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幻想の現実≠東方空界霊  作者: 幻将 彼
第伍章「青年は起き上がり、住人の目の変わり様を察した。」――有無異変.
45/62

第参拾参話 廻り巡る弐つの月が~go and do.“H Seconding”

博麗霊夢との激闘の末、体力を消耗し切ったヒツキは、幻想郷の診療所'永遠亭'にて診察して貰う―――。

【永琳】


「取り敢えず、そろそろ寝台に降ろして上げなさい慧音。その歳の男の子が何時迄も白澤娘より躯幹前にお抱えられてちゃあ恰好が付かないわよ」

「そうなのか?」

「そうと告げました」

 お年頃の野郎です。

「其れは三度済まない事をした。おんぶだと霊夢に文字通り背を向ければ良い格好の的だったからな」

「そう言う考えだったのでしたら別に良いです」

 ちゃんと先生でした、恩師此処に在りです。

「……然し、私がさり気なく話した時は気付かなかったのかと思って居たが、直に妖怪の類だと話しても一切取り乱したりしないなぁ貴様は」

 と、診察台にそっと貴様を降ろす恩師。

 ハクタク……確か中国伝承の神獣だったか。

 そんな神獣に抱えられた私。

 どんなイケメンにされるより凄い体験をしましたわ。

 役得、役得。

 即ち神獣様が美少女だったとしても、上乗せで美少女しか勝たん。

「まぁ、幻想郷生活に寄る慣れですよ慣れ。何より恐ろしいのは幼女の姿をした妖怪だ」

 ちゃんと人喰う宣言聞いたからね、金髪暗黒娘に、ツインテ鶴瓶娘。

「確かに、無力な人間にとっては脅威だな。でも彼らも無為に襲ったりはしないぞ? 私の様に人間の味方として過ごしたい奴も居れば―――まぁ貴様は外界からの刺客故、問答無用で狩猟及び捕食され兼ねんが……」

