第弐拾陸話 平和の欠片~empty, humpty dumpty.
―――この物語は夏モノ語、今年の夏は過ぎても、俺の中の夏は終わらない≠病気ですねって、幻想への浸透心酔を、現実が阻害する、矛盾に相反するモノ語。
ッてな感じで、一年かけての溜め書き投稿にて、赤子の第一章から精錬されて来たでしょう第五章、開幕です。いつか第一章は非公開にしてやる。
粗筋:布団を借りて博麗霊夢と別れ、空中にて睡眠を取る事にしたヒツキ。
幻想郷で過ごして四日目が経った朝、開幕一番彼が目にしたものは―――
「お早う御座います!」
!?
「扨て仝こんな早朝から空中の間、浮遊を満喫して堂々と安眠に迄至るこの御仁! 見た感じ人間いや然し超人若しや仙人?! 何者なのかを此の夏の陽光の如く白日の下へ晒し上げたい私『文々。新聞』記者、『清く正しい射命丸』事”射命丸文”、徹底的に調査したいと存じます! ……それで、お名前は?」
何だ此奴起床第一声に。
黒い翼に赤い頭巾、カメラを首に提げて、手に持つはメモ帳と、マイクにされた万年筆。
全く何の種族で何の真似だか解らない事は無い。
ぽさから天狗、烏天狗。
そしてコレはドキュメンタリーインタビュー的な真似だろう。
幻想郷にテレビジョンなんて真新しいってか、電波全般のメディアは通って無いだろう。
カメラはカメラでも写真撮影用のカメラであり、スマホがバリ0なんだから当然っちゃあ当然、やっぱ田舎よな。
だからと言って不都合は無いけどな。
ゲームが出来なくなったりーとか、動画が見れないーとか、誰かとお話出来ないーとか、無感情の俺には抑、暇を潰すだけの物だけで有り、後は何かしら検索して調べたり位の宝の持ち腐れに過ぎん。
【取材】
「お早う御座います、射命丸殿。拙者、名を陽月さくらと申す。拙者の様な無粋な者に報道の手招き、恐縮痛み入るで御座る」
時は既に山頂を超えた朝日が顔を出し、照らして居る様で、光に寄る失明を受けない状態だ。
「あやややや、此れは此れは、見た目にそぐわず武家の出の方でしたか。実に気質を風靡させる立ち振る舞い、恐れ入りました」
此奴は何故俺のテリトリーに入れたのか、人除け妖除けと確かに設定した筈が……バグ修正零%の陽月プログラミングに要デバッグ案件が出来るとはな。
「そんな空飛んで居る奴が文字通り浮浪者に土下座に似せたお辞儀をしなくても良い。只の印象狙って的外れな挨拶だよ」
高が布団から出て正座して頭を下げただけでナニゼ武家の出なのか。
「浮遊睡眠が剣術を腰に提げた殿方と在るなら、其れはもう仙人の領域ですよ」
俺剣術を腰に提げてるの? 其れともシ……いや何でもない。
「然し如何云った経緯で、御空に布団を敷き眠る行為に到ったのですか? ヒツキさん」
この人は何方かと言うと仕事向けと言うか、まぁ今日限りのインタビュアなので、ヒツキと呼ばれなくても、別に良いか……。
「ヒツキ、と。……んぁ、呼んでた?」
「ええ! 貴方の事は博麗神社よりご存知でしたからね」
最初じゃねーか。
「ああ違います、博麗神社で眠って居た時から、貴方を知りました」
何だ其処からか、良かった。
「あの神社には少しばかりお世話になってな。まぁ此れからも御世話になるって言うか、如何も俺の歓迎会みたく宴会をやってくれるだの何の。早々顔出す為に浮浪者は御空に寝床を創りました」
射命丸は万年筆の尾に留めた蓋で頭を掻き、理解に及ばない様な表情だ。
