子供の頃からイジメを体験してきた雅則は腹立たしく思ってしまう。
リンメイに
「まさか貴族街に火の玉を落とすんですか?」
と聞かれた。
「追い返しただけでは、また何をするかわからないから、まとめて潰しておく」
そう答えると
「住んでいるのは反旗を翻した兵だけではありません。家族もいます」
とリンメイに言われた。
「じゃあ、彼らは相手を襲うとき、その家族を思って襲うのか?」
と雅則はリンメイに聞いた。
「それは・・」
リンメイは返答に困った。
ヒュンケルが
「俺もこの宮殿に移って来てスラーレン法国の歴史も調べた。書物も残っていたので、そこからもスラーレン御三家のことも知った。御三家のことは前にハーロックに話したが、そのスラーレン王家が国をつくる前の話だ。
俺が元居たロワール城は廃墟だった。それはそこにロワール国をつくってつつましく暮らしていた人族が居たが、スラーレン王族たちが入って来て奪ったらしい。その後、彼らはスラーレン国を作って出て行ったため、ロワール城は廃墟となった」
「そんな歴史があったんだ」
「人族は他国を奪うことで国を大きくしていく」
「スラーレンの祖先もマルケドーラ帝国と同じだったわけだ」
「人族は同じ人族ばかりか、他の種族の命も奪い、追いやってきた。自分の意ではないが、俺がこの世界に魔王ヒュンケルとして転移した理由は、その辺りにあるのかも知れない」
「俺が転移してきた理由はヒュンケルとは違うが、俺からすればこの世界の人族も魔族も他の生き物も同じだ。それぞれの社会をつくり、家族もいるだろう。この世界はいろんな生き物がいる。なぜ人族だけ他の生き物を無碍なく殺していいんだ?」
雅則はそう言うと、天を仰いだ。
リンメイが
「見逃してほしい館があります」
と雅則に言った。
「オルコック様の、アレイン家の館は見逃してもらえませんか。恩があるんです」
リンメイに言われて
「しょうがない。なるべく落とさないようにするよ」
雅則は天に向かって
「召喚、流星雨!」
と叫んだ。
火の玉が貴族街を襲いはじめた。それは数えきれない量の火の玉で、貴族街を徹底的に破壊した。
その様子を、スラーレンに戻って来るマーラも目にした。
「何なのあれ!」
無数の火の玉が故郷の地を襲っている。
「上位魔法、いや、とてつもない極大魔法だ」
ソドルも、その広大な光景に驚いていた。
貴族街は焼け野原になった。オルコックの館も被害を被ったが、オルコックは無事だった。
戻ってきたマーラは、焼け野原になった故郷を見て唖然となった。
「ハーロックを怒らせたから?・・」
◇
ワリキュールでは。
館にハユナとマユナもやってきた。館から隠れるようにして眺め
「ここは牧場主だったスミスが建てた館らしいわ。誰かに譲ったみたい」
ハユナが調べた情報をマユナに伝えた。
「それがハーロック?」
「さあ、そこまでは知らないけど」
「乗り込む?」
「間違いだったら恥をかくだけ。大使館に戻りましょう」
ハユナとマユナが戻ると、コーネリアが
「消えました」
と悠介に言った。
「待ってたのに。・・大使館に戻ったんだろう」
「こちから出向く?」
イビルは闘うつもりでいる。
「いや、雅たちが戻るのを待とう」
するとヒュンケルが現れた。
「宮殿はハーロックとジルに救われた。ハーロックがスラーレンの貴族街を破壊した」
「え?」
「大使館はもう不要だからスラーレンの者たちを追い出してくれ、とのハーロックからの伝言を伝えにきた」
「わかった、ありがとう。雅、いやハーロックはまたとんでもないことをしているようだな」
ヒュンケルが戻ると悠介は
「イビル、リサ、大使館を取り戻しに行く。手伝ってくれ」
とイビルとリサに言った。
「あいつが居たら倒していい?」
イビルはハユナを倒したかった。
「大人しくスラーレンに帰ってくれないときはな」
◇
悠介たちは大使館に正面から乗り込んだ。