 ほらね、現在進行形ですもん、同種から。

「其れでも一応幻想郷の人と妖の生存バランスを計っての事でな。此れも歴とした幻想郷の史実なのだぞ?」

 歴だけに。

「はいはい。授業は貴女の持ち場だけにしなさい。此処は医務室、私の持ち場だから彼とのコミュニケーションは私に任せなさい」

「むぅ~、此奴との会話は『楽しい』の一択に尽きないのに此処で中断してはブツブツ……」

 本当にブツブツ言う人初めて見た。

 『もう此の侭案内人と帰って良いよ』とは言えない状況だ、野暮過ぎる。

 其れに俺との会話で楽しいだの弾むだの言ってくれるのは、一寸嬉しい。

「先生、今度は寺子屋で話そう。授業は静かに聞くもんだが」

「そうか? 貴様がそう言うのなら授業参加迄取って置くが……」

 綺麗な入り込み。

「後は自分で何とかする。あ、いや秀逸の名医なら何とかしてくれる。さっさと案内人さん所戻って、デートにも戻ってくれや」

「なっ、あの人とはその様な間柄ではないっ。問題児め!」

 ハイ、脈有りと見ました。

 そして掌返し神経で見事突き返しました。

 送ってくれた事は本当に感謝しているからこそ、これ以上俺の問題には関わる必要性は無い。

 あんな所に偶然鉢合わさなければ今も赤の他人だったかも知れない。

 だが結果、運命は俺を霊夢にぶちのめされる運命から回避させやがった。

 正に恩師、にして教師……俺が上からなのも癪障り甚だしいが、生徒の解く問題を先生と共に導き出しては成長にも繋がらないし、カンニングは駄目だよ。

 とは言う者の、何が問題なのかは点で理解してない事が問題なのだけどね。

 問題と言うより過程か……過程が解らない事が問題だ。

 まぁ今は今の問題を、結局人頼りだが解決せねばな。

「てな感じで」

「見事なあしらい方ね。貴方には言霊を宿す力でも有るのかしら?」

「そんな大それた能力俺自体には―――……元神職関係だったので無きにしも非ず」

「そう。似た者同士、同業守矢との競争再来って処かしらね」

 紅白と灰殻で何の見栄えが有んだか……。

 扨て、何だかんだ診察は始まっている。

 先ず足釣り状態全身のこの症例、聞いて解る事は当然運動神経や筋肉に関する症例だろう。

 故に名医”八意先生”は運動部位を隈なく触る。

「―――丸で地霊殿の核融合炉みたいな体温ね……」

 触る前に放射線で融けちゃうでしょその例え。

「そして貴方の筋肉は一般男性の平均を軽く下回っている質量ね。女の子みたく、華奢な体付き」

 俺矢っ張前世は女だったのかも知れない。

「そんな中、本来制限が掛かるで有ろう人間の運動能力を、無理矢理軽く限界値を超えて全身働かせ、実体が使い物にならなくなる程酷使したって処ね」

 はぁい。

「其れに寄る反動が、身体硬直、神経麻痺、筋肉圧迫。こんな忙しない駆動機械のオーバーヒートみたいな状態で今も尚、骨は正常、安定した呼吸をして、普通に喋って居るのが不思議。生死の崖っぷちで座って居ると言うのが、医者である私の見解ね」

 お~…聴診器も使わず、腕と脚に触れただけで其処迄体の異常が解る、正に天才の所業。

 お馬鹿な私は、デコに指置いただけで体温計れそう、位の予想が出来る。

「一切の不純物が無い的確な診察だ」

「有難う。でも貴方は不純物だらけの融解し掛けた状態よ。そして医学的には、残念乍らこの様な症例は無いわね」

 あらららら。

「でも強いて言えば……貴方、朝から何も食べて無いわね?」

「そうなんですよ。言葉通り空寝して起きて神社に降りれば異変扱い。食う間も惜しんだ逃走劇でしたよ」

「矢張りね。栄養失調、引いてはこんな猛暑に、然も地下に居たんでしょ? 其処で肉弾戦を始めて居ては、此れはもう”熱射病”ね」

 何なら放射病かも。

 良かった、多分治りそう症例が見つかって。

 ……熱射病って完治法有るよな?

 所で類語の『熱中症』ってお熱い言葉だよね、一文字ずつ区切って語ると黙れ殺すぞハイ黙ります。

「貴方、急ぎの用事が有るのよね」

「急ぎと言っても、巫女さんが只暴走して居て忙しないだけなんだけどね」

「そうね、此処に火種が飛んでも洒落に成らない訳だし……待ってて、って言っても動けないけど。今貴方に適した薬を調合するわね」

 待てと言われど、あ、ツッコミは要りませんでした、流石天才です。

 八意永琳は、椅子から立ち上がり、スライド式の戸棚から瓶詰めされた調合用の薬物を取り出し、ビーカーに詰め込み、混ぜる。

「薬……医師であり薬剤師ってのは、天下無双の富裕層ライフだろうな。そりゃあ何程度の能力になるんだ」

 最早程度では計り知れない。

「慎ましい生活よ。私自身が言った訳では無いけど、人里に居る”阿礼乙女”が出版している”幻想郷縁起”って書物では、如何やら私は『薬を調合する程度の能力』と記されているみたいね」

