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幻想の現実≠東方空界霊  作者: 幻将 彼
第陸章「青年は、マチガイに殴りをつけた。」――×想異変.
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第肆拾弐話 見得ない者~virtual philosopher.

【居所】


「―――”人間の里”よ」

 数々色々の魔法石、其れをばら撒き、大まかな幻想郷の地図を作る。

 今回の幻想郷全域火災異変(仮)の首謀と思われる人物の現在位置特定に、錬金術みたいな、やっぱ魔法みたいな、そんな感じで、居場所は人里と断定される。

「そうか、有難う」

「良いわよ。じゃ、異変解決は貴方に任せたわ」

「応、コッチの問題かもだからな。保険掛けて言っとく。巻き込んで悪かったな」

「可能性大として言わせて貰うわ。本当に良い迷惑よ。負けた時はナイフの的当て案山子になってもらうから」

「それよか皆生きてるかだよ、パイ先」

「大丈夫だよ。なんせ私仕込みの格闘術が有るからね」

「そうだな。勝ったらドンチャン騒ごうや。博麗神社でな」

「宴会ですか、最高ですね!」

「……頑張ってね、お兄様!」

 後ろ姿で黙って手を振り、人間の里向かって飛び立つ。



【何想】


 ―――良し、恰好が付いた。

 一会に優先させた人里に主犯が居たとは……相手は如何も愉快犯らしい。

 仮想の思想家か……空想が無効、幻想が誘惑、夢想が催眠、理想は……何だ? 聞いた事無いな。

 想の能力は基本何でも有りだが―――その「何でも有り」が相手にとっての有利な状況を作る事となるが、手順が有る。

 カラヒナは頭を空っぽ、半ば無意識で動かないと無力化攻撃は行えず。

 フランソワズは魅せる幻で翻弄させられ無ければ……。

 ウェンディーネは同時昏睡、レムドリームの対決で負けた方が勝つ、即ち傷付いたら覚醒するから現実世界で止めを刺せる。

 まぁ手順と言う名の、攻撃的戦略で手段に過ぎず、彼女たちの終点は能力の無い世界。

 そう話し合った仲だが、疑問が有り、こうも考えられる。

 理想の思想家、名を「ネイ」と言ったか、彼奴の事は理想の思想家と断定し、又、思想家集の一員と断定した。

 だが証拠は? 俺がそう勝手に想い至っただけで―――まぁ、思想家集自体が不確定な集団だが、他の奴等が名乗りは上げていた分、ネイからはフィロノエマーとしての自己紹介が無かった。

 さも仲間の様に話したが、情報さえ得ればブラフは立てられる。

 彼女もフリーの思想家と考えるべきだ。

 それに理想の能力が何なのかも不明だと考えると、その能力ですら張ったりだと、彼女には疑念が募るばかりだ。

「―――と、想うと想って理想と言う名の期待通り、ネイちゃん参戦だよ☆」

 飛行途中に並走登場のネイ。

 いや、並走と言うよりその場に現れた感じだ。何時の間にかとかついさっきの類じゃなく。

「全く酷いじゃないか、私に対して疑心暗鬼になるなんて。’季川咲桜’程の文学力はな―――」

 ’陽月さくら’……”幻想郷”森林の空中にて、女性を発砲。

「逝去が理想なら喜んで手伝うが?」

「―――…っいっが、想は彩りで読み取れるんだぞ。迄言わせろよ。本当に酷いな、酷過ぎる余り最早ヒドラか君は。今辺りは超絶膨大火災だから、電子的物理的炎上しなよ」

 眉間を撃った筈だが、其処に詫びる気更々だが、マスクにすら弾痕が残っちゃ居ねぇ。

「俺の火炎の方が良く燃える」

「そう言って八意製薬のお世話になったじゃないか。熱くなるなよ。私の理想でしっかりと自己紹介しそびれた事を登場で体現してんだから」

 想いっ切り煽情だったんだが?

