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幻想の現実≠東方空界霊  作者: 幻将 彼
第肆章「青年は死を目の当たりにし、彷徨った。」――死生異変.
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第弐拾壱話 きらきら光るリトルスター~Dream is never end~

庭での稽古最中、魂魄妖夢より、奇想天外な提案を持ち掛けられるヒツキは、その丁度野次が玄関で響き渡り、事の一掃へと取り掛かる。

【夢幻】



 屋敷の瓦屋根を忍の如く走り渡り、飛び出しては足軽に地へと着地するヒツキと妖夢。

 良いねぇ、本家も傍に仕えて欲しいものだぜ。

 入口の扉は無慙に破壊され、吹っ飛んだ扉で巻き上げられた土煙は、不埒で不当で不貞な不敬者の姿を不詳させる。

 不の付く二字熟語で不肖を不快にするには不足だぜ、この美しき屋敷の門を土足で蹴飛ばすみたいなファンキーな事……ちょっとやってみたい。

 次紅魔館に出社したら扉を蹴飛ばしてお早う御座いましょう。

 とんでもない物を盗んでいくアルセーヌ・ルパンの隠し子の手助けとなって、以前に兎も角解雇確定よな。

「師匠、敵が見えます……!」

 妖夢が合図する。

 影は二人……俺等から見て左側の奴が先に姿を現す。

「いやぁ~、こんな綺麗な日本庭園なら、扉ぶっ壊すのは勿体無かったなぁ~…」

 スリッパみたいな厚底靴に、寝間着でナイトキャップを被った椎茸目の男口調が一人。

「仕方が有りノット。ディス世もザット世もファンタジアならば、在る事為す事オールがファンタジアにコネクトるのです」

「其の狂信染みた羅馬説法、言い訳にも聞こえるよ、姉さん…」

 続いて右に並ぶ和洋折衷、英語と日本語が混濁し過ぎて、カレービッグドッグ先生も称賛の麦藁御帽子の御嬢様が一人。

「フランソワズ……」

「How do you do Mr.ソルナ? トゥーミートキャンとはシンクませんでしたヨ?」

 淑女の様にカーテシーみたいにお辞儀を取る〈幻想の思想家〉、“風蘭想和不”。

 目の奥が闇禍々しく揺らめいて此方を睨んで居るかの様に見えるのは俺だけだろうか。

「師匠私は何方かと言うと和国に寄りがちなので、博識である師匠に他国の言語翻訳をお願いしたいのですが……」

 真剣に彼女の発言にお悩む弟子が半人。

「和洋折衷って言うか支離滅裂の言語なんぞ翻訳してはいけません。異文化交流って言うか異端化交流以ての外です」

 オカンの様に説教する師匠が一人。

「は、はい解りました師匠。相手の言葉に耳を傾けるなと言う事ですね!」

 間違っては居ないけど、正しい。

 己を世界の均衡を担う者と言って思想家と名乗って何か知らんが勧誘を掛けて来る輩、さっさと斬り捨てなさい我が弟子。

「ちょっと待てよ、アマミ! 久し振りの再会に淡白じゃねーか!」

 寝間着の奴が……………………は?

「おい、何でお前が其の名前知ってんだよ。底な和洋折衷は昨日に知って居ても、昼夜折衷のアウトドアニートなんざ一昨日にすら知り合いとして居ねぇよ」

 一昨日来やがれ。

「ハハハハッ! 恨めしい黒歴史は覚えて居ても、茶化す台詞は揃っているじゃんか! 兄貴の学生服を着て四六時中、眠た気ナイトキャップの生足JKを覚えて居ねぇってのかい?!」

「! ……あべこべ……」

 俺は知っていた、先刻魂魄妖夢の記憶を頭にインプットしたが、それ以前の、俺の創造主の記憶……忌まわしくも互いに不遇に扱われた、旧友の様な彼奴の知り合い三人組の一人。