 事足りてねぇ程度。

「……阿礼乙女?」

「幻想郷の歴史を脳の記憶から継承している一家の、当主さんよ。今は確か九代目だったかしらね」

 名所は広く、有名人は主に女子で広く。

「へぇ、上白沢先生より頭良さそう」

 診察室の外から、物音がした。

「……今のは取り消した方が良いわね」

「別にサボりたい口実では無いんだけどな」



【御薬】


「さぁ出来たわよ。と言っても出来は貴方の効能次第だけどね」

 患者である俺に薬の可否を決めさせんなよ、不安に成るわ。

「冗談よ。効能に関しては保証するけど、問題は味ね」

「良薬に美味は不細工だろうて」

「それもそうね」

 「じゃあ起こすわね」からの「ゆっくり飲みなさい」と言う二言で、無言で俺、二度頷き、試験管に詰められた液体をゆっくり、傾き口内に侵入した処を飲み注ぐ。

「…………」

「………」

「…………」

「………」

「…………苦い」

「あら。でもまぁ、良薬として効果は成せたと言った処かしら」

 苦ければ何でも良薬には繋がる訳では無いだろうけど……。

「素人の分際だが、コレは如何云った薬なんだ?」

「栄養剤と筋弛緩剤を混ぜた薬よ。度が張り過ぎた身体には打って付けでしょ」

 栄養剤は何もご飯食ってないから粋な計らいでくれたとして……確かに、硬直の身では有るけど……。

「筋弛緩剤は弁舌に辛いお?」

「安心なさい。その点も踏まえて調合したから」

 頭部を避けた筋弛緩剤って、最早神の所業だろ天使か。

「今日だけで感謝のゲリラ豪雨だ。有難う先生」

「何だか多方面に有難迷惑な感謝だけど如何致しまして。身体は如何、動かせる?」

 腹筋を使って身体を起こす。

 握力を試す、腕の関節を試す。

 そして起き上がり、脚を上げる。

 筋力が元通りかの様な身動きだ。

「動かせる。お世話になりました」

「はい、お大事にね」

 椅子に座る八意永琳に無言で会釈をし、横切り、軋む床板を踏み締め、今こうして動けなかっただろう身体が何時も通り動ける当たり前の状態に感謝として噛締め、診察室出口に立ち、ドアノブを掴んだ処で動きを止める。

「…………」

 身体を翻す。

「―――お勘定は?」

 八意女医は、脚を組んで机で頬杖を立て、此方に笑みで見詰める、セクシー。

「律儀ね。別に此の侭去っても、始末屋を派遣させる様な後の祭りを起こす気は無かったのに……」

 言う限りには怖いわ、止まって良かった、俺のディスティニー。

「大丈夫よ、貴方からお金は取らないわ」

「そんな訳には行かない。色々と言いたい事は有るが、先ず仁義が通らない。払わせてくれ」

 因みに完治療の感謝と、其れに寄る当然の社会的な資本的な心情の発生と、腕前に寄るご祝儀的なのと、前者の台詞から投じた……何か後が怖い、は伏せて、仁義。

「とは言うけど……貴方、手持ちは有るのかしら?」

 ―――無い……。

 正確には残って居るけど、この診察に見合った額を出せそうに無い、何なら医療保険に入って居ない。

 幻想郷に保険が在るかは知らないけど。

「ドナー用に臓器で良いですか?」

「生きている人からは取らないわよ」

 死んだら取るんですか?

 有るんですか、臓器移植??

「じゃ、じゃあ、今は用意出来ないけど、紅魔館で働いて居るから、其処で出た、給料、で」

「具体的には幾らかしら?」

「――――――」

 ヤバい、時給が解らないし、医療費も解んないから言葉が出ない。

「嘘よ、意地悪しちゃったわね。貴方には、貴方関連には面白いモノを見せて貰ったから、其れで十分よ」

 見せて貰った、関連……さっきの慧音先生との会話か???