 事情を知ってる分、いや、もう、不信しか無いわ。

 此奴燃やすか。

「待て待て殺意が駄々洩れてるって。君の十八番の『力』はラスボスに取って置けって。ゴホン……私はフィロノエマー『(じょ)の位~理の想~』、想名’太陰(たいおん)(じん)(せつ)()’。我が名は他の思想たる郷の理に反する者を払拭するもの也」

 と、厄を蒔く意が有る”想名”を名乗り、目的を表明する。

「此処は”考名”じゃないのか?」

「考名は君達と同じ『ちゃんとした”本名の建前”』だよ。実際こう言った事件解決には”想名”を名乗る。予想家から事前に教わっただろうが、まっ、厄を蒔くという点では、私たちの終着点は身勝手だからね。それに、同業で同世の仕業だ。連帯責任で言えば十三分の厄債だよ」

「矢っ張、此方側だったか」

「嗚呼、正体も割れてる―――……’罰荒無邪童子(ばちあらむじゃどうじ)’。鬼の名を冠し、時代を行き来する出世不明の歴史的大犯罪者だよ」

 ―――出世不明?

「法で裁けるなら「人」らしいが、時代を行き来する?」

「仮想と言う言葉を使うには現代的でね、だけど彼は現代では無い何処かの時代で、空間規模で空間その物事をハカる力を持って生まれた。その応用でタイムトラベルを発動させ、あらゆる時代のあらゆる歴史人物を消して来たとされる。マホロバがマホロバである由縁の一つとして、彼の所業が関わっていると専ら噂だ」

 専らて……思想家集での雑談枠だから限定過ぎるだろ。

 だが、歴史人物が集合した【混沌の戦国時代】が在った事は、俺も含め、彼等『現代歴人』の耳にも新しい。

「何より、時代の出世が解らないと言うのは、それだけで脅威だよ」

 マホロバの歴史は、戦国より以前が不明で在る。

 其れこそ、時代と統治を担う歴史人物が、各々の場から消息を絶った事によって組織力は失われ、語る者は騙り、画す者は隠すからだ。

 其れでも歴史は収束し―――教育機関では書物通りの歴史が記される。

 だけど、真実の書かれて居ない虚像の歴史は、空白を見付ければ、頭も真っ白に成り兼ねない。

 更には空白を埋めようとすれば、真っ白は真っ黒に―――……未知なのだ。

 見た事の無くも解明された恐竜時代を、化石と言う墓標を掘り起こして発見し定義したが、実態を誰も見た事が無い。言わば想像の世界だ、机上の空論だ。

 若し真実ならば、何て恐ろしくて、現代の文化では圧倒的な脅威だろうと。

 そのように、時代の出世不明は、戦国時代以前の情報、未知の力ならば、対策対処の仕様がない。

 仮想の思想家と言う称号も、文字通り仮の名でしかない。

「その脅威に君、覚悟して挑めるのかい?」

「死ぬかも知れないよって言いたいんだろうし、乃至何も出来ず死ぬよって事だろうが、俺には覚悟なんてねぇよ」

「なら何故、君は里へと赴く?」

 決まってんだろと、右拳を握り、右腕を引き締め、緩めて開けば、辺りの火炎は消え去る。

 恐らく、幻想郷全域だろうと言う具合には。

「矢っ張ムカつくからだよ。色々と傷付けられて殺意を抑えられる理由ねぇだろ」

 消え去った後は、夜の闇だ。

 その闇には―――光る前に、黒と赤が混じった薄暗い光点が二つ、燃えて居たのを最後に、陽月さくらは髪を光らせてその場を去る。

「―――人間らしい悪感情だ。だが今は、必要悪なのかもね。理想が程遠い必要だけど……ヒトで在る以上、終着点を過ぎ、私達の悲願理想郷が再始動しても、消える事の無い鎖なんだろうね。理想家とは、自他共に嫌の立場に置かれたものだよ、全く」

