歌って踊れる、アイドルになるんだにゃ!!
新曲を作り始めて、十四日が経過した。MIXという聞き馴染みのない作業も行われ、当初の予定よりも二日オーバーしてしまった。全て宮條さんが行っているのだから当然である。事務所は相変わらず人員不足という状況。
因みに猫田くんの振り付けは、唯一のヒントである「曲の大まかなイメージ」から、直感的に踊って完成させられた。なので宮條さん以外、誰も曲を聴いていない。
そして……レッスン場に四人が集う。いよいよ、新曲タイトルのお披露目会が始まった。
「タイトルは――『イニシエーター』だ」
「あっ! 猫田くんと出会う前に思い付いた曲!」
宮條さんの正面を囲むように、僕ら三人が立っていた。彼は僕を見て頷く。
「そうだな。俺たちこそ、この時代の起爆剤になる……という深い意味もあるが、何よりクールかつアイドルとしての要素も強めた。『銃弾の雨からキミを守る』というコンセプトだ。あとはばーちゃLimit!の個性を引き出し……」
「さっさと聴かせるにゃ!!」
「ん……そうだな」
宮條さんが熱く語っていた言葉を邪魔してまで、興奮した様子で彼を急かす猫田くん。
「これが、俺の作った曲だ。だっだが、そんな期待はするなよ」
恥ずかし気に言いながら、彼は自分のスマホをテーブル上に置く。
そして、「イニシエーター・INST編集済」というオーディオファイルを開き、再生。音量を少し上げ、部屋の端に移動した宮條さんは、全員に背中を向ける。
室内に響いた音は、幻想的で、クールで、かつ銃弾の雨が降り注ぎそうで、ユニットの個性を最大限まで引き出した、予想以上の一曲。歌無しでも、皆をそう思わせた。
「うっわ最高じゃん」
「これは、やばすぎる……」
「い、今までこんな曲を、ボクが振り付けてたのかにゃ!?」
三人の見開く瞳は、宮條のスマホに釘付けだった。
「ぐっ。あのな、そんなに褒めても何も出ないぞ。それに、最終的な曲の価値は、ファンに認められるかどうかだけだ」
「いや、バリバリすごいっしょ!? ファンに認められるかどうかとか、それ以前に、曲として完成されてるっていうか。宮條ってやっぱ天才でしょ……!!」
「……そうか?」
褒めても何も出ないと言った傍から、鼻の下をむず痒そうに指で撫でている。
「す、すごいクオリティだにゃ。こう考えると、ボクの振り付けなんてゴミ同然だにゃ。燃えないゴミだにゃ……」
「なっ、何を言っている!? お前の振り付け能力は、わ、悪くないぞ! 明るく楽しく、かつ大胆で記憶に残るものが、今の若者のニーズだからな……!」
鬱モードの猫田くんを、宮條さんはまるで広告代理店の人のような言葉を並べて慰める。珍しい二人の一面が垣間見えた。
「ところで、新曲はどうやって披露するつもりなの?」
僕は、ギリギリ聞こえる程度の小さな声で訊ねる。対して宮條さんはきょとんとした表情で、
「何を言っている? 動画サイトに公開する予定だが? 『ばーちゃLimit!』の動画アカウントでな」
「あ、なるほど!」
納得したように頷く。しかし、新井くんには懸念点があるようだ。
「俺ら、最近、動画公開してねーな。完ッッ全にアカウントの存在忘れてたわ……」
「そっか。でも仕方ないよ、最近は忙しかったからね」
「お、おう。登録者、減ってないといいんだけどな……」
新井くんと僕が二人で、心配事を話している最中。猫田くんは寂しげな表情で、宮條さんに問う。
「……これから、どうするんだにゃ」
「ん? 俺たち三人はこれから、お前の考えた振り付けを踊って、動画を公開する。クレジットなら心配するな。ちゃんと猫田の名前は記載するからな」
「さ、三人、かにゃ」
「ああ。俺たちとお前の関係は……これっきりだ。俺で良ければ、いつでも電話に出るが。いや待て。やっぱり夜中は控えてくれ――」
立ち尽くす猫田くんは、じっと真下を俯いていた。しかしその時、彼はつま先を立てて、顔を近付ける。そして、小さな人差し指で彼の唇を触り、無理やり黙らせる。
互いの表情が急接近し、動揺を隠せない宮條さん。しかし猫田くんが至近距離で向けた眼差しは、とても真剣なものだった。
「何も言うにゃ」
小悪魔チックに放たれた言葉。彼を含み、横で目撃した僕と新井くんも、ドキドキしてしまっていた。
「いいか、よく聞くにゃ。ボクがいなくなったら、次の曲の振り付けを考えるのは誰にゃ?」
「え……歌丸先生だ」
「誰だか知らないけど違うにゃ」
「な、何だと?」
「メガネの作った曲の振り付けを考えていいのは、ボクだけにゃ。誰にも絶対、ボクの遊び相手のメガネは渡せないのにゃ。あと……」
告白じみた言葉に、呆然とする宮條さん達。猫田くんは、指を彼の口から離し、
「ボクの考えた振り付けは、三人きりでは踊らせない――ボクも、歌って踊れる、アイドルになるんだにゃ!!」
少し離れ、バッと僕らを指差す猫田くん。彼の衝撃的なワガママに、言葉を失うのだった。
因みにその数分後、杉並社長と話し合った。「マネージャーとして、出会った頃から猫田君もメンバーに入れるつもりだったよ」と軽い口調で承諾され、愕然とする。面接なども無く、ここまですんなり行くとは。明らかにグリフォレ以外では考えられなかった。




