その後、速攻で城を直し、賢者たちはバカみたいに騒いだ。
一年に一度開かれる、それぞれの町の賢者達が集まる日。それが今日、王都で開催される。
「今年も沢山の賢者様達がお集まりになる時なのか。」
「そうだよ。一体どんな話をしているのでしょう。」
「まぁ、到底、俺たちには分からん話だろうよ。」
「当たり前だろう。しかし、今年も誰かがいなくなってしまうのかな。」
「今の賢者様はとても長い間務めてくれたから、もしいなくなったら寂しくなりますわね。」
「でも、俺たちにはどうすることもできねぇからな。」
「それはそれとして、新しい賢者様どんな人か気になります。」
王都というかほぼ全ての地域でこんな感じで、賢者に関する話や噂があちらこちらで聞こえる。そして、賢者が気になり色んな地域から人が来る。王都はこれはしめたと、賢者が集まる日を記念日に指定し、お祭りみたいに騒ぎ立てる。日にちは毎年変わるが、場所の指定は特にないので王都が毎回指定されている。
そんなこんなで、賢者の集会は開かれているが、賢者達にはある共通点がある。それは、転生していること。だから、この招待状を持ってる俺も賢者であり転生者の1人なんだ。
「賢者様。会場に到着いたしました。」
「あっ、ありがとうございます。」
「それでは、迎えが必要になったら、この紙を地面に広げてください。すぐに迎えの馬車が転送されます。」
「迎えまで…ありがとうございます。」
「いえいえ。賢者様にはお世話になってますので。今日は楽しんできてください。」
「はい!いってきます。」
俺が馬車から降りたら、普通じゃありえない速度で馬車は消えていった。
「すげぇ…」
いつまでたっても不思議でつい感心してしまう。この世界は、高層ビルや車なんて存在しないから、昔の時代に感じられるかもしれないが、魔法と科学が混在した世界なので、前世では見られない訳のわからない技術が存在する。まだ、こちらへ来て間もない俺には本当に驚きに満ち溢れた世界だ。
会場に着くと見たことあるやつばかりだった。
「おっ!やっと来たか!久しぶりだな。」
「久しぶり。元気にしてたか?」
「あったりまえよ!この能力をもらってから、大怪我はしたことないぜ!」
「まぁ、そうだろな。」
そうやって話しかけてきたのは、隣の国の賢者だった。こいつが持っている能力は身体強化系の能力であり、国の要人の護衛や町を襲ってくる獣退治などの仕事をしている。
「お前はどうだ?なんか変わりあったか?」
「いいや、全然。町の人の病気やら怪我を治す毎日だよ。」
「だよなー。」
この世界に来てから俺は回復の魔術をもった。だから、日々この能力を使って、町の人を助けている。町のかかりつけ医みたいな感じだ。
他に似たような能力を持ってる賢者はたくさんいるが、みんなそれぞれ違う町に赴任しているので問題はない。
「おーい!こっちにおいでよ!これすごく美味しいよ!」
遠くから俺たちを呼ぶのは、創造の能力をもった賢者である。この能力を持ってるやつは自分が見たことあり、仕組みをある程度知っているものならなんでも作れる。町を発展させるという部分で要になっている。ある意味で俺は、この能力は最強なのではとも思う。
「まじで!?行く行く!お前も行くぞ!」
「うぉ!ちょっ、引っ張んなよ!」
ほぼ引きづられながら、呼ばれたところのテーブルにいく。身体強化系のやつって、能力使わなくてもムキムキなんだよなぁ。手加減しろよな。
「久しぶり。で?どれが美味しかったんだ?」
「久しぶり!これ!お肉!!」
「分かった!オレも取ってくる!」
「いってらっしゃい!」
「お肉って、言い方… 今回はビュッフェ形式か。」
「そうだよ!君も取ってきたら?」
「いや、俺はいい。もうすぐで一大イベント始まるだろ?」
「あっ!確かに!」
この一大イベントとは、町の人たちが噂していた新しい賢者と消えていく賢者のことである。新しい賢者とは、そのまんまの意味で新しくこの世界に転生してくる者である。そして、消えていく賢者は、この世界で死んだ訳でもないが、いなくなる者のことである。役割を果たしたのか、それともこの世界に合わなかったのか、理由は分からないが無作為に消えていってしまう。だから、新しくきたら賢者と消えていく賢者の持っている能力がバラバラで、消えていった賢者がいた国や町は大慌てである。結果、どこかの賢者が掛け持ちしたり、能力が似たような賢者が拠点を変えたりと賢者も慌ただしい感じになる。