 悪感情が強いから無情に彼は設定し、そして主人公らしくない主人公なんだ。



【到着】


 見渡せる限りの森一帯は消火出来たらしく、だが目の前は赤く染まる事を止めようとはしなかった。

 ―――“人間の里”。

 訪れたのは”幻想郷”来日初日以来だ。

 なので助けるとか、此処の人間が如何なろうと思い入れは微塵も湧かない。

 ―――何なら覚えて居た。ヒトの事を人外断定蔑みの顔で覗いて居た事を。

 そんな奴らを救った処で、何のメリットだろうか。

 泣いた紅鬼でも在るまいし、仲良くする必要とか、誤解を解くとか―――面倒だ。

 聖人君子でも教会勤めの神父でも無いからな。

 ヒトの願いを聞き入れて其れなりに叶える力を貸して、小銭を稼ぐ事が日課だった人間だ。

 夢の内容は心底如何でも良いし、己の不手際なのに詐欺だのインチキだの罵られようが、楽して叶えようとするボンクラ共よりマシだと想って居る、想って居た。

 神社を居住建造物にしていたのは、何か恰好良いからし、俺の物で有ったが、今は違う、捨てたからだ。

 そんな俺は何処迄も身勝手の自覚が有り、何処迄も己の事しか考えない、その悪性にも自覚はある。

 其れが人だ、其れが心宿す唯一種だ。

 だから俺は身勝手に、この幻想郷に住む俺を慕う奴等を傷付けた敵を倒す。

 許さない。

 博麗霊夢や他の友達が―――……いや、違う、断じて違う。

 俺は……‘博麗霊夢’が好きだ。

 没した時に死人に口なしも構わず診療所へ連れて行き、更には看病に添い寝して居た彼女が好きだ。

 俺は……’霧雨魔理沙’が好きだ。

 悪道邪道も顧みず、共に過ごして、言葉悪くもなんだかんだ付き添ってくれる彼女が好きだ。

 俺は……’十六夜咲夜’が好きだ。

 面倒見や器用さが良いけど、何処か抜けていて、その点は支えてやりたいとか、弄ると照れる彼女が好きだ。

 俺は……’東風谷早苗’が好きだ。

 何故ああも慕ってくれるのか解らないけど、まぁ一目惚れも世には有り、あれだけ直球に想ってくれるなら、胸もデカいし、好きだ。

 俺は……’魂魄妖夢’が好きだ。

 真っ直ぐな瞳で、汚濁でしかない者に手を差し伸べ、振り払おうとするも型破りに向かってくれる、「始まり」と言う意味では一好きだ。

 俺は鈴仙・優曇華院・イナバが好きだ。

 経った数分だけの筈なのに、気遣いとか距離感とか、一切取り払った位置で居てくれる、そんな彼女が好きだ。

 それでも、矢張り、俺は―――。

 燃え盛る建物の中、轟雷の騒音が里中に響く。

 もっと奥の方だ。急いで音のする方へ向かう。



 ―――少女は息切れている。

 肌は埃塗れの傷だらけ。

 衣類も所々が破れており、満身創痍に相応しい姿。

 通称『雨乙あまおと』で知られて居る’一期一会’は苦戦を強いられて居た。

 彼女の異名は―――神々の叡智、楽園林檎が下界へ落ち、果実が砕け、転がる種は、硬さを問わず大地へ埋まり、蔓が生え茎が延び芽を吹かせ、花を咲かせて粉を蒔き、奇跡が人へと贈られて―――そんな伝承か電子の書き込みか。

 ”楽園種子”のその種名は、”液体の種[ネプトゥーヌス]”と、’一期一会’の水泳の潜在を開花させ、又、戦う事を許容とするその世界のその時代で彼女は組み込まれ、あらゆる場面に於ける能力の応用と自身の体術に寄り、如何なる速さ、如何なる重さ、如何なる力の推し量り合いにも、百戦錬磨を築き上げて来た。

