第肆拾捌話 陽の月モノを 想はする
【敵宴】
「よぉ、元気か無能」
「ケヒヒヒッ、しっかりと挨拶してくれるじゃねぇか……初手が罵倒から入るたぁ、正解だ。喧嘩腰で語れるぜぇ、御免連呼さんよぉ?」
ずっと曲がって居た腰が伸び、顎を上げて嘲笑見下す鬼人。
「ま、互いに事実だからな。俺はうつ病で、お前はマジの無能力者だからな」
嗤った顔が、一気に冷める。
「……ケッ、無視しとけばよかったよ……」
自虐して来る事を視野に入れて居らず、喧嘩腰じゃなくて詰まらない、負け惜しみ気味に、台詞を捨てる。
「……んで、プレイボーイくん。澄まし顔で会う女一人残らず告り宣言し捲ってから、此の俺に何の用だ? まさか、二刀流か?」
此奴も冗談を言うんだな、無視します。
「ハナメって誰だ?」
「……キヒッ、今度は其奴にも手出そうってのか? ナンパがお好きな事って……だが残念だったな、其奴はもう既に故人だ、俺が殺した」
彼の表情が、狂人の睨みと笑みを魅せる。
「実質…的な奴か? 殺した相手にしては、俺に倒され間際の走馬灯で想い出すってのは、何かしら事情在る所と見るね」
「憶測だ。若し本当だったとしても、教える義理もねぇし―――深入りするモンじゃ無ェ……」
「へぇ、時代殺しの鬼人が諭すんだな」
「脅してんだよ。仮想の能力と、其れに対する頭脳が無いのは確かだが、身体能力は健在で不変だからヨぉ、何時でも縄を解いて、お前の減らず口を黙らせられるんだぜ?」
此奴の身体は、能力に寄るステータスアップみたいなモンじゃないのか。
だが、神の子の”明星彗流”は『神懸った神経』を持ってた位だし、そんな奴が弐、参居てもおかしいだろ。此奴も神の子なのかよ。
「……とは言え、お前から受けたダメージも健在だから、前の様に瞬きをしてる間に三千里迄到達してる位の動きは出来ねぇなぁ……」
約12000キロメートル、日之丸国列島五つ分の距離。
「成程、ハナメって奴は母親……呼び捨てにする辺り、訳有り親子か、育て親か」
と、絶える事のない憶測に、鬼も大きく溜息をつく。
「ハァ~ァ……、妄想ってのは使えば使う程に拍車が掛かり、発信する噂が真実だと文字通り妄信して更には波及する……人類のエゴだよな」
―――単体が全体になったな……想なんて力で推し量る(一部の)ご時世だが、思想で精神に問い掛ける迄発展させる気は無いよ全く。
「…只のマセガキ……だが頭はどのデカ面したジジババよりも慎重で、明快で、壮大だった………」
清澄は、何時の日かのその娘の日々を、取り零していたかのように想い出して居た。
「今こそ俺は時代を物理で渡る犯罪者だが―――その頃の俺はガキの悪戯で人生を楽しむ小物だった。其れを俺の背丈より遥かに小さい奴が俺を叱り、諭した、母親と言う者を知らないが、恐らくそれが母親なのだろうと、言葉巧みにな」
―――花匁、齢は二桁には満たなかったが、博識で―――伊曾保寓話の狼少年の様な法螺吹きで運動能力に優れた高身長男を叩いて言い聞かせる肝の据わった少女。
そして彼女は、度重なる清澄或日の日々の所業が、治める者達の鼻に付き、捕縛され、罰し処刑されるその日、彼を庇った事で悲運の死を遂げる。
その直後らしい、清澄或日が仮想の力に目覚めた時が。他にも、守髪神にそのギフトである神器、更には守髪神との[最終神託]『不老不死』を両方に得たと言う。本来は『不老』か『不死』の片方なのだが、それを神器で可能にした感じだろう。
天涯孤独―――生れ持った白髪と灰色の肌、異形をその頃の社会が認めず、恐れ、誹謗る彼の人生を、何の隔ても無く、同じ人として接して来た花匁と言う一筋の光、開き掛けた扉が再び閉ざされ、彼を狂人へと変えた。
「俺は彼奴の傷を片時も忘れる事は無い。若しあの時ああすれば……なんて仮の話、それが因果だったんだろうか……。だが、使えた事で間違いでは無かった筈だ。時代殺し、大いに結構。狂って居たのは『時代』からだったんだからな」
