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幻想の現実≠東方空界霊  作者: 幻将 彼
第陸章「青年は、マチガイに殴りをつけた。」――×想異変.
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第肆拾壱話 その人その息~what is there~

【霧雨】


 ―――降っていた。

 淡く、薄い、そして優しい雨。

 雲は有るが、晴れて居る。

 天気雨って奴か、若しくは狐の嫁入り。

 果て、何処で挙式をしている事やら。

 雨を実感したいが、俺はこんな優しい感触ですら、弾いてしまう。

 雨もまた、発熱と言う体温低下に伴う身体異常を来す有害なのだから、髪神様はオーバーにも加護してしまうのだ、過保護に加護してしまうのだ。

 逆に風に触れられたのは、風の終わりを知っているかと言う質問返しだ。

 雨は地面に浸り、或る物は集い、水溜まりを作り、だけど最終的には、日が経てば地に染み込む、又は干乾びる。

 終わりが有るから神は終わらせられる。

 そして、風は兎も角何事にも終わりが有るから、今日と言う日は何て言うか憂鬱だ。

 別に元の世界へ帰る理由でも無い。

 だけど謝ったら―――……その後どうしよう。

 呪いに挑むか、余生を楽しむか。

 抑々後だとか終わりだとか、その辺考える前に過程を上手く繋げるかと言う事だ。

 後と言う理想を口にしたって、何時だって人生とか実験とか計画とか、トラブルやどんでん返しや裏切りが付き物だって。

 俺が謝った―――一会が許すか―――此処が不明だ。

 不明は不安だ、終わりじゃなくて続くことが不安だ、風の様だ、台風だ、嵐だ、そして何より眠い、頭の中も台風だ。

 夢だと想いたかった同衾が現実として続いてしまった。

 夢物語で終わったかと錯覚していたのに、お陰で睡眠不足だ。

 感情を知り、女を知り―――いや、だからと言って一線を画して居るさ。

 『女を知っている』については【幻想】が理論を捻じ曲げているので俄とさせて頂き、『感情を知っている』なのだから、まだまだ人間としては人間、『感情のままに』の獣じゃないさ、屁理屈か?

 良かったんだよ、一緒に寝なくても。

 だけど『だけど此処で引き下がったら男が廃る』の精神が脳裏を過り、詰まる所向きになって寝た、それだけだ。

 同衾と言って男女の夜通しなんかしてねぇ、だけど感情を知った手前、理性で制御する事、こんなにも面倒だとは……。

 緊張、興奮、妄念、開眼、身体の全てがパリピ状態で、心を無にする事が出来なくなってた。

 悟り世代と言えば無難に聞こえるし、若くして、仏道的に悟って無我の境地と言うのも良かった、ヒトとして最初完成していたのかも知れない。

 だったら無情も良かったのかも知れない、いやいや、仏道なら無欲か。

 雨にも負けずと言う詩が有ったな……そういう人に、私はなりたい。


 ってな感じで、雨の始まりを見て(今日は彼奴の苗字と同じ雨だな)と思いつつの某邸玄関前。

 屋根付きで、何方にせよ雨に当たる心配は無く、そんな扉の傍で座り込んで、雨に打たれる森の景色眺めても心はどんより、雨にも風にも負けていて、実際実体的連敗で、考え事が重苦しくなるに連れて降水量も重くなり俺は雨男だと実感した。

