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死神と幽霊  作者: みやもり
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最高の死後の見つけ方

 死を受け入れたわけではない。しかし、こんな展開になると思っていなかったので、まだ実感がないだけだ。そもそも、死んだ実感って、普通味わえないものだろう。普通がもう、よくわからないんだが。


 「とりあえずどうすればいいの?」

南野に質問する。

「そうですねえ、基本的にここからの流れとしては、72時間以内には黄泉へ行ってもらうことになります。もう15時間くらいたってるので、まあ、明後日までですね。黄泉へ行くタイミングはいつでも良いです。邪悪でないレベルであれば、現世に未練がある方は今まで過ごした場所などを巡ったり、何かおいしい食事をしたりしながら余韻に浸ってあちらの世界へ行きます。」

「なるほどね~。ムカついてた大学のあいつらの頭ひっぱたいてやりにいくかな」

「まあ、止めはしないですが、あまりお勧めはしませんね」

「なんでだ?」

「北原さんが生身の人間だった時から今の状態になるまでは、そう時間が空いていないのです。だから、近しい友人でもまだ北原さんの状況を知らない人もいます」

「それが何か?」

「こういってはアレですが、つまり自分が嫌いな人って、少なくとも相手側も思うところがあるはずです。状況もわかっていないその相手に見えないところから忍び寄ると、思わぬ話なんかを聞いて悲しい思いをするだけです」

ああ~そういう…

「南野さんはそういうパーソナルなこともお見通し系死神なの?」

「いえ、そんなことはないです。ある程度は把握していますが、そこまで新鮮な情報をすべて知っているわけではないのです」

なるほどね。

「気持ちも落ち着いてきたから聞きたいんだけど、72時間にはどんな意味があるの?それよりいようとすると、まずいってこと?」

「そうですねえ、私がお手伝いしてきた方々はたいていの場合、72時間以内で黄泉へ行かれました。そもそも、この仕事で携わる方々には、2つのパターンがいます」

ふむふむ

「一つは、今回の北原さんのような『事故死』や『病死』といった意図しない死のパターンです。私の上司兼父によれば、72時間という時間が、最後に人生に思いを馳せることのできる時間だということらしいです。3日というのは、別にこちらが決めたわけではないらしいです。」

「なるほどね。もう一つは?」

南野は暗い顔になった。

「自殺です」


 自殺とは、文字通り自ら命を絶つことだ。怖い話なんかでよくあるが、自殺をすると霊となった本人はそこで同じ死を繰り返し続ける、とか、とにかく自殺をすることはなんとなくその後も報われないというイメージだ。

「そもそも、元来この仕事は自殺をした方を黄泉へ送ることが最重要業務です。自殺の実態も大切ですが、なぜ自殺に至ったか。生身の人間の気持ちを常に考えてあげないことには、人間という生き物は永遠に報われないと思います。」

暗いトーンのまま死神こと南野が語る。

「自殺した人のほとんどは、72時間など待たずにすぐに黄泉へ送ってほしいと言われることが多いです。この世に残すものがないのです。未練だらけでお亡くなりになった方も、亡くなったことを伝えるとほっとされるような方も結構いらっしゃいます。それは、人間として人生を営んでゆくにあたって、その方にどれだけの苦痛、苦労、苦悶があり、それに向き合いながら、それから目を背けながら生きてきたのか。そこから逃れることができたという感情を抱かれる方も多いのでしょう。なぜ自分が死ななければならないのかと憤っている方もいらっしゃいますが、死を受け入れたのちは、早いです。」

なるほど、残ったところでこの世にはもう何もないってことか。


 改めて、ここ最近、というか、大学生以降の自分を振り返る。自殺か。自殺ねえ。とにかくネガティブで、どんどんダークサイドに落ちて言った俺だが、死への恐怖は一定常にあった。死ぬことのこわさと、生きることへの欲が、表現する必要がないほど当たり前だったということだ。自殺をする、ということの重さ。各人によってさまざまだろうし、肯定も否定もできない。そういった人たちの最期を、彼女らは見届け続けているのだろう。

 なんとなく、久しぶりに純粋な気持ちになった。気持ちが晴れた、とは少し違うが、何だろう。このもどかしさは。考えさせられる。

「そうだな。俺は、この世に未練ややり残したことが多分たくさんあったんだろう。これから年を重ねるにつれ、想像しているよりずっと、いろいろなことをやっていけたのかもしれない。生きているときに、なぜそういう視点で物事をとらえられなかったんだろうな」

そう話すと

「人間、生きているときなんてそんなものです。必死なんです。誰もが。もちろん私も。北原さんもそうだったと思います」

そう言われて会話が一区切りつく。フッと息を吐いて、「南野さん、灰皿お願いしてもらっていい?」と頼んだ。やはり不思議と自分の目の前に置かれた灰皿に、俺は灰を落とした。


———————————————————————————————————————




 「さて、と」

一服終えたので、退店することにした。会計は俺が出した。

「時間が止まっているのに、俺の現金はそのまま現世へ流通するのね」

「不思議ですよね」

それだけ、この世界において個人の動きや流れなどちっぽけなものであるのかもしれないと南野は言った。ちょっと悲しくなるな。

「そうだ、72時間を謳歌したいという話になった方には、こちらを書いてもらいます」

それっぽい封筒からノートとペンが出てきた。“やることリスト”と書かれ、開くと空白の行が並んでいる。

「最高の人生の見つけ方パロディ?180度反対の映画過ぎて皮肉利きすぎでは?」

「これは現代風にしてあるだけで、由緒あるやり方です。残りの時間で何がしたいかを思いついた順番にかいていってください。持ち歩いてもらって書き足してもいいです」

それを預かり、とりあえずノートにまず書いてみた

【居酒屋に飲みに行く】

「それでは、行きますか」

 

 死神と幽霊、居酒屋へ出発。


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