確かにそうだな。
前にも思った気がするが、その時代を崩そうと一人戦った奴がいた。
結局現状を維持したのが、神の子”明星彗流”と流龍”坂本鴉邪玖”、俺のダチだ。
「……お前も又、生まれて来る時代が違えば、そうはならずに済んだんだろうな」
彼は、宴にどんちゃん騒ぐ少女たちを眺める。
(同情か。あのガキも、同じ事を言っていたな。先見の明に優れて、後は情論で訴えて来たな……妙に説得されたんだよな)
狂人の笑みが、只普通に懐古に浸る微笑で緩和したような気がした。
「こんなのにならずに済んで、俺とダチになれたのかもな……」
「………!」
隣に居る男の不意な言葉に目を見開く。
その言葉も又、一言一句迄とはいかずとも同じように、彼女が発した言葉でもあったからだ。
全く、星の数程人は居て、視界では見通せない程に世界は広いと言うのに、出会える根拠が無いのに、如何して関係性が運命的で絶対的だと、彼奴も此奴も言い切れるのだろう。
仮想の出現も、きっとそんな情論が、彼の生きる気力の原理だったのかも知れない。
清澄或日は、その場から飛び立ち、木の上に止まる。縄は解かれていた。
「昨日の敵は今日の友なんて甘えた思想が罷り通る理由は、其奴の頭ン中だけだ。だがまぁ、戦いに於いて渡り合えた事、忘れないでおこう。称賛に、今後お前とその関係者の邪魔をしまくるぜ。またな、陽月さくら!」
木から見えなくなった或日を、空が強く叩き落とした。
「誰が逃げて良いと言った?」
ヒツキ、圧力の手で逃亡阻止。
「お前には紅魔組との約束があんだよ。はいじゃあ、もっ回縛られてください」
妄想の力で、億通りの億文字に連なる毎億秒で変えられるパスコードの様な頑丈さを持つ素材で創られた縄が手の真ん中から生まれる光から生まれ、蛇の様に動き或日の回りに纏わり付き後手縛り。
更には地面に突き刺さる鳥居の柱の半分位長い杭に括って留められ、更には―――いや、この話も億に届く文。
「テ、テメェ……オボエテ、ロ…………」
或日は気を失った。
扨て、羽虫を叩くが如くあの勢いで落としなら先ず一、二時間では起きは済まい。
フラグじゃないよ。
……一会を探すか。
【黄宴】
一会一会……命蓮寺とか言う連中の場所はどーこだ?
「おっ、」
誰かにぶつかってしまった。随分小柄だが力強い……
「悪い、大丈夫か?」
「大丈夫? アハハ~大丈夫だとも。お陰様でこうやってお酒が今日も飲める。どうも幻想郷を救ってくれて、ありがとーございますー…って、偶には真面な挨拶も如何でしょうか?」
真面でも素面でも無く凄い酔ってるし、鬼だし、誰だし。
「初めまして、私、陽月さくらと申します。御仁は最強種族の鬼様とお見受け致します。名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
物凄く丁寧に喋る私、矢張り鬼を師に持つのだから、それなりの畏敬は大事かなと。
「勇儀の時も畏まってたね。良いんだよアンタは、”伊吹萃香”に向けても対等に話そうじゃないか」
伊吹……該当する鬼の名前が居るが、当人か、ゲームと言われれば、モデルとか元ネタとかも。西瓜か、東方らしいけど有るのかな。夏っぽいよね。
「お気に召さない顔だね。アンタは鬼にとっても凄い奴なんだよ? 騙る鬼を屠り、間接的で知らない事、鬼の誇りを守ってくれた。私も勇儀もアンタに感謝と尊敬の限りさね。一緒に同じ盃、同じ酒でも飲んで、アンタを鬼と同等の兄弟分に迎えたいが、如何やら酒を呑めない事情が有るらしいね、ん?」
兄弟分って、何だか極を感じさせるね。
「後三年は飲めないんだよ。早い歳内に飲んだら確定で映姫ちゃんに叫喚地獄へ落とされる」
言い訳って色々と出るね。いやガチで駄目なんだけど。
