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必ず復讐を果たす

 二週間後、事務所一階エントランスの、窓際のテーブルを挟んだソファに座り、メンバー内で会議が行われた。

「今回披露する楽曲は『イニシエーター』。そして、何かもう1曲披露してほしいと、番組ディレクターからのお達しがあった。本番まで残り1週間と少ない。急遽ここで決めておく」

「うーん。もう1曲、かあ」

「ディレクターも意地悪な事言うにゃ。引っ掻いてやろうかにゃ」

「いやいや! そんな理不尽じゃねーし、番組外されるから絶対止めろ!」

 僕は考え込む。猫田くんが言っている事をやりかねない邪悪な笑みを浮かべ、それを目撃してツッコミを入れる新井くん。

 すると宮條さんは、いつにも増して不機嫌そうに手を叩く。僕ら三人は沈黙した。

「騒がしい。……さっさと決めろ」

 明らかに彼の様子は変だった。いや、最初にマネージャーとして会った頃と比べれば、何ら変わりない。

 ただし、最近の宮條さんと比べれば、その機嫌の悪さは歴然としていた。

「……ぼ、僕的に良いと思ったのは、『ブルースターの空』……です」

 恐る恐る、言ってみた。二人だった頃、初めてネットに公開した曲である。強い思い入れがあり、いつしかライブなどで再び歌える日を望んでいた。

 すると、それは採用されたのか、もしくは不快さが頂点に達したのか、宮條は急に立ち上がり、黙々と立ち去ろうとしていた。

「おい、待てよ!」

 新井くんが座っている僕の間を抜け、彼を引き止める。周りの人数は極度に少なかったので、大声を響かせ、人目に付くことは無かった。

「もうそろそろ、俺たちにも話したらどうなんだよ!? なんでそこまで、サウンド・ステージにこだわるんだ!?」

「……お前たちには関係ない」

「関係大アリだろーが……! 自分独りで抱え込もうとすんな!!」

 歩みを進めようとした宮條さんの前、回り込むように立ち塞がって胸ぐらを掴む新井くん。

 怒りと心配の交わる瞳に睨まれようとも、宮條の心は動じなかった。しかし。

「――あ」

 その勢いで彼の眼鏡が外れ、全員がその床に落ちる瞬間を見届けていた。ガラスの割れる小さな音が鳴り、レンズにヒビが入る。

「弁償しろ」

「……今のは、悪かった……けど……」

 胸ぐらから手を放し、申し訳なさそうに視線を逸らす新井くん。そのせいで反論しきれず、納得いっていない様子だった。

 何となく動くべきかと思った羽瀬は、落ちた眼鏡を拾い、宮條の手に渡そうとする。

 その時、宮條の顔を見上げた彼の手が、ぴくりと止まった。

「え? ちょっと待って、宮條くんの顔」

「!!」

 宮條が目を見開いたのを見て、僕の直感は間違いないと察した。新井くんと猫田くんは、何で僕らが驚いている表情だったのか、全く見当がついていないようだ。

 そんな時、僕は眼鏡を持っていた手を震わせながら……こう言った。


「――『Kaito』さんと、似てる」


 この場の空気が、一瞬で凍った。

「…………」

 数秒経っただけで、普段のポーカーフェイスに戻る。彼の手から眼鏡を奪い、ヒビ割

れたレンズのまま、それを装着した。溜め息を吐いた彼は、

「……仕方ない。本番前にお前たちを不安にさせてしまっては、元も子もないからな」

 全てを打ち明けることを決心し、この場にいる全員が見えやすい位置に立つ。

「俺の兄は『宮條海人(かいと)』――Kaitoという名前で活動している」

 その事実は、僕の心臓に強烈な衝撃を与えた。自分が憧れ続けた「推し」と血の繋がっている人が、こんなにも近くに存在していたという事。胸の辺りを強く握っても、その高鳴りを抑えることは出来ず、力が抜けて床に座り、失神寸前だった。



 新井くんは、意識をぼんやりとさせている僕を背負い、ソファに座らせて少し休ませてくれた。その場に立ちながら宮條さんは、座っている僕ら三人に、過去の出来事を打ち明ける。

「元々、俺たちは三兄弟だった。俺の兄……海人が成人した頃、両親が他界してから、アイツ一人で家族の世話をしてくれた。十年以上、俺と歳が離れているしな」

 宮條の兄である、宮條海人……今は『Kaito』という名前で活動している。

「ずっと家族を大切にする、そう誓ってくれた事もあった。……ある時、家族以上にアイツを魅了したものが現れたがな」

 両拳を強く握りしめて発せられた言葉には、怒りの感情がこもっていた。

 そんな彼の様子と、過去に言っていた事から、新井くんは察しがついたように言う。

「……アイドルの事か?」

「ああ。突然のスカウトだ。俺は反対したが、翌日には家を出て、それっきり戻ってこなかった。アイツは家を出て間もなく、大手事務所の看板として大ブレイク。だが、取り残された俺たちは違った。妹が病気に罹って、治療費・入院代も、働いて働いて、俺一人で払った」

 まるで愚痴を吐くように、大量の言葉が彼の口から発せられる。

「宮條の妹は、どんな病気なんだにゃ……?」

「――末期の食道がんだ」

「……にゃ……」

 辛い事実を聞いてしまったせいか、猫田くんの片目から、1粒の雫が落ちた。

 つまり。宮條さんは、兄であるKaitoを恨んでいる。それとかつて、Kaitoと自身らを引き離した「アイドル」という存在も恨んでいたという事。

「――もし、お兄さんの『Kaito』さんと会ったら……どうするつもり、ですか」

「羽瀬……」

 目を開き、体を起き上がらせた僕は、ぼんやりとした意識の中、真剣に訊ねる。

「俺は、必ず復讐を果たす。だが、物理的な力は使わない。今の俺なりの方法――音楽の力で、アイツの人気を根こそぎ奪っていくつもりだ」

 宮條さんは冷静な表情で、三人の座っていたソファの間に挟まれているテーブルに近寄り、怒りに任せて手の平でそれを叩く。ひび割れたレンズを輝かせながら。

「『サウンド・ステージ』は……これから俺たちのステージにする」

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