第肆拾玖話 空望月に 雨降らうなり
【二次】
「「ギィャアアアアアアアアアッッッッッッッッ!!!!!!!!」」
一会は涙を滝の様に流して、ヒツキはもう此れで何度目だと、焦燥の大絶叫。
飛び掛かる弾幕の類―――お札、星、闇、氷、ナイフ、蝙蝠、斬撃、ダンが……座薬、見える風、etc. EX.
「ねぇ! 何故で此処の奴等ってあんなに執念深いのよ!」
「知らんわぁ。寧ろ何故でそんなに拘るのかも解んねぇよっ」
「さぞ濃厚な五日間でしたでしょうに!」
あらゆる投擲が此方に放たれ、その勢いは殺生・破竹・烈火の如く。
敵から遠退く分当たる事は早々無いが、飛行速度を上げれば当たる確率は跳ね上がり、それでもってあの数は流石に厄介だ。
ヒツキ、イチエを掴む左手を離さず、旋回して右手を構える。
「この相手数面倒だが、一旦色々消すしかねぇ…」
「待ちなさい! 病み上がりに又苦労は掛けられないわ」
同じく左手を、二口銃の指で構えるイチエ。
「それならお前もだろうが。泥だらけの穢れだらけで大怪我だらけだ」
「バカ言わないで三日も有れば三日月も清く映る水を出せるっての」
「そして清水の舞台から飛び降りるってか勘弁してくれよ……」
「アンタに浮かせてもらってるからでしょ、アンタが落ちたら私も落ちる!」
お前は水撒いて移れるだろ……何で心『喧嘩してる場合では無いでしょう御二方! 巻添え喰らう一会殿含めて捕まった未来事項を下名が話してる間に捕まりますよ!』
鳥皇零刀と言う名の髪の毛、喧嘩仲裁。
「「手短に!」」
『丸五日不眠休でランデヴー』
不眠休って、本当怖い幻想郷。
「じゃあ……」
「「一緒にっ!」」
二人は距離を詰め、イチエは変わらず二口銃、ヒツキは彼女の指の先、銃口に照準合わせとして手を添える。
「「―――灰の雨が、その心を貫く~Each Ash-Rain is Through Heart~……」」
和語を陽月が、洋語をイチエが―――彼女たちの目の前周辺が雲と言う灰に、大きく、大きく、壁を生むが如く包まれ、飛行で突き進む少女たちの前に立ち開かる。
「「「「「「貰ったァ―――――――――ッ!!!」」」」」」
ヒツキ、イチエのもう手前と言う所、獣に近しき形相で、マリサ、レイム、サクヤ、サナエ、ヨウムと、ウドンゲの六人が群を抜いて彼らを捕まえようとしたその時だった。
「「……EARTH.」」
雨とは言ったが、その雫は一つの星の様、それらは横に、向こうに、降り注ぐように、水の流星群は彼らを襲う者たちへと突き進む。
撃たれ、打たれ、討たれる。
然しその雨に殺意はなく、殺生力も無く、飽くまで『消す』力を或る程度特化させ、散弾に変えた技。
雨だが海で、海だが川で、川だから激流で、激流だが水で、水だか天跨ぐ空で、空は全てを知っている。
雲という灰は空、先迄の人の流れ、時の流れ、万物のあらゆる流れは、この水に触れる事で、逆流と言う理を用いて、戻る。
少しだけ濡れるヒツキの手も、水分を失う一会の身体も、依って反動を受け無くなる。
水を溺れるように浴び、通り過ぎる特大の雨雫の後、暫くゆっくりと後退し、雨と同じ速さで人妖の彼女達は吹っ飛んでいく。
元来た道、博麗神社から飛び立った彼女たちは、神社へ又、戻される。
「はッ、水くらい、あたいに掛かれば何て事無いね!」
と、チルノは手から冷気を放出し、雨雫を凍らせる。
「やっぱりあたいったら最強n『ピチューン!』
水泡が巨大氷柱になっただけだ。逆流を止めるなら、彼女の命も止まる。ベクトルは止まらない。上から降り注ぐ雨を地上と言う下方から凍らせても、自虐や自殺の他、意味は無いだろ。
蛍の様に無数に飛び交う少女たちは、粗方戻った様だ。
