2-5.ギルドハンター・リサ誕生
そして翌日。
美緒と悠介がルセールと温泉に出かけていった。
二人を見送った雅則は、部屋に戻ると不審な気配を感じた。
知らずのうちに雅則の防御魔法、センスエネミー(敵感知)が働いた。
「誰かに見られている気配がする」
雅則は部屋の窓を開け
「入れ」
と言った。すると窓から女が風のように入ってきた。
見た顔だ。悠介ではないが美人の顔は忘れない。
「リサか」
「ダマリン様から街の様子を見るように言われていますので」
そうこたえたリサに
「俺を見張れ、じゃないのか?」
と聞いた。リサはたじろいだ。
「図星か? まあいい。リサはどうして種族が違うダマリンに従っているんだ?」
「ダマリン様はシームア領の魔族や生き物を統括しているものです。
私たちはダマリン様に守られているのです」
「そういう関係か」
「私はダマリン様の配下となって、エランデル国の人族の監視をする役目を
担っているのです」
「それで人間体に変異してエランデル国に潜り込んでいるのか」
「はい」
「それなら人族のふりをして過ごしたほうが情報も得やすいんじゃないか?」
「・・でも、私はそういうのは苦手で・・」
「魔族も性格はそれぞれということか。ダマリンはリサのように人間体に
変異出来ないのか?」
「無理だと思います。同じ魔族でも種族が違うので」
「まあ、出来たとしてもあの身体だ。巨漢にはなるだろうが。・・それと
ルサは人間、いや人族か、会話が出来る? 俺がダマリンと会話が出来る
ようになったのは言語翻訳魔法の力らしい」
雅則はダマリンが『言語翻訳魔法』で人族と会話が出来ると言っていた
のを思い出した。
「私は人族に潜入して人族の言葉を覚えました。私は人間体に変異出来る
だけでなく、魔法も少々使えるので、そういう力も働いたのかもしれません」
「そうなんだ。・・ダマリンに会いたいが俺がダマリンに会いに行かなく
てもリサに伝言を頼めるか?」
「かまいませんが、鳥獣オウムを介して話すというのは?」
「そんなことが出来るのか?」
「遠くの仲間と連絡をとる場合に、よく使います」
「じゃあ、なるべく急いで手配してくれ」
すると窓からオウムが飛び込んできて、リサの手に止まった。
「オウムを介してダマリン様と話が出来ます」
「わかった。・・え、電話みたい」
リサは電話が理解出来ず、首をかしげた。
雅則はオウムに向かって
「ダマリン。ハーロックだ」
と言った。するとオウムがダマリンの声で
「ハーロックか、話とは?」
としゃべり出した。
「シームア領は魔物の保護地区にするように、王宮に頼んだ」
「なんと。そういうことが可能なのか」
「俺がさせた」
「・・感謝する。先に言っておくが魔物と魔族を一緒にされるのは心外だ。
魔物は千差万別、俺たちにも邪魔な生き物が居るが、魔族は人族と同じ、
種族内で社会をつくっている」
「そうか。わかった、それは理解しよう。ついてはイミナス領はエランデル
国の領地となる予定だ。リリアというい女がそこの統治者として赴く。
シームア領での魔物狩りは禁止したから、その代わり、イミナスで人族と
魔族たちのもめ事を起こさないことと、イミナスに関する情報を教えて
ほしい。いちいちイミナスに足を運ぶのは面倒だからな」
「そういうことか。了解した。しかし俺たちと仲良くしたいということか?」
「俺はそうしたい。もともとはエレンデルもイミナスもシームア領の領地
だったんだろう?」
「そうだ。人族が土地を探して入ってきた」
「やはりそうか。俺はダマリンたちと仲良くしたい・
「・・信じるしかないのだろ?」
「それでいい。それともうひとつ、頼みがある」
「どうせ聞かなければならない話だろう」
ダマリンがハーロックを名乗る雅則に逆らえないのを雅則は承知している。
「リサを借りたい」
「なに?・・」
「リサは人間体に変異出来る。俺の傍で働いてもらいたい」
リサが美人ということもあって思いついたことだ。
「リサに何をさせる気だ」
「ダマリンとのつなぎと、人族の動向の監視だ」
