独り言怖っ!!
そして、『ばーちゃLimit!』結成七ヵ月。
晴れて四人となったユニットは、やがて少しずつ話題となっていった。その原因は二つ。
まず新曲の『イニシエーター』。鏡を一部だけ取り外したレッスン場で撮影し、プロジェクターで映した画像の編集などは、歌丸先生が忙しい合間に手伝ってくれた。
過去動画と比べて、間違いなく垢抜けていた。投稿して一週間、恐ろしい速さで再生
数を稼いでいく。十万桁、百万桁、そして……。
「……一千万、突破している」
彼らがダンスの練習中、宮條がスマートフォン画面のそれを見て言った。他のメンバーも彼の隣で画面を見つめる。新井と猫田は大声で「うおおおお!!」と歓喜し、四人全員でハイタッチを交わした。
再生数が伸びた原因の1つに、SNSがあった。一部の若者達が動画を見て「この天才たち誰?」「このグループすこ」「私はトモくん推しです!」と、ばーちゃLimit!のタグ付きで投稿したことにより、更に多くの人の目に注目された。
因みにSNSの間では、メンバー全員のあだ名が誕生し、やがて浸透していった。例えば、僕の場合は「ひなひな」で、新井くんは「シュン」。宮條さんは「トモくん」で、猫田くんは「にゃーた」。猫田の場合は、動画で踊っている時に度々「にゃ」と発しているので、こんなあだ名になった。
そんな事もありながら、結成九ヵ月を超えた時期。『イニシエーター』がグループを代表する人気曲となり、そして、彼ら四人に大きな仕事が降りかかる。
「……三週間後に迫る音楽番組の、生放送のオファーが来た」
宮條はレッスン場で、いつものようにストレッチの動作を行っていたメンバー全員を見渡し、冷静な表情で発した。
「生放送!? まじすか!?」
「ああ。『サウンド・ステージ』という高視聴率の番組なのだが。知ってるか?」
「ええええ! 知ってるも何も、俺のアイドル青春時代が始まった、きっかけの番組なんですけど!」
番組名を聞き、いつにも増して興奮する新井くん。『サウンド・ステージ』は複数の有名人気アーティストを招き入れ、十年前に始まってからずっと、視聴率は音楽ジャンル一位の記録を守り続け、老若男女問わず、誰でも知っている有名番組だった。
僕ですら知っている音楽番組だ。猫田くんは「にゃーっ!」とガッツポーズを掲げて喜んでいた。
「ま、待てよ!? ヒナ。もしかすれば、あの人と会えるのでは……?」
「え? ――あ、あああああっ!!」
一瞬で喉が枯れるような悲鳴を上げ、思わず咳き込んでしまう。近くにいた新井くんは、僕の背中を摩ってくれた。
「Kaitoさん!! Kaitoさんと会うチャンスだあああ――っ!!」
頭を抱えてパニック状態に陥った直後、体の力が抜けて床に座り込む。
そう。僕の憧れの歌手、『Kaito』が出演する唯一の音楽番組だ。普段はテレビで見かける事は無いものの、サウンド・ステージには出演する機会が多い。
「いやいや! なんで番組名を言われた時に気付けなかった!?」
「忘れてた……最近あんまり、推し活してなかったから……」
「あ、待てよ。宮條、俺らが出る時って、Kaitoは出演するのか?」
ふと気になった新井くんは、彼に訊く。
「…………」
「ん? どうした」
「……いや、済まない」
宮條さんの顔はどこか暗く、曇っていた。そういえば、僕が『Kaito』の名前を出した途端から、そんな表情をしていた。
「三週間後の出演アーティストはまだ公開されていないが、Kaitoが出演する頻度は四回に一度。既に三回出演していないらしいし、今回登場する確率は極めて高い」
「え、本当ですか……!? うわ~! でも宮條くんすごい。大ファンの僕ですら知らない分析をすらすらと」
「単なるネット調べだ」
腕を組みながら、今日もいつものように、彼の眼鏡は反射して輝いている。
「いややっぱり恐れ多いし一ファンとして実際に会うのはどうかと思うしあのお方には僕という弱い存在を知ってほしくないし陰ながら応援するという方が少しでも身近で支えられるというものですし」
「独り言怖っ!!」
熱狂的ファンであるせいか、最早別人のように早口になってしまう。新井は後ずさって引いていた。
同時に、少し顔の角度を下げていた宮條さんも、視界に入った。――大きな仕事が決まったというのに、喜びを見せないどころか、落ち込んでいるように見えるのは何故か。今の僕には、宮條さんの事情が、まだ理解できなかった。




