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こんな時間に新着メールを送信されるのか?
誰から?
どういう用事?
披露した脳で思い当たることを考えるが、当然思いつくことなどない。
林田はどこからか伝わる緊張感を抱えながら、マウスのカーソルを新着メールの通知アイコンへと進ませた。
開いてからまず気づいたことは、差出人が不明だということ。送り主のメールアドレスが文字化けしてなにも情報が得られないということ。
しばらくして、ずっと一言も発さない林田に違和感を覚えた菊名がゆっくりと顔を上げた。
「こんな時間に新着メールって…誰なんですか?」
「…いや…、なにもわからない」
首を傾げる菊名を気にすることなく、林田は警戒しながらそのメールの内容を黙読しはじめた。
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拝啓、林田様。菊名様。
日々の過労働お疲れのことと思います。
きっと、毎日毎日がストレスの積み重ねでしょう。
そこで私から提案でございます。
逆らうことのできない環境、意見することも許されない不平等。
これらを解消する環境をご提供いたします。
参加の意思があるかたは、以下のリンクよりご登録下さい
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短い文章であるが、その時の林田からしてみれば非常に魅力的な話だった。ストレスが解消される環境。
そんなもの理想すぎる。
そして理想すぎて現実的でない。
馬鹿馬鹿しい迷惑メールだと思い、削除を試みようとするが、手元にはあったはずのマウスがなく、
画面を見るとリンクの上にマウスカーソルが当てられていた。
「こんな地獄から脱出されるなら…」
カチカチッ
ダブルクリック音。
音のなる元を見ると、不気味にニヤついた菊名がマウスを操作していた。
「な、なにしてんだよ!!ウイルスだったらどうすんだ!?」
すぐさま菊名からマウスを取り上げて、まだグルグルとロードをすすめているメールのウィンドウを閉じようとした。
しかし、クローズを押した瞬間
画面には応答なしとの警告文字が。
「う、そだろ???」
会社のパソコンにウイルスが入ってしまったと焦る林田。
やれるだけのことをやるしかない。
保存のできていないファイルなど、今はどうでもいい。
電源ボタン長押し、電源ケーブルをぬいてみる。
「消えない???なんで!??」
ありえない。
通常ここまですれば、消えるはずのモニターが
消えることなく、ただ応答なしの文字の後ろでグルグルとひたすらロードを進めていた。