 生活の全てがあべこべ状態の女子高生。

「ナァんだ、覚えてくれているじゃないか、嬉しいねぇ~! アンタ本当にアマミじゃねぇのかい?」

 その名前を言うな……あんな意味不明に勝手に自己中心に其れこそ何十億分の一の死でしかない愚かな一般凡罪人の奴と一緒にされたくない。

「俺は……」

 久しぶりに言葉が出なかった、何時以来だ……嗚呼、霊夢以来か、結構最近。

 だが、一生死ぬまで返す言葉が出ない気がして来た、動けない気がした。

 現にもう三秒黙り込んでしまった。

 其れ程迄にモノ語がスローリーに思考を掻き乱されて居る。


 そんな中、肩に手を乗せる感覚が有る。

 魂魄妖夢の手だ。

 此の子、正ヒロインなんじゃね? 処で俺は感覚とか気だとかを感じないと言って居たが、そう、以前なら言って居た、俺は魂から成長して居るみたいだ。

 話は戻して取り敢えず半人前の正ヒロイン候補の支えの手、そして笑顔、こんな下らない男に下らない思考が芽生えた分、とても安堵になったらしい。

「僭越ながら、彼は私が相手しても宜しいですか? 弟子の分際乍ら、されど師匠を侮辱された事、私は腹が立ちました」

 侮辱の意が有ったのだろうかね、いやだが、俺は彼女に語らずとも、きっと以心伝心が出来ると、考えの内に俺は彼女に伝える。

「頼む、任せた」

 無情の信頼はさぞや心底嬉しかったのか、此方を見る妖夢はとても嬉し恥ずかしい表情をしていた。

「はい! 任されましたっ!!」

 彼女の向く先は敵に、大きく返事が還って来る。

「若し彼女に勝ったらその暁に伴侶に迎えてください!」

 其れフラグや妖夢。

「俺が片方の成不者に勝てたらな」

 お前が勝てて俺が負ければ成立はしないし、夫にするには幻滅だろうて幻想郷だのに。

「ご謙遜を! 師匠の力は師匠と私が一番知って居ます!」

 この子はもうお嫁に行けないレベル迄お互いを知り過ぎてお嫁にして欲しいって凄い図太さ。

「其処の殿方! 男同士、罵倒での攻め合いも有ろうが、我が師匠は“陽月さくら”と言う栄光の御仁。アマミと言う三下呼称の侮蔑はこの一番弟子の女剣士、魂魄妖夢が我が剣を以て誅罰する!」

 三下呼称の侮蔑と来たか、スカッとする様な最高の罵詈雑言。

 寝間着の男は、腕の力が抜けて猫背となり、膂力で自分を指す。

「俺、これでも女なんだけど……」

 妖夢、黙り込んで顔を赤くする。

 俺は静かに妖夢に近付き、もう泣きたそう涙汲んだ表情の中、慰めに頭を撫でる。

「大丈夫、俺も最初女装が出来る男だと思っていたから」

「……はい、援助感謝します、師匠……」

 小声での会話。

 然しまぁ、本当に此処最近女にしか出会して居ないから……いや良い事なんだろよ? 全世界の美少女を偶像と崇め奉る野郎共にはさぁ、一人だけでもヒロインと見立てても夢の様な話だけど夢ならばお前はハーレムを現実には見届けれ無い。

 皮肉みたくなっちまったが、ちょっとした挨拶程度でも其れが男ならそれ位いいじゃんって処、妖夢の記憶の内で先代庭師の祖父と魔法の森近くに在った骨董屋の店主を見かけたくらいで……此れはノーカン、会った内に入らず。

 ってな感じに、やっとこさ男に会ったと思ったらやっぱ女でした、俺も俺で女難の相説が立証しそうで顔を下げたくなるわ、そろそろ。

「其れとお嬢ちゃん。俺たちの目的はあくまで其処のロクデナシだからね。嫁入り前の可憐な淑女に傷は付けたくない」

 何だこのオトコ女、正男性よりカッコいい女性への気遣い事言う。

 もう此奴男って事でカウントしていい? 駄目ですね、乙女心様様。

「でぇねぇさぁ。本当にフィロノエマーに入る気無い? 寧ろ入って欲しいって私欲投げるんだけどさぁ、メンバー美少女しか居ないからギャルゲハーレムだよ、自分? それに世界の為になる」

 要らん情報で拐かすな、そんな発言で勧誘するお前等の思考とその姿勢は一言に尽きる。

「くだらん。仲良くなろうが悪かろうが肩身狭いし、世界の均衡だのはテメェらで勝手にしろ。俺は知らない過去を擦り付ける莫迦阿呆頓間抜けの居る処に厄介に成って堪るか。お前嫌い」

