第3話 【メリーさん】の噂
【謝罪】
見返していた結果、結月と菜華の一人称が入れ替わりました。
結月:【ウチ】→【私】
菜華:【私】→【ウチ】
「喝!」
親父の大声と共に恐ろしい速度で振り下ろされたピコピコハンマーは普通に使っていたら聞こえない音を立てて俺の頭に衝突した。
「痛ってえ!?今ちゃんと集中してただろ親父!!!」
「バカモン!妖気が乱れとるわ」
「一週間でここまで制御できたんだから上出来だろ!?」
「まだまだじゃな」
「クソ親父め」
見ての通り、あの神社での一件後、俺は親父にしごかれていた。どういう経緯でこうなったのかを説明するとこうだ。
気絶していた俺達を親父の関係者?が専門の病院へ
↓
俺にも父の命に別状はなし。だが、引退していた身でありながらも密かに行っていた陰陽師の仕事は、利き腕を失ったことで継続は不可に。
↓
俺が妖力に目覚めたことと親父の完全な引退が合わさり、陰陽師になることへの打診を受けたが、保留に。
↓
どちらにせよ妖力のコントロールは身につける必要があるため特訓。
と言った流れだ。俺自身、陰陽師になることにそこまで抵抗があるわけではない。でも、まだ覚悟が決めきれていない。親父の右腕のように、人一倍怪我をする仕事に俺は躊躇している。
「わしの腕の分働けるようになってもらわねぇと、この街や、お前の友達にまで被害がでる。さっさと鍛えて俺よりも強くなれ、紅城」
病院で目覚めた親父に俺は何度も謝った。自分のせいでこんな目に合わせたという自責の念に駆られていた。だが、親父はそこまで気にしていなかった。強いて言うなら、「左腕じゃなくて良かった。結婚指輪と俺の命を守れたのなら安い買い物だ」、ってさ。
「まだ、親父の仕事を引き継ぐとは言ってねぇよ」
勝手に俺が働く前提になっていたので、そこは訂正しておく。
未だに俺の心からは罪悪感は消えないし、今後も消えない。でも、俺はそれを背負って生きていこうと決めた。ずっとくよくよしていると、自分のことを守るために体を張ってくれた親父に失礼だ。
「そういえば、なんで俺は妖力をコントロールできなきゃいけないわけ?」
座禅を組んでいたが、集中が切れたのでふと気になったことを親父に聞いてみる。別に使わないのなら鍛える意味はないんだし。
俺の言葉に、「何を言ってるんだ?」的な表情をした後、親父は話を始めた。
「あれ?言ってなかったか。そいつはだな、妖力を持つものは”怪異”を引き寄せちまうんだ。それを限りなく小さくするために鍛えてるってこと」
怪異を引き寄せるエネルギーでもある妖力をコントロールするためってことか……。
「────なぁ、親父。俺、それ初めて聞いた……」
「……そうか、すまん忘れてた」
「てか、その”怪異”ってやつは何なの?」
怪異という馴染みのない言葉を俺は聞いた。というか、引き寄せるのを限り無く小さくするってことは鍛えたところで多少は引き寄せるってことか?