「それは願ってもないことだが、ハーロックも人族を監視したいのか?」
「俺は異世界から来たばかりだからな。この世界のことを、まだよく
把握出来ていない」
「そういうことか」
雅則がリサを十社にしたい理由は、こじつけにすぎなかったが、
ダマリンには納得してもらえたようだった。
「リサには聞いていない。俺の思いつきだから」
リサも傍に居て雅則とダマリンの話を聞いていた。
「リサ、引き受けてくれるか?」
ダマリンに聞かれて
「私に異存はありません」
とリサはこたえた。逆らえる身分ではない。
「では決まりだな」
雅則はユリに
「部屋を、もう一部屋借りたい」
と伝えた。そしてリサを紹介した。
「どこで見つけてきたんです?」
ユリはナナが雅則の交際相手だと思っている。
「ああ、実は俺の従姉妹だ」
「え?」
ユリも驚いたがロサも驚いた顔をした。これもま雅則が咄嗟に
思いついたことだ。
「だから男と女の関係じゃないから」
「そうですか・・」
ユリはにこやかな顔になって
「すみません。今は空いている部屋がありまぜん。美緒さんが
戻ってくるまで使います?」
「いや、美緒に悪いから・・リサは俺の部屋でいい。
問題ないだろう? 従妹だから」
それのどこに問題がないのかは知らない。
「・・わかりました」
雅則はリサと過ごすことにした。
「ハーロック様、従姉妹って・・」
リサに聞かれて
「咄嗟の思いつきだ。ユリちゃんは俺がナナちゃんの相手だと
思っている。彼女が俺の世界に来たのがきっかけで成り行き上、
それは維持しないとならない立場なんだ。だからリサを俺の
従姉妹にしておこうと思った」
と話した。
「そうですか。・・従姉妹って何ですか?」
「知らないか。親兄弟の子供というか、リサの家族は?」
「私は生まれて同じ種族の中で育てられたので、親と
過ごした記憶はありません」
「そうなんだ」
雅則は自分たちとの社会環境の違いに驚いたが、魔族そのものも
理解出来ていない。
「リサ、年齢は幾つだ?」
「年齢ですか? 生まれて300年近くになると思います」
「え?・・そうか、人間じゃないからな。じゃあレベルは?」
「図ったことはないです。あれは人族だけです」
「そうか。人間体に変異出来るリサは計測出来ないかな」
「わかりません」
「魔力検査して問題ないかな。魔族とばれるのはまずいし・・」
「多分大丈夫かと。魔法を使える人族も居て、そのレベルも
様々なようです」
「よし、試してみるか。それとリサは魔法も使えると言っていたよね」
「はい」
「いいね。リサを俺と同じ異世界人として紹介するからレベルを
計測してこよう」
◇
雅則はリサを連れてギルド協会に行った。
「ハーロックだ。ナルーシャに会いたい」
受付の女がナルーシャに伝えに行った。するとナルーシャが二階から
下りてきた。
「いらっしゃい。私になにか?」
ナルーシャは神のようなレベルの雅則に特別な感情を抱きはじめていた。
「彼女の魔力検査を頼みたくて」
と雅則はナルーシャにリサを紹介した。
ナルーシャは、もしやと思い早速ビビりはじめた。
「俺と同じ異世界人なんだけど」
ばれないか多少不安があったが、リサを人族として紹介した。
「やっぱり」
ナルーシャは納得したような顔をして、2階に雅則とリサを案内した。
「ではこの魔法定盤石に手をかざしてください」
雅則がうなづくと、リサは従った。
リサが魔法定盤石に手をかざすと火花のようなものが発生した。
リサは驚いた顔をしたが動じることはなかった。
「え? 思ったより小さい・・」
ナルーシャが驚いた顔をした。
ナルーシャは大きな火花が部屋に溢れるのを心配したが、
火花は定盤石の上で可愛い光を放った。
「あ、あの・・」
ナルーシャはリサのレベルが意外に低いことに驚いた。
「え?」
「いえ、普通です」
「そうなんだ。いくつ?」
「えっちょ・・60ですね」
「そんなもん?」
「はい。高いほうです。Sクラスです」
「そうか・・」
レベル60は相当高い値だが、雅則や美緒から比べたら普通と思えるほど低く
ナルーシャは感じてしまった。
「魔法色素もみてみます?」