きっと向こうで皆伸びて居るだろう。
この場所の名は幻想郷。ゲームが元で、彼女たちの住まうこの郷に対して、大損害は無いが、受動的総攻撃だったのが申し訳なく想う。
「……………………何だか、敵味方が良く分かんないな」
友達とは言ったが過度に襲来され、歓迎と感謝が有ったが御礼が過多で。其れを突き返す我々は、不徳過ぎる。
「利害の一致ってところじゃない?」
「それもそうなんだが……」
「ま、友達以上の関係持つと人気者は辛いわね、英雄様?」
「お前が回復してくれたお陰だよ。じゃなきゃ負けてた」
イチエ、不敵な笑顔と共に途端黙り込む。
「……正直、私は逃げるんじゃないかと思ってたし、逃げて欲しかった。まぁ私は此処に来て浅かったから、情が移らなかったし、アナタなんか無情その者だったから、でも、さっきもいった通り、アナタは変わったから、此処を守った。やったじゃん、丸であの神龍の二人みたいな偉業を成し遂げたって事ね」
テイルとジャークか……今頃彼奴らなにしてるんだろうな。
「あの二人は到底の大偉業過ぎて例にするのは烏滸がましいさね。それに俺にとっては初手から只面倒掛けたとしか思ってねぇよ」
「いやはや先の様な見事を披露して、何を仰いまするか」
話し込んで、知らず知らずの内に誰かが傍迄近寄って居た。
【寅丸】
「誰だお前。一人で五日間不眠お付き合いコースは特別待遇だが先ずやらないかんな?」
と、右手を後ろに回してイチエの護衛態勢に着くヒツキ君。
『特殊でも御座いますね』
「待って、この人は私が宴会場でお世話になった命蓮寺の……人?」
生態が解らんらしい。
それもそうだ、見た目が虎寅した亜人みたいな、きっと妖怪類。
「まぁ、お二人ともそう言う反応を致しますよね」
『一束も居れてください』
「初めまして、陽月さくらさん。私は命蓮寺を中心に滞在している僧侶で毘沙門天代理を務めて居ります、’寅丸星’と申します。以後宜しくお願いします。此度は幻想郷を救って頂き、誠に有難う御座いました。後、失礼致しました、髪の毛の神、”ちょこれいと”様」
『(キュン)』
時めく髪。
「此れは如何もご丁寧に初めまして。今し方御郷の方々にガタガタにされかけて女難の究極地から少女不信になり掛けて居ります棚牡丹英雄です」
「本当にこの方は大丈夫だから私を囲って過保護にならないで」
「囲む為の左手が足りん」
「束縛系かお前は!」
「まぁまぁ、仲が良い光景を見ていて大変微笑ましいですが、住職の”聖”から言付かって居りまして…『今晩命蓮寺に泊まって行かないですか?』と二人と一束にお誘いをと」
『ヌシ様ヌシ様。寅丸様かその聖さまが仰ったのかは解らないですが、下名は物凄くこの方達に好感度大です』
「命蓮寺の方達でも星さんは神様代理を務める位だし、外界の法律も重んじてくれる良識の有る方たちばかりだから…ね?」
毘沙門天とか言ったな。戦の神、元は幸福の神だとかって話か。
「その命蓮寺ってのは何処にあるんだ、お代理様よ?」
「雛祭りじゃないんだから……」
二人並んですまし顔。
「人里より、少し離れた所に御座います」
事、上杉謙信が進行強いとかって話も有名だよな、某人気ゲームアプリの知識からで。
まぁだから何だって話なんだけど、自分への言い聞かせとしては、此度の異変に於ける戦いは運良く勝てた。毘沙門天差様の御加護乃至は鳥皇零刀乃命候補の御過保護が有ったからだと、そんな訳で信用しよう。
「解った。但し、条件だ」
「何でしょう?」
「一会には指一本も触れるなよ」
寅丸、宇宙を知ったかのように表情が固まる。
「…プッ……アッハッハッハッハ……………!!!!」
途端に笑い出す寅……俺、何か変な事言ったかな?