「いえ、矢張り解らないです。泊まって行けば良かった者を、何故出て行く行動を取ったのか、と質問すれば良かったですね」
さも彼女を知って居る言い方だが、俺が知って居るのは二、三時間程度の彼女だ。
親切心が有ったとしても流石に遠慮するよ。
「二、三時間とは到底思えない程、彼女は積極的な看病でしたよ?」
彼女の看病が手が痛む大袈裟な積極性か生活習慣を崩さない程度か迄は計れずとも看病してくれたと言う事実結果だけでも大いに感謝だ。
だからと言って男女二人一つ屋根の下で過ごすのは拙いだろうよ、道徳的に。
「……それだけですか?」
これ以上必要かなんて、後は俺が彼奴を………
「言質とお見受けしました。記事が踊ります♪」
「! 待っ……」
て、と言う頃には、烏天狗の射命丸文、遥か彼方へと飛び発って居た。
「追い付ける者なら追い付いて見なさいな! 武家の殿方と言えどくノ一の様な身軽さはお持ちで無いでしょうに……!」
近くからしっかりと捨て台詞が聞こえる事、何とも非常に阿保らしい。
「黒の癖してお前も白か……」
小声で語れば、飛び行く姿は、その場で止まり、振り返り、翻るスカートを手に伏せて此方を睨み付ける。
「あやややや、どさくさに紛れて眺めないでくださいっ!」
「俺は精神削られても、お前のは減る者じゃ無いでしょうに」
寝間着のヒツキは、普段着に替わり、矢の如く飛び去る烏を捉える、捕える。
「其れで許されては閻魔も不要と言いますか、然し捏造する私が言うのも難でしょうね、降伏です。速さも力もお手の物では私は敵いません。この身体、如何ぞご利益使わせくださいまし」
逃げ台詞が近くで聞き取れて阿呆で頭も又、此処にも阿呆鳥が居た、鳥類は皆こうなのか?
「なら沽券の為に言っておくが、俺は巫女さんが嫌いだ」
あや、と、一言の驚き射命丸。
そしてヒツキは連射で続く。
「好きに成っても良い?なんて訳の分からないが誘惑にも聞こえる其の言葉で拐かした次頁じゃあ別れましょうなんて恋人ですらなかったが相互両想いで恋仲成立して居たみたいな過去を捏造あーだこーだ。兎に角、其の時のムードで男心を弄んだ行為に及んだ巫女さんなんざ俺は嫌いだ。だが恩義が有るから仕方なく参拝客として出向くだけの社交辞令で有り、俺があの場で眠って居たのは前述の嫌悪感を距離で現し、されどさっさと参拝したいからと言う効率を求めて出された結果と、拝借した布団を汚さず返すには空中が覿面だったと言う理由で、別に特別な感情を鼻から持ち合わせている訳では無いんだからね。有る訳御座いません。解ったかね射命丸文君?」
「と言いつつも、其の裏矢張り好きなのでは?」
「断じてないっ」
いやはい良い朝だよ。
饒舌働かせた分とても御目目がスッキリした。
如何云う理屈か知らんけど。
「其れは何よりで、朝に持って来いの文々。新聞、朝食のお供に如何ですか?」
成程、情報か。
幻想郷俄の俺には必要かも知れないな。
後は娯楽か、読み物は図書委員の所にも有るが、伝記も時事も、面白いモノは面白いのだ。
「貰っておこう」
「有難う御座います! では請求の方を―――」
あ、まぁ、商売よね、お金は掛かるわな。
「―――と、思いましたが、本日は初回サービスと言う事で無料配布致しましょう!」
おお、太っ……を女性に対して失言だな。
ええと……darling。
俺が言う事じゃないな、大胆って意味合いだけど。
フランソワズはそう言う意味で言ったのかな?
