14-9.狙われた飛行船
ワリキュール国内にスラーレンの大使館を設けたマーラは、スラーレン法国の貴族街のドルインの館に、ソドルに従者を集めさせた。
上位魔術師のダグラス、防御魔法を使えるソードマスターでもあるグラシス、元シャドーコープスのブラン。
ハユナとマユナは既にワリキュールに潜入して大使館で待機している。
マーラを筆頭にした極秘の会議がはじまった。マーラがなぜ自分の館でしないのか、それはこの計画に父であるオルコックも除外するためだ。
「ワリキュール国内に大使館を設けました。そこを第二の拠点とします。ワリキュールに親善大使として出向いたときは、魔獣に襲われかなりの衛兵を失いました。なので、これからはあなた方を頼りにしたいと思います」
マーラが口火を切ると
「ワリキュールへのルートはゴラン谷を抜けたほうが距離も短く、早いと思うが・・」
腕に自信のあるダグラスが提案した。
「ゴラン谷には竜魔族が棲んでいるでしょう?」
「我々が束になってかかれば、竜魔族は蹴散らすことが出来る」
その意見にマーラが
「たとえあなた方がそれほどの強い力を持っているとしても、魔族と騒ぎを起こすのは避けたいの。竜魔族はマルケドーラ帝国が進攻してきたとき、魔王が竜魔族を守った話を聞いています。今はまだ、魔王の気を害したり、こちらの動きを悟られないようにしたいの」
と話した。
「なるほど」
「でも、1つ気になることが。親善大使として出向いたとき、現れた魔獣を倒してくれた者がいるの。魔術師か魔族か、何者かはわからないけど」
「ワリキュールに、そのような腕の立つ者が居るということかな?」
「それが、そのような印象をワリキュールに行ったときに受けなかったの」
会議室は沈黙した。
「その魔王と関係があるだろうハーロックなる者の情報は、マユナがエランデル国に行って探っているはず。そろそろ何らかの情報が入ってくるでしょう」
ソドルがマーラに言った。
マーラはソドルがそれなりの働きをしてくれているとは思っているが、その動きにいらつく思いがあるのも確かだった。もっと早く情報を得られないのか。
「情報は大使館に行ってから聞いても遅くはないわ。出立の準備をすすめて」
会議の後、ソドルが
「なぜ父上にマーラ姫の計画を話さないんですか?」
とマーラに聞いた。
「父は穏健派だから。父に任せていてはスラーレンの将来はないと思うの」
*****
エランデルから戻った雅則にイビルが
「街外れの大きな建物にスラーレン大使館の看板を掲げたわ」
と報告した。
「となると、いよいよマーラが出てくるということだな。・・美人かどうか聞かないのか?」
雅則が悠介に言うと
「何時聞くかタイミングを計っていたところだ。しかしまだ15歳だろう? 今回は遠慮しておく」
と悠介はこたえた。
「しかしマーラの狙いはランケル国王だ。シルビアのように国王の妃になって、将来ワリキュール王国を手中にする考えかも知れない」
「国王が俺のライバルか」
「悠介の心配は置いといて、だれが宮殿にもぐりこませるか」
「え?」
「イビルに王宮の監視を頼んでいるけど、国王の身近に誰かつけておいたほうがいいと思う。・・イビルはだめか?」
「わたし?・・そういう窮屈なのは苦手なんだけどぉ」
「だよな。・・リサ・・は、笑顔を作れるか?」
「無理です」
「自分や国王を守れる力のある者でないと務まらないし・・」
リンメイが
「スラーレンに行ってきていいですか?」
と雅則に聞いた。
「え? リンメイが挙手したのかと思った」
「私が宮殿に? 無理です」
「リンメイも無理なら、あきらめるしかないか。で、どうしてスラーレンに? 戻りたくなったか」
「いえ。・・マーラに近づいているソドルが気になって。シルビア様やプロティナの陰になって働いていたのでマーラの動向も探れると思います。それに・・ソドルが父の仇なら、この手で討ちたいです」
リンメイが胸の内を明かした。
「マーラもこっちの情報を探っているようだから、こっちも探ってやるか。リンメイの敵討ちには協力してやる。一緒にスラーレンに行ってこよう」
翌日、雅則とリンメイは飛行船でスラーレンに向かった。
「リンメイの件はヒュンケルに協力してもらう。スラーレンで他に力になってもらえる者はいなくなってしまったからな」
雅則がそう言うと
「国王のヒュンケルって、魔王なんですか?」
とリンメイが聞いた。
「うん。俺がスラーレンの国王に推してやったんだ」
「何でもしてしまうんですね」
「面倒くさいこと嫌いだから。簡単に決めちゃった」
スラーレンの宮殿の広場に飛行船を着地させると、雅則とリンメイは宮殿に向かった。
ヒュンケルとシズが出てくると、雅則はリンメイと対面させた。
リンメイはヒュンケルを見て、雅則より魔王らしいと思った。体は大きく強面の顔をしている。そしてシズはなぜかメイド服を着ている。
「悪いけど今日はコーネリアは連れてきていない」
「重要な話か」
雅則はリンメイとソドルの関係をヒュンケルに話し
「そういうわけでソドルやマーラについてリンメイに調べてもらおうと思っている。調べたらリンメイを館に戻してほしい」
とヒュンケルに頼んだ。
「了解した。正直、貴族たちの動きがつかめないでいるんだ。貴族たちは俺を避けているからな」
雅則はリンメイに
「仇を討とうなどとあせるな。自分の身を大切にしろよ」
と念を押した。
「はい」
◇
雅則たちが宮殿に入っているとき、飛行船に近づく影があった。彼らは雅則たちが居ない間に飛行船を乗っ取るつもりで機内に入った。
「やっぱり入ってくると思ったわ」
イビルとリサが中で待ち構えていた。男たちはイビルとリサに襲いかかった。
「ただの人族じゃない。強いわよ」
イビルとリサの反撃に彼らは防御魔法で防いだ。
「魔術師?」
リサは襲い掛かる男に『電撃』を浴びせた。
「燃やしてあげようか」
イビルが火星魔法を使おうとすると、リサが
「船内で火事を起こさないで」
と止めた。
「しょうがないわね。なら八つ裂きね」
イビルは爪を伸ばして男の身体を突き刺した。
「魔族か」
驚く侵入してきた男たちにイビルとリサは魔族の身体に戻って男たちを倒していった。
宮殿に入っている雅則の敵感知が働いた。
「飛行船のほうか。ヒュンケル、飛行船に転移してくれ」
飛行船の機内に転移すると、リサとイビルが侵入してきた男たちを始末していた。
「殺しちゃったけど。ただの人族じゃなかったしぃ」
「じゃあしょうがないか」
リンメイが
「覚えのある顔が・・もとシャドーコープス」
と倒れた男の顔を見て言った。
「生き方を失った成れの果て・・か」
雅則は飛行船が襲われるのを警戒してリサとイビルに中で待機してもらっていた。襲ってくる者があれば、捕まえていろいろ聞けると思った。
「機長たちは?」
「下の機関室で待機してもらっているわ」
「船内を血で汚してしまったわ」
一緒に転移してきたシズが
「生活魔法で除去します」
と魔法を発動した。
「シズも生活魔法を使えるのか」
「シズが居てくれるので、俺もいろいろ助かっている」
ヒュンケルが嬉しそうに言った。
「プロティナがシャドーコープスを動かしているとは考え難い。やはりソドルが動かしているのか。リンメイ、ほんとうに無理するなよ」
「はい」
雅則はリンメイをスラーレンに置いて帰国した。