「……ッハッハッハ…いえいえ、失敬……畏まりました、お約束しましょう……フフ」
「ご主人よ。此の小僧が幾ら己を過信せず自らを差し引きに出さないとは言え、毘沙門天代理が白虎の様大きく口を開けるのはみっともないですよ?」
静かにふよふよ、此方に首だけ少し動かした会釈をしつつ、鼠の少女が寅丸星に近付いた。
「ナ、ナズですか。戻って居たのですね……」
如何やら部下らしい。その部下から何やら物凄い物をこっそり手渡され、すぐさま懐に仕舞う。
「……それは?」
「な、何でもありませんよ。紹介するなら、宝塔と言う代物です」
「失くしたのか」
「失くしたのね」
『失くしたんですね』
「失くしたんだよ」
大事なもの程……
「ちょっ、私の毘沙門天代理としての威厳が堕ちるじゃないですか!」
「無くされたのか」
「無くされたのね」
『無くされたんですね』
「無くされたんだよ」
「無くしてないですよ! 多分、恐らく…きっと……」
人差し指同士を押し合わせて、自信を消沈させる代理―――……無くされたかも。
「まぁご主人の日常茶飯事はさておき、」
「茶飯ではありません!」
「お前たち、さっさと命蓮寺に来い。人間は夏の夜風でも風邪を引くだろうに」
と、命蓮寺に向かって動くナズとやら。
続いて、ヒツキ、引かれるイチエ、遅れて寅丸が先頭を立つ。
「この鼠ちゃん今面白い事言った?」
「鼠ちゃんではない、ナズーリンだ。お前だな、此処最近”無縁塚”に家を建てたのは……あそこは宝を得るに打って付けの私の穴場なんだぞ?」
鼠ちゃんだけにか。
「そうか済まない、壁穴と表札が見つからなかったのでな。建てたのは別の奴だが、立てたのは俺だな」
「どう違うと言うのだ?」
「面目の違い」
「反省の意思無しか」
「何せ口からだからな」
口に戸は立てれぬ。
「認めたな此の小僧……だがまぁ、質素だが中々居心地の良い住まいだったぞ」
「お前手前貴様己……壁に穴と言う戸を立てたな」
訳:アナタは家宅侵入しましたね。
英訳:You broke into the house.(※某ソフト翻訳より引用)
「戯け、そこいらの野鼠と一緒にしないで貰おうか。不用心にも貴様の家は玄関の戸締りが成って無かったから簡単にお邪魔出来たぞ」
お邪魔するなよ閻魔にチクるぞ…………原因アイツじゃん……!!!!
確かあの時の予定は紅魔館と白玉楼と永遠亭と魔理沙邸で修行三昧いや、修行四恩。
自宅には掃除とかで残ると妹を其の儘残したのが修行不足。
合鍵を渡して於いて郵便箱に入れて貰って置けば良かった……金属類を寄せる『磁力』操作とかあんまりやらないからな……。
「と言うのはまぁ冗談で、私の部下鼠が郵便口から入って丁度律儀に入れていた鍵を使って堂々お邪魔したのさ」
矢っ張閻魔にチクろう。
そして確りした義妹に少しでも疑心を抱いたこの愚兄も説教して貰おう。
「その後閻魔に待ち伏せされて居て、こっ酷く説教喰らったけど……」
ヨッシャ様あ見ろ。気分が良いから疑心は心の内に秘めて居よ、墓迄持って行こ。
……とは思いつつ、鍵は閉めずに出た感じだった気がするから、不用心だとか結果説教喰らいそうだよなぁ、酔いで忘れててくんねぇかな。
「ナズ……幾ら穴場とは言え人様の家に勝手に入るのは良くないですよ」
「む、ムゥ……済まなかったな、人間。それと、助けてくれて、有難う……危うく無縁塚も火葬場に成り掛けた……」
あら、素直さが曖昧な鼠っ娘も可愛いもんだねぇ…ん?