 まぁ雨眺めには丁度言い塩梅の強雨だ。

 音が良いんだ、何より。

 眺めより澄ませ、観賞より鑑賞だ。

「ヒツキ、朝飯が出来たぞ」

 扉を開いて、雨威力負け家主登場だ。

「応、どんな茸料理が出るんだ今日は」

「それが居候の態度か。まっ、残念だったな、献立はお前の好物じゃねぇ。今日の料理は―――」

 と、居候の襟を堂々掴んで運び込む魔女。

 案内先は、食卓。

「―――普通の和食だ」

 初日のまんま

「お前、パンとか食わないのか?」

「そして名前はメアリーサ・グリモア・ドリズルとかか?」

 いや聞いてねぇよ。

 地味に真名を我欲で染めるな。

「言っとくが私はパンを今まで13枚しか食ったことがねぇ」

 聞いてねぇ。

 何故、洋知識が基準となっているのか、まぁ魔女だからか、魔女だからな。

「不吉だなとでも言えば良いか」

「ついで飯に箸でも刺すとかな」

 連鎖で不吉だ、と言うか悪行儀、そして急に倭国に戻るな、責めて嚏をする事を配慮しろ、ブレスユー。


 ブレスユーでもブレッシングでも、『頂きます』で、朝飯を取る。

「で、俺がいつ茸を好物と話した」

 主食のヤツメウナギの身を摘まむ、上手い。

「寝言で言ってたぞ、筍より茸が美味いって」

 嗚呼美味い―――いやいや、茸も筍も美味いが、魔理沙の朝飯が美味いと言った感想で。

「それは好物ではなく比較じゃないか」

 そして火種を植える発言をするな、否定はしないが否定派が多い奴等と相対の立場を暴露しちまえば、何て言うか危ういじゃねぇか。

「じゃあ好物は何なんだよ」

「気持ちの籠った飯」

「気色の濁った奴」

 好き嫌いの無い【設定】は、俺らしくて好きだな。

 ―――中略、ご馳走様でした、美味しかったです。



【夏雨】


 良い雨だな。

 こんな終わりの知らない風とのコンボでも、俺は濡れねぇ。

 髪神と言うレインコートを着込み、歩幅速度は何時も通りだけど、内心は曇天だった。

 只謝って許される位なら、こんな事するな。

 そう言えるものだ。

 物を渡して―――も違うな、甘く見てる。

 だがそんな歌が有ったのを知ってる、良い歌だ。

「―――お待たせ」

「応、今日も綺麗だな」

「なじぇだじぇ?!」

「長い身支度だったからお化粧してたのかと」

「お前の発言に対してじゃねぇよ、身も蓋も無いっての!」

「とは言え本音だし」

「じゃ、じゃあ”あろがとう”と言っておくし」

「……?」

「真面に顔を顰めるな!」

「まぁまぁアロガの魔女さん、此方をどうぞ」

「ったく~…」

 と、頭の髪束を魔理沙に渡し雨避けにするのだが、反射で脱帽する魔理沙の動きと頭を見て、瞬時に悪知恵が働き、髪束二つ、頭部右側と左側に付ける。

「狐魔理沙」

「何遊んでんだよ……」

 ケモ耳がピョコピョコ動く。

「ブフーッ」

「もう付いて行ってやんないぞ」

「悪かったって。何したら許してくれる?」

「さり気なくヒントを聞くなっての。だがそうだな、何時だかのネクロノミコンをくれる願いを聞き入れて貰おうじゃないか」

「お前はお前で捏造するな」

「何かしてくれる事を言ったのはお前だろう。何時は今だよ。……それに私は彼奴じゃないんだし、知らないし。お前の方が付き合い長いんじゃねぇの?」

 ―――ってな感じで、不安だらけが情けなくてリアル事に冴えない男の質問に、幾度と無く、適当は無く、無視する事無く、真面目に返答してくれた魔女さん。

 答えは見付けた、後は誠意だろうか。

 雨天の中、雨傘差さず、又、雨に差されず、地から離れ浮かび空を飛び、博麗神社へと向かう。



【雨晴】


 また、此処だ。

 何度見る光景だろう、山麓から凝視する博麗神社の延々とした階段、そして大きく聳え立つ鳥居。

 この場所に来る度、何か新しい事が起こるのかもと期待と不安が胸に滾る。

 心と読み感情と書くは有ったのかと、俺はちゃんと人間だった。

 ならば人間らしく、無様を晒して、彼奴に、このワープホール規模で遠い所か将又ご近所かと錯覚する場所まで追い掛けてくれた、お節介でお人好しの彼奴に、誠心誠意、真心込めて、全身全霊全力を以て…………何だか嘘だな。

 いいや、此処は嘘みたいな嘘の思考が思考出来るからこそ一周回って本当みたいな精神で何が兎も角取り敢えずそれはそれとしてマイナス・マイナス・マイナス・イコール・プラスの意気込みで。