「そう言う事なら仕方ない。代わりと言っちゃなんだが、まぁ前以ての約束だ。ホレ」
と、服の内から出されたのは、小さく、艶の効いた赤い盃。此れを受け取る。
「また三年後に一緒に飲もうや。破ったら指切り拳万針千本嚥下だよ」
と、殆ど勝手に話を進めてどっかへ行ってしまった。
一とも最高点とも言って約束した覚えは無いので、まぁ取り敢えず物だけは貰っておこう、借りておこう。
三年後に来るか解らなければ、まぁアレコレ言われて先の事をされるのであれば、ちゃんと反抗して鬼退治しよう。
閻魔様も等活迄は許してくれるでしょう。一生で善行に尽くすとは、何とも果て無き道に似た遠い旅路でしょう人生。聖人君子は最早幻想。僧侶は生臭く。
「あ、そうだ。此れは内緒なんだけど」
何時の間にか俺の耳元に居た鬼。俺の言葉が漏れてなくて良かった。だが彼女は内緒を漏らす、耳元で静かに。
「アンタと勇儀の戦い、実際アンタは勝ってたよ♡」
囁いた鬼は、霧の様に消えて行く。
何を以て勝ったのか良く分からないが、其れでも星熊勇儀と言う師匠の在り方見方が、変化する事は無い。成程、多分妖夢の見解もこんな感じなんだろう。
どれだけ情けなくても師匠と慕い付いて来てくれる。
「……さて、一会を探し続けますか」
―――そして、会う。
比那名居天子に。
「違う」
「え、完全に総領娘様と一致の特徴では御座いませんか?」
この女、永江衣玖と言う妖怪に一会の事について尋ねたが、天界出身の者らしく、地上の情報は点でと語り、然し思想家衆で話に出ていた、天界でも火事は起きてたので「今回の功労者に謝辞を述べるべく態々地上に降りて来た」との事。
物理的高飛車であり偉そうか。謝辞じゃなくて社交辞令。
まぁそのモノの序でと言うか、恩着せがましいと言うか、そんな流れで異変首謀者に食い下がってた第二功労者を知らないかと伺った次第で。
髪は水色、ネクタイ括った半袖カッターシャツ着て、両腕にウォーマー、スカートが傘みたいに短くてその腰に博麗のとは比較して清楚な巫女服を据えている女を見かけなかったかと。命蓮寺とやらの連中に厄介になって居るらしいんだがとも伝えてコレ。
「百歩譲って髪色しか合ってねぇじゃねーか」
「でも彼の『名立たる神霊一族の部下の子』と言うだけで成り上がった気で居る、乃至一族の恥の、天人の不良ご息女に出会えるなんて、月人と同じく滅多な事では御座いませんよ?」
さらっと失礼が一方的の、集中的の、矢の雨で。
「あぁ~? 人が酒で良い気分になってる所に、水を差すと言うか泥水、或いはギ酸と丸ごと注ぎ込んで居所悪く、不味くする事言うじゃないか、竜宮の奴隷がぁ」
出来上がってんな。総領娘と言う品性が全く感じられない本性の現れ、胡坐で首を後ろに傾ける話し方が物語っている。
「虫唾が走る見た目ですが取り敢えず此方の殿方が、今回の異変功労者で御座いますよ」
俺の事を見て吐きそうな見た目と言ったかこの竜宮の蝮がぁ。
「ん~…? ん、ん、ん、んーっ???!!!」
見て、仰視して、注目して、目を細めて、驚いて、素早く回り乍ら立ち上がる。
桃と葉っぱが付いたボーラーハットみたいな帽子を被っていた。
「初めまして英雄様。私、天界に住んで居ります、天人の”比那名居天子”と申します。比べるに旦那の那、姓名の名と同居の居を苗字に、天の子と書きます。天界の者を代表して、幻想郷を救って頂き、誠に有難う御座いました」
―――御礼と致しましては、天界にて名物です此方をどうぞ。
と、仙果という桃の形をした果物をくれた。
「忝い。だがさっきの柄悪い喋り方の方が取っ付き易くて良かったなぁ」
すぐさま食わず、ナチュラルに無の中に入れる。見えない鞄ね。
酔いが嘘かの様な立ち振る舞いで有り―――洋風だけど、正直その貴賓ムーブは、和の代表’輝夜’で充分であり、キャラ被りの、飽きました。
