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三題噺もどき3

過恋

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくはちじゅう。

 


 窓の隙間から風が入り込む。


 思わず体が震え、しめてしまおうかと思った。が。

 車の窓を閉め切ると外の音が聞こえなくなってしまい、万が一救急車でも来たら気づけなくなってしまうので、それは耐えた。

 これでも、ほんの少ししか開けていないんだけど……。まぁ時間の問題もあるんだろう。

「……」

 もう夕方遅い時間である。

 妹に迎えを頼まれたので、学校に向かっていた。

 もう少しで着くには着くが、運転中はスマホはいじってはいけないので、到着してからその旨を伝えなくてはいけない。駐車場にいればいいけど、大抵いないのだ。

「……」

 学校の裏にある道を走っていた。

 この道はあまり車通りがないので、時間短縮には持ってこいの道だ。

 歩行者信号もないので、歩行者にだけは気を付けないといけないけど。

「……」

 と、思った矢先に。

 学校とは反対側の道から出てくる歩行者が見えたので。

 スピードを落とし、停車する。

 タイヤの音が消え、車通りのないこの道では他の車の音が聞こえることもなく。

 人も横断するその人しかいなかったので、一瞬。

 シンと―静まり返ったその瞬間に。


『――好きです』


 なんて言葉が、外から聞こえてきた。

「――!?」

 まさかそんな声が聞こえることがあると思っていなくて、普通に動揺した。

 何事かと思い、そっと、窓の外を見ると。

 声の主らしき影があった。学校に。

「……」

 なんというか……申し訳ない気持ちになったんだけど。

 歩行者が渡りきったことを確認し、そそくさと離れるように車を発進させる。

 こんな……漫画みたいなシチュエーションに出くわすと思っていなかった。

 この年になるとなんだか、高校生のアレは初々しくてかわいい感じがするな。

「……」

 そういえば、私も高校くらいの時にそういう場面に出くわしたことがあったのを思い出した。なんというか、覚えて居たくもなかったことなので忘れていたんだけど。

 ついさっきのような光景を。見たことがある。

 その時も、こんな漫画みたいな……なんて思っていたはずだ。

「……」

 ある、体育祭の日の夕方。

 クラスは違うけど、帰りはいっしょに帰路についていたあの娘。

 その日もいつもの場所で待ち合わせをして、片づけなんかで少し遅れてしまったその日。

 急ぎ足で向かった待ち合わせ場所から、あの娘以外の声が聞こえた。

「……」

 何だろうとも居ながらも、きっと友達だろうと思って。

 何も考えずに急いだ矢先に。

『好きです』だなんて、言葉か聞こえてきて。

 足も頭も固まった覚えがある。

 こんな展開実際にあるんだなぁなんて関心すらしてしまったかもしれない。

「……」

 その後の二人の会話は耳に入ってこなかった。

 気づけばあの娘がこちらに気づいて、そばにいて。

 どうしたのなんて聞かれて、はたと気づいて。

「……」

 元々そんな恋愛相談みたいなことはしなかったから、その返事をどうしたのかもその後どうなったのかも聞かなかったけれど。まぁ、みて見ぬ振りをしていただけかもしれないんだけど。

「……」

 いつの日だったか。

 あの娘の鞄に。

 見知らぬキーホルダーが揺れていた。

 すみれの。小さなキーホルダー。

「……」

 それどうしたのなんて聞きもしなかったけれど。

 それに気づいた時に、自分自身がどんな態度をとっていたかも覚えていないけれど。

 ひどく焦燥にかられたような気がする。

「……」

 恋は盲目なんて、よくいったもんだよな。

 私のこれは、恋なんてお綺麗ないものじゃないけれど。

 そうだったとしても、叶うものでは元々なかったけれど。

「……」

 ……まぁ、終わったことだ。

 他人ではあるが、彼らの恋が拗れないことを勝手に祈っておこう。

「……」

 妹に連絡しなくては。

 結局いなかったし。


















 お題:盲目・体育祭の日の夕方・すみれ

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