「危うく……無縁塚も…………?」
幻想郷全体が燃やされた―――詰まりは上の天界も下の旧都も、裏の様な閻魔庁並びに冥界も地獄も例外では無い訳で。
「…………あ~…この三日間若し無縁塚に赴いてたってなら、その……俺の家、ってぇ………」
ナズーリンは、此方に振り向く事無く、然し少し下を向いたような、無言で案内し続けた。
手に掴まって浮遊してる状態のイチエだが、さも飛ぶ事を知ってるかの様に、まぁ跳んでたからの応用とかに、此方に近付き、空いて居た左手で、ヒツキの左肩に添える。
「家……在ったのね」
「……まぁ、新築で一日しか寝て過ごした位のモンだったけどな。ローンとか別に無かったしな」
『何だか世人のお父様方が二重で涙目な一言ですね……』
―――羨望と落胆かな。
まぁ勿論、無償で施してくれるお人好し妖怪って理由でも無しに。
と、想って居たが、妄想に於ける逆説でも発動したのかと想ったが、他人の想いは変えれる訳では無い。
只単純に、黒谷ヤマメが―――
『―――いやぁ、建築費とか本当に良いよ。木材なんてそこいらの自然で頂いた物だし、博麗霊夢(あの巫女)相手に逃げ切ったとか、マジで見物だったよ。おまけに面白い展開みたいだったし!』
と、そんな理由で提供してくれたと。
何とも傍観或いは傍聴娯楽で賄える郷だ事。
でも取り敢えず、何もしてない感が否めないから無理にでも物々を査収して貰った。
色鉛筆二十四本セット。
只の鉛の書き物だが、まぁ、家造る時の図面とかに使えんじゃない? ってチョイス。
まぁ喜んでいたから良いんだけど。
「無くなったってのは、俺にとっても彼奴にとっても罰が悪いなぁ」
折角のマイホーム、折角のご厚情が無碍にされて本当に虚無…………うん、良し。
明日の紅魔組全メンバーでの遠足は、気合を入れてバチアラムジャドウジとか言う鬼を虐めてやろう。鬼で蓄ってやろう。
「人生とは如何せん糾える縄の道。然して丁度良かったではないですか! 燃えてしまった家についてはお気の毒ですが。何なら何日でも泊って行って貰っても構いませんから!」
「星ちゃんお前良い奴なんだな」
「しょうちゃ……ゴホン、此れも毘沙門天代理の務めです故。何より貴方は恩人の立場ではありますし、あのような後祭でお疲れでしょうから……」
まぁ、アレは最早最終形態みたいなものだったな。
沢山の女から言い寄られる……色々と俗世の欲望は不可能と理想が混濁して夢見る眼だが、現実は如何に味が焼肉ソースの生クリームだ事でしょう。泥泥で生生だ。此れ前にも思ったっけ?
だから推しって言うか偶像っ言うアイドルは一だけで良いって奴なんだろうかね。コレが俺の理想。
【命蓮】
「さぁ、着きましたよ。彼方が命蓮寺です」
人里の囲いの柵より、確かに離れで建っている塀に囲まれた大きな寺の姿が其処に在る。
門前で着地し、星とナズーリンが只今戻りました、只今~と一声出し乍ら、門を 潜る。
ヒツキとイチエは門を眺め、少し先の本堂も一望し、二人、揃えて声を出してお辞儀する。
「「お邪魔します」」
「…フフッ♪」
再び、星から微笑の声が零れる。
二人は無言で顔を上げ、首を傾げる。
彼女は社交辞令気味な前置きを始めに、喜色満面であるその心情を語る。
「三度失礼しました。霊夢や魔理沙たち若者と比べると強さを持ち乍ら礼儀正しく、そしてあなた達は本当に仲が良いのだなと、感心と歓心に至ったのです」
一つ目は簡潔な要点が、然し二つ目は漠然として抽象、少し考え、今も尚、地上から空へ飛び立って、空から地上に降り立って今も、手を繋ぎ続けてる事にお互い気付き、お互い目線を合わせる。
「……まあ、いいわ」
「……まぁ、良っか」
星ナズ視点。
「良いんですか……」