「ホホホ、何の事でしょう。比那名居家の娘として、柄悪い等と評判が下がる様な行動は致しませんよ?」
「ねぇ衣玖さーん。神霊一族の部下の子って言う肩書きの詳細、或いは天界のシステムを教えてくれない?」
「簡潔に申しますと、神官一族様の行いが神霊階級に昇格する程にして祀られ、その神霊様の部下である比那名居家も又功績が認められて天人として天界へ召されました。元来為せば成るで天人となるのが天界召喚への条件ですが、幼くして裕福を得ただけで何もしてないその総領娘である、くずれ者、不良天人が彼女です」
棚から牡丹餅って事ね。
「貴様……宴の余興に蛇の血で染めてやろうか……?」
ボロ出るの早。簡単ってそう言う……
「あ、いえ、何でもないですよ~」
無理が有るし、多分実行したら染まる血が地主に寄って貴女で増えます。
そして僕が掃除をします。何でだよ。
「えーと……お名前をお伺いしても宜しいですか? ヒノヅキさん?」
知ってるじゃん。
「間違えました、ご趣味は?」
合コンか。
「年齢は?」
合コンか。
「理想の相手の象形は?」
合コンか、何かこの突っ込み知ってる気がする。取り敢えず応えるか。
「趣味は散歩。歳は内緒。理想の相手は―――」
重要な台詞をちゃんと言おうかいや此処は彼女の素を晒すべく似た様な人相では魔理沙を引き出そうか。
そんな事をすれば俺が魔理沙を好きみたいじゃないかいや好きかゴメン自分に素直じゃなくてだなと考え込んで居たが、何となく彼女の袖の色に目が行って、その形に既視感有り。
「……アンタ」
「…え?!」
「アンタのその裾のデザイン、緊箍児じゃないか?」
「え、あ、此方ですか? は、はい、彼の玄奘三蔵法師の西遊伝説に出て来る斉天大聖が付けていた抑制の宝具がモデルです」
「だよな。俺はあの作品の大ファンでな。意図は兎も角やっぱりアンタとは取っ組めそうだ」
ヒツキは天子の華奢なサイズでいて武器を扱うのに確りと洗練された両手を覆う様に掴む。
「あ、あの、えっ…と……」
この状況にタジタジの天子。
本来は、高が人間如き同士のいざこざで争って勝ち誇って居るだけの英雄紛い等、気品の有るお嬢様を演じて居れば手玉に取れるだろうと、酔いで酔いの思考を巡らせて掛かってみたが、まぁ初見から気品も上品も崩壊して居た理由は明白で。
何より彼は誠実に砕けた口調で話したい事を望み、彼女が恐らく、彼が創作物に於いて最も憧れ推しているキャラクターのモデルなのだとするならば、友人になりたいなんて為の行動は有り得なくも只今現在行われて居る稀有な事象であって、何なら人生でも初めての出来事だろう。
更に新しく珍しく初々しい事と言えば、彼の灰色にくすんだ目が、銀河を彷彿とさせる童の好奇心と無邪気と純粋に満ちた目で輝いて居り、比那名居天子の思考は最早回らず熱が上がる一方で、さて何をしようとしてたんだろうかもうどうでもいいや。
「ああ、よろしくなっ!」
御嬢様キャラから吹っ切れた。天子の負け。
だが正直負けてくれて良かっただろう。
若しヒツキが非想非非想天の娘の隷属と化していたのなら、紅魔館の主が黙って居らず、後に『緋紅戦争』なる小競り合い騒動が、その空、その領域、総領娘と統領吸血鬼の一騎打ちで行われて居たであろう。
だとしたらだとしても二秒で決着の喧嘩両成敗してくれるのだが……ヒツキが。
「さっき異次元に入れた仙果、食ってくれよ。何て呼べばいい?」
「ヒツキ。矢っ張桃は傷みやすいのか。確かに碌に食事を取って無いな、頂くぜ、テンコ」
「何だその呼び名、あのスキマ妖怪の式神かよ」
彼女は冗談だと見抜き哂うが―――多分存在する奴なんだろうな、前にも聞いたっけ? 誰だそのスキマ妖怪って未知の類は。
「知らんが―――有無、美味いラぁ」
「ヒツキ、ちょいとよ、私の事殴ってみ?」
二口三口、シャクシャク喰らい、四口目には仙果の跡形を葉だけ残して無くした。