「大使館はワリキュールに返してもらう。即刻スラーレンに戻ってもらおう」
大使館に残ってるのは料理や掃除など生活に携わる者がほとんどで、他にハユナとマユナだけだった。
「あなた誰?」
ハユナが出てきて悠介に言った。
「ハーロック伯爵の友人と言っておこう。スラーレンの貴族街はハーロックが破壊した。マーラとかいう女の計画は失敗したようだ」
ハユナはイビルとリサを見て
「やっぱりハーロックの間者だったのね」
と言った。
「間者? なにそれ」
「おまえたちがワリキュールとエランデルを探っていることもわかっている。スラーレンに戻れ」
悠介がハユナたちに言うと
「ここで倒す」
とハユナとマユナは戦闘の構えをとった。
「遠慮なく倒していいわよね」
イビルも相手をするつもりでいる。
「こうなるだろうとは思っていた。遠慮なく倒していい」
イビルとリサvsハユナとマユナの格闘を悠介は見守った。
「(レベルは)ほぼ互角か。やはり簡単には倒せないな」
ハユナが悠介に襲い掛かった。
「レベルが違う」
悠介が腕を一振りすると、ハユナは悠介の力に跳ね返され、壁に叩きつけられ、そのまま床に落とされた。
マユナも悠介の圧倒的力を感じた。
「強化魔法」
マユナは自分の体力と魔力を強化すると、悠介に攻撃を仕掛けた。だが、レベル500はある悠介には何の役にも立たなかった。
悠介の腕の一振りで離れた壁に飛ばされた。
「命はとらない。スラーレンに帰れ」
◇
スラーレン宮殿。
「魔族の、特に戦えないものはロワール城に移した。ここで歓迎してたることは出来ない。ロワール城に招待してやりたいが」
ヒュンケルに言われて雅則は承諾した。
ジルもリンメイもロワール城に転移され、そこで宴が設けられた。
「人族が食べられる食材を揃えている。安心して食してほしい」
ヒュンケルが言うと
「メイドはデュラハンか?」
と雅則が聞いた。
「デュラハンは嫌いか?」
「いや・・シズに悪いから嫌いにはならないでおく」
「首はとらないように言っておくから」
雅則、ジル、リンメイはロワール城で宮廷料理でもてなされた。
「ジル、今日も私につきあってくれるか?」
ヒュンケルに言われて
「お酒ですか? よろこんで」
とジルはヒュンケルと乾杯した。雅則は
「今夜は帰れなくなるますよ」
とシズに言われ
「そうなるだろうと思っているから」
とこたえた。
料理は美味しかった。料理人は魔族だろうが、食材は人族も食するものだ。
「アルコールはジルに任せて・・どうしたリンメイ」
リンメイは食もすすまないでいた。
「ソドルがどうなったか、確認出来ないな。仇を討たせてやると約束したが・・悪い」
雅則が謝ると
「それより貴族街を・・」
とリンメイが悲痛な顔で言った。
「貴族街を壊滅させたのが気に入らないか」
「あそこまでするとは・・」
「俺を魔王と思うならそれでもいい。別に好かれようと思ってないから。・・今後どうするかは自分で決めて」
宴の後、雅則たちはヒュンケルに館に転移してもらう予定だったが、予想通りヒュンケルも酔いが回ってしまったため、ロワール城で泊まることになった。
◇
そして翌日、雅則たちはヒュンケルに館に転移してもらった。
だがリンメイは、また部屋に閉じこもるようになった。
「雅則くんならやると思ったけど、リンメイにはショックよね。どうするの?」
と雅則は美緒から言われた。
「・・リンメイに任せる」
ジルはイビルに責められていた。
「私も行けばよかった。どのくらいヒュンケルと飲んできたのよ」
イビルは一緒に飲めなかったのを残念がっていた。
「二日酔いになるくらい。これから飲むときはイビルを誘うから」
ソアラも
「そのときは私も誘ってね」
と混ざってきた。
雅則が
「3人で誰が一番酒に強そうだ?」
と悠介に聞くと
「言っておくが、俺は酒には弱いから」
と告白した。