豪放磊落、そう言っておこう。
「其れと宜しければ、此れを期に定期購読なんて如何ですか?」
商売上手、磊落ではないかな、うん。
期が早いな。
「新聞の評価次第だ。アンタ可愛いから甘い弁舌一つでまぁ簡単に契約しそうだがな」
「あ、あやややや。弁舌は御仁に相応しい様で恐縮です」
【再会】
そして良く解った。
幻想郷は恋愛ブームらしいな。
何せメディア系列が恋バナと言うか恋愛スキャンダルに持ち込もうとして来た。
非常に騒々しいな、新聞の定期は今後の情報網の為、思案に入れておくとして、もう二度とインタビューには参加しないでおこう。
…………。
いやでもマッチ売りのメティみたいで何か申し訳無いな。
メティか、元気にやって居るかな。
神社の番人だが、今は蛻の殻だもんな。
「見つけたわよっ、ヒノヅキサクラっ!」
文屋を後に、新聞を読みながら巧妙な文面センスを感心しながら其の儘直下で地上に降りたって、ちょいと散歩してから神社へ向かおうと想えば今度は聞き覚えの在る声だ、何だ、誰だ、空雛だ。
「此処で会ったが、ゼェ…百光年目………ゼェ」
光年は距離だと堅物リーダーの腰巾着に教わらなかったのか、それとも此奴、腰巾着の後ろを回ってリーダーに直行バトルしてったか。
だが彼女がその距離以上に歩いたとのかと、レベル上げに周回で草叢グルグル走り回って居たのかと、疲弊し捲った足を支えるべく、お気に入りの鉾槍を杖にする程、彼女の遭難は続いたらしい、とも捉えられる。
そんな彼女に、俺は称賛を送ろう。
「良く森から出られたな、御目出度う」
「えぇ……本当に……迷ったわよ……もっと……褒めなさい」
「若しくは、良く森で迷ったな。空飛べば楽勝なのに」
空雛の癖に、空は司れんのな。
「余計な煽りを如何も有難う。アンタの所為でソワ姉さんにも叱られたんだから!」
添わねえさん? ……嗚呼、思想家の女将か。
「アンタの勧誘失敗って言うか殺傷未遂の件で、仕置きに感度倍増の毒キノコ食べさせられてお尻ペンペンよ!? 生きた心地しなかったわよ……」
何それ楽しそう……誰か同人誌描いてよ、あ図書委員、描いてよ。
ていうか、だから足ふらついてんの? でそれ俺の所為?
「嗚呼其れで、又もや勧誘と? リーダー戦意喪失させたのに粋な事よな。使命で絶命させかけた挙句あれやこれやと他人に濡れ衣着せる小物が」
武器を折った事と言い、上司からの叱責と言い。
「言ったわねっ?! 良いわよ一昨日はアンタの悪手で本気出せなかったけど、一日振りでもコッチは一日程度のアンタより一層空想を鍛錬して居るんだからっ!」
空想を鍛錬ってパワーワード。
「高々妄想の思想家候補を樹立させた位で、アンタこそ粋ってんじゃないわよ!」
カラヒナ、足で地を鳴らして脚を開き、腰を低くして、ハルバードの鉾先を後ろに向けて構える。
頭を空っぽにして居るのかカラヒナは、瞳孔が見えなくなり、小さく小さく息を吐く。
息を吐けば、彼女の周囲の空気も一変し、所謂ゾーン、間合い、領域が出来る。
この間逃げれば良さそうだけど、だな、あの木の陰に隠れよう。
「! 『九斬』ッ!!!」
技名を叫んだと想えば、振り返ると斬撃が飛び掛かって来て居た。
拙い、防御回避が遅れ……
広くて鋭い痛みは無かったが、この冷たくて遠くなる様な感覚を覚えている……。
又俺は死ぬのか……。
ヒツキは倒れる。
鉾槍を振り終えた空雛は、その場で姿勢を戻し、ポニーテールを首振りで払って後ろに下げる。
「如何よ、コレが私の実力よ。別にアンタが居ようが居まいが何方でも良いけど、少なくとも私の言い成り位には……」
と、空白の記憶の中、見回してヒツキを探せば、其奴は倒れて居たが、返事もしなければ、微動だにしない。