 天才の満悦とは変わって居る。

 いやまぁこの腕の分には儲かって居るのが妥当だろう。

 直に会える様、案内人が竹林周囲と道中を網羅して居る理由だから。

 何かこう、人間同士の情感豊かな劇場の鑑賞でお腹一杯に成るとも言われるし。

「解った。其れに甘んじて置くとしますよ。タダより怖い物は無い」

 診察の時間、栄養剤と筋弛緩剤の消費、その調合製作時間は失われた事実が有る。

「そう。幻想郷は畏れこそ人と妖の共存戒律。だからこそ、人同士、そして子供である貴方は、大人に甘えるべきよ。甘えて良いのよ」

「―――」

 彼女は見透かして居るのだろう、俺の境遇、そして生い立ち。

 天才故に考える事は、こんな事よりもっと常軌を逸しているのだろう。

 其れこそ、人類が月面着陸を果たした技術や成果の、もっと上の、太陽系惑星及び恒星のその先へ旅立つ様な、そんな神秘的領域。

 俺を創作したとされる親―――失恋を以てして心残りを”キャラ設定”に、押し付けて、こじ付けて、擦り付けて、創作したとされる愚かな若人の絶筆前の知能は、其れは其れは神域に達して居たそうな。

 そうで無ければ人一人創るなんて文字通り造作も無く、然し如何して其処で生きる為の答えを、彼は導き出せなかったのだろう。

 そうやって俺は答えの無い答えを、此れからも、此の先、此の人生、此の余生、博麗霊夢と決着を付けた幻想郷ライフで、偶に思い出して過ごすのだろう。

 そんな答えは、恐らく死に際に解る、悟りの其れなんだろうけど。

「今度こそお大事に。無償で診て貰いたいなら、其処のベッドで膝枕をして、耳かきする事をお勧めするわ」

 お姉さんキャラって、母性の塊すぎやしないか、この幻想郷。

「迷いが無ければな」



【玉兎】


 開ける。

 出る。

 回れ右る。

 一礼る。

 閉める。

 ―――扨て、出口はどっちだろう。

 屋内の案内には、兎耳生やした赤目女子高生が誘導してくれた訳だし、また彼女が出口迄送ってくれるのだろうかと、長い廊下を左向いて見渡せば、又も時間軸不明慮な場所か此処は、フラグ回収能力覿面だなと、呆れつつも人生に感化し、取り敢えず進もうと思った矢先、右から、右手から、反対の方向から、誰かが俺を掴む動作が感じられた。

「一寸一寸貴方、一体何者のなの!?」

 小声で叫ぶ者は、そう言えば回れ右った際に誰か居たな、居たようなだな、さっきの女子高生が待ち伏せていた。

 一寸でちょっとと読める事解るかね?

「何者とはご挨拶だ。俺は”陽月さくら”君だ、同級生」

「同……級?」

「お前こそ何だこの真っ昼間からバニー生やすコスプレだけに非ず、カッターシャツにスカートって。新手過ぎないか?」

「外来言語を並べても一切理解出来ないけど、取り敢えず自己紹介を述べよって解釈で良いかな」

 その通りだ、現役優等生は方程式に強いモノだ。

「私は”鈴仙・優曇華院・イナバ”と言います。”月の都”出身の『玉兎』で、”八意永琳”お師匠様の下、医学の助手を務めて居ます」

 名前何言った?

 レイセンウドンゲインイナバ??

 何だそりゃ第二階級の詠唱か???

 其れとも銃の名前か????

 剣の名前か?????

