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彼氏を寝取られた義妹を慰め続けた結果、甘過ぎるくらいに病み始めた  作者: せせら木


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9話 はじめて。

 式乃と手を繋ぎ、並んで歩く。


 それは、傍から見れば、きっとカップルにしか見えない。


 いや、実際本当に俺たちはカップルなのだが、まさか兄妹だと思う人は一人もいないんじゃないか、と推測する。


 行き交う人々は、式乃の可愛さに魅了されてか、チラチラとこっちを見たりしている。


 誰かといる人は、振り返って何かヒソヒソと会話していた。


 俺を妬んでか、舌打ちする奴もいたくらいだ。


 それくらいに式乃は可愛い。


 兄としてこの妹は自慢でしかないわけだが、どうして式乃が杉崎に捨てられてしまったのか、ここがまた疑問で仕方ない。


 確かに重いところもあるけど……それに目を瞑って付き合い続けるという選択肢を取りそうなんだがなぁ……。


「……お兄ちゃん……いったい私をどこへ連れていくつもり……?」


「ん。あぁ、すごく気持ち良くなれる場所……かな?」


「……んぅ……」


 ……あれ?


 なぜか式乃が顔を赤くさせて俯きだした。


 俺、何か変なこと言っただろうか?


「……? どうかした、式乃?」


「……う、ううん。ちょっと……意外だったから……」


「意外……?」


「お兄ちゃんが……すごく大胆で……」


「だ……大胆……???」


 何だ? 何が大胆?


 カラオケへ行こうとしてるのだが、それが大胆ってこと?


 個室だから?


 さすがにちょっとマズかったかな? 付き合いだしたわけだし。


「あ、ご、ごめん式乃! そ、そうだよな! 元々兄妹だったからとはいえ、いきなり個室は……!」


「ほ、ホテルに行くだなんてそんな……わ、私……初めてなのに……」


「んぅえ!? ほ、ほほ、ホテルぅ!?」


 情けない声を出してうろたえる俺。


 思わず二人して道端で立ち止まってしまう。


 というか待て。


 それよりも今、式乃はとんでもないことを教えてくれた気がする。


「ちょ、ちょちょ、ちょっと待って式乃……!? え、そ、その、なんつーか、え……!? は、は、は、初めて……って……!」


「……」


「そ、それって……ホテルに行くのが……ってこと……だよな……?」


 だって、式乃には杉崎という彼氏がいたし。


 俺たちは高校生だ。


 高校生のカップルともなれば、もう既にやることはやってると考えて間違いない。


 式乃ももう既に……なんて思ってたけど……。


「……っ」


 真っ赤になって弱々しく首を横に振る式乃。


 思わず息を呑んでしまう。


 聞いた俺の方も恥ずかしくなり、ただ下を向くしかなかった。


 微妙な空気の中、俺はぎこちなく言葉を紡ぐ。


「……ご、ごめん式乃。変な勘違いさせて。俺が言いたかったのは……カラオケに行こうって意味だったんだ……。こ、声を出してスッキリしようっていう意味で……」


「ふぇ……!?」


「へ、変な言い方して申し訳ない。今のは明らかに俺が悪かった。ごめん」


 よくよく辺りを見てみれば、そういう建物もちらほらあるような場所だ。


 全然気付かなかった。


 周りの目と、式乃と並んで歩いてることだけが頭の中を占めていて。


 ……でも。


「……」


「……! し、式乃……?」


 式乃が無言のまま、俺の右手だけでなく、左手も握り締め、それを一つにしてきた。


 そして、恥ずかしそうに、切なそうに見つめてくる。


 俺は思わず式乃から目を逸らしてしまいそうになったけど、そっとまた視線を前。式乃の方へと戻した。


 ラブホ街で見つめ合う高校生。


 下手したら補導ものだ。


 けど、そんなのお構いなしに式乃は切り出してきた。


「……いいよ。勘違いしたのは式乃も悪いもん……」


「い、いや、そんなこと……」


「でも、一応『ばか』って言っとく……。恥ずかしい勘違いしちゃったから……」


「あ、あぁ……はは……悪い。その通りです。俺が悪かった。ばかだ」


 周りのことも全然見えてなかったしな。


 妹連れてとんでもないとこ歩いてるよ、俺。


「……お兄ちゃん……」


「ん?」


「行こうとしてるのは……カラオケだよね……?」


「う、うん。そう。カラオケ。ここを抜けたらすぐなんだよ」


「ん…………じゃあ……」


「っ……!」


 距離が少し近くなる。


 式乃は口元に手を添え、少し背伸びして、こっそり小さな声で言ってくれた。


「カラオケで……さっきの話の続き……したげる」


「え……? さ、さっきの話の続き……?」


 呼吸が早い。


 心臓がバクバクして、体温も上がってる気がした。


「私が……初めて……ていう話……」






●○●○●○●






 それから、俺たちはほとんど言葉を交わさないまま、けれどもちゃんと手を繋いでカラオケ店に入った。


 受付の店員さんに二人であることを告げ、番号板をもらってから、指定された個室の中に入る。


 ここはそういうことをする場所じゃない。


 歌を歌う場所だ。


 でも、今の俺たちの間に流れてる雰囲気は、明らかにそういうことをする二人のモノのような気がして。


 互いに頬を紅潮させ、向かい合って座らず、手を繋いだまま、隣り合って椅子へ腰掛けた。


 黙っててもダメだ。


 何か話さないと。


「し、式乃。そ、その、なんかドリンクいるか? き、希望があったら俺入れて持ってくるけど」


 式乃はそっと俺の目を見つめ、「ううん」と呟くように言う。


「まだいい。あとでお兄ちゃんと一緒に入れに行きたい」


「……そ、そっか……」


 じゃあ、それまでは何を……?


 なんて、答えは決まってる。


 でも、話してくれ、なんてことは間違っても言えない。


 式乃が話し始めてくれないと俺は……。


「……お兄ちゃん……」


「……! う、うん……。な、何……?」


「私……ね……? そ、その……さっきも言ったけど……」


 生唾を飲み込む。


 喉が渇いて仕方なかった。


 でも、今水が欲しいとは思わない。


 瞬きも忘れて、俺は足元に視線をやりながら相槌を打つ。


 うん、と。


「そういうこと……まだしたことないんだ……」


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