「良いんだ……」
ヒツイチ視点。
そんな感じで、先の二人は視線を戻し、後の二人は変わらず手を繋いだまま門を潜り、玄関までの道を静かに行く。
「うらめしやーっ!!!」
「ワアアァァッ吃驚したアアァァーッ!!!!!!!!」
「キャアアアアァァァァ―――ッッッッッ!!!!!!!!!!」
唐傘お化けが出たと想ったら水色の髪色の少女がヒツキの大声と鬼の形相に驚いて、その場を飛び去って行った。
「済みません。彼女は’多々良小傘’と言いまして、驚かす事を生業としている唐傘お化けの妖怪です。此処には墓場が有る為か、良くいらっしゃるんです」
「いいえ、真夜中に騒々しくて此方こそ申し訳なく……ねぇ、ワザとよね?」
「え?」
「は?」
陽月さくら:大体が無情。
備考:奇声は稀に見ない程上げる。
変更点:幻想郷に来てバイブス上げ過ぎ。
「感情がご飯なら結果オーライな気がするけど、プラマイゼロかな?」
「遠回しな白状ありがとう。礼儀正しいかもしれませんが星さん、ご覧の通り奇想天外な行動を取る変人では在りますよ?」
「そんな貶すなって、傷付くだろ」
「自覚有るなら自重しろよ」
「まぁまぁ、少し性格が尖って居たとしても、恩人に態度を変えるなんて事は有りませんよ。寧ろ業とだったとは思わない見事な策士振りですよ」
やっさしぃ感想。
「私もあの妖怪に対して本気でビビったのかと思ったが、成程吠えて逆にビビらせるのか……番犬も有りだな」
責めて人で在れ。猫なら噛み付いてやるのに。何? 窮鼠猫を嚙む? そんな事も有るでしょうかね。
玄関では流石に手は離し、お互い脱靴すると同時に、式台へ上がり、後ろを向き、膝を曲げて、靴を回して、端に寄せる。
本当にこの二人は何者レベルで行儀が良い。
廊下を進む。
何と言うか、ザ・和風って感じのそんな建物だ。語彙力。
寺は今も昔も変わらず、その状態を維持して日本の歴史を象っている。
まぁ、便利と楽さは洋式と電気が勝って居るけどね。
とある引き戸の開いた部屋に差し掛かる。
蝋燭が二つ照らされ、その右側に一人、静かに正座をして佇んで居た。
「聖、彼の御仁達を連れて参りました」
「まぁ、ご苦労様でした、星、ナズ。後は私がお話ししますので、ゆっくりお休みください」
「では、お先に失礼します。お二方も、今晩は心行く迄お寛ぎになられてください」
「あ、どうも」
「ありがとうございます」
「じゃ、お休み」
軽く挨拶と会釈を済ませ、寅と鼠はその場を去る。
「では、立ち話もなんでしょうし、このような席で申し訳御座いませんが、どうぞ其方にお掛けください……」
と、差し伸べられる二つ並べられた座布団へ誘導される。
奥には盥に入れられた大きな板氷が涼みを効かせてくれている、木を利かせてくれている。
それは兎も角、丸で礼儀作法を審査されているみたいだ。
奥が上座で、特に彼らが座るなら左側が一番偉いと言われているが、畳の緑の縁みたいな部分は踏んでは居ないが、上下関係優劣基準事は一切考える事無く、当たり前に、自然に、左側にイチエ、右側にヒツキが正しく座る。
「あらあら、何ともご丁寧の限りを尽くしてくれていますがそう畏まらずとも、我が家の様に気を休めて下さって大丈夫ですよ?」
と、如何やら杞憂だったみたいだが、先ず、一会が理由を話す。
「何だか、寺とか礼儀の積極的な場所だと、きちんとしてないと落ち着かなくて……」
一期一会は元政府絡みの人間だから、教養には恵まれて居る。
巫女装束を腰に掛けては居るが。掛けては居るが。
後にヒツキの意見。
「俺は正座が好きなんですよ。だけどまぁ、言ってくれた事はご厚意として、疲れたら胡坐掻きます」
何だコイツ。
