第参拾捌話 友情と愛情~Bocca della Verità~
魔理沙との他愛もない会話で、又もや吹っ飛んだヒツキは又もや意識を失い、花を愛でる妖怪'風見幽香'に介抱されるのだが―――
【恋愛】
「何がそんなに怖いの? 少なくとも、貴方は貴方で好意を抱いた女、千人は居るでしょ?」
どんだけ気移りし易い、と言うか浮気性、と言うか何時の時代のシティーボーイ。
「そして『愛する女は一人だけだ』とか、他嘲くンだろうな……」
恋した事も無い癖に。
正直今は……いや、今でも、俺は恋に知った被りで居た。
人間を目指すと言う目標をくれて、初めて惚れたと言う女に対しても、未だにこれが恋情なのかは解らない。
ホントはただの小動物に向けた感じの対応なのだと―――自分を疑って成らない。
そんな迷走の最中、至る少女たちは迷わず俺へと好意を向ける……言っててムカつくな、自分事だけど、何て言うか死ね。
そうだ、自分を嫌い過ぎて居る―――。
自分に自信は無く、また誰かからの行為を素直に率直に受け止められず、嘘だと疑心して保険を掛けて其奴のアプローチを保留だのと後回しにする。
原点からしてそうだ。
俺が生まれたのは失恋からで、失敗からで、マチガイと言う社会世間生きる中で凡人は通る常連的屈辱。
失敗して成長するのが人間でも、余波無く連鎖で流れ来る消失の大波は思考回路をバグらせ、処理し切れず追い付かず鬱状態に陥らせる。
だがこれは至らしめるべき制裁なのだと、純粋だ何だと己に綺麗事を飾らせて誤魔化した其奴の末路は、自殺したくなる程の絶望で、自業自得だった。
その真反対と言うべき……いや、其れが誠実とも。
捻くれ、僻み、ひん曲がりでも良い。
彼奴はしっかりと持って居て、今まで見て見ぬ振りして来た悪性の部分を俺の浮彫りの性格として委ね、彼奴は文字通り綺麗さっぱり、綺麗な儘の積もりで、死と言う形で逃げた、安楽してな。
その記憶が俺には丸で他人事ではない様に在り、其の他人事にしたい記憶は心底侮蔑の限りで。
片や己も十七と言う始まり、暗雲の道を進む様に、時に出会い時に戦い―――夢事の様にフラフラと言う状態で放浪してから三年……然し死体なので歳は増えないと言う謎、意識がしっかりとしたその頃には、己自身も蔑んで居た。
自己を拒み、他人を認めれず、見えるモノ全てが、灰色よりも淀んで汚れて見えた。
道は大体がアスファルトや石煉瓦で出来て居る筈が、湿った土よりも泥濘んでいて、歩く度に気持ちが悪かった。
無情の手前だったが、気が無ければ、俺はこの自力だと人外だと思い込んで居たブレスレットの能力は使えないだろうて。
こう、武術的な気に、若しくは内面的な気に。
無情は零、零はマイナスの始まりにもなる。
だが「元々プラス」を思い込んだ人間の引き算から出た結果の零。
―――屁の理屈はマイナスの始まりだ、プラスにするには難しいと言うか、罪の重さから度し難い。
何が言いたいか、悪感情は取り入って居たと言う理由だ。
悲しみ、憎しみ、怒り、恨み、辛み、僻み、嫌悪、不安、謙遜、卑屈、虚言―――でなければ生きて行けないのが人間の質だ。
その質だけを浮かばせたのが、俺の根元で茎で花、劣情人間’陽月さくら’。
無情で在るのも確かだが、特定の感情に対して発動する、それが恋愛。
恋愛事、例えば性欲向上の展開になった場合、瞬時無情に鎮火して対処する。
其れを俺は望まないから、俺自身を拒絶して居るから。
誰かへの求愛が、不可思議に清浄、有ったとしても、俺を否定して居るから彼女への幸福を紙四十二回折れる規模で保証出来ない。
「馬鹿馬鹿しい、完璧な男なんて早々居ないわよ」
風見幽香の着衣は済んで居た。