 然し、近接戦闘なら未だしも、天変地異の規模を操る者を相手にするなら余りにも分が悪過ぎる所か、武力に於いても実力が天地の差で圧され、苦戦を強いられて居た。

 その者こそ、”歴史殺し~History Hysteria~”、”五代鬼天”と異名を有す、’罰荒無邪童子’。

 ケラケラと笑い乍ら、相手を感電させた所で―――男は姿を現す。

「! 一会ッ!」

「ヒ……の、き………ホン…ト……ギタのぇ……」

 何時ものサイドテールが崩れる程に、相手に間合いを詰められ、痛め付けられた事を確信する。

 毛が跳ね上がり、電撃技を受けた居た事も認識する。

 ―――その奥に、奴は居た。

「イハハハッ! 仲間が居やがったと想ったら、此奴は飛んでも無い大物じゃないか!」

 一会と対峙する人物……鬼と言うには巨漢でも無く、筋肉質でもない。

 寧ろもやし体系だが、もやしと言う程もやしでもない程良いもやし、いや大根でも良いだろう、俺は何時から筋肉洞察評論家になったんだ。

 但し、その目、その表情、笑い声……鬼と呼ぶに相応しい形相で’罰荒無邪童子’。

 『人』で在る成りを理解しつつも、『鬼』の如し無邪気と言うべき情動で、荒んだ罰を与える、呪いの様な存在だ。

 格好は良く分からんがな。時代の出世を覚らせない為の、仮装だろうけど。

 髪と肌が真っ白で、目が紫の………此れは、アルビノだとか先天性白皮症、兎に角白いとかの病気の奴だ。

 ……だが何だ、以前にも此の様な―――……あ?

 何だ? 俺は今、何を考えて居た?

「イヒヒッ、その程度か、妄想ってのも。所詮は暇つぶしの為の使い捨ての考え事だよなぁ!」

 ! 此奴、俺が妄想の使いだって事を見抜いてやがる……!