まぁ我が家と言う位なものですから、いやまぁだからと言って寝釈迦の様な態勢で寛ぐ様な……ちゃんと遠慮はするけどね。
「フフフ、似たり寄ったりの各々の個人足る意見を賜りました。では、一期さんにはもう話しましたが、初めまして、此方の命蓮寺で住職を務めて居ります、’聖白蓮’と申します。何度も聞いて執拗いでしょうが、此度は幻想郷を救って頂き、有難う御座いました、‘一期一会さん’、’陽月さくら’さん」
と、綺麗に土下座で感謝の意を示す、聖白蓮。
「か、顔を上げてください聖さん! 私は貴女程の方に感謝される様な大した事してないって! あの鬼には本当に敵わなかったですし……」
イチエがこんなにも慌てるとは、宴会中何が有ったんだか……。
「そうだな、幾ら感謝を食っても飽きないが、其処迄する程の事をしてないよ、白蓮さん」
土下座の姿勢からすぐさま顔を上げる白蓮さん。
「ま、まぁ、初めてお会いした殿方、益してや年端も行かない英雄様から下の名前で呼ばれるなんて、初めてですね」
何か顔を赤らめて頬に手を添える。
「ですよね。やっぱり距離感バグってますよね、聖さんに変えます」
「いえいえ、不快だったのではないんですよ? 只殆どの方は苗字呼びが大体でしたので……呼び方は、呼び方もご自由にしてもらって構いません」
この言葉に悪意に嫌味も捻くれた一方的示唆の考えも無いんだろう、そんな気がする。
「……まぁそう言う事なら、白蓮さん。何にせよ感謝は此方の方だよ、あの百鬼夜行から擁護して頂いて。最早宛ての無い野宿不可避の矢先に泊めて頂いたもんですから、ホント、あんがとございます」
膝上を手で掴んで頭を下げるヒツキ。
「良いんですよ。掘り返しますが、貴方の為さった事は、どの様な理由が有れ、私が頭を下げる程で有り、あの宴会場での人妖皆々様の嵌め外しも、それ程の功績でも在るんですよ。少し乱暴でしたが……」
イフの事象も含め、屋敷で死ぬより畏怖だったぁ。
「一期さん、貴女も、例え敵わない相手に食い下がっただけだったとしても、時間稼ぎや、殆どの者が瀕死の中で燃え盛る一帯に主犯を突き止めようとする勇気有る行動、幻想郷に来て間も無い者が全く知らない全く無関係な土地と人々に妖怪を守る為に立ち開かった。後個人的な意見としては、陽月さんに勝利と希望を託した信頼性をも合算すれば、陽月さんと同等以上に充分称賛が贈られるのですよ。よく頑張りましたね」
丸で天女に撫でられて居るイチエは嬉しいのか、然し年齢も大人との境界線に近しい複雑な時期、顔を伏せて歪む口元を見せない様にしている。
「……と、何だか説教臭くなってしまいましたね。折角来て下さったのですから、是非とも本殿のお風呂に浸かって湯治を致してください」
「へ、へぇ~…ちゃんとした個室のお風呂が有るんですね!」
途端に元気になる―――他にどんな風呂が有るんだ……。
「霊夢の所はやばかったのか……」
「いや、そんな事は………有ったのよ」
有ったのかぁ……。
「まぁ、俺は大丈夫だから……一会、ゆっくり入らせて貰っ……」
左手を動かそうとすれば、両手で左腕を掴まれる。
「アレを使うのはやめて、素直にご厚意に預かりなさい」
「はい」
何時だかの魔理沙の家で済ませた、洗濯洗浄を拒否されました。
聖白蓮ご住職様に脱衣所へあないされる。
扉開けば、不自然な衝立が縦向きで、左右を選ばせるように仕切られて居た。
「普段は女性ばかりの利用ですので、簡素乍ら衝立をご用意しました。陽月さんは右側へ、一期さんは左側をご利用ください」
まぁ、此奴とは一緒に風呂に入った仲だが、プライバシーとご厚意は大事だな、うん。
脱衣―――白タオル腰回り装備―――右扉開錠、入室。
脱衣―――白タオル胴体装備―――左扉開錠、入室。