「不足を補う、支え合うのが男女の、夫婦の在り方ではなくて? まぁ夫婦や恋仲に限った事ではないけどね」
友でも、又は家族でも。
家族か……俺は点で母親の優しさも父親の厳しさもこの身で味わった事は無いんだよな。
まぁだから感情が、だとか今は最早言い訳。
結局は男として雄として誰かを愛するか、みたいな事なんだろうよ。
「そうよね、貴方自身への好き嫌いは二の次にして、取り敢えず他人の確かな発言に耳を傾けて、実って行く『モノ』が本当なら、または一緒に居たいと、肩を並べたいと、支え合いたいと思えるようになったなら、応えられる様努力したら?」
と、椅子に座り机で両手の顎杖を突き、目を瞑って風見幽香は言う。
その机には、新聞に包まれた花束が置かれて居る。
「……そう言えば、霊夢とバトってた彼女、貴方のガールフレンドかしら? 外の世界の子の……名前は、何て言ったかしら? 苺無花果?」
「一期一会だ」
どうしたって果物。
「フラワリングマスターが花より団子なのか?」
「そんな訳無いでしょう、花は私の全てヨ?」
おっと、逆撫で発言での憤り桑原桑原。
「それは悪かったな。アンタは花持ちだとして、俺に花は居ないよ。でなけりゃアプローチに困るかってんだ」
「今ですら両手に花、いえ両手では抱え切れない程に花束を持って居るのに、贅沢且つ、チェリーなのね」
―――宿して熟れて居るのに、初心なのだ。
「まぁ名前が’さくら’だからな。その発言に文句は無い……」
「心は林檎ね、掌握には難しい位。自己への批判的難儀が無ければ未だ良い男なのに」
「話が反れたな、彼奴が何だってんだ?」
「いえね、態々幻想郷まで追っ掛けてくれた彼女に対して、何か無いのかしらと想っただけの事よ」
「無い。強いて言えば迷惑でしかない」
「喧嘩でもしたの? まぁ男女の仲色々有るでしょうね」
「男女ではなく―――ハァ……いや、俺が只間抜けなだけだよ。間抜けだから間違った」
「間の悪い男には見えなかったけどねぇ……」
「お前の誘いを断ったのに―――?」
「アレはアレで良かったでしょ? お互いに損失無しだったし」
「損を得るなら何故誘った……」
「勿論試したのよ。乗ったら乗った後―――枯らして居たから☆」
意訳:殺す。
殺生を得とする妖怪とは、さぞ恐ろしい。
他人の命を賭け、是が出れば他の利益の後に、苦痛を与えて悦と言う己の利益とする。
五分五分では有るが、幻想郷では実に合理的且つ均衡的だな。
仮に若し、彼女が既婚者なら、美人局で如何にでもなるって事だ。
まぁ、それが夫ではなく、誘惑して来た妻が命を対価に支払わせるってのも、魅力的で、矢張り恐ろしい。
……じゃあ美人局じゃないな、何だソレ―――妖怪ならではの御遊戯って事なのだろうか。
そして恐ろしさも又、新たなる恐ろしさに変えて勢力を増させる。
だから俺は未だ無情で居よう。
無情で在って、再び目的を持とう。
「―――それで、間抜けの間違いさんは、此れからどうするのかしら?」
間抜けの間違いは、間違いを第三者に一言の説教と一発のサンクションにより清算された。
そこから先は反省……。
そう、反省だ。
無情なのか有情なのかもう解らないな。
ただ劣情で在る事は解明したから、反省の本音は自己嫌悪と読むのかね。
「嗚呼、強くなる。それだけだ」
「へぇ……」
着飾る気は無い。
気持ちの問題だからだ。
一期一会という彼女への嫌悪は確かだが、それと同時に込み上げるモノが有った。
それは今は言わない、思わない、口にしない、言葉にしない。
でなければ強くなる事無く、自己解決をしてしまいそうだ。
だから強くなる為に鍛える。
気持ちは大勢だが、発言は端的に済ませ、俺は寝床から足を降ろし、立ち上がり、扉の前に立つ。
