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第5話 集う者と集う物

【謝罪】

月一投稿が自分に合わないのでやめようと思います。貯めている話も順次投稿予定。


 紅城の幼馴染の中の一人、綾西(あやにし)結月(ゆずき)は寝る準備を整えて床に就いていた。


「今日は怖かったなぁ」


 私は今日のことを思い出していた。いつも通り四人で帰ったが、その道中のゴミ捨て場で見たあの人形のことが脳裏に焼き付いていた。あの時、私はあの人形と()()()()()()()のだ。信じられないが、あの目はたしかに動いていた。


 あの場では怖くて言えなかったし、見間違いと思うことにしていたからまだ誰にもこの話をしていない。あれはお化けなのかな?


 怖いことを考えてしまい、寝れなくなりそうになった結月は楽しいことを思い返す。怖い思いをした一日だったけど、今日の紅城もわざわざ家まで送ってくれたし、何気にいいことはあった一日でもあった。


「早く紅城に会いたいな」


 そう口から言葉が漏れた時、枕元においてあったスマートフォンが急に鳴った。


 こんな時間に何だろ?


 確かめてみると、誰かから電話がかかってきていた。


 発信者は────


「────紅城!?」


 驚いた私はスマホを手から滑り落としかけたが、顔スレスレのところで何とかキャッチした。


「え、やばいやばい。一体どうしたのかな?ええっと、ええっと。あ、早く出ないと!」


 電話に出ると、いつもよりも息が上がっている紅城の声がスピーカーから流れる。


「こんな時間にどうしたの?」


「いきなりで悪い!俺がそっちに着くまで家から出るなよ!それまでどっかに隠れとけ!」


 私が聞くと、紅城は口早にそう言ってきた。紅城が家に来るの!?え、やばいパジャマなんだけど。


 ん?隠れとけって何のことだろう。


「え?どういうこと?」


「人形が──襲──く────」


 また同じように私は聞いたが、音声が乱れているのか声が途切れ途切れだった。かろうじて”人形”というのは聞こえた。人形?それってあのゴミ捨て場にあったやつのことかな。怖くて思い出したくもないや。


「いいか結月。鍵を開けて家の中に隠れとけ。でも、ドアは絶対に開けるn────」


 紅城の声が途中で途切れた。耳を澄ましても何も聞こえてこない。


「────」


 何も聞こえない。確認するが、通話はまだ続いている。


「────」


 まだ何も聞こえない。何かあったのだろうか。少し心配。


「────」


 何も聞こえ────


「私、メリーさん。今アナタの家の前にいるの」


「ひゃっ」


 電話の向こうから無機質な女の声が聞こえた。さっきまで電話していたはずの紅城は画面に表示されておらず、文字化けが表示されている。


 私は怖くなってすぐに電話を切って、元あった場所にそっと戻した。


 メリーさんって、やっぱりあのゴミ捨て場の……。私、あの子と目があったから狙われたってこと?なら、さっきの紅城の電話は私に危険が迫っていることを教えてくれてたのか。でも今はそんなことよりも、紅城の言う通りに家の鍵を開けに行かないと。でも、家のドアは開けちゃだめそうな雰囲気だったな。


 私はすぐにベッドから体を起こして部屋の電気をつけた後、玄関へと向かった。なんでこんな日に限って両親がいないんだろう。父は飲み会。母は実家の方に用事があったらしく、今日の深夜に帰ると言っていた。家に一人ですら少し怖いのに、こんなことがあってはもう限界だ。


 二階の自室から出て階段を降りると、いつも通り、踊り場と一階の廊下は明かりがついている。さっきのメリーさんからの電話が本当なら、今このドアの奥にメリーさんがいる。急に怖くなってきて、玄関へと向かう足が止まってしまう。だが、紅城の言葉を思い出してなんとか鍵を開けると、すぐに自室へと戻った。


 そして、どこに隠れようかと部屋を見渡し、クローゼットに決めた。


 中に入り、私はひたすら息を殺す。口を手で抑え、漏れ出る呼吸すらも最小限を意識する。


 静寂、そして自らの心臓の鼓動がうるさく聞こえてくる。ドクン、ドクンと心臓から送り出される血液が嫌というほど大きな音をする。


 その時、ベッドの上に置いていたスマートフォンがまた鳴った。その音に驚いて肩が上がる。心臓がより一層音を出し始めた。この電話はやはりメリーさんからなんだろうな。


 私、殺される?それは、やだな。まだ紅城に気持ちを伝えてない。でも、伝えて断られたらどうしよう。こんなことならもっとアピールしとけばよかった。彼に私のことを好きになってもらえるように努力すればよかった。


 そして、告白しとけば良かったな。


 命の危機とまではいかないが、危機的な状況に置かれた結月は自分の過去を振り返って反省をしていた。そんな中、スマートフォンから音が聞こえなくなった。そしてクローゼットの外から新たな音が聞こえてくる。


「私、メリーさん。今アナタの部屋の中にいるの」


 声とともに外から足音が聞こえ、異様な気配がクローゼットの中まで漂ってくる。どす黒く重いそれは、私の全身に纏わりつく。


 ほんとににメリーさんが来てしまった。


 え、あ、えっと、えっと、どうしよどうしよ。バレてない、よね?