「何だ急に、マゾ…被虐性質かお前?」
「ちっげぇよ、ソレを食べると自然に強くなれるってんだよ。その具合を確かめるべくさ、私は天人で頑丈だから人間が少し強くなった程度じゃあ……小突く程度に殴ってみ?」
思い込みで言い聞かせてんのか、だが然し言われてみれば、長らく寝て居て硬くて凝って弛んで居た身体機能が軽く感じる気がする。
三日間とは言え、或る程度髪神様が筋力を保持してくれるが、それでも鈍る物は鈍る。
「騙されたと想ってやるが、流石に天人だろうが女だからな。デコピン程度で済ま―――」
「で済ま―――(1カメ)」
「で済ま―――(2カメ)」
「デスマ―――(3カメ)」
右手だ。曲げた中指を親指で支え、人差し指と薬指を天子の額に文字通り小突けば、左手で力ませた位の威力で吹っ飛んだ。
常態に慣れる為の超野菜人の鍛錬が日常生活に支障を来すヤツかよ。
「いや、は、あ、え、あ……は?」
思考は順調だが、意味不明と理解不能が言葉で勝って居た。
吹っ飛んだ具合が、木を端から微塵に薙ぎ倒す程だったが、フィロノエマーとキヨスミなる鬼人が停滞して居る近くの木の幹に、気付いたら貼り付けられていた。下手すればバチアラを打っ飛ばした速度を超えた位に、だ。それでも木が折れずに天子を抑え付けれている物理学の法則無視が解らないから言葉を失った。
【終宴】
「ちょっとヒノヅキ君! 天子さんがMだからって躊躇無く音も無く此方にぶっ飛ばさないでよ!」
やっぱマゾなんだ……マゾキャラなんだ。
急いで現場に向かう。町奉行かな?
駆け足で近寄る中、遂に天子は幹から剥がれ落ち、大きく俯せで倒れる。
「おい、大丈夫か、テンコぉ」
天子の元へ到達し、しゃがんで彼女の安否を確認する。
「さ、流石だぜ……かく言う私は風になったんだが……私のマブは、さ、最高だ……ガクッ」
震える右手を伸ばし、親指立てて握るその手は、而して本体諸共、トかれて力尽きた。
俺は此の天人が天に召される事に、心の底からご冥福の祈りを捧げる。
「おっ、くたばったか? じゃあ此奴を彼岸へ送って―――」
何故か突然やって来た死神の小野塚小町の行動に頭の回転円周率。
妖夢との入れ替わりの記憶から天人が死神と仲が悪い事を知ると言うか想い出し、すぐさま顔をアイアンクロー。
「イダダダダダダダ!!!!」
「宴会中に縁起でもない事してんじゃないよ」
「ごめんなさい兄さん、無礼講での無礼、後でこの愚部下にはきつく説教しておくからね」
「ヒツキィッ! なんらかしららいけろひとろいんやえあわれてるんじゃらいわよ!」
霊夢が呂律が回らない酔いど霊夢の怒り上戸だ。
「ヒツキさん、私と言う者が有りながら、魔理沙さんと、魔理沙さんと~…っ!」
早苗さんは泣き上戸だ。
「ヒツキ君、お嬢様って……時に可愛いわよね。いや何時でも可愛いかっ! モケーレ・ムベンベみたいでっ!」
咲夜先輩は捩じ上戸。何だその区切りから謎の生物名での対照例。謎過ぎてこの分析結果を絞り出す事に苦労したは。
「あっひゃっひゃっひゃっひゃ……師匠が刺傷で死傷の支障この四章に嗤笑の私傷」
あっひゃっひゃっひゃ。
韻と言えばラッパーになり、『いよっ、待ってました、庭師屋』と言えば、噺家だろうか。何にせよ機嫌上戸或いは笑い上戸だ。……上戸なのか?
「師匠が私の作った宴会料理を私が使ったお箸で頂きました。此れはもう披露宴です、あっひゃっひゃっひゃ!」
ごめんて。
「………」
鈴が黙って俺に掌の物を取れとジェスチャーを表現す。
………鵯上戸ね、草の種類の。ちゃんと毒である実迄用意しちゃってまぁ。何かしらの薬になる暗示かしら? 只のネタ切れですよね、有難う本当に色々とプレゼントくれて。
「グッグッグッグッ………ブハァ~ッ!」
貴女のその一升瓶のお酒は何本目? 底抜け上戸とでも言うのかしら?
