招かれるもの
時刻がまもなく24時をさそうとするころ、デスクに取り付けられた照明がまだ入社して間もない新人たちの顔を薄明るく照らしていた。
彼らの瞳の下には薄明るくても見えるほどにくっきりとしたクマが見えた。
入社してまだ2ヶ月だというのに、すでに泊まり込みなど当然ようになり、まして残業ではなく、会社からは新人たちが個人的な作業をしているということで定時以降は給料の対象にはならない。
いわゆるブラック企業というやつだ。
しかし、新人達は可哀想にも辞めるという選択を持つことはできなかった。
激戦の就職活動で残り物であれ、ようやく入ることができた会社だ。
経験も何もない、新卒という肩書きもない。
そんな人材など欲する会社などあるのだろうか。
無いとは言わないが、入れたとしてもそれはきっとまたブラックで、そのスパイラルに入るものは間違いなく生きる気力を失うだろう。
可哀想である。
毎日、日付が変わるまで働く新入社員のなかに、林田というものがいた。
林田は人に頼まれると断れない性格をしており、まさにブラック企業が欲する人材である。
デスク上には睡魔に襲われる脳を活性化させるためのドリンクの空瓶が転がっていた。
「林田さん…ごめんなさい…」
何かに怯えるかのように細い声で話す、菊名。
彼女はいわゆるコミュ症で、自身の思いを相手に伝える勇気を持たない。
これもまたブラック企業の欲する人材だ。
「どうしたんですか?菊名さん」
「それが、宮田課長からメールが来てたことに気がついてなくて…明日の会議で林田さんと私の2人にプレゼンをしてもらうって…」
言い終える前からボロボロと涙を流す菊名。
「仕方ないよ。あんなのメールでもなんでもない。課長の共有ドライブの中にある自分用メモを共有してるんだからこれはメールだって言い張っているだけだよ。だから、菊名さんが気にすることないよ。僕だって気づかなかったんだから」
「でも…明日は大事なお客様も来る大事な会議って…」
ついにはその場でうずくまって、泣き始めてしまった。
だが、林田は動じることはなかった。
こんなこと今が初めてじゃない。
「大丈夫。会議まで半日あるよ。」
林田は泣きうずくまる菊名の肩をポンと叩いた。
机に大量に置かれた資料を隣の席に置き、明日の会議に合わせた資料へと手を伸ばす。
(我慢だ…隙間時間にしてる勉強が実ったらこんなとこ辞めてやる!)
そんな決意を心に、何百ページもある広辞苑のような資料をひらいたとき。
24時を知らすチャイムと
新着メールの通知音がなった。