「フンッ、人を小物扱いする口程にも無いわね! アンタなんか所詮……」
微動だにしない割には、無動過ぎる。
そう気付けば、ヒツキの『髪神の守を原動力に活する死体』の情報を想い出して青褪め、心臓を確認する。
「嘘…………ウソよ。止めてよ! アンタはムカつくけど死んで欲しかった訳じゃ無いのよ! お願い起きてよ! 私、人を殺したくないっ!」
肩を揺さ振っても、死体は反応しない……。
「お願いヨ……又私を、暗闇に送らないで………」
「ガッ…、なら、頭空っぽにしてた時に考え直せっての」
「キャッ!」
驚きの余り空雛は正座から後ろに倒れ込む。
そんな事は御構い無く身体を起こす。
「な、何で生きて……」
「お前がそう願ったんだろうて。まぁ、空間規模で魔力無効の結界でも張り巡らされて居たら、流石に死んで居たよ」
魔力を削ぎ取る斬撃。
意識は面食らうが、守髪神さえ無事なら、其の場と言う頭に留まって居るなら大事には至らないって訳だ。
何より幻想郷は魔力や霊力とかの散漫した地域だからな。
補充は何とか効くって処か。
「……ハァ………」
驚きに上がった空雛の膝は、安堵で崩れて、地に脚付けて座り込む。
「………有難うな。カラヒナ」
陽月さくら、何の冗談か自ら感謝の言葉を告げる。
「なっ、何よ何時もいきなり。アンタに感謝される事なんて一つも……」
ヒツキは目線を外すと当時に右頬を掻く。
「人を殺したくないって言ってくれた事だよ。何つーか、俺は人か人形か自信が無いからさ。ハッキリ言ってくれて、其の、嬉しいって奴なんだろうな」
「ッ……ふにゅ………」
照れている。
「案外良い奴なんだな、カラヒナって」
怒っている。
「一言無駄に余計なのよ!」
と、余計を喋らない為、又怒ってしまったから何を話せば良いのか解らない為、二人共黙り込む。
【雛鳥】
風は吹き、蝉は鳴く。
程良い木陰の下だから、暑くは無い。
その後も沈黙は続き、涼やかに考え切った空雛は、最初に口を開く。
「東月さんって人がね、居たのよ」
何だ、元カノの話か?
「男の人よ。知的で素敵な人だったけど、彼氏では無かったわ」
片思いの別れか?
「確かに好きだったけど、恋愛感情に迄は至らなかったわ。歳も遠い人だったし、出来れば私は同年代プラス二歳迄が範囲だし」
マイナスは無し。
いやさじゃあ其奴は何なんだ?
「フィロノエマーの創始者よ。想の原点、探究者。其の人がね、引き籠りの一人でしかない私を連れ出してくれたの」
恩人、って訳か。
「うん、そうね。恩人よ。最初は世界の均衡の為だとかって言って物凄く胡散臭い宗教勧誘か何かかと想ったわよ。猥褻を神聖とかほざきそうな。現に修道服と僧服を混ぜ合わせた和洋折衷な衣裳だったし」
だが、良く付いて行くようになったな。
「思いがね、伝わったのよ。想の力とは又別に、説得力みたいなの。結局の処フィーリングで、改心みたいな事で想いみたいなのだけれど。彼が言いたい、私を必要とする其の思いが」
一日暗黒の中を腐って生きるより、藁に縋ってでも変われる、変わりたいと願える希望が、お前には見えたって訳か。
「うん……。確かに思想ってだけで、独創的な道徳みたいに聞こえるけど、向こうの世界”マホロバ”での、魔法の有る現実世界を魔法の無い現実世界に戻す為の建前だもの。そうすれば、きっと魔法の力で現実を迷う事は無い……」
それが、お前を導いた言葉か、そのアズマって奴の。
「うん。でも結局の処、行方を眩ませちゃって、山奥で遺品は見つかったけど遺体は見つからずで。指揮を託されたのは私だったの」
んあぁ……え、お前がリーダーだったの?
