第四話
回復魔法と、ポーションによって傷は塞がりましたが、流れ出た血は元には戻りません、大事を取りカイトさんは、ジルキートさんに肩を借り早退をなさいました。
お二人をお見送りした後、気付きましたの、この方とお友達になれるかもしれませんわ、では私からご挨拶をしましょう。
「そうですわ、私はレアーと申します」
「メリアスよ、あの王子と新しい先生はおかしいよね、あれだけで切られるなんて」
そうですわね、前の学院ではあそこまではやりませんでしたもの。
「今までですと殴る蹴るはやっておりましたが」
「え? レアーは前の学院で一緒って事はもしかして貴族様!」
「一応ですが、そのままレアーとお呼び下さい、その方が嬉しく思います」
「い、良いのかな? まぁ、本人が良いなら、分かったわレアー、教室に戻りましょう、あの先生が戻ってくるかも知れないし」
「そうした方が良いでしょうね、参りましょう」
私はメリアスさんと教室に戻りました、しばらく時間が経ちましたが、ローグガオナー先生は、中々戻っては来ず、時間だけが過ぎて行きます。
皆は雑談する事も無く、書物を開き読む者や、静かに目を閉じてコックリコックリとうたた寝する者もおります。
私は窓の外を眺め、あの高い木の上の巣の主は現れてくれませんかしら、そんな事に思いを馳せ、静かな時を楽しんでおりました。
静かな時間は教室に入って来た、ローグガオナー先生によって壊されてしまいました。
「レアー、王子様がお呼びだ、さっさと付いて来い! グズグズするな!」
大きな声で私を呼びました。
教室の中は、突然の事で騒然となっております、ああ、また始まるのでしょうね、早くしなければさらにキツくなる事は分かっております、レアー、さあ行くのです。
クロノさん私に勇気をくださいませ。
「は、はい、ただいま参ります」
そして学院長室に呼び出され、地獄の日々が始まりました。
「くぁぁ、お、お許し下さいませ、くぅぅ、もう吐くものもございませんからぁ」
太い腕で私のお腹を強く叩きます。
息が出来ないほどに苦しく、早く終わって欲しいと祈ることしか許されません。
「貴様の都合など知らん! 貴様は殴られておれば良いのだ!」
「ぐふぅ」
「あはははははははは!」
「次はナイフを試そうか、ローグガオナー! 取り押さえよ! 変に動き死にでもされればまた新たな玩具を見付けねばならんからな」
「はっ!」
「お止めくださいませ!」
「あはははははははは、まずは腕からだな! はあっ!」
「ぐぁぁ!」
左腕に鋭いナイフが刺さり血が服に吸い込まれる以上に流れ出し、力が入らず垂れ下がった左腕の指先からポタポタと床を赤く染めてゆきます。
「声がでかい! ふざけているのか! 我慢しておれ! 次は足だ! ふんっ!」
「ふぐぅふぐぅぅ!」
唇を噛み締め、声を我慢します。
太股の付け根辺りを刺され、羽交い締めにされていなければ、立ち続けることも難しくなってきました。
「よしよし、父上も良い玩具をくれたものだ、レアー、お前の父は俺の父でもある、どうだ、驚いたであろう、生ぬるい現王を退かせ、本当の父が王になる、ほあっ!」
「ぐふぅ、お止めくだしゃいぃ」
もう片側も刺され、足の感覚が分からなくなりました。
「ケルド王子、それはあまり口に出さないようにと、公爵様より言われております、公爵様が王になった後に公開する予定です」
「ふんっ!」
「ぐぅぃぃ」
また同じ所に。
「レアー、今言った事は他言するな、いや、この学院で喋る事を禁ずる、形だけだが婚約者だ、それに顔は良いからなぁ、他に色目を使って男でも作られたら面白くないからなぁ、あははははは!」
それならば友達もまた出来ないではありませんかぁぁ。
「そのガリガリで傷だらけの体を見て、抱こうとする男はおらんがな、あははははは! よし下がれ目障りだ!」
「ぐふぅ、し、失礼しますぅ」
「喋るなと言っただろうが!」
蹴り飛ばされ扉の近くまで、そこに置いてあった鞄を掴み、立ち上がる事も出来ず、床を這いながら学院長室を出ました。
持っていた鞄からポーションを取り出し、無事な手で刺された足と手にかけてゆきます。
二本使い終わった頃には血は止まりました。
壁を使い立ち上がったところまでは良かったのですが、血を流しすぎた様ですね、フラフラとしゃがんでしまい、そのまま四つん這いでその場を離れ、近くの外に出れる場所から這い出ることにしました。