「そうだな……”怪異”ってのは化物の総称だ。大まかに分けて二種類。一つは前の口裂け女みたいな”都市伝説”。もう一つは”妖怪”」
「都市伝説と妖怪……」
親父の言葉をなんとなく復唱した俺だったが、怪異になんとなくイメージがついた。俗に言うお化け的なものか。
「勘違いしてるだろうから教えておくが、お化けとは違うぞ」
「え、違うのか?」
全く違ったらしい。
「まず”都市伝説”についてだが、あれは別に死者じゃない。人の恐怖からできた空想上の生物ってのが妥当なところだな。あいつらは強くなるために、人の魂と恐怖を目的に人を襲う。すぐに人を殺す怪異もいれば、恐怖心を煽るためにじわじわと襲ってくるやつもいる。そいつらを倒すのが”陰陽師”の仕事だ」
「難しいこと単語が多くて仕方ねえな」
親父の説明は詳しくて長ったらしく、その世界に足を踏み入れて間もない今の俺では知らないことばかりですぐに理解が追いつかず、一言文句を言った。
病院で親父から陰陽師から少し説明を受けたものの、いまいちイメージが掴めていない俺。
「一旦説明するから分かんないところは後で聞け。とりあえず”妖怪”についてはだが、まず基本遭遇はないと思っていい。わしでも一度”海坊主”ってやつに遭遇したぐらいで、まぁそいつには逃げられちまったんだがな」
「親父でも勝てなかったの!?」
「いや、あいつの”核”を攻撃しようとしても海から水を持ってきちまうからキリがなくてな」
「へぇ〜」
まだ都市伝説と一度しか遭遇していない俺にはよく分からないが、親父がそんなふうに言うんだから強かったんだろう。それと、”核”か。
「”核”って人間でいう心臓とかの急所のことか?」
「ああ、それでいい。わし達が心臓から妖力を流すように、あいつらも核から体を構成している。だから、そこを攻撃しない限り再生されるから気をつけろよ」
心臓から妖力を流してたんだ……初耳なんですけど。
「ん?なんで俺が戦う前提なんだよ!?」
「────チッ」
「親父、今舌打ちしたよな!?」
「空耳じゃないのか?あと、人形の怪異は大抵”心臓”か”脳”が核だからな」
クソ親父め、そんな豆知識は普通の高校生にいらない。
ここまで色々聞いて、最終的に俺は思っていることを正直に親父に伝えるとしよう。
「ん〜〜っとさ、親父。ここまで陰陽師になりたくないって俺は言ってたけど、実際にはあまりそうは思ってない。それにさ、この街を守っていたのは親父なんだろ?俺が戦えなくしたんだから、親父の代わりは俺がするよ。気にすんなって言ってもらえるのはありがたいけど、せめて責任くらいは取らせてくれ。でなきゃ俺は俺自身を許せなくなる」
「────楽な仕事じゃないぞ?命の危険だってある。そいつを分かってて言ってんのか?」
稀に見る父の真面目な顔だ。あんだけ俺に陰陽師になれとか言っていたくせに、いざ息子がそれをすると言ったら不安になったってところか?でもまぁ、命の危機が平気である仕事だし、それもそうか。
「正直……まだ陰陽師になるって言い切れない。でも、誰かがそれをやらないと。この街の人が、俺の友達が危ない目に合うって聞いて黙ってられない。だから、まずお試し的な?」
俺の中で怪異と戦うことと陰陽師になることは別だ。趣味でやるというわけではないが、本職のような形でやるつもりは今のところはない。
「……そうか。まぁ、陰陽師になるなら”十二天将”くらい強くならないとだからな?」
そう言いながら、親父は座っていた俺に手を差し伸べてきた。
「あのさ、まじで知らない単語を知ってる前提で話すの止めてって」
十二天将とかなんか名前から強そうなんだけど、一体どんなやつなのだろうか。気になる……
「ん?そうじゃったか。なら、次はそれについて教えるとするか」
「ハッ、よろしく頼むよ」
少し笑いながら言った俺は親父の手を取って立ち上がった。
***
「お前、どこ行ってたんだよ!?」
その次の日の朝、俺が教室に入ると目があった涼介がすぐに話しかけてきた。涼介はすごく心配している。毎日何かしら連絡していたが、ここ一週間ちょい途絶えていたからそれもそうか。
「ごめんごめん。色々あって連絡できなくて」
俺の言葉を聞いて、何かを察したような顔をした涼介。
「失恋でもしたか?」
どストレートにそう聞いてくる涼介。おいまて、何を勘違いしている。
「好きな人すらいないわ」
そう言いながら、俺は涼介の頭に向かって拳を降ろす。
「痛ぇ!?悪かった、冗談だよ冗談!お前が恋愛できないのは分かってっから」
頭をさすりながら口早に言い訳を述べた涼介。
「お前!?言っていいことと悪いことがあんだろ!?未だに傷は残ってるんだからなぁ!!」
そう言いながら涼介の頭をグリグリしていると、ひたすら悪かったと許しを請い始めた。
「ごめん!!!ごめんって!!!」
「次同じことやったら覚悟しとけよ?」
このやり取り自体何回やったことか……。
「は〜い」
涼介、それ全く信用できない言葉だからな?