誰か居る。
誰かいた。
「ようこそいらっしゃいました。私は’雲居一輪’。陽月様側にいらっしゃいます者は見越入道の雲山と申します。私は入道使いを心得て居りまして、本日は…お…お……お背中をナガササセテイタダキマシュッ…!」
雲居一輪と言う人物がどの様なルックスをしているかは知らないが、取り敢えず声のトーンから絶対普段三助事してる人じゃないだろ。
『ヌシ様、下名も向こうに行って洗ったり洗われたりして来ますね』
流石神獣候補……悠々自適、何でも有りで流れる川の様に髪の毛が伸びて仕切りを跨ぎ、多分向こうで擬人化してます。
取り敢えず、雲山という正に雲の山とは良く言った仙人みたいな顔と、右手左手だけの水蒸気の存在に、「あ、じゃあよろしくお願いします」と会釈して、雲山は喋れないのだろうか、腕を構えて空手家の気合お辞儀をする。
静かに背中を布で擦られる。
恐らく石鹸らしき物で洗われているので、何だか泡立って居るような気がする。背中は感覚がニブイナー。
歴史は詳しくないが、明治から幻想郷は存在して居るらしいから、まぁギリギリか、流れ着いたかの何方か何方もか。
「一輪さん……私達も災難だったけど、あなたも尼さんの身で在りながら背徳的災難ですね」
一会が一輪とやらに話し始めた。
「然拳で決めた事ですが、些か修行と致しましては破廉恥過ぎてその、御見苦しい物をお見せしました」
然拳とは、幻想郷流じゃんけんの事。
グーは木、チョキは水、パーは炎を現し、木は燃えれば自然が為さず、水は木の養分と成りて、炎を消すには水が有ってこそ。
色々と言いたい事は有るだろうが、尖った石で包んで来る紙を破る事も、日本刀レベルの鋏が石を両断する事も、厚みが強い紙なら刃を折る事も可能だろうて。
後、某衣嚢怪獣の御三家は関係有りません。
「恰好は丸で湯女ですね」
湯女…三助と言う風呂屋職が出る前の、女版では在るが、事広くて蒸し暑い空間、産まれた儘の姿の男女二人、何も起こらない筈も無いのが、性かな。
少しセンシティブだから想わなかったのに……だからか、そうでもないか、妄想乙。
「一輪さん見苦しくないですって。湯女って確か、銭湯でお客を洗う人だけど、後には遊女的事もしてた職業だっけ? ……ヒノヅキくんが相手じゃなくて良かったわね」
俺が相手だとかは良いとして、遊女は知ってるんだね、殆ど休学の中卒なのに。
「恩人を持て成す事が命蓮寺内での取り決めでしたが、折角の御奉公に私情を挟むのも吝かですが、流石の私も男性の裸体は卒倒してしまいますし……」
「大丈夫ですよ、アッチもアッチで女体耐性無いから、途端に女に変わりますって」
「それは、男が女口調で話すような事でしょうか……?」
「性格人格体格が女になるんです。ハッキリ言って美少女です」
複雑です、美少女と言われた心境が。
「そ、そうなんですか……何とも稀有な方ですね」
「あ、でも妖夢って子と何か入れ替わった所為か耐性付いたんだっけ?」
「男意識の儘、女を知る……成程、合理的ですね」
合理で有って堪るか。
何故で記憶共有して入れ替わり事象起こさなきゃ行けないんだよ、脳負荷考えてや。
「ま、何にせよあの人は物事の分別を機械的に理解してるから大丈夫ですって」
「先の事例と最近の見聞を聞く限り、余り安心出来る情報では無い気がするのですガァァァァッッッッ……??!!」
又もや雲居一輪とやらの声が上振れる。
此処迄静かに向こうの話を嫌でも聴いてしまって居たのだが、風呂場の三助事に起承転結の転展開が来た様で……大体想像は付く。
「い、い、い、一期様?! 何故服を脱がすのです?!」
ほら、そんな事ったろうと想った。