 寝間着のアマは、ナイトキャップ越しに頭を掻く。

「参ったねぇ、嫌われちゃったよ。久しぶりの旧友との再会に舞い上がっちまった分、取返し付かない事しちまった。其れでも此れでも女だから乙女心が傷つくよマジで」

「この期に及んで名乗らんアマが乙女とか言うな」

「っクゥ~…ドS。ロクデナシなのは確かみたいだ。そりゃあジャパ―ニーズリスペクターの姉さんも手をバーニングする訳で……だから今も平手なの?」

「ディスイズはジャパニーズ舞にトライした結果、筋肉痛になっただけデス。でもア・リトゥ、When-Dineのワードにヒップがバーニングする程パンパンテュテュしたくなりました」

「御免なさい露出させる分其れは勘弁」

 好きだな、ソレ。

 取り敢えずあの尻を手で隠す寝間着ボーイッシュアマの名前はウェンディーネね。

 顔に似合わず女みたいな名前だな。

 霧雨魔理沙を見倣え、彼奴のボーイッシュも負けず劣らずだけどちゃんと乙女の側面見せるかんな……経過論だがな。

「By the way, Mr. solna、reallyにinの気はnothingですね? アイはyouのブローチェ・ディコでJapaneseユカタ風dressがbroke。In the forestのfull nude・humiliation、もうbride no goです。responsibility get you?」

 処でソルナさん? 本当に入る気は無いのですね? 私は貴方のデコピンで日本の浴衣風ドレスが破られました。

 森の中で全裸になる屈辱……もうお嫁に行けません。

 責任取ってくれますか?

「諄い。催眠術で誘う悪徳に、何が責任取れだ。オール・セルフ-ディフェンスだstupid bitch」

 大体は翻訳出来たが、まぁ妖夢からの尊敬の眼差しと「おぉ~」と言う開口が悪くないと言う事で、良しとしよう。

「Then, power付くで仲間にinします!」

 力任せが軽々しく仲間と言うワードを使うな。

 海賊が力で奪うは必然だがそれでもクルー同士、互いに夢在り目的有り尊重有りで仲間意識してるってのに、それマジ裏切りパイレーツまっしぐら。

「待って姉さん、彼らは武器を持って居る。ジャパニーズ・サムライ・ブレード。生身の〈想〉はちょっと分が悪いって」

 〈想〉ってのは、武器相手には無効手段なんだな、良い事知った。

「All right,ウェンディー。アイも刀でbattle wanna beでしたワ」

 フランソワズは目を瞑り手中に球体空間を作れば、時季外れも良い処、桜吹雪が極体にフランソワズの手を包み、中から日本刀が生まれる。

「幻刀『暇乞の桜吹雪』、桜の咲いていた儚き時の様に、貴方を帰結させましょう」

 それってオブラートに殺害予告っすか? って言うかもう死んでいるから成仏?

 鍔が桜の互角形花弁、峰が桜の花弁で一杯の刀身、桜吹雪の様に激しい、そして幻と言えど、しっかりとした日本刀だ。

「じゃあ、俺も!」

 勢い良く左腕を開き、眠り粉の様な、街灯を知らない星と夜空の様な物がウェンディーネを包み込めば、右腕には先端が星型の形状刃剣が姿を現す。

「夢剣『Twinkle Star wish』、そう言えば俺は“夢想の思想家”ね。姉さんからご紹介有った通り、名前は“何時Dine”って事で宜しく、お二人さん?」

 夢なのにリアルで如何するよ其の無駄に剣先過重の剣。

 て言うかカラヒナと言い思想家衆ネーセン無さ過ぎね?

 そんで何かしらの候補となって居る俺もネーセン無かったら如何しよう……。

 “一切刀[altogether sword]”、刃がカッターナイフをモチーフとした刀。

 もう片手に合切剣を持ち合わせて、装備は完成する。

「無限の一、世界を輪切る刀身、折れる刀は切れる刃、の一切刀」

 良くこの武器の通称を覚えているね、其れっぽく俺が名付けただけなのに。

 無限の一は、刃毀れで折っても刀身尽きる事無し。

 更に伸ばせば何処迄も伸びる、恐らく白玉楼の面積は容易い、味方も斬るからしないけど。

 そして此れはちょっとしたテクニカルで、折れた刃を遠距離攻撃として応用するって意味で『折れる刀は切れる刃』。

「師匠の剣技に於いて、其の一つも持たなければ完成しない、一切刀と合切剣の、三刀流剣舞“富臨香斬(ふうりんかざん)”」

 其れも俺が……紙幣に溺れた奴を、所詮は紙切れだと悟りに切り裂くって意味合いで付けただけの剣技。

 この子の記憶力が第三者側から聴いてやっぱ思想家衆並みにネーセン無いです、恥ずかしいってなる程良すぎてちょっと止めて。

「裁きこと、花の如し。カッコいいです。燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや。小さき思想に固執した彼女たちには打って付けです」