 雨音と考え事が喧しくも、階段の足音も聞き逃さず進んでいた。

 ―――その時だった。

「―――」

「―――」

 爆音と共に炎の柱が天高く飛び行き、大雨だった天気は、龍が雲に到達すると同時に打ち払われ、快晴を示す。

「一会ッ!」

「霊夢……ッ!」

 明らかに炎が舞い上がった地点は神社本殿とされ、尋常では無い火力と規模と速さは攻撃的で有ると認識し、急いで駆け上がると同時に、彼は最初に名前を叫んで居た。

 一早く頂上へ到達したヒツキは、惨劇を目の当たりにする。

 いや、惨くはなかった。

 惨くは無いが奇怪だ、神社は燃えている、そう、現在進行形で燃えている。

 あの火炎で灰燼と帰すだろう威力は前面高く燃え盛っていた張りぼての見せかけと言える様、だがしっかり燃えているのだから、彼女たちの安否は、叫ぶ声を耳に、目の前で発覚する。

「一会!」

 倒れていた。

 霊夢が倒れていて、一会が介抱していた。

「―――たっ…ヒノキ……!」

「何が有ったんだ……」

 魔理沙が尋ねる、唐突な炎天の理由。

「解らない……突然、建物に火が上がったのよ。霊夢は弾き飛ばされた形で、此処に居るけど……酷い火傷よ」

「一体誰がこんな事を―――って、弾き飛んだ? こんな灰燼も残さない火力で? どんな奇跡だよ早苗かよ」

 『こんな事』が起きてるこんな時に冗談が言えるとは大した肝だ。

 まぁ遠目の見物人が『こんな』呼ばわりは少々穏やかじゃないのかもな。

 茸の喰い過ぎには注意しろよ。

 ―――なんて、考えては居なかった。

「―――消せよ……」

「…えっ?」

「今すぐ神社の火炎を消せよ。水質能力者だろ」

 一会は少し震えたが、言われた通り水の能力を出す。

「雨乃岩船〜ocean RAIN(オーシャン・レイン)〜」

 一会から大津波が発生し、一気に火は消え去る。

 だがヒツキは今、内心何も考えず……否、内心が先の博麗神社の燃焼より昂り、一点の事しか考えられない程に、魔理沙以上に異の常軌を逸して穏やかじゃなかった。

「……ケホッ、ケホッ、ケホッ………!」

「霊夢っ!」

「巫女さん―――」

 霊夢の意識が戻る。

 心配に叫ぶ魔理沙。

 さりとて気が収まらないヒツキ。

「待って霊夢、今火傷を治癒するから…………”雨乃生命〜clear RAIN(クリア・レイン)”〜」

 人差し指から雫が零れ落ちる。

 霊夢に当たると同時に波紋が広がり、見る見る内に、火傷の腫れが引かない。

「嘘っ、何故で……!」

「何してんだよミズガミ」

「此れで治るのよ。怪我も病気も……でも、治らないなんて―――」

「一会のクリア・レインは一切の濁りが無い禊の水だ。その理屈で万病大怪我に効く万能薬となるが、理屈を捻じ曲げれると言えば……幻象類の力だ」

「ゲン……」

「ハァ、ハァ…ショウ…………?」

「幻象って言うのは、私達の居た世界で言う処の’異変’みたいな物よ。私の水質化能力や、ヒノキのこの髪型みたいなのが流行った事を―――」

 そして、この感覚は以前も有った。

 あの廃屋敷―――倒れる瞬間に、己の能力に過信する常識が理不尽に、身体含めて陥落した、あの感覚。

 全て、凡て、総べて、無とする不条理は、治らない霊夢の火傷と言いこの火災と言い、似ている、きっと同一犯だと、燃えているが、一向に崩れないのが良い例だ。

 魔理沙の話―――俺が倒れた後の此奴らの行動は、何と屋敷には入ってないと言い、気付いたら俺が倒れて居たと言う。

 そして建物、俺の記憶の最後は、開いた扉から内部を魔理沙がマスパして破壊したが、魔理沙曰く、屋敷は何も壊れていない。

 そう言えば入ったら扉が再生して閉じ込めやがったな、とんだご都合脱出ゲームだったぜ。

 生じる記憶の矛盾、だがその矛盾の、何も無い所がきっと、この火災事件の真相に近付くだろう。

 空間系の能力者かもとヒントすらヒントですら、何も無い現状でどうやって主犯を探すのだ、と、推測ばかりで悩んでは居なかった。

 ―――もう一度言おう、今ヒツキは何も考えては居ない。

 恩人たる’博麗霊夢’が傷付けられ、主犯を如何してやろうと怨嗟の増幅が止まらないのだ。

 左手の握り拳が震えて止まないのだ。

 一会が”幻象”の解説を終えた頃、思い出した声を消えそうにも吐き、霊夢は袖から物を出す。

「そう言えば……アンタかラ………コレを……預かっデたわ」

 震える手で藁束が差し向けられ、俺は我に返る。

「ソレは……俺の髪?」

 彼女は瀕死乍ら、顔を向けて、答える。

「アンタが……館……探索の時に……くレたから……何とか……火傷で……済んだわ………」

 怨恨の震えが、違う震えに成って居た事を、ヒツキは知る由も無かった。

 何かに体が支配され、膝が崩れ落ち、胴体から込み上げて来るモノを、必死に抑えて居た。

「ヒツキ、ありがとう。序で悪いけど、幻想郷、救ってくれる?」

 感謝の言葉を貰い、恩人の役に立てた歓喜、そして彼女の弱り切った姿への心配、恐怖を感動に、目から流れる物体が、込み上げた何かを理解させた。

(泣くな、泣くな。女三人の前で、何て情けねぇ……)

