14-11.イビルの危機
ワリキュール街。
陽が沈んで街の通りも出歩く人が少なくなっていった。
賑わっているのは酒の飲める店などだ。
「最近、真面目に仕事をしているから、お酒飲んでないな。スレーンとでもいいから誘って飲みたくなってきたわ。ジルとじゃ店が終わるまで飲んでいそうだから」
イビルは夜の街を監視していた。
「エランデルに現れたスラーレンの魔術師がワリキュールに戻ったらしいけど、何処に潜んでいるのかな。まだエドワールかな。・・スラーレンの大使館を確認してから帰ろうかな」
大使館の窓からまだ明かりが漏れている。マーラがやってくるのは時間の問題だった。
「今日は早めに切り上げるか」
イビルが館に戻ろうとすると、何かが迫ってくる気配を感じた。
「まさかね」
イビルは館に真っ直ぐ戻らず、屋根伝いに移動した。すると気配も後から追ってくるように近づいてくる。
「まさか私が狙われている?」
イビルが身を潜めると、気配の動きも止まった。
また移動すると、気配も迫ってくる。
「間違いないわ。狙われている。私を敵に回す気?」
イビルは人気のない倉庫地区に狙う者を誘った。屋根伝いに逃げるように移動した。
つけてくるのがわかれば探しやすい。イビルは待ち構えていて、追ってきた者の前に姿を見せた。
「私をつけてくるのは誰?」
驚いて足を止めたのは女だった。
「女? マユナなの?」
女は
「マユナを知っているとは、怪しい女」
とイビルに言った。
「怪しいのはあなたのほうでしょう?」
女の姿が消えた、と思うといきなり前に現れてイビルにパンチを浴びせてきた。
屋根から落とされたイビルは、直ぐにまた飛び上がり
「会ったことのない敵」
と警戒した。
女が迫って来てイビルに『衝撃波』を放ってきた。
「魔術師? スラーレンの魔術師なの?」
イビルは女に戦慄を覚えた。
彼女のレベルがどのくらいか、まだわからない。
「倒せるかな? それとも応援を呼ぶ?」
執拗に襲い掛かる女にイビルは『炎の矢』を放った。
女はそれをかわすように姿を消した。
「動きが速い。・・それとも瞬間移動?」
イビルは使えないが、転移魔法があるのは知っている。
「魔法も使えるんだ。何者か教えてくれる?」
と女はイビルの後ろに現れて聞いた。
「それはこっちのセリフ。スラーレンの魔術師でしょ?」
「邪魔な存在になりそうね」
女はイビルに攻撃を仕掛けてきた。
「名前を聞いていい? 私はイビル。街に入って来る魔物を退治しているの」
イビルは女の正体を知ろうと自分の名を明かした。彼女がイビルをまだ魔族だと気づいていないと思った。
「魔物扱いは心外だわ。あなたの言う通り、私はスラーレンから来た魔術師、ハユナよ。まさかワリキュールの王宮にも警護に魔術師を置いておくとはわからなかったわ」
と女は名乗った。
ハユナの誤解だったが
「スラーレンの魔術師が何しに来ているわけ?」
とイビルはハユナに話を合わせて聞いた。
「いちいち説明する気はないけど、今からあなたを倒すから、その前に教えてあげるわ。スラーレンの令嬢がワリキュールを乗っ取りにくる計画があるのよ。私はそのためにワリキュールに潜入して情報を集めているの」
「そういうこと。でもあきらめなさい。ワリキュールは誰が来ても乗っ取れないから」
「もしかしてハーロックを知っているの?」
「さあね」
ハユナの攻撃にイビルは逃げるのが精一杯だった。イビルの攻撃はハユナの転移魔法で捌かれてしまう。
「簡単に倒せそうにないわね。というか自分がヤバいわ」
イビルは『<心波>』でリサに連絡した。
「今、スラーレンの魔術師と闘っているの」
「え?!」
「ヤバくなってきたんだけど」
イビルから『<心波>』をもらったリサは、すぐに雅則に報告した。
「スラーレンの魔術師? 助けに行こう」
雅則がそう言うと、リサは
「先に行きます」
とイビルの応援に向かった。
「リサのように速く走れればな。転移魔法も使えないし」
悠介も
「俺も行こうか?」
と言ったが
「悠介は館を守ってくれ。誰が現れるかわからないから」
と雅則も館を飛び出した。
◇
イビルの火星魔法では攻撃が当たるのに時間がかかるしハユナに効き目が薄かった。
「持ちこたえるだけで精一杯だわ。やられるわけにはいかないけどぉ」
イビルはいつになく緊張感を高めた。
ハユナはイビルを追い詰めながら
「どうして必死で逃げようとしないのかしら?」
と思いながら
「まさか応援を?」
と気づいた。
「あなたのレベルがわからないから、私も実力を抑えているけどね」
イビルはハユナに笑みを浮かべた。
「一旦、退散するか」
ハユナがそう決めたところにリサがやってきた。
「情勢は私のほうが不利になってきた?」
ハユナはリサに
「魔法の矢」
を放った。
リサは宙を舞って、それをかわすと
「フラッシュビーム」
金星魔法をハユナに浴びせた。
リサの金星魔法はイビルの火星魔法より攻撃が速い。だが、ハユナはリサの攻撃を防御魔法で防ぐと姿を消した。
「転移魔法よ。気をつけて」
イビルが言うと、リサはハユナの位置を『敵探知』で把握して追いかけようとした。イビルが
「深追いしないで。方向からして多分、大使館に逃げ込むはずだから」
と言った。
雅則が息を切らしながらやってきた。
「大丈夫か?」
「ハーロックのほうが心配」
「運動不足だから」