「意外でしょ? 確かにアンタの言う通り他人に叱責して情緒を立て直して崩れっぱなしの、小物よ。でも大変なのよ、社会的教育から脱した落ち零れの人間が高々数か月、想の力を宿しただけで指揮者だなんて……」
そうだな、圧倒的に指揮系統はフランソワズがお似合いだろうが、目的を達するならお前が鍵だよな、っぽく想える。
「でも解らないわよ。能力を消すだけで全世界の幻象騒動が解決されるかだなんて」
そうだな、だから何人も集めるんだろうな、月の分だけ。
「くだらない情に訴えて居るのは解って居るし、最終的には勧誘なんだけど、アナタには、やっぱりフィロノエマーに入って欲しい。思考を逆行して顕現させる想も、きっと現実を戻す力になる。能力で苦しんだアマミタクトの過去を知るアナタなら……」
確かに名案だよ、ご立派な思想其の物だ。
彼奴も苦しんだのなら、俺意外でも人が言葉を操る頃から苦しんで居る奴が居る事を俺は知って居る。
だが悪いな。
俺はもう此処に流れ着いて終った。
アンタは如何か知らねぇが、俺は戻れても戻らないよ。
「そう……アナタの背負っている物は知って居る。アナタのソレは――」
「空雛ーっ?」
遠くで彼女の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「お仲間の様だな。扨て、逆ナンされる前に去りますかね」
俺は立ち上がり、神社の有る方角へと向かう。
「……アナタは、其れで良いの?」
空雛は心配する。
「俺の人生だ。世界の復旧とはさぞ栄誉有って英雄譚になろう事。だが如何だって良い。個人は目にしても、見えない者に対してなんぞ無情だよ。悪いとは想って居る」
「そう……。アナタとは話が合いそうだから、こんなの無ければ友達に成れたかもね」
「そうかな。彼奴が居たか、俺が居なかったか、難しい気もするけどな」
「なら、幻の内に……」
と、空想の力を発動させ右手袋を外して、握手をせがむカラヒナ。
「握手とはずいぶん悪手なこって」
「何もしないわよ。それに素手だとうまく引き出せないし」
「如何かな。思想家リーダーだ。鎌鼬斬撃出す分には侮っては居ないぜ、今は」
と俺も、右手首のアクセサリーを外し、握手に出る。
「………如何したの? 早く握手してよ?」
距離感は僅か三十センチ。
彼女は根が陰キャなのか、自身からは近付かない。
「普通に握手するのも味気無いからな。先ずは握手っ、かーらーのっ」
拳を握り、促す様に手を振る。
空雛が拳を握れば、俺は握った拳を相手に向ける。
釣られてカラヒナが前に出し、拳と拳を優しくぶつける。
「コレが良いな」
「バカねっ………」
空雛は、静かに微笑んだ。
【予想】
「じゃあ、達者でね。ヒツキ」
「んぁ。お前も頑張れよ」
全く、惚れてまうやろ。
俺を一個人として見てくれた人物二人目。
其れも感謝すれば良かったな、思考する分コミュニケーションが弱いなぁ俺は。
「確かに、予め考えていた言葉とは、その場に限って出せないのが、コミュ力弱い人間の短所だよね」
!!??
誰だ? いや、この予めとか言う人の事を分かった気で居る様な発言に聞き覚えが在る……場所が場所なだけに効果が強い。
そして”文々。新聞”って一昨日、図書委員との会話に出てたな、今想い出したわ。
「こんにちは。アンタが巫女さんの言っていた、予想の思想家じゃない思想家か」
其の女性、頭がグルグルアホ毛で、色は左から7:3で水面下で見た海の色とポッピングシャワー色のショートとも思いきや、蛇の様に長い髪が交互に結われて、垂れ下がって居る。
「うん、挨拶が出来るとは感心だぞ若者、こんにちは。そうだね、確か霊夢ちゃんには予めそう話して居た。で、何て名乗って欲しい?」
何てって何だ?
「思想家たちはややこしい事に、本名と名前、そして想名と考名が在るんだよ。名前が厄除けなら、想名は厄蒔き名、考名は厄払い名」
自分で散らかして、自分で掃くのか、それは面倒な役な事で。
「そう。言わばコードネームみたいなものだね。毒になれば薬にもなり、悪にもなれば善にもなる。神の所業でも有れば、人の為す業とも。其れこそが思想家の真骨頂」
で、在れ等が名乗ったのは何だ、其の想名か、考名か?
「何方でも無い。だから名前だね。想名か考名を出す時は、本当に思想家としての業務を全うする時だろうけど、案外名前に拘り有ってか揚々名乗らないみたいだね」
まぁ、仏蘭西圏の男性名を良い感じに漢字で表記したり、夕飯を夢消える事無かれにした奴等のネーセンだからな。
……其れでも俺と言う思想家候補には名乗れよ、大事じゃないの?