「世話に成った。また花の在る話が出来たら通うとするよ」
わき見で言葉を交わす。
「そんな事言わずとも私は花の在る所なら徘徊しているわ」
話し掛けて欲しいと言う事だろうか。
ドアノブを引く。
「ヒトの分際で妖怪の思考を計れば、喰らわれるわヨ?」
桑原パート2。
だがペース変える事無く、俺は外へ出て身体を回し、冷静に幽香の脅し文句に答え返す。
「俺がヒトなら、な……」
【星月】
外を出れば、日差しは眩しく、日を見詰める向日葵も眩しい。
風見の家から離れれば、後はどこまでも広大に向日葵で埋め尽くされている。
花を潰す様な野暮な事もしなければ、野暮にさせる程道狭しと言う理由でも無い。
散歩をする、今は何も考えない。
修行を付けて貰う事に、何ら問題が見えない。
いや、拒否された時の事も想定するべきだろうか。
幻想郷の親しき中にも礼儀有りと言うが、己にとって得の無い事を、快く引き受けてくれるのだろうか……。
と言うのも彼女たちの親近感は、矢張り問題を感じさせなかった。
俺の考えがどこまでもネガティブなだけだな。
さて、思考を捨てよう。
まぁ修行も一つの務めとするならば、ちょっとしたリラクゼーションが、この向日葵畑での散歩及び観賞なのだ。
明日から忙しい、嗚呼忙しい、掛け持ちバイトの様だ嗚呼忙しい、明日頼むの止めにしようかな。
明後日から始めるとか、何なら一週間後。
お前本当そういうところだぞ。
服の背中部分が剥がれる様な気がした。
それを危惧して足を止める。
後ろを見て服は伸びている、伸びた服は指に摘まれていた。
「ヒツキ……」
服を摘まんでいた犯人は、向日葵と言う太陽の囲いの中、乃至は真夏の日差しでも尚、陽炎でギラギラと煮え立っても尚、服装は黒さで誇り暑さに物怖じない魔法使い、魔理沙、’霧雨魔理沙’だった。
魔女帽子の鍔が傾いて、俯いて居て、彼女の顔や金色の髪は見えないが、声からして確かに霧雨魔理沙だ。
「如何した魔理沙、不老不死を求む恐い妖怪にでも遭遇したか?」
彼女とは西遊記での会話で離れた、基、離されたから、会話の内容を掘り返した。
単なる散歩を旅と見立て、お師匠たる玄奘三蔵の霧雨魔理沙、そのお供となる用心棒妖怪が俺で話して居たが、弟子の不手際、無礼、失言にて罰を受けてぶっ飛ばされた、が今朝の粗筋。
正確には先刻’風見幽香’の家で魔理沙が慌てて乱入して来たが。
「その、お前……大丈夫か……」
「ああ、喰われずに済んで居るからお前の前で大丈夫と言えて居る」
「そう言う事じゃなくてだな! ……その、あの、幽香と……し、しし、シたのか?」
ふむ、乱入、と、さもお邪魔だったみたいに事を語った。
然し現時点、失う気の無い貞操を守れた事、魔理沙が来てくれた事は、彼女には運命も操作する救世の魔法使いである事の表し。
修行の予定は三つの予定だったが、四つにしようか。
だがまぁ、彼女の返答次第でだが―――。
「俺はお前に鍛えて欲しい」
「~ッ!」
……彼女への誤解を解く事が先決だったな、うっかりうっかり。
コミュニケーションの授業を慧音先生に教わろうか、五つになったな、後一つで学校の一日時限分学べるぞ。
部活動は新聞部にしよう。
嗚呼いや待て、バイト有ったわ、帰宅部だな。
じゃなくてだな。
耳元に右手の指パッチンを聞かせ、彼女の意識を取り戻す。
魔理沙は我に返るが、見詰める此方への表情は、依然誤解の儘だ。
「阿保か馬鹿が。お前が想像している事を示唆しても希望しても居るんじゃねーよ」
考えても見ろよ現実的に。とも言い掛けたが、まぁ幻想郷なので、思考は打っ飛んで当然か……ってのも筋違いか、じゃあ黙る。
「そ、そうだよな……あっはっはっはっは」
何かコイツ……残念そう?
