別れ道
学校の帰り道のことだ。私は通学路を歩いていた。
通学路と言っても私の家は学校から徒歩で数分の場所にあるため、どこかの少女漫画にあるような青春イベントが起こるはずもない。
ましてや私は近道と称して近所の県立病院の敷地内を通っているのだからなおさらだ。
登校中は病院内の掃除をしてる用務員のおっちゃんくらいとしか顔を合わせることはない。
しかし、この土地ならではの良いところもあって、病院敷地内に雑木林に囲まれた遊歩道があるのだが、その遊歩道というのが思った他居心地いい場所なのである。
運動部と違って日が昇っているうちに帰れる文化部の私は、下校する傍らここに通って、無秩序な閉鎖空間で溜まった疲れを木々に覆われたこの遊歩道という空間で癒しているのだ。ここは第2の私の部屋と言っても過言ではない。
そういえば、今日の現国の授業で『モノと空間はその住み主の心象である』って書いていた。きっと私はゆっくりと揺れている木々や、この静かな空間のように優しくおおらかな人物なのだろう。きっとそうに違いない。
用務員のおっちゃんとすれ違った。道端の葉っぱを一生懸命集めているせいか歩いてる私に気づいてはくれなかった。いつもなら笑顔で挨拶してくれるため少し悲しい。
まぁ、優しくておおらかな心を持つ私はそんなこと気にしたりしないけど……
「そんなことより早く行かないと、日が暮れちゃう。」おっちゃんに聞こえない声でそう呟くといつもと変わらず、遊歩道の中に入っていった。
50メートルほど進んだところに先客がいた。首に小さな鈴をつけているあいつは赤い彼岸花の隣で小川の水を飲んでいた。「やぁ、ミケ、元気してたかい?」ミケは私に気づくとチリンチリンと首の鈴を鳴らして近寄ってきた。
頭を撫でてやろうとしたら首の鈴が少し血がついていることに気がついた。私が最近ミケにあげた鈴だ。
でもこの血はミケのではない。私はそれに見おぼえがある気がした。少しずつ大きくなっていた救急車の音が学校の方へ消えていく。
「まったく……物騒の世の中になったね。」
私は呟く。その後にミケが答えるように鳴いた。
「分かってるよミケ、ちゃんと分かってる。」
そう言って私は立ち上がる。私は出口に向かって歩き出した。
ミケはと言うと私の後を一生懸命ついてきていた。出口に着いた時迎えが待っていることに気がついた。
「こんなに近いんだから、迎えがなくてもちゃんと帰れるのに。」
ため息をついて振り返る。
「バイバイ、ミケ、また来世で。」
「ニャア」と答えるミケの視線の先には綺麗な花が一輪咲いていた。