 瞬時に顔を下に向け目を左手で塞ぎ、だけど流れる物は隙間から零れ落ちる。

「たっくん―――」

 一会は名前を零す、ヒツキにとって決して許されない名前、彼の名前を。

 似ていたのだ、涙を流す時、その顔を見せまいと伏せて更に手で隠すその仕草。

 だが現状のヒツキの感情ではお構い無く、涙を拭い、霊夢の要望に、堂々と返事をする。

「今お相子だから、解決後は何かくれルんだろうなァ」

 巫女の掌に乗せられた髪の毛を挟み、両手で力一杯握りしめる。

「アンタを担いで、盛大な宴会を開いてやるわっ」

 宣言の覇気、今出せる精一杯の握り返しを最後に、彼女は再び意識を失う。

「楽しみだ……」

 髪の束を握り―――頭に戻し、はせず、もう一度霊夢の頭に髪神の束を付け、神のご加護をと―――

 立ち上がって空を見やる。

 雨雲は至る所で覆われ、又降り続けている。

 然し、この博麗神社が晴れている事象と同じように、晴れた場には、円が出来て居り、恐らく炎天の被害に遭った土地だろう。

 円空が映るあの場所は―――紅魔館だ。

 更に奥の円空は、人里だろう。

 魔理沙自身も、円空の下にどのような名所が在るかを把握し、解説する。

「………一会、あの奥の空の方に向かってくれ。人の集村が在る。俺は手前」

「何其れ。距離的楽取り? まっ、人命救助は良い心掛けよね」

「勤め先だ。困った小っちゃい雇用主と、妹と、しっかりしてそうで何処か抜けてる先輩と、しっかりとドジな先輩。後は空気と惰気」

「最後の居るの?」

 存在として―――必要性を鑑みてる理由ではない。

「まぁ良いわ、頑張りなさいよ」

「嗚呼、終わったら里に向かう」

「そうしてくれると助かるわ。人、多そうだから」

「―――夏実かさね……」

 雫から雫へと移動出来る升技、”雨乃細女〜boots RAIN(ブーツ・レイン)〜“を使う為、水を撒こうと槍を空に構えた所、ヒツキが止める。

 一会は槍を下ろし、ヒツキを背中向きで見やる。

「悪か……った、俺の身勝手で、お前の気持ち………踏み躙って」

 ―――驚いた。

 一会がそうだが、魔理沙も驚いて居た。

 此奴が不器用乍らにも、誤りに謝る行為。

 魔理沙は安心し、それ以上に一会は、だけど冷静に語らう。

「そう。成長したってのも、強ち間違いではないみたいね。稀有な事に」

 何故こんな癇と癪に障る発言が堂々と出来るのかこの餓鬼はと睨むが魔理沙、その後の発言で訂正される。

「―――私も、いや、私の方が、ごめんなさい。貴方の人生に、私が身勝手に水を差したんですもの。貴方自身が如何言おうと、私が怒るのも、筋違いよね……」

 御覧の通りだ。

 水喧嘩は雨で直るとは彼等に合っての言葉だ。

「取り敢えず今は、必ず、私達で助けましょ、この郷を」

 指で摘まむアームウォーマーを更に強く握る一会。

「嗚呼、終わったら宴会と、そうだな、次の日土産でも買ってやるよ」

 自信、そして冗談が言える余裕、覚悟、意志―――彼等には十分備わって居た。

「それは有り難いわね。後は―――……貴方の自由よ」