「最も私が既成事実になる虚実をでっち上げてる分、明日のゴシップはワ・タ・ク・シ・と、ですわね、うふふふふふふ」
「…………(私は、この酔った状態を何上戸と表そうかと考えた)」
「――――――――――――(一見此れこそご機嫌上戸と言っても良いし、何だか何時もの彼女にさして変わりないから、空上戸とも見て取れる。酔った感じがしない人、酒盗人って言い方も有るね)」
「~~~~~~~~(だけど一人称がワタシじゃなくワタクシとか語尾にうふふとか余り聞き慣れない笑い方をしてるもんだからコレは異変だマリサァァァァーーーーッッッッ!!!!)」
「なぁヒツキ、吸血鬼に何されたんだ?」
「ち、チルノちゃん、それは尋ねて簡単に応えられる事じゃあ……」
「詰まりヒツキはバカって事だな」
「ヒツキ様、私は嫁なのか娘なのか従僕なのか、ハッキリしないのかー」
「ヒツキ君……幼い見た目の怪に何を求めてるの…………」
「いえ小悪魔、案外その在り方が次の作品のネタになるわよ、他にもどんな関係性で他の子たちとムキュッ…(噯気)」
「矢っ張納得できないわね! アニィ、ちゃんとその髪の毛抑え付けて私の褒美を受け取りなさい!」
「あらあら何々、紅魔館の吸血鬼がどんな褒美をこの子に渡すのかしら~?」
「おやおや、私たちの演奏なんて最早BGMよりも外に行っちゃってるじゃないか。ねぇメルラン」
「そうだねぇ、折角戦闘シーンを表現するソロパートが意味を為さないねぇ、リリカ」
「結構弾きを烏天狗並みの最速で鳴らしてたけど、皆やっぱり本物を生で見るのが一番だよねぇ姉さん方」
「あやややや、私達の速さをモデルに弾かれて居た演奏だったのですか。実に興味深いですが、ヒツキさん、貴方の今回のご活躍に於いて、魔理沙さんとのホニョホニョは本当なのでしょうか?!」
「ネタ増しいわね。いえ、妬ましいわね、本当に」
「おい坊や、もっかい手合わせ願えないかね?」
「いやいや病み上がりじゃない。あ、御家気に入って貰えた? あの後感想訊きそびれたからね」
「ねぇ貴方、まさか私の事を本当に最終的に私の事をゆっくりとハッキリと内心大きな声で大嫌いと叫ばれていらっしゃったのですかお願い嫌いにならないで……」
「ちくわ大明神」
「さ、さとり様……普段悟り妖怪は忌み嫌われてるのに今回に限ってそんなに泣く程落ち込まれなくても……」
「えぇ~さとり様が鳴いてるの~、動物じゃないでしょうに~」
「なき違いだぞ。お前も何故で女の子を簡単に泣かせるような事が出来るか。三日も寺子屋をサボったツケとして、道徳と言う授業が有るのだろう、外の世界には?」
「ヒツキ君、新しい薬を調合してみてんだけど試してみない? 無料診察と言った手前の掌返しだけど」
「白狼天狗、厄神、河童と会ってないんじゃない?」
「あ~…潰れてましたよ。大きく躰を広げて臍を出して……如何悪戯と言う名の芸術作品を手掛けていこうかなぁ~……」
「花も飾るのが良いじゃない? フィナーレと言う大団円に、丁度いいわね」
ぁあ~…順番に仕切りに次々と台詞が流れる投げられる出て来るわ。
出過ぎて台詞の百鬼夜行、何だこの光景文字通り魑魅魍魎だわ、絶対覚えられない漢字だわ。
だが此処最近覚え方を考えて居たんだ。
“「鬼」の四王が集まれば、獣から離れた「隹」は、「未」だ「罔」に掛からずも、去るには「兩」つと隔てる山で、七十二里の魑魅魍魎“…ってね。
まぁ、うん、そんな事考えている場合じゃないよね。
この空きが無い連投されるコメントの数々には当然俺への質問とか会話とか、色々な想いが込められて居り、物理的、距離的にも攻められて居る訳で。
扨て如何した状況かともう半分荒波が襲ってくる中、一つの雫が俺の左手を掴み取り、波を避けて、空の彼方へと飛び出した。