「れいせんうどんげいんいなばー」

 頭の中がゲシュタルト崩壊でゲッシュのタルトが食べたくなったみたいに、平仮名言葉で復唱してしまった。

「あぁ、まぁそう言う反応しますよね……。私の名前って、所謂『和製英名』ってヤツです。気軽に呼びやすい項目で呼んでくれて構いません」

 自分の名前を、レイセンか、ウドンか、ゲインか、イナバかで分離して項目に称させるとは―――…………増えたな。

「じゃあ饂飩屋」

「奇策は練っても小麦は練って無いんだけど―――」

 嫌そうだね。

「レイ」

「凄い親しげ。会って間も無いのに酒を一升一気酌み交わす位、友達としての距離感の近さ素早さ馴れ馴れしさ」

 何なら献杯返杯も在りだろう無しです。

「だろ。そう思うだろ?? だのに俺の合う女子は皆最初から下の名前で呼びたがる呼ばせたがる」

「いや其れは普通です」

 俺は今すぐ寺子屋に行きたい。

 お友達の距離感ってどの程度から下の名前で呼ぶの、という項目で道徳を習いたい。

「ですが……レイ。うん、とても良い響き」

 まぁ、本人が良いと言って居るんで、良しとするか。

「其れでね、ひー君。貴方が何者かって質問に対して深堀させて貰うんだけどね」

 お前もお前で中々距離感詰めるじゃん。

 まぁ詰めたのは俺からなので合わせて来たのだろうけど。

 相手が兎だけに仇名の要求を省けたよ。

 其の仇名に更にアレンジ加えるのはもう女子高生の感性だね、ウドンゲギャルだな。

「貴方が昨晩、霊夢に運び込まれた時の事よ」

「んぁ?」



【昨晩】


 私が守るもの的な誤解を招くので表記は「鈴」とさせて頂きまして、鈴曰く、昨日の夜に、俺が永遠亭に運び込まれたのだと言う。

 詰まりは廃屋敷でくたばった俺が生死を境にあの世でいざこざして居た時、時間帯的に一日前位だろう。

 二十三時間前位の、一日前位だろう。

 こう言う解説の際に夜は一日を跨ぐものだからややこしいモノだ。

 精神は何時も通りに過ごして居たとしても、肉体は現世に置いて来たまんまだった。

 その肉体が運び込まれた、そして肉体を運び込んだ相手と言うのが、今は親の仇みたく俺を絶対殺すウーマンである巫女”博麗霊夢”、そして”霧雨魔理沙”なのだと言う。

『永琳開けて!!急患なの!!!』

 其の霊夢が、とてもじゃ無く、途轍もなく、夜分遅くも関わらず、構わず、竹林を横断して、血相を変えて訪れて来たのだと言う。

 寝惚け眼だった鈴も、乱暴な扉叩きを始め、其の発言、其の音量は、怒号にも勝り、すっかり目が覚めた勢いだった。


「―――彼は今、肉体と精神が分離して居る状態に在るのよ」

 その頃、在の世で当人が実感して居る状態を、然し月の都の頭脳”八意永琳”は、寝間着の儘顔を洗い、間も無く、難無く、躊躇無く、医療道具等使う事無く、只目で見る診察と言うか観察と言うか、して、確信する。

「死んだ魂は彼岸へ向かうのが鉄則だけど……彼、ヒツキ君って言うのかしら? 其のヒツキ君が死に際に、彼自身が引き起こした防衛本能かは……そうね。恐らく此れが決定付けるのに一番説が有効ね」

 と、彼女は、異形だが質感は丸で狐から剥ぎ取った毛皮で作った新品の毛筆の様、滑らか其の物である髪の毛を撫でる。

 死体御前だが、柔らかそうだと罰当たりにも乱雑接触の欲が顔に出る霊夢と魔理沙であった。

「此の髪の毛は、護りのオーラみたいなモノで彼を包み込んで居て、此れが彼の肉体と魂を分ける原因に成ったと思われるわ」

 予想を確証として論付けるべく、魔理沙が口を挟む。

「其れなら私も見た。魂ってのは解らないけど、兎に角此奴に飛んで来る投擲武器が、跳ね返されるって言うか、その場で勢いが失せるみたいな感じにヒツキを守って居たぜ……」

 霊夢が其の存在、其の命名、其の用途の説明を捕捉する。

「確か、彼奴は”守髪神”とか言って居たわね。髪の毛の神で、あらゆる物事から宿主を護る、正に守り神みたいな。只の洒落臭くて胡散臭い信仰不名誉の愚物にも思えるけどね」