 恐怖で心臓の鼓動が更に早くなる。足音はまずベッドの方に移動し始めた。そして、ベッドの上に飛び乗ったような音がしたかと思うと、何度も刺すような音がした。


 数十回ほど刺したんだと思う。私は恐怖で荒れた呼吸を必死で口を抑えてなんとか息を殺す。私を殺そうとしているメリーさん(それ)から逃れるために、恐怖を心の底に押し込める。


「私、メリーさん。今、クローゼットの中にいるの」


 外から感じていた嫌な気配が急にクローゼットの中から感じ始めた。すぐ後ろからだ。死の気配が直ぐ側まで迫ってきている。だが、怖いという感情はあるものの、どうにもならない現状にすでに諦めてしまっている。体はさっきから動かそうとしているが、全く動かない。


 ────その時、一階で玄関のドアが勢いよく開く音がした。


「結月!!どこにいる!!!」


 下から聞こえてくるこの声は、紅城だ。


「助けて紅城!私はここ!!!!」


 結月の目から不意に涙が溢れてきた。恐怖と孤独に苛まれ、死の恐怖さえも感じていたときに訪れた恋の相手。姿は見えずとも、その声だけで全ての不安が消えていき、私はなんとか体を動かしてクローゼットから出ようとするが扉が開かない。


 その時、勢いよく階段を登る足音が聞こえたかと思うと、それは私の部屋に入ってくる。そして、クローゼットの扉を勢いよく開けた。


「来い、結月!」


 私はそう言って差し出された紅城の手を強く握った。


 ***


 メリーさんが消えた後、俺はすぐさま結月に電話をかけた。俺が入れるように家の鍵を開けておいてもらい、それまで見つからないように隠れさせていたが、メリーさんの天恵である呪移(じゅい)は好きな場所に移動できる。あまり効果はないだろうと思ってはいたが、それでもある程度の時間稼ぎにはなったようだ。


 それに、都市伝説のメリーさんは人を恐怖させることを目的としている雰囲気があった。わざわざ居場所を教えたり、少しずつ迫ってきたり、あの状況下でもその性質は変わらなかった様子。そのお陰で間に合ったと言わざるを得ないな。


「後ろに下がってて」


 俺は結月を自分の後ろにいるように指示する。万が一にでも戦闘に巻き込まれないようにするためだ。そして俺の言う通りに結月は後ろの壁の方に行ってくれた。


 これでこいつと決着がつけられる。


「私、メリーさん。今、結月の家にいるの」


「知ってるよ。だから、俺がここにいる」


 メリーさんのお決まりの言葉に俺はそう返した。


 そうするとクローゼットの奥から影が出てくる。そして、部屋の明かりに照らされてその姿が(あらわ)になった。それは顔が崩れ、ボロボロの人形だった。


 俺も少しビビっている。手に持っている包丁は俺の血に染まっていて、殺人人形の雰囲気がより一層出ていて怖かった。


 さっきの一撃で壊れなかったってことは、俺が攻撃に妖力を纏わせるのが甘かったってことだ。


 そして、次が多分、最後の一撃。それ以上は妖力に体が持ちそうにない。


 思い出せ、親父に言われたことを。


 先程の攻撃を受けてなお動き続けるメリーさんを見て、心の中で紅城は少し前の記憶を思い返していた。


 ***


 退院してから行っていた紅城と父との特訓中の話である。


「親父、妖力ってどうやったら纏えるんだ?」


 妖力を纏うコツを掴めずにいた俺はそれについて親父に聞いた。


 口裂け女と遭遇してからすぐの特訓の最中、俺は親父にそんなことを聞いてみた。すでに特訓を初めてから数日が経っており、自分の身体に流れている妖力を感じ取ることができるようになってきていたが、口裂け女と戦ったときのように妖力を纏うことは未だにできていなかった。


「いいか、紅城。妖力を纏うってのは、ただ妖力(それ)を流すだけでいいわけじゃない。それだと力は漏れ出しちまうし、何よりも安定しない」


「……ん?でも流さなければ纏えないんだろ?」


 最初に親父に言われた「妖力を流せ」という言葉に従ってさっきまで特訓をしていた俺は、親父の発言に疑問を抱き、聞いた。


「よく聞け、紅城。さっきも言ったが妖力をただ流すだけじゃ、それは纏っているとは言えない。纏うってのは、力をその場に()()()こと。力の流れを完璧に把握し、それを()()()()()()することだ。だから、もっとお前は内側に集中しろ。それだけでいい」