「でよ、何を鍛えて欲しいんだ?」
「魔法だな」
「魔法か……魔法……魔法…」
空を見上げ、俺を又もや見詰め、睨み付ける。
「お前多大に魔法使ってなかったか?」
多分今の間は、俺の戦闘シーンを見返して居たのだろう。
「アレは魔法じゃない、呪法だ」
そうだ呪法だ、長くなるからカット。
「成程、呪法か……」
「純粋な幻想郷の魔法を学びたい」
「……学ぶならもっと適性な奴が居るだろう……パチュリー、とか」
「確かに七属性を極めている彼奴なら申し分無い魔法の基礎、そして応用、深淵迄至れるだろうね。だが―――」
瞬間―――向日葵畑に風が吹き、魔理沙の帽子を花弁と共に飛ばす。
向日葵と同じ黄金、明るみに出た彼女の貌は、揺らめく彼の細長い髪と、夏飾る花と、そして何より彼の嘘偽りの無い無垢な表情、その光景を瞳に、そして心に映す。
「俺はお前に鍛えて欲しい。って、さっきも言ったろ?」
―――美しかった。
前にもこんな顔を見た事は有ったけど、アレとは別だ、別で逆だ。
―――あの時は夜だった。
月と湖の反射で、それと不思議に光る髪の毛との灯りで見えた彼の表情も、今の様に奇麗だったけど、彼の名が二元を現わし、されど『サガ』は一つでしかないのだから、その真実が途轍もなく、今も尚、改めて―――……
「そうか。お前は見込みが有る様だな。私に魔法を教えて欲しいだなんて……」
微笑む彼女に、彼も思った。
「まるで向日葵畑が奇麗の理由みたいな高嶺の花だ」
なお、彼の思いは口に乗せる。
「は…?!」
「あ」
「「…………」」
沈黙が続く。
先に言葉を放ったのは、魔理沙だった。
「え~…っと、じゃあ、私に魔法を教わるって事だから、魔法見習い兼、私の助手兼、使い魔って事で、良いよな!」
「おお、そう……使い魔?」
「そうだよ使い魔。それ位の事してくれなきゃ、師範としての立場や割が成り立たねぇっての」
「そうか。そう言うモノなのか……」
侍である彼の、剣士の子孫は吸血鬼と契約したりしてたな。
協力は強力だからな。
然し代償も有るだろう、確か彼の場合は日光が弱いんだっけか、‘黒いアルビノ’とか言われていたっけか。
アルビノ……その言葉に不穏を感じたが、何だろう、靄が掛かって思い出せないな。
妄想事は戯れの多い邪念だし、だからきっと如何でも良い重要じゃない事なのだろう。
「―――で、何か無いのか?」
「な、何かって何だ?」
「いやさ、使い魔って事だからこう契約の為の儀式だとか、証明だとか、必要じゃないのか? 魔法使い的に。口実と言うスペルだけってのも、有るには有るだろうけど、そんな流暢じゃないだろう?」
「そ、そうだな。お前の言う通りだ。召喚の際に触媒と詠唱で使い魔を呼び寄せる方法も有れば、既に現界している魔物や魔獣との契約ではある行動で使い魔契約とする方法もある」
「ふむふむ」
何か説明書を復唱したかの様な説明だな。
まぁ魔法見習いですから、基礎中の基礎、あいうえおと数字の読み書きは大事だな。
ルーン文字とかも書けるようにきっとなるんだろう嗚呼するんだろう。
「ある行動って?」
「ひへっ?! 行動は、えーっと、そのぅ……」
コレ粗雑に返答してるわけじゃないよな。
俺は別に彼女の魔術に謙遜して居る事は無いんだよ。
もし熟練度がアマチュアのプロレベルだったとしても、そこまでの過程や姿勢に敬意を表して、俺は弟子入り志願して居る理由なのだから。
彼女の友人曰く、余り突いて欲しくない地雷原らしいが。
まぁ兎も角、解らないのなら解らない者同士、お互いで助け合って行こうみたいな関係も、素敵やん。
如何しよう、初めて会った時の空雛の発言がマジになりそうだ。
取り敢えず、その素敵関係、今回の例では前提的過ぎるからちょっと此れからが不安にもなるのだけれどね。
「……に……すだ」
「え、何だって? 蝉が煩くて聞き取り辛いな」
ブレスレットで時間操作も出来なくも無い。
蝉共の経過を七日間早まらせてやろうか。
「だから、ゴニョに……ゴニョだって……」
「もしもし、いつものお元気魔理沙ちゃんはどこ行った?」
「私は霧雨だからな。お元気さとお天気はちょっとネガティブだ……」
ゴニョゴニョ具合である事に変わりないが今度は聞き取れた。