「―――行くわよ、タっくん!」
「一会……」
今宵東の空に浮かぶ月の形は、雲で飾られる事は無く、まっさらな光で満ちていた。
【二宴】
―――空は真っ暗。
だけど無数に星が鏤められ、何より大きい星が、飛び立つ者達を照らして、又旅征く目を瞬く間に輝かせて居た。
大きい星に程近い青髪の少女は、辺りに雫を撒き散らし、雫の有る場所へ瞬時に移動して居る。
少女の手を取り引っ張られる卵色髪の男は、引っ張られて居るので彼女の雫瞬間移動を経験して居り、悉く景色が一変するので、若し彼の髪色が卵色で無ければ三半規管は疾うに限界を迎えて居ただろう。
髪の神様―――頭を守るなら更、神呼ばわれる相応の力は伸びて行く爪先から心臓の中心筋肉迄、虫も埃も寄せ付けない完全防備。
防備も説明も良いから、景色が一々水の中に潜ったかのように揺らいでも、何の堪能も会話も無い。
「おぅわっ?!」
次の雫を振り撒く前に、男は彼女の前を先行き、左手を力ませ乍ら引っ張る。
或いは、力まさせ、とも。
「……そっか、あなた……飛べたわレ」
呂律。
「飲んだな」
「ろ、ろんでらいろんでらい。だってわたひみしぇいえんお? はだにさけがこおれただけらからっ!」
百パーセントの水の体を持つ女も丸で飛んでるかのように、宙に浮き進む。
でも体は小刻みに揺れて、顔は月夜でも解る位に赤らんでいる。
此の儘では駄目だと、アルコール成分を抽出し、外へと放出する。
「ふぅ……あの宴会とっても楽しかったわね。あなたなんかあんなに沢山の美少女に言い寄られて大変だったでしょう?」
「まぁ、そうだな……」
茶化してくる女の発言を適当に相槌して、落ち行く指位の雫を眺め、彼は想う。
(ほら、十七JKのアルコールが含まれた体液だぞ、飲めよ、処すぞ?)
過激派過保護欲である。
「……今私の言った事関係無い物凄く変な事考えてない?」
「考えて無い考えてない。究極マニアックフェチズムを持つオッサンへ唆してる事しか考えてない」
「………失礼したわ。変態事しか考えて無いわね」
夏の夜の気温よりも、冬をも勝る冷めた目と口調で睨む彼女を背中で感じ取り、彼は想う。
「ほら、巫女女子高生の凍て付く蔑みだぞ、喜べマゾ豚feat.比那名居天子」
訂正、想ってる体で口に出して言ってる。
「何故でアナタが訳も分からず打っ飛ばした天子さんを引き合いに出す……?」
あのイザコザ、ちゃんと情報網羅。
「まぁいいわ。話は戻して、急に神社が燃え出すなんて咄嗟事が文字通り降り掛かったから―――飛べたのね。でもあるのか」
ダッシュ項目には、気が付かなかったけど。と入れて置く。
「そうだな、お陰でお前の下着を眺めずに済む」
「ッ…眺められない様に水を撒いて居た様なモノなんだけれど……」
水溜まり反射みたいなもんじゃない? 見ちゃ駄目だよ。
「安心しろ、お前だけは覗かないよ。魔理沙は覗く」
魔理沙は覗く。
「……因みに何色だった?」
どっちのでしょうね。
「赤紫色」
「見事に外れで当てずっぽうだった事を心から安心するわ」
―――直に見て無いが上部が揺らいでる様な気がする。一ミリ見える位の視界の気の所為の様な揺らぎ……恐らく彼女は『女神の禊』を発動してるのだろう。所謂、嘘発見だ。
嘘を言えば水は濁り、心の動揺は凪の水面に大きく波動を起こす。
如何やら、事無きを得たようだ。
「……でも意外だったわ、感心とでも言おうか。あなた心に揺れが生じたんだもの」
―――何、俺に動揺?
いやでも、じゃなきゃ見える訳が無いとも。
「たった雫が二つ落ちた程度の揺れだったけど、本当に変わったんだって、改めて思い知らされたわ。嬉しい」
顔を見て話す彼女の微笑が、月に照らされて寄り一層輝いて見えた様な気がした。
「―――今夜は月が綺麗だな」
ハッ…俺は何を呟いたんだ?