 彼女も彼女で的を射て居るから天性に寄る天才とは何とも恐ろしい。

 実際に彼女とヒツキが対峙と言う戯れの際、直に触れたのだから、完結論としては、不明なのだ。


 話は移り、突如魔法の森に建てられた、否、現れた『絶壁の廃館』での出来事について、推測する。

「貴女達の向かったとされる廃館に入る前から倒れて居た事は、何らかの影響を知らぬ間に受けて死に至る現象に陥った。其れも誰かからのと言うより、環境に寄るモノね。時間の巻き戻しも含まれて居るなら、他殺の可能性も出なくは無いけど」

 深夜で寝起きにも拘らず推理を働かせる永琳に対し、状況状態が焦燥の限りだった霊夢と魔理沙は、落着して其の時の風景を思い出す。

 自分達は、闇妖怪も混ぜ、和気藹々と夜の森の中で話して、意気揚々と門を開け、それから―――………。

 駄目だ、それ以降は漠然として居て思い出せない。

 気が付けばヒツキは倒れて居た、屋敷内のお庭中間で倒れて居た。

「……ヒツキさまは、確かお前たちと屋敷に入ったのだ……」

 闇夜に一つ灯された永遠亭の診察室―――その部屋に未だ闇夜は有ったのかと、お決まりの隅っこ、お決まりの角っこで、蹲り、佇み、座り込み、丸でこの世の終わり、闇、暗黒、絶望、悲哀、感嘆を、体質と実質で物語って居る妖怪”ルーミア”が、言葉を放つ。

「入った、って、如何云う事だ、ルーミア?」

「私達は、既に館に侵入して居たの?」

 小柄で小形の妖怪に、二人は問い掛け、ルーミアは顔を上げて答える。

「……そうだ。ヒツキさまが扉を開けた瞬間―――蒼い鬼に出会した」

 瞬間巫女が先手を決め、次手で魔女が留目にと光砲放つが、鬼は毅然として無傷。

 吹き飛ばされた事が余程癇に障ったのか、雄叫びを上げ、此方に襲来する鬼に、彼等三人が、情動的に、専門的に、日常的に、均衡的に、鬼退治を始めようと威風堂々、少し損壊した箇所が見られる館に足を踏み入れたのが運の月。

 扉が独りでに閉じられ、閉じ込められ、びくともしない扉を捻り、叩き、暫くして密閉された館、並びに彼女たちの使うマジックアイテムは不使用。

 其の困惑は、突如として息を引き取る様に其の場で倒れ込む男の方へ強く向けられ、そして招かねざる客の二人と一体は、地獄を見た。

「―――何度か地鳴りがしたかと思えば、突然パタリと止んだり、最後に大きな振動が響いて、音のが強く聞こえる方へ行けば、館の後ろの上に不自然な扉が有って、暫くして其れが開いてお前たちが出て消えて、庭の方で声がするかと思えば、お前たちが其処に居てヒツキさまは倒れて居る状態だったのだ」

