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第28話 人は獣なり

二部の章タイトル回収は、一章の最後(閉話とか)で書く予定です。


 え〜、簡単に状況を振り返ろうと思う。俺は少し前に【夢鬼ごっこ】の怪異と戦っていた最中、海斗と同じく十二天将の一人、堺瑞稀、今の俺の師匠に出会った。どうやらその怪異は、俺が陰陽師になるための試験を兼ねていたらしいんだけど、それに無事クリア。一件落着かと思ったその時、謎の黒い鬼と交戦。結構ギリギリだったけど、俺が天恵を成長させたことでなんとか最終的に勝利。


 今度こそ、これにて一件落着のはずが、目が覚めると俺は転校生の若木(わかぎ)白狼(はくろう)に拘束されていた。そして今、俺は身動きが取れない状況で、おにぎりを口に詰め込まされている。


 口いっぱいにひたすらおにぎりが放り込まれてくるので、口から水分が奪われて死にそうだ。

 

ほひあへふ(とりあえず)にふおふれ(みずをくれ)


「……ん」


 さっきから逃げる隙を伺ってはいるのだが、流石に手錠と足枷をされている状態で逃げられるほど俺は化け物じゃない────あ、こぼしてる。


 人に飲み物を飲ませる経験がなかったのか、上手く飲ませられずに俺の服に水がかかってしまった。


「……ごめん、拭く」


 意外と、優しい?いや、こいつの目的は分からないけど、少なくとも俺のことを誘拐して拘束までしている。敵と見なしていいとは思うのだが、一応クラスメイトなのでなんか気まずい。


「……」


「……」


 向こうはあまり喋るタイプじゃないみたいなので、必然と静寂が続く。


「あの、とりあえずここどこ?」


「……」


 言えないのか。


「これ外してもらえたりは?」  


「……ダメ」


 流石に駄目か。まぁ、そんな簡単に外してくれるんなら、最初から俺のことを縛って連れ去らないわな。


「……好きな食べ物は?」


 相手のことがよく分からないので、とりあえず距離を縮めてみることにした。これなら答えてくれるんじゃないか?