「そうだ。序に考え事もなァ。仮想は―――っと、敵相手に情報開示なんて、雑魚の所業だなァ」

 この男、何処迄も狂気に満ちた表情で声色をしてやがる。

 何だろうな、もう何故で幻想郷を火の海で包みたかったのか、聞く迄も無い。

 狂気が殺気を生み出すのも当然の摂理だよ。

「如何にもそうだよ。お前は何しに此処に来たのか俺には解るし、俺もお前に用が在る……」

 崩れ行く人里の家。その中倒れて居る人の影。火蓋が落ちる事は無いが、家の木片が崩れ落ち、其れを合図に火蓋が切られる。


「「お前を殺す…!」」



【仮想】


 互いが互いの間合いに入ろうと接近する。

 ヒツキが右拳を握り、童子に殴り掛かる。

「キッ、遅ぇなぁ」

 最速の右ストレートは、更に素早い動きで回避され、童子の膝蹴りが腹に打ち込まれる。

「グフッ…!」

「汚ぇよ。吐いた唾は呑み込めずとも―――」

 童子が何時の間にか真上に移動し、背中に踵落としを決める。

「テメェ自身で拭けよっ!」

「ガッハッ……!」

 強い。

 髪神の加護が嘘かの様に……。

 丸で霊夢……いや、霊夢以上の、鬼の様な、そうだ’星熊勇儀’戦でも体験した

鬼の力だ。

 出世不明がこうも不利状態として現れるとは。

 一会を圧倒しただけは有る。俺も多種多様の能力持ちだが、一会と対峙して勝った要素なんて一つもない。まぁ後にも先にも、対決なんてあの一回だけだが。

「分、そして時代を弁えろ。過去と現代では、戦いの練度が違う」

 力、狡猾さ、当たり前だが、凡てを上回っていた。

「現代の極凶がどの様なものかと期待したが、所詮は一運の殺戮と言った所か」

「―――期待に応えられず悪いな」

 ヒツキは童子に空気を飛ばす。

 その空気は相手の力を失わせる。

「脱力付与~枯霊尾花(overdose manure)”低気圧(bubble)”」

「?」

 途端に童子の立脚が崩れ始め、膝を付く。

 其処を空かさず、俯せから脚を上げ、頭部に蹴り込む。

「捨得足(status)」

 技名を放ち、頭部まで数センチの距離、童子は腕で攻撃を防ぐ。

「お前の能力は知っている。力の増減―――いや、増幅と消失か。デフレが如何して極端かは解らねぇが、問題にはならねぇ―――よ!」

 後頭目掛けて防いだ拳で脳天割りを繰り出す童子。

 流石のヒツキも腕力で己をその場から回避させ、距離を取る。

「―――へぇ。身の熟しが常人とは些か違うみたいだな」

「そりゃあ、一運の殺戮者だからな」

「成程、禍福って奴か。ならば、不幸の貪底を突けば良いって話だな」

 瞬間移動、前方左上に童子は現れ、蹴りが意図も容易く命中する。

 容易く命中した上に、急所だったのか、頭がふら付き、上手く立ち続ける事が出来ず、膝を付く。

「ヒヒハッ! やられたらやり返すって奴だ。頭は打たれてねぇが、未遂だったから同じだなぁ!」

 技名【八(power brawl)】。

 風水に寄って最不幸を見出し、その方角向けて攻撃すれば絶対急所を狙える。

「―――”童子”と言う名なだけ在って、実に餓鬼臭い言い分だな。時代の大先輩が聞いて呆れ―――」

 童子は虫を見る目で、ヒツキの顔面に蹴りを入れ込む。

「……テメェ。脳震盪級の蹴り入れられて、何で平然としてんだよ。お前の守髪神も織り込み済みでの攻撃だぞ………」

 振る身体を守髪神の加護の波動に合わせて戻して、普通に振り下ろす速度で当てていると言う。丸で因縁相手の逆だな。誰とは言わんが。

「だから弱いんだろ。加護ギリギリの所で勢い殺してちゃあ撫でてる様なもの―――」

 加えて真っ直ぐな蹴りを顔面目掛けてぶつけるが―――勢いに負けつつも、己の体なら加護は発動し、見事右手で掴み、抑え込む。

「……さっき面白いこと言ってたな、デバフが極端過ぎるって……。七夕伝説がモデルのこの腕輪、後悔と言う自業自得を何時だって抹消したいって思うだろうがよ。でなければ七月七日限定って結果にも至らなかっただろうしなぁ!」

 と、右手の握力を強めるが、空気を掴む様に、童子の足は放れて居り、その場から離れて居り。

 技名『逝刺(ghosting)』、言葉通り、幽体化。

「何だ何だ? 感情移入し過ぎだろうが。七夕オタクかよ、気色悪い」

 と、掴まれて居た足で、米国式人払いのハンドサインのあしらい。

「バーカ、勘違いしてんじゃねーよ第一位。俺が此処に来たから、俺の大事な友人が傷付く後悔してるから、お前を潰すんだろうがよ」

「大した妄想を語るが、その第一位に如何やって対抗するんだ? 攻撃が対して当たって無いが………それとも、二人係のジリ貧戦法で攻略でも探すか?」

 目線は俺じゃない方へ、童子は向ける。

「―――先から戦力外を演じて居たんだろうが、駄目だよなぁ?! 二対一なんて卑怯者のやり方だよなぁッ!!??」

「一会ッ!」

 槍を地面に突き刺して膝を付いて屈み、瀕死を装い乍らも回復に徹して居た彼女は、実際瀕死では在る為、回避儘為らず、立ち往生。

「―――」

 童子の繰り出した技は上空から土を降らせ、一会に浴びせる。但し、水分を吸収する為、又、水の能力を使役する彼女には抜群だ。

「浄土(soil)。干乾びた姿で、醜く現世から去ね」

 土砂降りが止む。

 一会の身体は、干乾びる事無く、然し全身汚れた姿で、ふら付いている。

「チッ、あのアマ、火事場の馬鹿力で防御しやがったか……」

 傘槍『レイニー・ユース』は、あらゆる能力を防御し分散させる、天才の逸品であり、白骨化は免れた者の、然し傘を開く迄の二秒は当たって居た為、脱水症状で餓死には十分の攻撃だった。