そんなことを話していると、後ろから知っている女の声が聞こえた。
「紅城、久しぶりっ!」
この声は結月だな。今までの俺ならこのまま抱きつかれていただろうが、今の俺は以前とは違う。
「甘いぜ、結月」
俺は振り向かずそのまま体を左に避ける。すると、結月は足をすべらせて倒れかけた。まずいと思った俺は、それをするりと抱え込み、結月はお姫様抱っこのような大勢になる。
「へっ?なんで避けられたの?というか、この体勢恥ずかしいんだけど…………」
結月の顔を確認すると顔が真っ赤だった。まずい、ノリで避けて、ノリで抱え込んだけど変なことしたな、これ。
「あ、ごめん!すぐに降ろすから」
俺はそう言って抱えていた結月の体勢をもとに戻した後に謝罪すると、結月は一瞬「?」を顔に浮かべた。
「そんなに慌てなくていいよ。さっきのは意図的じゃないでしょ?それに私を助けてくれたんだし」
「まぁそうだけど、一応謝罪的なのはしとこうかなって」
結月の言葉にそう言い返した俺。
「でも、今の紅城かっこ────」
その時、朝の会のチャイムが鳴った。結月は言いかけていた言葉を飲み込んで、「朝の会だし、席戻ろっか」と言って会話は終わった。
それにしても、最後のはどういう意味だったんだろうか。
そんなこんなで俺の日常は元に戻ったのだった。
***
「なぁ紅城!メリーさんって知ってるか?」
前言撤回。どうやら取り戻した平穏な日常は、ほんの数時間で終わったらしい。この展開は前に見たぞ?おいおいやめてくれ。
「一応聞いとくが、この街で出たわけじゃないよな?」
「昨日見たんだよ、俺達の帰り道のゴミ捨て場にドレスを着た青い目の人形が捨ててあるの」
……フラグだなぁ。すっごいフラグ。親父も”紅城は怪異を引き寄せる”とか何とか言ってたし、今回のメリーさんも俺が引き寄せてるってことなのか?いや、偶然だろう。そんな立て続けに怪異が出るわけもないし。
「今度からその道は通らないほうがいいぞ?」
「近道なんだから仕方なくね?」
「いや、すごく嫌な予感がするから絶対にやめとけ。百パーろくなことにならないから」
***
そのまた数時間後。
「涼介、流石に捨てられてるって」
そう言った俺は今涼介と学校から帰る途中、例のゴミ捨て場に向かっていた。涼介にやばいと忠告したのだが、気になるからもう一度見に行くと言って止まないので仕方なくついて行くことにした。
「いいや、あのメリーさんは今日もあそこにあるはずだ」
涼介はまだゴミ捨て場にメリーさんがいると思っている様子。普通朝にゴミは回収されるんだから、あるとは思えないけどな。
まぁ、俺の家は神社なので、もしもまだメリーさんがいたら回収して供養しようと思って来たのだった。
結月や菜華とは一緒に帰ってはいない。巻き込まれるかもと思ってやめておいた。あの二人にこの話をしたら俺達についてきただろうし、これで良かったのだろう。万が一そっちにまで被害が出たら困る。そう思っていたのだが……。
「ほんとにそんなのあんの?」
菜華が後ろからそう話しかけてくる。そう、菜華と結月の二人もついてきたのだった。お昼休みにメリーさんについて二人で調べていたところに菜華達が来て、メリーさんの話を伝えたところ一緒に来る流れに。ほんとに何も起きないことを祈るばかりだ。
「いや、あれはメリーさんに違いない。絶対にまだあそこにある」