 もうそのキラキラした目で解説したり俺を称賛したり敵を罵倒したりするのは止めて、俺は俺を見失う。

「か、カッケぇ……あm……ヒノヅキは根暗成りのネーミングセンスが有ったのか」

 椎茸目を更に開かせてんじゃねぇ、ぶっ飛ばすぞ。

「アイもモーメント、トキメキかけました……however, another emotion is unforgivable」

 他の感情が許さない? 何を言って居るんだ、桜刀のお嬢さんは。

「「それじゃあ」」

「「尋常に」」

「「「「勝負っ……!!!」」」」

 妖夢はウェンディーネへ、ウェンディーネは妖夢へ。

 俺はフランソワズへ、フランソワズは俺へ。

 ぶつかる四つの刀剣が、白玉楼、恐らく冥界中に響かせた。



【夢想】


 傷は付かぬ儘、服は破けぬ儘、剣と刀の混じり合いは続き、余裕と暇を持て余したのかウェンディーネは、語り掛ける。

「ネーセン無いってのはメンバー見てると自覚できるけどさぁ、俺は未だ益しだとは想って居るんだよねぇ」

 真剣な妖夢は、突く。

「知った事では有りません。早々に斬られてください」

「釣れないなぁ。トークしようぜ、妖夢ちゃん?」

 突きを避け、大振りに縦斬りをするウェンディーネ。

「貴女と喋るより私は師匠とお話して居たいです」

 難なく横向きで防ぐ妖夢。

「うっはぁ~、妖夢ちゃんマジあのロクデナシにゾッコンじゃぁ~ん?」

「! 師匠に対してその無礼、最早微塵にしても許されません!」

「怒るより照れてよ。妖夢ちゃん可愛いんだからさ」

 未だに一本入らない事も加え、この上なく立腹絶えない妖夢。

 だが怒ってばかりで何が師匠との修行だったのかと、感情を抑え込む。

「相手が女だと解った以上、そんな世辞に拐かされたりしません」

「ちぇ~、本当に釣れないなぁ~……」

 再び斬り合いが黙々と続く。


「処でさぁ、さっきのネーセンの話なんだけど」

「未だ云うんですか……まぁ勝手に話してください」

「ありがと~、ヨウムチャンカワイイヤッタ~ン!」

「それもう良いですから」

「ああうんうんいやさ。俺って『何時』って意味のwhenって英語と、DINE……まぁコレ実意『夕食』なんだけどさぁ……綴り一文字意味込めて名乗って居るんだよねぇ」

「重要な事なんですか? 其の思想家と言う職務に於いて」

「職務って言うか、何か迷信から生まれた予言に寄る予防線みたいなモノ。彼だって本名じゃない……知って居るでしょ?」

「……えぇ、まぁ……」

 魂魄妖夢は照れている。

 其れを見てウェンディーネは微笑む。

「でね、私の其のDINEって部分は「夢は消えない」って意味を込めて、Dream is never end.なんだよ! カッコ良くない?! 何時如何なる時も夢は消えないって俺の名前! チョ~クールっしょ?!」