 腕はもう上がらず、握力も残って居らず、愛槍を落とし、己自身もその場に倒す。

「―――まぁ、没する運命は変えられなかったな」

「一会――――――――ッ!!!!」

 叫び、手を伸ばしながら駆け寄る。

「余所見は誰の教えだよ。悲劇に付き合ってられる程、俺は寛大じゃねぇぞ」

 彼の言う通り、今は運命を分かつ戦いの真っ只中。童子を横切るヒツキに容赦無く、回し蹴りを項に決め、吹き飛ばす。

 吹き飛ばされ、回り、地面に引き摺られ、止まり横たわる目の前に、反対方向で一会が倒れていた。

「イ…じ、ェ………」

 この感覚は、何度も何度も何度も何度も経験した。

 だけど今回は、絶対に、何が有っても、眠れない。

 眠れば全てが終わりだ。

 幻想郷や、其処で出来た友達……魔理沙、霊夢、咲夜、早苗、妖夢の為。何より、此処迄来た一会の為、ヒツキは倒れてもくたばる理由にはいかない。

 掠れた声、震える腕、手を伸ばす。

 そうだ、俺は何よりも誰よりも一会が好きだった。

 一会が俺を好きになり、その感情を別の物だと否定して奪い取り、中略、同棲して共に過ごす中、何時しか俺がアイツを意識していた。

 だけど、その感情が何なのか、その当時は解らず、小学男児が気になる女子に悪戯をするみたいなそんなノリで、俺は只アイツに迷惑を掛けた。

 今になって解る。廃屋敷での死に際の走馬灯に、一会が思い浮かんだ。

 求めて居たんだ、何時だって隣に居てくれた彼奴を。

 ―――この五日間、忙しくて濃い日々は、感情を知るのに、いや、愛情を知るのに、十分過ぎる程、充実した日々だった。

 誤りの謝りはしたものの、未だこの気持ちを伝えない儘、俺は終われないし、彼女を終わらせたくない。

 だけど、俺に在る記憶は―――否定された記憶だ。

 失い取り戻し、又失う事、其れを知っていて、又感情を塞ぐ、そんな可能性を考えてしまう。

 どうやって助ける。蘇生はもうやらない。だけど助けたい。彼女の息が在る内に。彼奴をすぐにでも倒して、永琳先生に診せてやりたい。また彼女と話がしたい。笑ってほしい。もう泣かせたくない。この先も又迷惑を掛けるだろう。この問題を解決しても、残っている問題を解決しなきゃいけないけど。今は助けたい。助けたい。助けたい。助けたい。助けたい。助けたい。助けたい。助けたい。助けたい―――――――


 思考はもうグチャグチャだけど単純。最初からグチャグチャだっただろうけど、解り易い。

 息が苦しく、片目が半開きで、もう片方は意識を飛ばすまいと全開きで、後もう少しで届きそうな手は届かず、身体は動かず、只もがく。

 そんな時、震える手に、反対側から手が伝う。

 一会の手。初めて触れた手だ。

「―――デ……」

 何処までもか細い。次喋れば黙りそうな声だ。身体が一瞬震える。

「イ…ギデ、タ…クン。ア、ナダナラ……ス…エ………―――――――――」

「―――ッ!」

 吃る言葉を把握して両目が全開し、息絶える姿に、涙が零れる。

 彼女は倒れる最後に、最後の回復を施し、ヒツキに掛ける。

 彼女にとって一日だけの此処での過ごした時間を。

 俺にとって五日間過ごした此処での日々を、守る為に。

 余所者が滅亡レベルでこのド田舎辺境地にご迷惑をお掛け、本当に申し訳が無い。

 ヒツキは又何事も無かったかの様に立ち上がり、俯きながら罰荒無邪童子の方に体を向ける。

「また立ち上がらせたか。だけどもう、水分補給は出来なさそうだな。もう一度聞くが……体術、能力、容姿、衣装、全てに於いて圧倒的第一位のこの俺に、どうやって対抗するよ、クソラック大戦犯」

「――――――」

「今はとても気分が良いから話してやるが、そのアマは実に反吐を絞り出させる程下らない正義感に浸って「如何してこんな事を」って偽善者ぶってたぜ? お前も俺も、お前も、力を以て人に振り翳す行為は、唯々傲慢でしかない綺麗事だってのに。丸で善悪を分別しきって俺を討伐しようと―――」

「だまレ」

「…」

 声は少し掠れているが、それも相まってトーンの低い声と端的な台詞は相手を黙らせるのに最適な方法だった。

「お前の感想も、理由も、全て如何でも良い」

 左手を上に、右手を下に、指の部分だけを曲げて掴む構えを取り、ヒツキは、最終奥義を使う。

「答えて、応えてやるよ。お前を全力でぶっ潰す!!!!!!!!」


 ―――『全力回路〜蜃気楼(SHIRAHINO ADVENT)〜』を、発動する………。


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