「応」

 彼の意思を尊重した言い放ちをしても、一会は何処か寂しそうな表情だった。

「おいおい。先住民を忘れるなよ。私だって、こう言った異変事への解決を生業とするエキスパートなんだぜ☆」

 自信と余裕なら此方も、右手をピースに、魔理沙が躍り出る。

「そうだな。頼りにしてるぜ、我がご主人様よ」

「子供を扱う如く頭を叩くな帽子を崩すな!」

 士気が高まった所で、彼らは再び空を見やる。

「魔理沙は如何する?」

「私は……竹林に向かうよ。何かしら火傷の手筈が有る筈だからな」

 一会は”人間の里”、ヒツキは”紅魔館”、魔理沙は”迷いの竹林”を目指す。

 消火活動、人命救助―――そして異変首謀者探索発見の可能性を、この広域で名所多数の幻想郷から、賭けて探し出す。

 幻想郷のルールは有事全許容だが、友達が傷付けられて黙って於く、利巧な考えは、一会とヒツキ、外界の発想には無かった。

 目的等如何でも良い、遣られた分はきっちり返してやる。



【紅炎】


 木々より上々、雨天の空を飛ぶ。

 奇妙だ、先迄晴天に包まれていたのに、土地から離れれば一気に雨だ。

 何より、何処から回ったのか、火の手が森全体に回りつつある。雨が降って消火されるだろうに、お構い無しだ。

 幻想郷だからと言って、自然の摂理まで幻想革命を発起させる等、慧音先生の寺子屋で聞いた限りは【未だ有り得ない】。

 天候がコチャゴチャした時は有ったらしいが―――飽く迄、外界でも観測されて居る余り聞かなかったり知ってたりの天候が個人の範囲で一斉に起こる異変が有ったらしい。

 だけど、矢張り、火が水に勝る現象は、出ていない。蒸発とかも有るだろうけど、結局は多勢に無勢。

 この雨量で火災が継続される事象は、異変ではなく、ならば幻象で間違いない。

 理論は空想、如何とでもなる。

 思考の末、紅魔館上空前に辿り着く。

 ……如何やら皆脱出出来たみたいだ。門前での集団を見る限り、館住民の皆々様で間違いない。間違いないが……。

「紅魔組、生きてるか?」

 燃え盛る館を前に、地上降り立ち歩み寄り乍ら訪ねる。

「ヒツキ君……ええ、皆脱出は出来たけど、お嬢様が……」

 と、吸血鬼の天敵、太陽の光を遮るべく小悪魔が日傘を差し、咲夜は、皮膚が腫れた薄意識のレミリアを抱えて居た。

「お嬢」

「うぅ…アニ、ね。アンタはしぶとくも、生きていたみたいね」

 彼女も霊夢同様、声が弱弱しかった。

「嗚呼、霊魂以て甦る悪運だからな。何が有った―――」

「私が悪いの。お部屋から出られなかった所をお姉さまが助けに来て、その勢いで崩れたベッドから、私を庇って―――」

 レミリアの妹、同じく吸血鬼の種族。

 能力の制御の効か無さから、地下部屋に幽閉されていた。

 然もその間495年と、人類なら第五世代迄生まれてるで有ろうと言う例えしか出て来ない程、気が遠く長い話だ。

 そのお陰か情緒も不安定で、本当に死にそうな姉を見て、今にも泣き出し、周辺を壊し兼ねない。

「風力増幅〜青藍出藍青(VErSus)