こういったことも含めて、新しい賢者への説明会プラス今後起こるであろう忙しいことへの現実逃避が賢者の集会の真実である。町の人々が予想する高尚な会話は一瞬で終わり、メタ発言や町の人には言えない愚痴などが会場のあちらこちらで飛び交っている。
俺が初めて来たときも、先輩方が一から十までこの世界を解説をしてくれた。しかし、その後、みんなにもみくちゃにされ、酔っ払いのダル絡みかと若干イラついた記憶がある。そして、集会が終わり、賢者としての生活が始まったら、あのダル絡みが優しく思えるほど忙しい日々を過ごした。
「今年はどんな子が来るんだろね〜。」
「どうだろうな。俺的には回復系が来てくれたらありがたい。俺の負担が減る。」
「負担が減るのはありがたいよね…僕も無茶な依頼がふられないように母数を増やしたい。」
「あぁ〜、創造系は去年すごい帰ったよな。」
「そうなの!その分新しい子が来るかと思ったら、身体強化系の子がたくさん来たし…」
消える賢者と来る賢者は、年によって数は違う。俺が来た時は、俺を合わせて3人だった。この2人が同期という括りになっている。
今の賢者の割合的には、身体強化系が多くを占めており、微妙に去年より熱気がある。
「あっ、噂をすれば身体強化が帰ってきたぞ。」
「ただいま。どうした2人とも?暗いぞ?何かあったか?」
「ううん、大丈夫だよ。」
「そうか?それならいいんだけど。」
「お前…その皿の盛り付けどうした?」
「え?」
「肉しか乗ってねぇじゃねぇか!」
「うわ!本当だ!野菜も取らないと。」
「えー。いいだろ別に。筋肉は美味しい肉からだ!」
「お前は、前世からそんな筋肉バカなのか…?」
はぁと溜め息をついた時、スッと会場が暗くなった。
「みなさん、お待たせしました!もう間もなく、新しい賢者がやってきます!さぁ、消えかけてる方々は、上へどうぞ!最後のお言葉を!」
今年の司会者の声が聞こえ、始まったと思うと同時に、俺は消える時に登壇はしたくねぇなと思った。
キラキラと存在が薄くなっている賢者たちを見ながら、次に来る賢者はどんな子だろうと想像する。賢者は、みな前世の形を保ってはいない。人型もいれば、獣人、妖精などバリエーション豊かだ。だから、隣にいる筋肉バカは人型だけど、今年は苦労した創造系はネコの耳が頭の上についている。
「今年は回復系の人が帰るの多いね。」
「確かになぁ。はぁ、異動だけは勘弁だな。」
「補充されるといいね。」
「あっ!もう帰りそうだぞ!」
「うわ!口の中のもの飛ばさないでよー。」
そうしているうちに、賢者たちは光に包まれて消えていった。そして、すぐに違う光が現れる。新しい賢者たちの登場だ。会場の期待値が高まる。
まず1人目が姿を明確にした。
会場にいる賢者たちはジッとそいつのことを見る。パッと見た感じだと妖精か?
「うわーーーー!」
あっ、でた。あるある。大体のやつはここに着いた瞬間叫ぶのである。
「耳がキーンってなったぁ…」
獣人は可哀想だな。
次いで2人目が目を開ける。
「え?なになになに?」
このパターンもあるあるだ。叫びはしないが、戸惑いを隠せない奴。ちなみに、俺はこのパターンだった。
そして、最後のようだ。今年は3人か。多さ的には、まぁまぁと言ったところだろう。ん?なんか光がおかしくないか?
「なぁなぁ、コレおかしくね?絶対光デカすぎだろ。」
「確かにな。ここには身長が高い奴もいるが、それにしてもデカすぎる。」
「もしかして、いっぱいでてくるんじゃない?」
俺たちのように他の賢者たちもざわつき始める。まだまだ光は大きくなり続ける。
これはヤバくないか?このまま実体化されると、城壊れるぞ。
それに気付いたのは俺だけではなく、他の賢者たちも城が壊れると判断し、城にいる人たちをみな外へ出した。
そして少し経った後、ドーンと大きな音をたてて城は中から破裂し、出てきたのはそれは大きいドラゴンであった。
このドラゴンこそ3人目の賢者なのだろう。
「キャーー!」
「なんなんだ、アレは!」
「逃げないと!!」
民衆が騒ぐ中、賢者たちの間では静かな時が流れていた。そして、俺を含めみんな遠い目をしていた。
ちなみにキャーー!と甲高い声で叫んだのは王様だった。