なぜ、ケルド王子がお父様の子供とは、王妃様は、ケルド王子が産まれてすぐに死んだと聞いています、駄目です、頭が回りません。
ズリズリと地面に擦れる膝の痛みも無くなってきました、朝の馬車のところまでは行かなければ······。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
誰かが体を拭ってくれている様です、目を開けるとクロノさんがやってくれているようです。
「レアーお嬢様、お目覚めですか」
「はい、クロノさんありがとうございます、血が付いてしまいましたね」
「問題ないですよ、酷い物です、足の付け根が危ないところでした、後少しズレていれば死もあり得る場所です」
そうなのですね、いつもより上だとは思いましたが、太ももは傷が無いところはありませんからね。
「レアーお嬢様、服を全て取り除きますね、制服は繕っておきますから」
「ありがとうございます、血を流しすぎたのか、上手く体が動かないのでよろしくお願いいたしますね」
優しく起こされ上着を脱がせてくれました、もう少し大きくなればクロノさんもドキドキしてくれるでしょうか。
私はこんなにもドキドキしています、身長も低く妹にさえ追い付かれ、胸も私には申し訳程度の膨らみがあるだけですが、クロノさんが優しく拭いて下さってます。
こんな醜くなった私を、クロノさん、ああ、なぜ私はこの様な醜く、成長が止まり、心だけは成長して行きますのに、奥にしまい込まなければクロノさんの迷惑になってしまいます。
下半身も、下着にナイフで空いた穴が二か所ありました、白かった物が乾いた血で染まっています。
この気持ちを伝えたい······
私は服を着る前に寝てしまったようです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝、柔らかなベッドで目が覚めました。
まだ体が痺れています。
そうです、クロノさんにあの事を伝えなければなりません。
「おはようございます、クロノさん、お話がありましたの、実は······」
昨日王子様から聞かされた事を話しました。
「もしかすると王妃様は、バルニヤ公爵の手の者に殺されたのかも知れませんね、子を産み、実家から帰る途中に街道で盗賊に襲われ、王子だけが生き残っり、それを助けたのも、偶然通りかかったバルニヤ公爵がその場におり、盗賊は逃げたとの事ですから」
「その依頼の盗賊や書類が見付かれば! くふぅ、もしかすると、本人が······」
それを聞き、上体を起こそうとしたのですが、痛みと貧血でしょうか、上手く動けません。
「レアーお嬢様、まだ痛みますか? 本日は休みの連絡を入れておきますのでゆっくりとお休み下さい、私はここにいますから」
ああ、クロノさんと一緒にいられるなんて、なんて嬉しい事でしょう。
そうですわ、庭と、離れの事もお知らせしないと。
「はい、ありがとうございます、私、クロノさんにお話ししておかなければならない事がありますの、屋敷の庭にまだ色んな物が埋まっていたり、離れにあるかも知れません」
「離れにですか?」
「はい、その机の上の資料を庭に埋めた後、使用人を連れて離れに入っていきましたから」
「分かりました、その辺りも調べておきます」
もう少しお話しをしていたいのですが、抗えない眠気が、目蓋を閉じさせます。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
レアーお嬢様、お痛わしい、この安らかな寝顔を私は護りたい、千年を超え生きた私が心奪われた少女、これ程の責め苦を経験して尚笑顔を消すことがない少女、レアーお嬢様、可愛いお嬢様、この様な歳を取った者に思いを寄せられてはお嬢様も困りますよね。
このレアーお嬢様の家族がいないお屋敷の安らぎの一時は私がお守りいたします。
今は起きないで下さいね。
何かが唇に触れました、クロノさんが拭いて下さったのかしら······これが口づけなら。······気付いてしまいました、私はクロノさんと口づけをしたいのですね······また気が抜けてきた様ですね、もう少し寝させてもらいましょう。
読んでくれて本当にありがとうございます。
これからも読んでもらえるように頑張ります。
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