 左手で強風を起こし、館の炎だけ、序は辺り一片の火災を全て掻き消す。

 館の間取りを文字通り空間把握しているから解る、プラス隠れ超能力との合体技だ。

 目線を館から妹に、帽子越しに妹を撫で、しゃがむ。

「悪いのは燃やした奴だ。―――、お前は何も悪くない。寧ろ良かったじゃないか。最愛の姉が最愛の妹をその身を犠牲に助けるなんて其れは―――」

「アニ。それ以上喋ると喉笛掻っ切るよ」

 指レベルに長い赤い爪を立てる。

「……済まない。館主の敬愛の念が高まり隠せなく成った。兎も角だ、お嬢―――」

「待ちなさい。恥の上盛りをする気かいアニ。私が喋る」

 上盛りって、聞いた事ない。

「……何なりと」

「サヴァーニ=アンティビュシラ・スカーレット。このレミリア・スカーレットの名に於いて命ずる。今回の異変首謀者に、私に代わって天誅を下しなさい。良くも私と私の館と私の妹と私の友達と私の従者に手を出しやがって……」

 ちゃんと私情が根こそぎ入ってるのが、何て言うか幼き赤い月だが、故に見惚れるモノ在りだな、この人の下で働けて良かった、所詮バイトだが。

「火傷の腫れが酷い割に、結構元気そうだな」

「私は吸血鬼だよ。東洋の葬儀が罷り通る理由無いでしょ」

「ははっ、ちげぇねぇ……」

 埋葬するかは気が早く、だけどヴァンパイアは棺に限る。

 ヒツキは片膝を突き、左手を心臓に当て、右手は後ろに、頭を下げ、即ち傅く。

「受命しました。サヴァーニ=アンティビュシラ・スカーレット。紅の姓に恥じぬ働きをしてみせます」

「フフッ、頼んだわよペテン師―――」

 その言葉を最後に、レミリアは眠りに着く。

 如何やら最敬礼は偽善の物だと見て取れたらしい。

 まぁ、確かに御姉妹の喧嘩仲裁に、とてもじゃないが忠義の範疇外では有ったよな。

「ケホッ、ケホッ。斉天大聖くん、こっち来て……」

 ―――俺、そんな呼ばれ方だっけ? 好きな物語だけど……俺は”風屑魔卿”の名が有るからそっちが良い。

 取り敢えず、歩幅の狭く、遅い彼女の後を追い、レミリアの、基、友レミィの耳の届かない場所迄―――途中、息切れを起こすパチェに、結局小悪魔が付き添い、木陰で語る。

「アレでもレミィ。結構無理しててね……見て分かった?」

「それはもう。短期とは言え世話し世話になった主だ。強情張りなのは、あの痣の痛々しさで痛感したよ」

「ええ、あの火、ただの火じゃなく、陽属性の籠った火、太陽のフレアね。今回の首謀者は、恐らく強敵よ」

 一気一斉で太陽火炎を放火する能力者か、然も特定の場所を攻撃出来てるのが技量を感じさせる。

 いやでも、矢張りあの火力で完全燃焼出来て無いのは如何言う手口だ? 見せ掛けと言えば、幻想の“想”、魅了させれば具現化する。其れと同義なのか。

 其処から導き出されるのは、矢張り「此方」側の、思想家の類の仕業。

 「想」が付く熟語を模索して、『未だ出て無いの』と、『今事件の犯行手口』で消去法を取る。


 ――――――――――――【仮想】。


 この首謀者は、仮想の思想家という事だろうか。

 だとしたら、鬼の居た廃屋敷にも納得が行く。

 蒼鬼に魔力遮断や綺麗な無人の廃墟に住むと言う文献は無いし、精々出来て悪役演技、悪態だろう。

 魔力遮断は屋敷から放たれたシステム、屋敷を一個の仮想空間と称し、想い着く限りの畜生フィールドを展開した。

 お陰で己の死に目に会った。

「何にせよ、レミィに命令されて、受命した理由なんだし、私も友人として気持ちを汲み取るわ…………あの子の仇を、取って上げて」

「嗚呼、解って居る」

 霊夢、レミリア、若しかしたら他の友に向けられた火の粉からの大火傷の負傷、無慈悲、無念、理不尽、屈辱……本当と書いてガチに、此の受けた借用は、清算しなきゃだな。

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