「そうだね」
「では水晶玉に手をかざしてもらえますか?」
リサが水晶玉に手をかざすと、水晶玉の色が変わった。
「金星魔法が使えるようです」
「それってどんな?」
「何かというと、熱と光を操る魔法です。炎の熱とは別です」
「それだけ?」
「特に強いのはそれだけです。でも、その魔力自体のレベルは強く感じます。
私が今まで測定した人たちになかで、金星魔法を使う人はめったにいません。
レベル的にもエランデル国内には、これに匹敵する人はいないと思います。
やはり異世界の人だからでしょうか」
リサが魔族であることは、ナルーシャにもばれないようだった。
「そう、ありがとう」
「ハンターとして登録します?」
「そうだね。登録しておこう」
「では申請書を作成します。作成代行しかすか?」
「頼む」
会話は出来るが文字は読めない。もちろん書くことは出来ない。
ナルーシャは申請書を出すと
「まずお名前から・・」
「リサ・ヨコヤマ」
雅則が言った。
「え?」
「俺も元の世界ではハーロックではなく、ヨコヤマ家の生まれだから」
「わかりました。住所は・・」
「俺と同じ」
「種別は人族にしておきますね。異世界人とも書けませんから。
ではSクラスで申請します」
雅則はリサと協会を出ると
「これからは人族として堂々と街を歩けるから」
とリサに言った。
「そういう気遣いで私をハンターとして登録してくれたんですか?」
「俺の従者も務めてほしいから。俺の傍にいつでも居られるように」
雅則がそう言うと、リサは安心したような顔をして
「街中でもハーロック様と呼んでいいんですか?」
と聞いた。
「ああ、そうだね。・・何か食べようか。魔族は普通に食べられる?」
「何でも食べられます」
「特に好きなものは?」
「人族」
「え?」
「生でも焼いても美味しいです」
「俺も肉は好きだが・・」
いきなり人族を食べると言われて、雅則は驚いた。
雅則は以前、ナナに紹介された食事処にリサと入った。
「肉料理でもいいよ。俺は野菜にしておく」
◇
食事の後、街外れにも足を運んだ。
街外れには畑が広がっている。
「取っていかないでくれ!」
叫び声が聞こえた。
「野菜泥棒か? 畑から抜いて馬車に乗せている、常習犯だな」
「こっちに向かってきます」
「都合がいい」
雅則は馬車の進行を妨げように道の真ん中に立った。
「邪魔だ、どけ!」
野菜泥棒たちは馬車で雅則に向かってきた。雅則は手を馬車に制止するように
突き出した。すると、馬車が何かにぶつかるように止まった。
「な、なんだ。まさか魔法か?」
「本当に止まった。自分の身を守るように力が発揮できるんだ」
雅則は馬車に向かって『バリヤーホールド(防御結界)』を放っていた。
「リサ、あいつらを食べていいぞ」
雅則が許可すると、リサは男たちに襲い掛かり、爪を長く伸ばし、その鋭い
爪で男たちを刺し殺していった。そして形相が変わったと思うと大きな口を
開いて鋭い牙で一人の男を食べ始めた。
雅則は
「あれが魔族の本来の姿か」
と思った。
人族を捕食したリサは、人間体になり満足した顔をしたので
「美味しかったか?」
と聞くと
「久しぶりの生肉なので美味しかったっです」
とこたえた。
「今日は肉を食べるのは控えよう」
そう思いながらリサに
「馬車を動かせるか?」
と聞いた。
「御者の経験はあります」
「よし、折角取ってくれた野菜だ。返してやろう」
リサの手綱で馬車で畑に戻り、野菜を持ち主に返そうとした。
「ありがとうございます。収穫して街に売りに行くところでした」
「そうなんだ。・・じゃあ、これらは俺が買おう。馬車はあとで
飯店『ハナ』に引き取りに来てくれる?」
雅則は馬車に載っている野菜の対価を渡すと、そのまま馬車を
走らせて街に戻った。
「どうして野菜を買ったんですか?」
リサに聞かれて
「馬車から降ろすのが面倒だったから」
と雅則はこたえた。
宿の『ハナ』に戻ると、ユリに
「野菜をもらってきた。店で使って。それと、馬車を預かってほしい
んだけど。あとで持ち主が来るから」
と言った。




