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異世界に行ったら最強になった  作者: 志良内達夫
第十四章 スラーレン御三家の陰謀
175/215

< 幕間 ナルーシャのある日 >

 エランデル国。ワリキュール王国の王族の貴族が新しく開拓して築いた国だ。

 ワリキュール王国より山麓に近い森を開墾してつくった国で、その位置も関係して、築いた城や街の周囲には魔物や魔獣も生息している。エランデル国は兵軍の組織は持たないが、そういう環境なので、衛兵隊を組織し、街を巡回したり、場合によっては街の周囲に近づく魔物や魔獣を退治している。

 この世界は人間である人族や魔物や魔獣以外に魔族も存在する。それらは多種多様だ。そして人族にも優れた能力、魔法を使える者もいる。魔法も多種多様で、その力も人それぞれだ。


 衛兵隊は一般市民からも募った野戦隊と弓を使える弓撃隊、それに魔法が使える魔法戦士隊などがある。

 そして街の交通手段は徒歩か馬車を利用する。つまり文明の発達していないのどかな世界でもある。

 多種多様な生き物が居ることで、衛兵隊の他に街にギルド協会がある。そこでハンターとして登録し、魔物や魔獣を退治すると報酬がもらえる。

 しかし危険な仕事でもあるのでハンター志願者は魔力検査を受けて、そのレベルと魔法色素、つまりどんな魔法が使えるかを調べてからハンターになれる。そのレベルによってAクラスからSクラスに分けられる。

 またギルド協会はハンターの仕事だけでなく、街の必要とされる仕事の斡旋も行っている。

 ナルーシャは、そのギルド協会で、主にハンター志願者の魔力検査の判定の仕事をしている。


 レベルについて少し詳しく説明すると、魔法の能力をあまり持たない者はレベル1か2。魔法が使えても、微力で自己防衛力のある者はレベル5と判定される者もいる。

 魔法が使えて魔獣をも倒せる者は、10以上あって、レベル50を超える者はギルド協会ではSクラスの称号を与えている。


 ◇


 そんなナルーシャの前に「異世界から来た」と紹介された悠介と美緒という男女が居た。

 魔力検査をしてみると、2人ともレベル500を超える驚異的な力を持っていた。

 さらに王宮から伯爵の爵位をもらったハーロックを名乗る雅則は、レベル1000をも超えていた。

 異世界からエランデル国に転移してきたという3人は、その後、ワリキュール王国に移り、そこで暮らしているらしい。

 そして時々、エランデル国に戻ってくると、ナルーシャに声をかけてくれる。


 3人に関しては驚くことが多々あった。

 エランデル国が開拓されるまではシームア領と呼ばれる地区だったが、もともとそこに棲んでいる魔族が居て、人間体に変異出来る魔族がエランデル国も監視していた。

 ハーロックを名乗るようになった雅則が、そのリサという魔族を自分の従者にして、エランデル国やワリキュール王国の治安を守るように奔走していた。

 そしてエランデル国には、リサの代わりにリンスという魔族が監視にあたるようになった。

 ナルーシャはそれなりのいきさつがあって、リンスとも仲良くなり、今はリンスを自宅に居候させている。ナルーシャにも利点があった。遠く離れた魔族間で連絡がとれる方法があって、ワリキュール王国に居る雅則ハーロックたちとも電話のように話すことが出来る。もちろんナルーシャの世界には電話は存在しないが。

 そして何かあれば、リンスがナルーシャを助けてくれる。リンスは魔族だが、ナルーシャにはかけがえのない友達になっている。


 ◇


 エランデル国の領内にある、山の麓に温泉がある。その温泉とエランデルの街を行き来するには馬車を利用する。徒歩でも行けないことは無いが、それなりの距離もあり、途中、魔物が現れることもある。なので、馬車を利用する場合も、警護にハンターを雇うことが多い。


 雅則ハーロックや悠介、美緒たちの力で、エランデル国とワリキュール王国が鉄道(SL列車)や航空(飛行船)で行き来出来るようになり、温泉の客も増えて、温泉とエランデルの街を馬車の定期便も走るようになった。