 其れがルーミアの答え、ルーミアがあの館で何が起こったかを話せる、精一杯の情報。

「蒼い鬼は兎も角、館が閉ざされた瞬間にマジックアイテムの無力化、そしてこの子の絶息……。魔力や霊力と言った物と、この子の命は直接繋がって居るみたいね」

 そう、其れは丸で―――いや、八意永琳は確信付いて居た、医者が故に。

「だってこの子、何年も前から死んで居るんですもの」



【待機】


 死んで生き返る、なんて事は此の幻想郷ではそう珍しくもない。

 魔法使い、幽霊、妖精、神―――死ぬにしてもあの世へ逝くと言う意味で死ぬ事と縁遠い奴なんか、五万と居る。

 不老不死、永年長寿、エトセトラ、エクストラ。

「―――此れも又、この子の髪の毛が、其れを誤魔化して居るんでしょうね」

 そう、髪神の御加護は底知れず、否、天知れず。

 されど正体は神崩れの神獣候補の、出来損が無い未熟なる力。

 悪魔にも似た神の加護、魔力と霊力蔓延る此の郷から摂取して誤魔化して居るに過ぎない。

「……彼奴は言って居たわ。自分を、本から生まれた人間じゃない化け物だと……」

 霊夢は語る、彼と初めて出会った、その日を。

「彼奴、顔は無表情なのに、語り続ける言葉は寂しそうだった、苦しそうだった。親も居なければ頼れる奴も居ない。生まれた意味も解らなければ、人か如何かも解らないなんて、可愛そうじゃない、理不尽じゃない……」

 霊夢は……悔んで居た、己の為した結果。

 そして只一度だけ参拝に来て何でもない一方的なくだらない話を聞かされた、男の境遇を。

「言葉に水を差すようで悪いけど、其れは一般的な人の人生に於いても、人間万事塞翁が馬、何ら変わりない階段の断崖よ」

「解ってるわよ。其れでも、只聞いて『はいそうですか』で済ませ、幻想郷の環境で明日には居ない存在だなんて……見過ごせないわよ」

 博麗霊夢―――彼女は、妖怪、人間との付き合いに於いて、付き合いは在っても現実孤立無援なのだから、と言う思考の下、誰かを特に思いやる事なんて無い。

 そんな彼女が、高が昨日今日知り合っただけの男に対して、此処迄言うなんて……最早異変、永琳女医の心底は、北叟笑んで居た。

「其れで、如何するの?」

 霊夢は向かおうとする、彼の元へ。

「決まって居るじゃない。彼岸でも冥界でも地獄でも、彼奴の魂を無理矢理にでも連れ戻すのよ。約束したんだから、其の儘戻らないなんて許さないわよ」

「待てよ霊夢」

 魔理沙が行く手を箒持つ腕で塞ぐ。

「退いてよ、魔理沙」

 魔理沙は無言で顔をゆっくり横に振る。

「―――昨日、彼奴はお前に手紙を送ったんだよな?」

「其れが何よ……」

「其れはお前との約束を守れなかった謝罪の手紙だった。違うか?」

「いいえ、そうよ、そうだけど」

「なら、彼奴は約束を守ろうとした。其れを私が邪魔した。其れだけだ」

「……何が言いたいのよ」

「彼奴の事を本当に思うんなら、もう一度待てよ。少なくとも、彼奴は約束を有耶無耶にして、挙句破って、若くして天寿を全うするとは思わない」

「何でそう言い切れるのよ」

「私も約束した。そして守ろうとした」

 そう、守ろうとした。

 言葉はあやふやでも、出してなくても。

「結局守られる側に成って終ったけど……だけど、だからこそ信頼出来る」

「…………」

「もう一度信じて待とうぜ……。彼奴は何だか面倒を面倒の儘放置しそうな面だけど、きっと戻って来る」

 面で決めるな。

「……解ったわよ。全く、待たされっ放しよ、コッチは」

「なら、一早く約束を果たせる様に、今回は特別に、お前ん処の神社此奴を預けるぜ」

「アンタのじゃないでしょう……」

 扨て、巫女と魔女の腹は括れた。

「決まったみたいね。それじゃあ、もう寝ても良いかしら?」

「嗚呼御免な永琳、此奴診てくれて有難う」

「でも、お金如何しよう……」

「良いわよ。今回は特別に無償よ」

「あら、気前が良いわね永琳。何か有ったの?」

「そうね、強いて言えば―――月の御話ね」

 こうして、鬼退治一行の一人魔理沙は颯爽と家に帰し、霊夢は背中でヒツキを抱え、心配するルーミアと共に帰路を旅し、別れ、各々寝床に付いて、一日と言う永遠より長い夜を超えた。

たった一度の出来事で、彼らには奇妙な'(えにし)'在りて。

そんなわけで、第三章の東方主人公'sのその後話でした。

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