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プロローグ

 突然だが、俺――宇波守理うなみまもりには、高校一年生の妹がいる。


 名前は宇波式乃うなみしきの


 並な容姿と能力しか持たない俺とは違い、式乃は圧倒的な美少女として小、中学校と学内じゃ有名で、勉強でも常に学年のトップ層に位置していた。


 反面、運動の方は少々苦手みたいだったが、それも可愛いがゆえにある種武器のようなものになっていたみたいだ。


中学生の時、よく男子たちが『ああいう弱点があるのも可愛いよな』なんて言って盛り上がってるのを聞いたりしてた。


 式乃も式乃で、そういう噂をされていたのは知っていたものの、恥ずかしそうに口もごつかせて顔を赤くさせるだけ。


 あまり色々自分の考えを主張するタイプじゃないし、どっちかというと物静かなタイプだ。性格も昔から大人しい。


 そんな圧倒的な妹と比べ、俺はどうしてここまで平凡なのか、と問われると、答えとしてはいたって簡単で一つしかない。


 俺と式乃には血の繋がりが無いのだ。


 俺が小学四年生、式乃が小学三年生の時に親同士の再婚で義兄妹になった。


 もちろん、個人的に最初は喜んだ。


 血の繋がりがないとはいえ、歳の近いきょうだいができる。


 それは遊び相手が増えるってことでもあるし、何よりも自分が兄になるということでもあったから、本当にワクワクしてた。


 で、顔合わせ初日。


 妹になる女の子、つまり式乃を見た時、俺は自分の心臓がドクッと大きく跳ねたことを今でも覚えてる。


 小さい式乃は、精巧に造られた人形みたいに綺麗で、可愛くて。


 お父さんの後ろに隠れながら、ジッと俺の方を見ていた。


『ほら、式乃。お兄ちゃんに挨拶して。よろしくねって』

『……っ……』

『あははっ。すまんすまん、まも君。この子、かなり引っ込み思案で人見知りな性格してて。すぐ慣れると思うけど、今日のところは許してくれないかな?』


 こんな風に出会ったばかりの父さんに言われたのだって未だに覚えてる。


 そうだ。今あんまり話せなさそうでも、段々式乃も俺に慣れていって気軽に話のできる関係になっていくはず。


 言われたことを信じ、当時の俺はそのことに対してまるで疑いの気持ちを持たなかった。


 式乃に頼られるような立派なお兄ちゃんになろう。


 強くそう思ったわけだ。







 ……が。


 それから六、七年の月日が過ぎ。


 俺たちは高校二年生と一年生になった。


 再婚した両親の仲は良好で、悪くなる兆しがない。たまに勘弁してくれってくらい二人でイチャイチャしてる。


 そんな父親と母親を見習い、俺も式乃と仲良くなっている…………なんて未来があればよかった。


 現実は甘くない。


 想像していた兄妹仲は幻想のものでしかなく、俺と式乃の関係はまったくといっていいほど良いものになっていなかった。


 というより、もしかしたらかなり悪いのかもしれない。


 俺が話し掛けても、反応こそしてくれるものの、素っ気ない態度と返答で済まされるだけ。


 何か協力しようとしても、もごもごと小さい声で何か言われて距離を取られてしまうばかり。


 仲良くなろうとして積極的にいけばいくほど、式乃には距離を取られてしまう。


 きっと俺のことを兄として認めたくないんだと思う。


 情けなくて無個性なひ弱男。


 そんな風に思われているのかもしれない。


 朝、おはようの挨拶で毎日目を合わせるのだが、そのたびに冷ややかな目で見られちゃってるしな。返しの挨拶の声も超絶小さいし。


 なるべく関わらないでいようって、そう思われてるんだろう。


 悲しいもんだ。


 俺の方は未だに式乃と仲良くしたいと願い続けてるってのに。


 想いってのは、一方通行じゃむなしいだけ。それを痛いほどに知らされる。


 式乃には恋人もできた。


 高校生になって人生で初めての彼氏ができたらしい。


 おめでたいことだ。


 おめでたいことなんだけど……。


 俺は素直に喜べなかった。


 夕飯時、家族四人で食卓を囲っている中、式乃はそれを報告してくれた。


 一度だって妹が自分に心を開いてくれたと思えたことは無いのだが、それでも、俺はいつか式乃が心を開いてくれるんじゃないか、と思い続けていたから。


 何か、妹を盗られたような気分になった。


 俺が大切にしたいと思い続けていた、たった一人の存在を、あっさりと。


 ただ、だからといってどうすることもできない。


 俺のできることといえば、式乃の幸せを願ってやることくらいだ。


 父さんと母さんが祝福する中、俺も最大限作り笑顔を浮かべて言ってやった。


「おめでとう」と。


 でも、式乃の反応はやっぱり薄いもので。


 何か意味ありげに俺の方をジッと見つめてきて、やがて別の方を向きながら小さい声で返してくれた。


「ありがとう」と。


 この数か月後、俺は衝撃的な事実を知ることになるわけだが、それはまた別の話だ。


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