(流すだけじゃなくて、それを留めてコントロールをする、か。……なるほどな)


 親父の言葉を聞いて、俺はすぐにコツを掴みかけたのだった。


 ***


 親父の言葉を思い返し、自身に流れる妖力へ意識を集中させた俺は、刀に妖力を集め始める。


 水の流れを一点に集めるように、大きな流れから小さな流れへと徐々に合わせていく。


 すると、刀に集まった妖力が何倍にも膨れ上がったような気がした。


(これが、纏うってことか)


 紅城は自身の成長を明瞭に感じ取った。今までの特訓でもぼんやりと纏うことしかできていなかったが、この時初めて、真の意味で妖力を纏うことに成功したのだった。


 これは紅城が、妖力を持つ者として一歩高みへと近づいた瞬間だった。


「……」


「……」


 紅城とメリーさんが向かい合っている状況は今なお継続している。


 そして先に動いたのはメリーさんだ。包丁を突き出して紅城の方に走り出す。


 それを見て、俺は妖力を纏った刀を構える。


 この一撃で決めるしかないが、メリーさんはどう動く?


 そのまま直進か?


 はたまた、飛びかかってくるか?


 どっちだ、どっちでくる?いやまて、天恵を使ってくるかもしれない。くそ、()()を攻撃……いや、さっきのバトルで俺がダメージを与えられるのをメリーさんは知っている。だからこそ、あいつはターゲットを変えたんだ。


 なら、あいつの狙いは────


 そして、メリーさんの姿が消えた瞬間、俺は()()()()()刀を振り下ろした。











 刀に断ち斬られたのは、結月────ではなくメリーさん。心臓付近が縦に真っ二つに分かれる。


「そう来ると思ったよ」

 

 俺は黒い煙に包まれていく粉々になった人形の残骸を眺めてそう口にした。

 

 ***


 目の前でおきた出来事にまだ理解は追いついていないが、どうなったのかだけは理解できた。紅城が私のことを助けてくれたらしい。わざわざ家にまで来てくれて、明らかに霊の類だったあの人形を軽々と倒したのを目の当たりにして、感情が揺れ動かないはずもない。


 でもまだこの気持ちは心のなかにしまっておこう。いつか彼が私のことを好きになってくれたときに、私が気持ちを伝える。そして、一緒に時間を過ごすんだ。これからはもっとアピールするからね、紅城。


 結月は紅城を眺めながらそう誓った。


(だから、これは最初の一歩)


「ありがとう紅城!!!」


 涙を流したまま結月はそう言って勢いよく紅城に抱きついた。


「…………お、おう」


 少しの静寂の後、突然の出来事に状況を処理できなかった俺は、そう答えることしかできなかった。


 ***


 結月の家、母親も帰ってきて全員が寝静まったころ、紅城に謎の影が迫っていた。無音で近づくそれに、眠っている紅城が気付いた素振りはない。


 影が刃物の形に変わったかと思うと、真下で寝ている紅城にそれを振り下ろした。だが、その刃は紅城の体に触れることなく消滅した。寝ているはずの紅城が右腕を動かし、振り下ろされていた手を掴んだかと思うと、まばゆい光が放出されて全てを崩壊させたのだった。

【怪異について】

三話で怪異について触れましたが、少し詳しく説明します。

怪異は人の恐怖心や魂を糧にして生きているのですが、その理由として存在すること自体にエネルギーを消費するためです。人間のエネルギーと同じ基準ですが、彼らは妖力というものが生命エネルギーであり、人を襲うための力の源でもあります。


【陰陽師について】

今後作中で言及しますが、陰陽師は平安時代から活動をしていました。当時は今よりも怪異が多く、特に妖怪として人々を恐怖に陥れていたものが多く、それに比例するように陰陽師の質も高かったです。その中でも特に強かったのが、神威瑛司。彼は数多の式神を使役し、狐の神との共闘が多かった…………という感じです。詳しく書くのは二章の予定。(まぁ、IFの方を見ている方なら、ここらへんの設定はお察しの通りです)


【十二天将とは】

またまた三話の補足になります。

十二天将は陰陽師の中でも上位一二名の総称です。固有名は色々ありますが、複雑なので割愛。

この人達が持っている天恵は特別な過程を経て強くなっているため、並の天恵では対処できません。(IFと共通点多いです)

なお、この話はあと数話で言及、もしくは関連してきます。


【陰陽師とは】

”命がけ”で怪異を祓い、平和を守る者です。自営団体ではなく、国家に承認されている組織であり、きちんと給料も出ます。ただ、その活動は公になっていないため、人々の記憶に残らない、もしくは残させないような特殊な技術や力を有しています。


掲げているモットーは”社会の安定第一”的な感じ。


だから……ね?

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