 間合いを開け、妖夢は一つ、ゆっくり息を吐く。

「確かに、唆られる物は有ります。正直に申し上げると、敵として出会った事が残念です」

 腰を屈める妖夢は、構えるのを止めて、本音を呟く。

「そうだね。俺も出来れば友達の第一印象から始めたかったよ」

 ウェンディーネは肩に剣の鎺を乗せ、小石を蹴る様に足を動かす。

「だが剣戟じゃあ幾らぶつけたって決着は付かない……」

「ならば、必殺をお見舞いする!」

「そうだな、決着とは必殺でなきゃ、お互い軟弱って訳じゃないんだしさ」

 煽りで事実を突き付け、剣を構え直す。

「えぇ、お喋りは此処迄です……人符「現世斬」!」

 スペルカードを発動させる妖夢、目にも止まらぬ速さで相手に斬りかかる。

『ズバン!』

 剣の防御を通り越し、腹部に命中し、服を切断する。

「! ……クゥ~…効いたぁ~…コレが弾幕ごっこのスペルカード……致命傷では無いけど凄く痛い!」

 腹を抑えるウェンディーネ、少し勝機が見えて来た。

「話変わるけどさぁさぁ、妖夢ちゃん可愛いよな! 男知ったからか、やっぱり恋する乙女は一番可愛い、俺が男だったら直ぐに告って居るね」

 陽が沈み月が登る程度変わり過ぎだと内心呆れた。

「でも現実、貴女は女じゃないですか……もう話す事は有りませんよ。先刻も言いましたが、私は早く師匠とお話をしたい」

「其れって詰まりじゃあ、男だったら良いんだ……」

 ウェンディーネは下目使いで微笑み、途端に星の霧に包まれ、相手を見失う妖夢。

 只管身体を回し、いかなる不意に打たれない様、警戒する。



「妖夢……」

「!」

 その声は先程、話して居た女狐よりとても低く、そして何より落ち着く無性の声。

 姿を現したのは、確かもう一人の曲者と対峙して居る筈の師匠“陽月さくら”だった。

「師匠……」

「さっきは励ましてくれて有難うな。お前が居なければ俺は如何にかなって居た……」

「師匠…………」

「ずっと、俺の隣で支えてくれ、妖夢……お前と共に生きたい」

「!」

 師匠の声で、師匠の姿で、若し……そう言ってくれたら、どれだけの夢心地な事だろうか。

 そう、此れはあの寝間着が仕掛けた夢現に過ぎない……。

 夢想の思想家、相手の夢を読み取り、意の儘に操る不埒者。

 だからこそ、神経を研ぎ澄ませ、尚無我の境地に達する師匠を模して告白だの偽りの感情論、事在れば師匠、師匠と精神を揺さ振ろうとする彼女に対しての怒りを刀身に乗せ、目を見開いて、師匠目掛けて斬り伏せる。

『カアァ……ン!』

「おっと、愛しの師匠斬っちゃうんだ?」

 ヒツキを斬る前に、化けたウェンディーネが現れ、防御する。

「私が精神誠意を以て尽くしたいと思ったのは、幻想の現実ではなく、現実の師匠其の人です! 言ったでしょう、女の世辞に拐かされないと!」

 力一閃で防御を崩し、もう一撃加える妖夢。

 切り傷は無かった者の、服の胸部がバッサリ斬られたウェンディーネ。

「あらら……、腹部だけでなく、胸部も斬られたか、いやはや……慢心、慢し……」

 と、台詞を言い切れる事無く転倒。

「峰打ちです。色々と修行が足りませんね、私もですが。貴女もその“想”とやらの能力も、戦いに於ける集中力も」

 説教する妖夢に、然し反省と、何故か色の無い椎茸。

「ハハハ、妖夢ちゃんに諭されるなら……誉れだよ。だけどちょっと……妬いちゃうよね……」

 剣を鞘に納める妖夢は、転倒しても尚、息切れ掛けで話し掛ける彼女に、何かを察するかの様に吐き捨てる。

「そうですか。今この時だけ情勢許されるなら、私はとても優越です」





「……なぁ~んて、想うが命取りってね☆」

 言葉通り腹の見えないウェンディーネは腹を出す……斬られた筈の服は、斬られて居ない。

 一方、妖夢は目が虚ろいで、刀を正面に構えた儘、動かない。

(スリープ・)縛り(パラルィシス)『brain lock ‘n’ roll』……ノンレムドリームを見て居るに当たってとても厄介な脳の異常事態……そう言った夢事を操作出来るのが〈夢想家〉の真骨頂だぜ☆」

 彼女がヒツキに化けた時……思想家衆の中で唯一ネーセンに拘る彼女曰く「夢に入る『アリス』」、既に妖夢は敵の手中に嵌まって居たのだ。

「思想家ってのも、神髄極めるのは楽じゃあないんだぜ。妖夢ちゃんの剣道と精神の度量は称賛するけど、修行が足りないのは半人前だけだったみたいだな」

 煽るウェンディーネは、彼女を直立状態から指一本で転倒させ、然し頭は打たない様慎重に腕で受け止め、妖夢の頭を膝に乗せて、勝利を確信に、恐らく其れを見ているであろう光無き眼を見せる妖夢に、小悪魔の様に微笑んだ。


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