「私ばかり洗われては悪いですし、一輪さん物凄く汗掻いてるじゃないですか♪」
「そうですね。下名ももう一人洗いたいと想って居ました」
「いえいえ洗うのは私の仕事ですのでお構いなく! と言うか加えられたちょこれいと様もどうぞ椅子に座られてください!」
「良いではないか~良いではないか~」
「お主の透け移る身体も悪よのぉ~」
お代官二人居るぞ。何だ身体が悪いって……。
「お、お止めください! 向こうには陽月様もいらっしゃ……キャッ!」
「あっ…」
「りゃ…」
衝立が倒れ、同時に一会が下に、上に知らない金髪の女が一会の後頭を守って、ちゃんとタオルが開けて寝転がって居り、所謂押し倒し状態。
その向こうに明らか衣装を引ん剝かれて、身体を隠す水色の髪の女が一人、総合的に男が自然にサムズアップを差し出すパライソ光景ってのが、目の前で繰り広げられて居た。
雲山は両目を両手で隠して居た。
ヒツキは先ず、右奥の水色の髪の女に挨拶する。
「座った儘で失礼の、初めまして。陽月さくらです」
「ど、どうもこんばんわ……く、雲居一輪デです」
羞恥心の余り視界が纏まらず、下を向いて物凄く震えていらっしゃる……。
そして、目線を金髪の女の方に向け、髪色と余った消去法から此奴が守髪神の鳥皇零刀が人体化した姿だと確信する。
その後、顔を身体と同じ向きに、少し下げて戻すと同時に目を閉じ、暫くして自然に、二人の下敷きになって居た衝立を、二人を少し浮かせる具合に滑らかに擦らして、再び自立させる。
「…………さ、雲山、仕切り直しだ」
仕切りだけに……何なら直した。
「―――……いやいや、大した事ねェよ。そんなんじゃないし大体。あ~…まぁ、そう…だな。そうかも知れない。誤魔化してないってさ」
女性陣の向こう側、独り言気味に話す彼の事を憐れむ事は無く、一輪に尋ねる。
「雲山って、お話し出来るの?」
「意思疎通は出来ますが、さも親しげに流暢に話せる様な事は……いえ、それ以前に精神が物凄いですね、陽月様……」
有りの儘女体三人を前にしても一切動じず、挨拶を交わし、寸分チョコの存在を確認してから何事も無かったかの様に念力で仕切りを戻す彼の立ち振る舞いに雲居一輪は啞然。
「ま、まぁ、無情人間と自称する位ですから出来た芸当ですけど……後、ごめんなさい」
「雲居様へのお戯れが過ぎた因果応報で大変失礼しましたで御座いますが…………」
二人と言うべきか取り敢えず、想う事が合致する。
((何か言えや))
【寝室】
くだらないラッキースケベに成る一悶着は有った者の、身体の汚れを洗い落とし、桶に汲まれたお湯で残り泡を流し終えた後は湯船にゆっくり浸かり、イチエ、チョコ、一輪と会話が弾みに弾み、時々ヒツキも会話に混ぜられ、投げられる発言に淡々と回答し、扨て長らく何を話したやら……上がる頃には頭からスッポリと忘れて居た。
風呂と言うのはリラクゼーションの極致では在る為物凄く頭が冴えて居るデフォルトモードネットワークと言う状態になるらしいが、如何も上がった後は記憶や閃いた考えが全く残らないから難儀なモノだ。
まぁ何せ逆上せた位だからな。
「あらあら……」
衣類は雲山に何とか着せて貰い、本当雲とは言え男らしき者が一体でも居てくれて良かったと想われ。
取り敢えず、雲居一輪が寝室へ案内する中、再び聖白蓮と相まみえ、逆上せた英雄を前に心配をしてくれたらしいが、その間は多分ずっと、イチエとチョコに方借りて運んで貰ったんじゃないかな。
蚊帳に囲まれ蚊取り線香が焚かれ――――――川の字で三枚敷かれた布団のお部屋に。
だがまぁ気付いたらって話で言えば、チョコが逆上せからの回復は促進してくれた者の、其処迄は矢張り頭は回らず、知らない天上を眺めて居た。