「なぁに、それ……陽月を名乗る貴方がそれ言う?」
嗚呼そっか、一会は余り学校に通えた事が無かったから、多分習えてないんだろうな。まぁ俺も行っては居ないが、通じても通じなくてもの良し悪し四通りジレンマが憂鬱だ。
「別にナルシシズムが含まれた名前じゃねぇよ。恰好良いとは……まぁ想ってるけど」
「へぇ~…思ってるんだぁ~…」
目を見て話さず、月を見ながら取り敢えず空飛んで移って居るが、声だけでも彼女がほくそ笑んで居る事が解る。
「じゃあさじゃあさ、何でその苗字にしたの? その明らかに地球側観測二元論の最上位みたいな付け合わせ苗字……」
キラキラとかDQNとか言ってくれた方が未だマシだった。
「……『人間』……だよ」
「人……?」
「太陽と月は当たり前に俺たちの周りに在り、生活を補ってくれる。別世界でもな。そんで回り行くその二つの星が出たり入ったりで一日と言う人生を過ごし、何れは死んでいく。俺は此の苗字に特別だとか一番だとか、そう言う意味で此の苗字を名乗ったりはしねぇよ。只当たり前の事だとかを忘れずに大事にしたい……多分そんな意味が含まれてんだと想う……」
「思う…か………」
彼女の思う事が解る。俺がどれだけ自身を否定しようと、結局付けて俺は俺だと認識しても、ちゃんと俺だと証明出来る、そんな簡単な事は法でも何でも、考えれば多分、誰も有りはしないんだよ。寧ろだから考えないで生きる事が正しいし、考えれば陥る狂想だ。其れで居て、私は只の人間で在りたい。そうなのかもね。程遠いけれど。
「お前は、一期一会は如何言った経緯だ?」
「え、私?」
まさか聞かれるとは思っても居らず、恥じらいも有るのか、撥音で言葉を濁らせ、考え、整えが済んだのか、答えを出す。
「幼い頃に、そう言う女の子系の文具を見掛けただけよ。女子がキラキラ笑顔が絶えない絵柄で、言葉も調べて、良いなって思っただけよ」
あ、何か知ってるわソレ。
「ま、更に理由を付けるなら? 人との出会いを大切にしたいって所かしらね。夢見心地の沢山のモンスター娘の居る場所で、お酒飲んでご飯食べて、一緒に笑い合える。正直有り得ないなんて言葉で引っ括めても良い位現実味の無い事だけど、若し夢だとしても寝覚めの悪い夢落ちなんて嫌だし、霊夢や皆と出会えて、楽しめて、仲良くなって良かったって、嬉しい事だらけ。そんな感じでどうかしら?」
如何かしらって取って付けたを堂々言われてもだが。
「素敵じゃん」
「フフ、アナタから誉め言葉が出るなんて、本当に、夢でも見てるみたいね」
「共有共通の夢って何だよ。それに、事話によると、夢に出てくる人物は、どっかで見た顔らしいぞ」
ウェンディーネが言ってたかな。
「へぇ~…じゃあ会った事有るのかしら?」
ゆめにしないで。
「少なくともこの三年間お前が俺を大体一人にしなかった分、その点も共有共通で色々見て来たけど、奇跡的にあの云十人居る奴等に面識も認識も、微塵も無いよ」
実際の付き合い、何だかとんでもない事言ってる様な……勿論プライベート空間は各々確保していますよ、うん。
「それもそっか。私の頭じゃ、漫画家レベルで沢山の可愛い女の子を思い付く事なんて到底無理ね」
同性嫌悪とかマウントとか無く普通に可愛いと想ってるんだな。
「何にせよ、ホンッとうに楽しい宴会だったわ。今度は合法の年代で一緒に飲みたいわね。特に霊夢とっ」
同じ巫女同士、同じ生半可な巫女同士、色々と意気投合したみたいで。
「そう言えば彼女、絶対防御であるアナタを何の変哲も無く打っ飛ばしたけど、アレは一番気持ちが良かったわ」
ウッ…鬼人と大激戦を繰り広げた筈なのに、其れ以上其れ以前の古傷が腹部中心に甦って来た……。
「さいで」
何か黒い影が通り過ぎた。
「―――ところで、そんなアナタを打っ飛ばした素敵な巫女さんと呼ばれた霊夢が妖怪も引き連れて敵対心燃やして百鬼夜行レベルで現在進行形追っ掛けて来てるんですけど……」
黒い影が二、三通過した。
「……嗚呼そうだな」
二人は、後ろを向く。
「「「「「「「「「「待てゴル” ァ” ァ” ァ” ァ” ァ” ァ” ァ” ァ” ァ” ァ” ァ”!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
弾幕は花火祭の様に、幾星霜の人妖の怒号と共に鳴り響き、弾けて輝く。
そして二人は共鳴する。