「……肉」


「……いいね。焼き肉とか家族で行くの?」


 とりあえずまずは相手の情報を探ってみるか。まずは家族構成とかからどんな人物かを────


「……家族はいない。私は捨てられたから」


 触れちゃいけない部分に触れてしまった。ほんの出来心だったんだが、彼女に聞くのは避けるべきだったな。


「……ごめん、変なことを聞いた」


 自分のことを捕まえている奴に謝罪するのはどうかと思うが、やらかしたのは事実。それには変わらない。


「……いいよ、私には頼れる人が代わりにいるから」


「……そっか、なら良かった」


 相手のことを思いやった言葉が意図せず口からこぼれてしまった。ダメだ、相手は不審者だぞ。


「……あなたの好きな食べ物は?」


 若木さんから話しかけられた俺は一瞬戸惑う。少しは心が通い合ったということだろうか。


 俺は実は甘いものが好きなんだ。意外って言われるんだが、休日は喫茶店巡りをするくらいには甘党である。


「…………パフェ。……笑うなよ?」


「……私も好き」


 同じく甘党なのか、まぁ知ったところでどうって話だが、少しは話ができたと見てプラスに考えるか。


 というか、もう少し話を聞けるんじゃないのか?意外と話せるくらいには心が開いてきた気がするし。


「あのさ、何で君は俺をこんなふうに捕まえてるの?」


 俺から目的を聞かれた彼女は重い口を開いて言った。


「……()()だから」


()()?誰の?」


 俺の質問の後、長い沈黙があった。言うべきか迷っている、そんな表情をして。


 静寂の後、彼女の口から発せられた言葉は空気を一変させた。 


「────【白虎】」


 あぁ、そうなのか。彼女(こいつ)は敵だ。


 以前俺の要石を狙ってきた堕天の一員、【白虎】。その人物から命令を受けて今こうしているというのだから、それに間違いはない。


「あいつの関係者だったんだな。悪いけど、手加減はできない」


 さっきまで試していなかったが、妖力を使えばこの状況を打破できるはずだ。


「あれ、妖力が使えないッ!?」


 体に妖力を纏い、ひとまずこの場から離れようとした俺の体は何も起きなかった。妖力が体の内側、心臓から離れず、力が使えない。


「敵に力を使わせるほど、私はバカじゃない。そして、歯向かった奴にはきちんと罰をあげる」


 どうやってかは知らないが、彼女は俺の力を封じたらしい。反逆の牙を削がれた俺に、彼女はゆっくりと近づいてそう言ったのだった。


 ***


 ピンポーン。


 どこかの家のチャイムが鳴る。時刻は午前二時過ぎ。普通なら迷惑で誰も来ないような時間だが、彼女には目的があった。


「すいませ〜ん、瑞稀ですけど〜。お宅の長男、紅城君にお話があって〜」


 瑞稀は【夢鬼ごっこ】から脱出した後、とあることを伝えに紅城の住む家を訪れたのだった。


「こんな時間に誰……って瑞稀!?」


 家の中から慌てた様子の声が聞こえてくる。そして、すぐに玄関の扉が開き、そこには紅城の母、菫がいた。


 二人は旧友だった。共に死線を駆け抜け、背中を任せあった仲の二人が再会するのは、久しぶりのことだった。


「久しぶり、菫。最近は忙しくて、アンタのところに顔出せてなかったわね」


「色々話したいことはあるけど、ひとまず置いといて。うちの紅城に用事って何?」


「それなんだけど……試験の合格通知を一応会ってしておこうかと。無事にと言うべきか、もしくは、残念にと言うべきかな」


 喜ばしいのと同時に、どこか後悔を感じる瑞稀の声色。


「あの子が選んだ道を母として私は応援するわよ。ただし、()()と同じ運命は辿らせない」


 瑞稀の反応とは裏腹、菫は覚悟に満ち溢れていた。長く戦いから離れ、衰えたものも多いが、己の闘志はまだ滾っていた。


「それは私も同じ気持ちだ」


「まぁ、再会はこんなところにして、さっさと部屋に案内してもらえる?早く言わなければならない話があるんだ」


 菫と瑞稀の話を止め、紅城の部屋に向かった。

  

「……いない?」


 部屋に入った瑞稀の視界に、紅城の姿はなかった。ただ、部屋の窓が空いていた。


「あれ、ほんとね。そう言えば、犬もいないわ」


 後から部屋に入った菫も紅城がいないことに気づくとともに、家の中に犬(疑惑)がいないことにも気づく。


「犬飼ってるのか?」


「いいえ?家の前に一人で立ってるから、今日だけ家に入れてあげてたんだけど」


「ん?何か感じる。【天理ノ観測者】」


 紅城の部屋から不自然な気配を感じた瑞稀は、天恵を発動させる。そして、その気配が自身の勘違いでなかったと悟る。


「……おい、菫。お前まさか、ここまで妖気を感じられなくなったのか?」


「何のことかしら?」


(そいつ)、陰陽師だ」


「そんなはずは……あら、ほんとだわ。でも、すごく薄い。よく隠されてるわね」


「どうやら、狙いは紅城だったみたいだ」


 瑞稀達も事態を認識したことで、更に事が動き始めるのだった。


 ***


 罰を与えると言われた俺はてっきり拷問まがいのことをされるのではないかと少し怯えていたが、若木は近づくと俺の足元をいじった。


「なんで足枷を外した?」


 もしかして出してくれるのか、と淡い期待を抱いたが、それをすぐに打ち消す。あくまでこれから行われるのは罰のはずなのだ。


 意味のわからない行動の真意を問うと、返ってきた答えは想像の斜め上のものだった。


「今から【狩り】だから」


「ハッ!?」


 その言葉が俺の耳に入るや否や、俺の目の前で彼女の姿が大きく変わる。女子の平均くらいだった背丈はぐんぐんと伸び、体全体の筋肉が増えて大きくなり、頭上には獣の耳が生え、爪は鋭く伸びる。


 次に目の前にいたのは、人ではなく獣人と呼ぶべき存在だった。


「獲物はあなた。狩人は私」


 俺は自由になった足を精一杯動かしてその場から一目散に逃げ出した。

【今回の状況に至るまでの流れ(若木白狼サイド)】


まず大前提として、13話付近の狼は全部白狼です。天恵がそういう感じなので好きに切り替えられます。


そして、流れを一部伏せて言うと、


・紅城に近づいて襲えと指示を受けた白狼。

・転校してきたはいいが、人と絡むのに慣れておらず、放課後まで進展なし。

・帰りに襲おうとするが、バレそうになったので一旦逃げる。

・匂いを辿って家に押し入る。

・【夢鬼ごっこ】と戦うらしいので、待ってる。

・夢に入って無防備なところを誘拐。

・白虎が回収に来るのを待ってる(NOW)

・暇だし遊ぶ(狩りする)か


って感じです。つまり、じきに白虎が……まぁ、ノーコメントで。


【菫ってどんな人?】

ごりごりに戦闘好きなタイプ。瑞稀と仲が良かったってところからも分かる。それと、詩郎(夫)との馴れ初めは、ほとんど殺し合い。ライバルに近いけど、戦ううちに……的な。王道のラブコメに近い。


【菫の言う彼女】

22話でぽろっと瑞稀が言っていた彼女と同一人物です。詳しいことは秘密ですけど、必ず登場するのでお待ちくださいませ。


【裏話】

瑞稀はしっかり犬が狼ってこと気づいてるよ……菫さん、気づいて!


【筆者の話】

受験の恐怖が徐々に近づいています。もしもこれを見ている受験生じゃないそこのあなた、早めに英単語やるべきです。まじで毎日一時間勉強して、習慣化させてください。みんな同じこと言うけど、それが真理なんです。


以上、受験生でした。

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