いつか必ず、三人で過ごそうね
無事に本番を終え、楽屋に戻る途中。廊下で他のスタッフとすれ違いながら、他愛も無い話をしている。
「いやー、俺のかーちゃん見てくれてるかなー? 俺の盛大なツッコミを!」
「そこなんだ!? ……僕の両親も、きっと見てくれてると思う。録画用のデジカメも奮発して買ったって言うし」
「え!? お前んちのテレビって録画機能ないの!?」
「何それ?」
「そもそもそういうの知らない系だった!?」
特に、僕と新井くんの、会話の頻度が多かった。
すると猫田くんが驚いた様子で、宮條さんの衣装の袖を引っ張る。横の廊下の先を指し、
「あれ……もしかして、お兄ちゃんじゃないのかにゃ」
宮條もその姿を見て、目を見開く。確かにそれは、宮條の兄――Kaitoだった。ちょうど楽屋を出て、偶然、こちら側に近づいてきている。
「あ、あああああ……!! あ、あの、Kaito、さん!?」
「……ん? 君は『ばーちゃLimit!』の羽瀬くん?」
「ギャ――!! 認知してくれてる!! あ、あああありがとおおうございま」
「はは、1回落ち着いて、ね?」
微笑みで漏れるその柔らかな声も、まるで小鳥のさえずり。緊張している羽瀬を見下ろす白い長髪の男性。
「す……すっごい昔から好きでした。中学生の頃から」
「ああ、『BEANS』解散前ぐらいからかな?」
「は、はい! ユニット時代のシングルもアルバムも、全部買い占めました! あなたの音楽は、ぼ、僕の人生です! 生きててくれて、あっありがとうございます!!」
少し緊張させながらも、ちゃんと想いを打ち明けられた。しっかりと聞き入れてくれている。
「本当にありがとう。君のような若者に響いてくれているのも、僕は嬉しいな。……そういえば、すごかったね? 君たちのライブ。特にダンスや演出が僕好みで、素晴らしかった」
「そ、そんな滅相も……あ」
と、僕は我に返った。ゆっくり振り帰ると……そこに宮條さんがいた。
「――『ばーちゃLimit!』のリーダーは、君かな?」
Kaitoは、自分の実の弟を前にして、首を傾げる。他のスタッフも廊下を通っているからか、スキャンダルの面で気にし、兄弟である素振りを見せなかった。宮條さんも同じだ。
「ああ。そうだ」
「演出とかは、君が考えたの?」
「決まっているだろ。俺はお前に、復讐しにきたからな」
「……復讐。まあ、そうだよね」
彼の整った表情は、次第に暗くなる。自分がアイドルを目指したせいで弟と妹を捨ててしまったという判断に、相応の罪の意識を感じていたのだと思う。
「いいか――これからは、『ばーちゃLimit!』の時代だ。お前の底なしの光を、俺たちが奪ってみせる。これは俺がお前に行う、唯一の復讐だ」
宮條さんは憎い兄の前で、感情的な様子を一切見せずにそう言った。
Kaitoは呆気に取られた表情だった。直後、爽やかな笑みを浮かべる。
「うん。頼もしいね、リーダー。楽しみにしてる。君たちが、僕の輝きを超える日を」
言いながら、彼は横を通って立ち去ろうとしていた。
「――待て、最後に」
「ん? 何かな」
「妹……七奈がお前に、よろしく伝えろとな。アイツは闘病生活を送っている。……少しくらい、顔を合わせたらどうだ」
振り返ったKaitoは、少し俯いた。時間が経って考え終えると、顔を上げると同時に、
「うん分かった。いつか必ず、三人で過ごそうね」
この瞬間、彼のにっこりと頬笑む表情は、やけに記憶の中に残った。
そして、Kaitoの姿が見えなくなったのと同時に。
――バタン!!
「く、宮條!?」
「どうしたのにゃ!? しっかりするにゃ!!」
突如、疲労困憊が押し寄せてきたのだろう。目的を果たし終えた宮條さんは、急に意識を失った。