 だが温泉は地理的条件もあって、途中で魔物に襲われるときもある。そのため、馬車にはハンターが同乗し、ハンターは馬車を警護することで報酬をもらう。


 そんなある日、一人の男がギルド協会に現れた。温泉のオーナーのニドルだ。

「ニドルさん」

 ニドルを見かけたナルーシャが声をかけた。

「たまには山の中だけじゃなく、街にも出てこないとな。今日は温泉の警備をしてくれるハンターの依頼に来たんだ」

 山に棲む魔獣たちが以前より温泉や温泉近くに出没するようになった。彼らも温泉に関心を持ち始めたのかはわからないが。

 エランデル国とワリキュール王国が飛行船やSL列車で交流がはじまり、温泉客も増えているのは確かだった。人族が増えるのは魔獣たちにも迷惑なのかも知れない。

「警備してくれる魔術師とかが居てくれたらいいと思っていたところに魔王シゲルを名乗る男がやってきてね」

「え?」

「確かに現れた魔獣を倒してくれたときには頼りになるかと思い、長く警備員として雇いたかったが、村の警護に戻らなくてはならないからと、温泉に入って、報酬をもらって村に戻っていった」

 それは死んだ後、女神にナルーシャたちの世界に転移させられた男だとナルーシャは思い出した。

 魔力検査をしてみると、レベルは100。女神からもらった聖剣を自慢していた。そしてワリキュールから所用で戻ってきた美緒に負けて、カリア村の警護を引き受けることになった男だ。

「確かに強いのは間違いなかったが、魔王という感じじゃなかった」

「そうですね」

 ナルーシャも正直、シゲルに魔王という印象は見出せなかった。普通の魔術師という印象だった。

「住み込みで警備してくれるハンターを募集しようと思って来たところだった」

「そうですか」

 ナルーシャも雅則ハーロックたちと温泉に行ったことがあるが、普段は何に襲われるかわからないので行っていない。


 ナルーシャは家に帰ると、戻ってきたリンスに

「温泉のオーナーのニドルさんから、温泉の警備のハンターを募集したいと依頼があったの」

と話した。愚痴のようなものだったが、リンスは何でも聞いてくれる。そういう点でもリンスは頼りになる存だった。

 リンスは魔力検査でレベルが60。水星魔法が使える。雅則たちと縁が出来たことで、その力を発揮することもあったが、ナルーシャはそういう場面に出くわしてリンスの力を見たことはなかった。

 ただリンスは人族ではない。魔族だ。それはナルーシャやハーロックたちしかわからないし、秘密にしている。しかもリンスはエランデル国の情報を雅則ハーロックに報告する任を担っている。そんなリンスを温泉の警備のハンターとして推薦は出来ない。


 リンスは、ナルーシャから得た情報をワリキュールの雅則たちに報告するべきか悩んだ。

 雅則たちはエランデル国のことも気にしてくれている。リンスはハーロックの従者にはなっていないが、リサに代わってダマリンにエランデル国の人族の監視を任せられていて、何かあればハーロックにも報告をしている。

 ナルーシャが

「警備を引き受けてくれるハンターは居そうだから心配ないと思うけど」

と言ったので、リンスは雅則ハーロックたちへの報告はしないことにした。

 リサから雅則ハーロックたちはワリキュールとエドワールで奔走していことを聞いているからだ。


 ◇


 そんなある日、ナルーシャはギルド協会で、後輩のエリーナから

「ハンター登録志願者です」

と言われた。

 二階に上がってきたのは女だった。

「仕事を探しに来たらハンターになることを勧められたんだけど、ああワリキュールから来たばかりで・・」

「それならハンター登録をして魔獣を倒す仕事が手っ取り早いですね。ただレベルが低いとハンターの仕事は斡旋出来ませんけど。魔力検査します?」

 ナルーシャは女に聞いた。

「お願いします」

 女は、そうこたえた。

「先に名前を聞いていいですか?」

「マユナ」

「では定盤石に手をかざしてもらえますか?」

 ナルーシャが言うと、マユナは魔力検査がはじめてのような顔をして、言われたとおりに定盤石に手をかざすと、火花のようなものが飛び散った。

 ナルーシャはそれを見て

「60ですね。では魔力色素も見るので、こっちの水晶に手をかざしてください」

とマユナに言った。

 水晶の色が変わり始めると

「これは・・月ですね」

 ナルーシャはそう言って

「これでハンター登録出来ます。レベル60は高いほうなのでSクラスになります。プレートは明日にはお渡し出来ます」

 するとヤユナが

「魔獣は何処にいるの?」

と聞いた。

「そうですね。エランデルは山に近いので、街の外には結構いますよ。温泉でハンターを募集しているんです。魔獣が出るようになったものですから。そこなら住み込みで働けますよ」