「候補だからこそ、高々勧誘だからこそ、侮って居たんだろうね、彼女たちも。名乗れば君は彼女たちの玩具にされて居た事だろうね」
名乗れば容赦なく殺しに掛かるって奴か。
矢張り末恐ろしい、思想家。
独創的に聞こえる点も、能力の原点だって言う神髄も。
「まぁ私には予め考えて居た名前と想名だけは有る。でも別に想名出す程何か仕出かす理由でも無いからね。じゃあ此処は名前を名乗らせて頂くよ」
只名乗りたいだけなんじゃ……。
「そんな事無い。私は寧ろ想名の方が格好良いと想って居る。照るに赤裸々の裸々でテララだなんて、嫌気が刺すよ。マジ考案者にビー玉42731個喰わせたい」
アンタじゃないのかよ……。
「ううん、弟が考えたの。何せ私のアレやコレやをビー玉で予め詰めた行いに対して『羞恥心は無いのか』とね。で、付けられた名前が照裸々。丸裸の自分を光で照らして見せているみたいな感じ。実際照らして秘部が隈なく見える訳じゃ無いからねぇ~」
本当に赤裸々だよ。
「何故なら私は神に近し存在、アイドルなのだよ。アイドルはお花を摘みには行かなければ、裸体が凡人の目に拝観出来る訳がないのだからね。崇拝してくれ給え。幻想家も夢見る不老不死なのだよ、私は」
へぇ、そう、大分頭イってますね。
フィロノエマーで無くとも十分思想家だよね、テララさん。
「おやおや悲しいね。予め考えたピエロの様な笑わせる愚か者を演じて面白い人として印象取りたかったんだけどね。弟が君と連るんで居るからと言って、姉がお友達に成れる訳では無いのか……」
弟、誰の弟だ?
「ほら、君の団に居るでしょ? 身体の片方ハンディキャップで可笑しな装備している子」
あのエスパールか!
「そうそう、豚に真珠みたいな超能力者、私の弟でね。憎たらしい生意気な奴だが、君の世話に成って居るからこうして挨拶をと思ってね」
態々幻想郷に迄来てか?
「君こそ、あの団は良いのかい? フィロノエマーを蹴った手前、君も一人の長だが、置いて来て居るよ」
人生転生肉体転移の際、向こうの世界の事を覚悟諸共全て捨てて来た。
誰かがお節介にも想い出させる事は有るが、如何でも良い。
「そうかい……私も呼ばれる事は予め知って居た。如何も思想家を集めた異変らしいね」
何、異変だと、異変はもう始まって居るのか?
「さぁね。始まって居るのか、それとも未だプロローグなのか。予想は息をする様に出来るけど、私は不老不死と言う名の未来永劫の傍観者として、此の物語の顛末を見届けるとしよう」
本当に逝かれてやがるな。
「さっきアレやコレやと予め詰め込んだと言ったよね。偶像的不老不死の身成れど、乙女の口から申すには少々憚る予め。お陰で予想は六時間以内の曖昧な予想が限界となった」
逝かれた上に馬鹿で阿保で逝かれて居る。
「言葉が何処迄も罵詈雑言だね君は。だが私は感謝を優先するよ。粗筋と言う予想、予測、助言を述べてやろう陽月さくら君。粗筋と言うよりかは、忠告だ。博麗神社には行かない方が良いと言う心優しい村人Aが今目の前に立って居る。其れを耳にして君の取る行動は?」
右手を広げて止めるテララ、そして左上を眺める俺。
俺が神社に行く事で、今度はどんな嫌がらせが待って居るのやら。
「忠告有難う。だがアレでも恩人でね、顔を出すと約束して居る。後布団の拝借。其れと良い病院をお勧め出来ないから弟に口頭と念頭で罵られとけ」
彼女は引き留める右手を下げ、さも忠告を無視する事を期待して居たかの様に、微笑む。
「ならお達者でだ、陽月さくら君。此れから起こる事に私は一切の干渉は無く、只ビー玉を眺めて生きて居るよ……」
そりゃあ詰まらなさそうな人生だが、其れは此奴の言う予めの人生とかなんだろうな。
「精々吠え面かきな、ロクデナシ」
コレをいつ書いたんだか……。
射命丸は「清く正しい―――」とか有ったんだなって最近調べた思い出して書き直した希ガス。
フィロノエマーは、飽く迄「ファンタジー現代世界」に於ける能力元素集団みたいな奴等です。
決して宗教云々は関係有りません。独創です。




