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幻想の現実≠東方空界霊  作者: 幻将 彼
第肆章「青年は死を目の当たりにし、彷徨った。」――死生異変.
27/62

第拾捌話 彼岸(あのよ)の側(しま)の閻魔(ヤマ・)楽園(ザナドゥ)大王~Hades Stagger~

【雑談】



 其れからどれくらい話したのだろう、それが楽しかったのか、詰まらなかったのか、くだらなかったのか、眠たかったのか、と、長く話したかのように想われるが、四季映姫の話の後だ。

「するってぇと~、女子に会っては片っ端から口説いている訳かい? 言う感じ旨く行って居るみたいだ。続いて四季様と……粋な男だねぇ~、アタイは口説いてくれないのかい?」

 もっと言うなら、俺が女難の相だと告げた後だが、女難の相って意味何だっけ?

 粋に纏められる俺は、自分の口頭がアクティビティ且つエキセントリック且つテクニカルには想って居なかったが。

「何だお前俺に口説かれたいのか?」


 からかいの積もりだろうか、誘惑の構えを見せる小野塚子町。

「そりゃあ突然『頭撫でさせろ』って女の子に対して頼むかい普通?」

 如何やらフラグが何時の間にか立って居たらしい。

 折るのも一苦労だ、女と接する時は慎重に事を進めるとしよう、それか今後出会す事が無ければ楽なんだけど。

「あくまで、あくまでも能力の効果確認って事だ。深い意味は無ければ、俺は女難の相とは言ったが色香有る女に誰彼構わず言い寄った積もりは無い」

「色香有った事は認めるんだね」

 もうヤダこう言う揚げ足取り、死にたい死んでた。

「ま、どっちでも良いって事さね。ちょっとした好奇心さ」

 なんじゃい。

「然し四季様……う~…ん。四季さまって、唆すと如何云う反応するんだろうね、気になる」

 堅物上司の意外な一面、ギャップラーには良い萌え文化。

「ヒツキ屋、少し試しておくれよ」

 ヤダよ、て言うか俺をプレイボーイキャラとして固定しないでおくんなまし。

「四季さまは、それこそ真面目と正徳が具現化して、説教が長く兎に角柔らかい場面と言えば……宴会の時に有ったかな?」

 もうええやん、宴の酔いどれフィーバー四季映姫ちゃんで満足しとけ。

「兎に角閻魔の中の閻魔だが、見た目は緑髪少女容姿の別嬪さんだよ? 口説かない訳にはいかないって」

 別にコレ迄マジ口説キストって人相じゃないんですが、女難の相なんですマジ……アレコレ含んだソレで無く。

「……考えて於こう」

 今の処この言葉でお茶を濁すしか無かったが、いや然し、後々考えれば発言『緑髪少女の別嬪さんに性癖惹かれて居たのでは?』と、又も揚げ足の取られる事この上、下、右、左、前、後ろ、斜め斜め斜め斜め八方加えて二方の十方塞がりと勘違いを確信、お茶はしっかり抹茶味のお茶になって居たのかも知れない。



【死因】



 空間に線が引かれている中、彼女は向こう先を見やる。

 如何やら彼方に閻魔の居る法廷とか宮殿が在るとか何とか。

 本来は十王の裁きがあれやこれや、複雑な行事が仰山々と……地獄の審判は勤める側も務める側も面倒に至る行事。

 それを省いて、幻想郷は四季映姫に亡者の裁定を下す。

 更にぶっ飛ばして小野塚小町たる下級、ではなく下種、ではなく下道、でもない下階級の死神は、最高裁判長「四季映姫・ヤマザナドゥ」に、冥界に送って貰える様、直談判するらしい……凄いな、何だヤマザナドゥって。