 ナルーシャは温泉のオーナーのニドルが丁度、住み込みで警備してくれるハンターなどを募集しているのを思い出してマユナに言った。

 マユナがそこでとりあえず働くことを決めたので、ナルーシャは

「温泉行の馬車が出るので、それで向かってください。プレートは今日は間に合わないので、仮の登録証を発行します。それを温泉のオーナーのニドルという人に見せてください。Sクラスなら雇ってくれるはずです」

 マユナはそれを受け取ると

「エランデル国にハーロック伯爵が居ると聞いたんだけど」

とナルーシャに聞いた。

「え? ハーロック伯爵ですか?・・すみません。王宮がらみのことはほとんどわからないので、街には情報を下してくれないんです」

 ナルーシャは突然、ハーロックのことを聞かれて驚いたが、マユナにそうこたえた。

「そう」

 マユナは温泉行きの馬車で温泉に向かった。


 ナルーシャは不安を覚えた。

「どうして彼女がハーロックさんのことを・・」

 ナルーシャは、雅則ハーロックが、また何かをしでかしているのか、または何かに巻き込まれているのか、そう思った。

 ナルーシャを察したようにリンスが現れた。

「リンス」

「何かあった?」

「ワリキュールから来たマユナという女なんだけど、気になるの」

 ナルーシャは温泉に向かったマユナの話をリンスにした。するとリンスが

「ハーロック様に報告しておくわ」

と言って協会を出て行った。


 ◇


 仕事を終えて家に帰るとリンスが待っていて

「ハーロック様がナルーシャから話を聞きたいそうです」

と言われた。そしてリンスが(鳥獣)オウムでハーロックと話せる準備をした。

「ハーロックさん」

「しばらく」

 オウムから雅則の元気な声が聞こえた。

 ナルーシャはその声を聞いて安心した心地になり、雅則にマユナの話をした。

「ワリキュールから来たマユナという女なんですけど、レベルは60。魔法色素は月でした」

「そう。・・月ってどんな魔法が使える?」

「精神魔法とか空間魔法とか主に上位魔術師が使う魔法と聞いています」

「やっかいだな」

「マユナは温泉の警備に行きましたが、リンスが監視するそうです。それと彼女からハーロック伯爵のことを聞かれました」

「え? なら怪しい女かも知れない。こっち(ワリキュール)でスラーレンの変な動きをしている情報もある。ああ、ナルーシャは気にしないで」

 一緒に聞いていたリンスが

「明日から温泉に行ってマユナの動向を見張ります」

とオウムで伝えた。

「危険な行為はしなくていい。彼女には深入りしないで。リンスより力がありそうだし。それにリンスの存在を知られるのはまずい。彼女はきっとスラーレンから来た魔術師だろう。温泉には報酬目当てに行っているのかも知れない。俺がそっちに行くから、待機していて」

と雅則に言われた。

「わかりました」

 ナルーシャとリンスは緊張感に襲われた。


 ◇


 翌日、ナルーシャはリンスから

「ハーロック様が来ますが、今回はナルーシャとは会わないそうです。私もハーロック様と温泉に行ってきます」

と言われた。ナルーシャは雅則がナルーシャの身を案じて極秘行動をとるのだと思った。

 そして数日後、リンスが戻ってきて

「マユナもワリキュールに戻ったので、ハーロック様も急ぎワリキュールに戻るので伝えておいてくれるようにとのことです」

と言われた。

「ハーロックさんなら何も心配することはないと思うけど・・」

 ナルーシャは、雅則がいつも何かに巻き込まれるような存在だと思った。
























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