涼介はまだメリーさんを諦められないらしい。てか、ほんとにメリーさんだったとしてその後なにするんだろ?どうせこいつのことだろうから、怖いもの見たさってところか。
「私はそれ、ただの人形思うけどな〜」
結月も俺と同じ考えらしい。俺は怪異と遭遇したからあれだが、まぁ、普通に考えて霊とかは存在しないという認識だからな。
「ここを曲がったところが、例のゴミ捨て、場!」
やけにテンションが高い涼介はそう言いながら我先にと走った後曲がり角を曲がり、ゴミ捨て場の方に視線を向けたかと思うと、動きを止めて目を大きく見開いた。
「……まじかよ」
涼介はそうポツリと呟くだけ。近づきもせずその場に留まっている。一体何を見たというのだ。
「おいおい涼介、ウチは騙されんぞ?」
ふざけているだけだろうと菜華は涼介に近づき、同じ方向に視線を向けた。そして、恐怖の表情を浮かべて叫んだ。
「何だよ、何だよ、何なんだよ、あれは!?」
菜華の様子がおかしくなったので俺達もすぐに曲がり角を曲がり、ゴミ捨て場を見た。そこには、青い目をした人形がまるでこちらを待ち構えるようにしながら、唯一つだけぽつんと置いてあった。ただの人形のように見えるが、今の俺はすでに怪異と遭遇している。人形から放たれている気配は前の口裂け女に匹敵するものがある。
つまりあれは、怪異だ。
「今すぐここから離れ────」
俺がみんなをここから逃げるように言おうとしたその時、俺は人形と目があった。眼球が動いたと言うべきなのか、俺と目があったのだ。
「え、今動かなかった?それよりも、私あれと目があったんだけど」
「俺も動いたのは見たけど、目はあわなかったな」
「ウチも同じく」
結月の言葉に涼介も菜華も続く。
「多分勘違いだよ。それに、なんか怖いし帰ろうぜ?」
俺はすぐさまここを離れることを提案する。これはだめなやつだ。やはり怪異だった。何でこんなに怪異が出てくるんだよ。いや、今までは親父が対処していたから少ないのか?
「……そうだな。あれは多分、別の人が今日捨てたやつとかだ。うん、そうだな。そうだ」
「……そう、しよっか。ここ気味が悪くて、私なんか寒くなってきちゃった」
「……結月に同じく。気分悪くなってきたし、ウチも帰りたいわ」
三人とも帰る雰囲気になったので、その場をあとにした。
俺だけはその時、後ろから視線を感じていることに気づいていたが、決して話題には出さなかった。
陰陽師の必須知識コーナー!!!(紅城が立ち上がったあとに聞いたこと)
・天恵:神から授かる特殊能力。『灼國』のように炎を出して操るようなものもあれば、様々なタイプがある。(異世界ならスキル的なやつ)
・加護:神から力を借りて行使する技の種類を決めるもの。複数持っているのが基本だが、五いくのはまじの稀。(どの魔法が使えるかを決めるやつ)
・神術:加護を授けてもらった神の力を借りて行使した技のこと。様々なタイプがある。詩郎の傷を止血したときに使ったのもこれ。なお、この上位の技が存在するが使用した人物は少ない。(魔法的なや〜つ)
・妖力:生まれ持っているパターン。死の淵で手に入れるかの二択でのみ発現。天恵や神術を使うために必須。これがないと怪異に攻撃できない。刀とかに纏わせるのはそのため。斬れ味が良くなるとかの訳では無い。(簡単に言うと魔力的なやつ)
(前作の世界観とは異なります)