「掛詞がお上手な快晴的お返事だ。はいじゃあ先ず深呼吸して、リラァ~ックスして答えよう。それで、既存魔族の契約方法は?」
顔は俯きの魔理沙の目は右往左往に泳ぐ。
それから目を閉じ、深呼吸をして、口を開く。
「頬に……接吻…………だ………」
己も硬直するかと思ったが、だがその凍結時間は一秒掛かる事無く、間も無く溶解し、考えは纏まる。
あ~詰まる所、恥ずかったのね、と。
そりゃあ魔獣だとか人外ならまだ気楽だわ、やれば終わりだからな。
いやでも毒性の奴とかゾンビとかは却下か、生理的に。
おっと脱線……こうやって意思疎通が出来る上に同族というか、同類同種同目同科での主従関係を結ぼうモノなら方法を教える事さえ抵抗感出るわな。
「で、どっちが?」
彼女の赤面が寄り一層高まる。
エデンの園の林檎の様だ。
抑々林檎を食べたからアダムとイヴは恥を覚えたのに、魔理沙は楽園果実の味を知って居るらしい。
俺の思考は今迫真で例えたのかも知れない。
如何したモノか、相変わらずの全く、俺は冷めていた。
林檎の同類だが、梨のように真っ青だ。
信号で青信号と言われる感じの、真っ青だ。
「わ私だ。おお前は私の物になるんだかりゃら当然だろろ」
こんな主人で良いのだろうか、まぁいいや。
「へぇ~。で、詠唱とか口上は良い――――――――――――――――――――」
―――ふと、目の前に流れ星が、昼間に、目の前に、金色に輝く流れ星が近づいたかと、錯覚したら……左頬に………………………………
「――――――――――――」
今度こそ、俺は硬直していた。
然し、女版の俺に成り掛ける前兆ではない。
若しも女性になる’設定’が、『施されている理由』を述べるならば、恋とか性とか愛とかは兎に角、そう兎に角感情に於いて一最大の最上の情緒だからだ。
無情人を語って居た俺は、その情緒から抗うべく、逃げるべく、女性に変貌すると言う暗示の様なモノを掛けていたのだ。
まぁ俗世の業界には同性云々も有るのだが……。
だが人間を目指した俺にもうその暗示は通用しない。
風見幽香との会話で、逆に解れた部分も有るというか、まぁ体現し掛けた事も有るというか、まぁでも未遂だったし、その点は未だ人間到達し切れてないというか、接触してたらヤバかったというか、色々詭弁を立てたがそんなこんなで接触が有った俺は―――
嗚呼、今日はとても暑いな、風が吹いて居るのに、夏が勝って居るみたいだ。
………優しく、そして、柔らかかった、震えて居た。
「―――」
……長かった。
咲夜先輩が時間停止能力でも発動して居るのかと言う位……。
だが空間的射程範囲が有るらしい。
彼女の停止出来る時間と空間は比例して居るらしい。
……なんて、甘い、ふわふわした、幻想の現実だ事だろう。
「……ッハッ…………」
魔理沙は俺から離れる。
俺はその場で尻を付いて倒れる。
何て事だ。
俺は本当に此奴に服従したらしい。
頭が呆けて居た。
真っ白だった。
その真っ白さに寧ろ安心した、安心して、放心した。
白はカラーコードで言うと数値全てを使った、即ち最大の、全ての色だ。
別に黒を無とかで否定する気は無い。
現実的に言えば黒が全ての色を司る。
だけど此処は幻想郷、白が途轍も無く甘美なのだ。
閻魔の裁きですら白と告げられる事を聞かないとされる。
ならば矢張りどうしようもなく此れは楽園の果実の如し、甘美で賛美で褒美で全美だ。
だが其れに浸り続ける事はまた、罪にもなる。
贅沢は敵とも言われ、だからこそ楽園追放にもなり、地を這う獣に成り得るのだ。
俺は人間であるから、そして目的が有るから、魔理沙の『主従』と言う関係に、以上も以下も望まない。
そして此れも又、言語化しない、OK?
さて、本編へ戻ろう。
「……私物宣言したんだからそれが詠唱だ。解ったかバカ……」
因むと此れは後に思考した話だ。
実際は本当に間抜け面だった。
「ア、あぁ…………」
間抜けで何も考えられなかった。
只、遠い何処かでやけに蝉が煩い事を、空と大地で挟まれた真夏日に吹く風がいやに涼しかった事を、俺は記憶に刻んで居た。
あ~あ、ユイショアルマホウツカイノケイヤクギシキトワイエ、到頭やっちゃったよ。
だけどまぁ、魔理沙が最初だよなぁとは考えて居ました。しかし恥ずいなぁ~。




