マジで猫の生まれ変わりだー!?
午後九時。事務所のレッスン場の床に座り込んでいると、宮條さんがいつものようにやって来た。
「宮條、くん。昨日の件なんだけど……え」
「うっわ何それ。クマ出てるじゃん!?」
だが、宮條さんの目の下には、明らかにクマが浮上していた。
「ああ、済まない」
「何があったんすか!? お友達と夜中まで通話してたとか!? いやそれは流石に無いか、そういう友達いなさそうだし」
「本人の前で言うな。五十回追加するぞ」
「すみませんでした」
新井くんが脅迫のような事を言われている最中、彼の何気ない言葉で僕はハッと気付く。
「――もしかして。昨日会った人のせい?」
そう言われた宮條さんは、案の定、頷いた。
「俺たちが自販機に行った際の寄り道で、たまたま即興で踊っていた奴と遭遇して、協力を頼んだ。しかし夜中に七回も電話が来てゲームの話をされた」
「えっ待て待て、話が飛躍し過ぎでしょ」
彼らに説明しようと、一部要約して話す宮條さん。確かに、新井の言っていることは最もであった。
「猫の生まれ変わりみたいなあの人、正直ちょびっと信用できないかな。気分屋だし、宮條くんにそんな事するのも失礼だよ」
「気が合うな、羽瀬。だが即興ダンスの才能だけは超越していて、見逃すのも勿体ない」
「え!? 猫の生まれ変わりって、なんでそんなユニークな所まで話進んでるの? 俺がいない間に何があった?」
考えている僕らの横で、疑問符を浮かべている新井くん。昨日、一緒に自販機に買いに行けば良かったと後悔しているのだろう。
「まあ、今回は縁が無かったという事だろう。俺も夜中、頭に血が上ってしまったし、二度とここには来ないはずだ。諦めて、社長に新たな人材を雇えるか訊いて――」
その時。レッスン場の入り口から、バンッ!!と扉が強く叩かれるような音がした。
「お待たせにゃあ――――!!」
まるで結婚式に新婦を奪いにやってきたように張り上げた大声は、この場にいる全員の耳に劈くように響いた。
「え、ま、マジで猫の生まれ変わりだー!?」
猫田くんだった。僕よりも五センチ下の低身長、だぼだぼした萌え袖の黄色パーカーの彼を見て、新井くんは驚く。語尾からして気付いた。
「……どうやってここに入れた」
「受付の人に名刺渡して、適当な言い訳してきたにゃ」
「迷惑な奴だな。なぜ来た? 昨日は事務所に興味が無いと言っていたじゃないか」
猫田は宮條に近寄り、互いに向き合う。実際こんな風に見てみると、身長差も相まって、同性カップルに見えなくもないと僕は感じてしまった。この事は、口が裂けても言えない。
「簡単な話――夜中のボクの電話に、出てくれたからだにゃ?」
「訳が分からん。……夜中、俺が怒鳴った事はどう思っている」
「別に? それよりも、嫌いだって言っていたゲームの話を、夜中黙って聞いてくれた事が嬉しかったにゃー」
性格が正反対の二人。宮條さんは、猫田の気分屋な思考回路が理解できず、分かり合えないと感じていたのだろう。しかし。
「で、ボクは何をすればいいんだにゃ?」
「……仕方ないな。新曲の振り付けを考えてくれる人材を募集していた。相応の見返りは払うし、今回限りだ。付き合ってくれ」
「言われなくてもそのつもりにゃ!」
こうして猫田くんは、一曲だけ振り付けを考えてくれる、という事になった。終わった後は関わらないつもりだったものの、新井くんは彼に興味を抱き、そっと近寄る。
「お、お前、名前は?」
「もう『お前』呼ばわりは懲り懲りだけど……猫田琉だにゃ!」
「それ本名か!? すげーな、マジで生まれ変わりか! 俺は新井隼也、よろしくな!」
手を差し出されたので、純粋に喜びながらとりあえず握手を交わす猫田くん。
「猫田の名字は、偽名だにゃ!」
「一般人で偽名かよ! なんかすげー変わってんな!」
新井くんと猫田くんの相性は良かった。見ているとやっぱり、新井くんは人と関わるのが得意であると納得させられた。