「役職だよ。ヤマが“閻魔”、ザナドゥが“楽園”を意味するってさ。それと確かにアタイは下級で下種で下道の下階級死神だろうね」

 オゥマイボイス、呟いて居たか。

「ま、アタイも死神程度に冗談が過ぎたね、その点は詫びるよ」

「いや、此方が済まない話だ。野郎の身乍ら、小言で妖艶女に悪態付くのは実に恰好の悪い行い。男の身故胡坐だが謝礼を此処に呈する」

 男の身故胡坐だが謝礼を此処に呈する男、陽月さくら。

 其れを慌てて肩を持ち投げ返す妖艶女小野塚小町。

「おい止めなって良いんだってアタイの不徳だよ……! ハァ…」

 溜息とは、呆れに反射で着くモノだ、と言う理由でも無い小野塚の溜め息。

「全く、お前さんってそう渋い語言並べて生きていたのが本気なら、そりゃ女の烏合の衆も、冥利に尽きるってもんだね」

 誠心誠意、真心込めて全身全霊を以て、全力で謝罪するとはこうじゃないのか、渋いと来たかこんちきしょう。

 もう少し勉強しなきゃな……え、帰って巫山戯にしか見えないですか? あっそうですか。

「だが矢張り、俺が生き返る事は叶わないと言う事なのだな」

 と、冗談過ぎたと言う彼女の墓穴を掘り返す。

「あ、いやそんな訳じゃ……!! 2度も慌てふためかせるなんて、相当の口巧者だよ、オメェさん」

 否定の手振りを止めて、膝立ちから立て膝で座る小野塚、頭を掻き

「……安心しな、其処については冗談じゃなく本当だよ、本当にして見せるさ。アンタの現状、その純金の輝煌に至る清浄霊魂体質について、思い当たる節が出来たんだよ……」

 今想い付いたって話か、聞かせて頂こう。

「あくまでも仮説として聞いて欲しいが、アンタが死の直前に、無意識の内に肉体と霊魂を切り裂いたのさ」

「……………済まない、もう一回言って欲しい」

「だからさ、アンタは死んだと想われた筈が、その館の能力無効であらゆる魔素、霊脈、加護、が封じられる事を悟ったオメェさんは、自分でも知らぬ反射で肉体と霊魂を切り離して、此岸に辿り着いたんだよ」

 いやいやいやいや、確かに死の直前、俺は扉の自動閉鎖でホラー展開打って付けの仕様だなとは想い、魔理沙の十八番、霊夢の周りに浮いていた球、眠る様に力が発揮されず、そして俺も倒れると知った瞬間に走馬灯が流れるかの様にコレは死ぬなと確信したが……霊魂を肉体から切り離す?

 そんな思想的な神代展開が自発的に実現されて良いのか? 臨死体験の解明だろ、こんなの。

 生き返らせてくれるのだから、マジ大学論文で発表出来るわ。

 姉さんに頼んで作って貰おう。

 いやいやそうじゃない、だがいやいやそんな訳無いとも。

 全ての魔力や霊力が素より断線されたのだから、在り得る筈が無い、俺にそんな能力が有るとも考え難い。

 若しくは彼奴の又余計な設定が含まれて居るのか、それはもうこの混沌本を以てしても読めない設定だ。

 己の設定を確認するなんて、一つの生命体として卑怯で人間らしくない。

 こんな事何時から考えるようになった……。

「在り得ない」

「まぁ奇跡の一つって事で済ませれば良いじゃねぇか。その守髪神だっけ? さっきも言った通り、神様の類なんだから、魂の切り取りぐらい、ちょちょいのちょいだし、お陰で生き返る事が可能なんだしさ!」

 その話でも無いがその話だな。

 此奴の守りに少し目に余る光景を覚えている。

 例えば守髪神を宿す者通しの戦いにて、宿主には“神器”という武器を手にする。

 その攻撃は、守髪神の防御を最大に迄引き上げ、弾くに迄至る程力を消費する。

 その弾く事に使った力は防御に戻す迄、宿っている動物次第だがラグが生じ、手練れの者は、其処を突いて、生身に攻撃を当てる。

 正に髪神一重、重要なのは其処じゃなく、一般的な環境に寄る障害ならば、守髪神の防御を最大に迄引き上げる程の力を消費する訳が無いと説明したかった。

 今更ながら要点を導出する為の説明が下手だな俺。

 実際に説明して居る理由でも無いから、現実もっと下手だろうがね。

 混沌本の自由落下の件、俺の意識が飛びそうになった守髪神の防御の衰弱。

 落下の風圧が神懸かりの物だろうと、鳳凰の守髪神と在ろうなら、寧ろ鳥類の最上に到る幻獣種ならば、造作も無いだろうに。

 然し現状はあの時に物語って居るのだから、在り得ないが在り得る。

 奇跡、と言ったか、奇跡……奇跡ねぇ、奇跡なんて俺の装備を見て居りゃあ、日常に変わりない者だ。

「処でヒツキ屋。その屋敷についてなんだが、オメェさんは何らかの目的や理由でその屋敷に行ったとして、一人でその屋敷に赴いたのかい?」

 そうだ、異変を理由に、解決を目的に俺はアイツ等とあの屋敷へ同行したんだっけか。

 其れで想い出した、忘れていた。

 アイツに会っといて何で忘れて居たのか。

 ふと其れを鞄から取り出すと、五枚の内一枚が、色褪せて居るかの様に見えた。

「オメェさん、初めて明るい表情を見せたね」

 ん?

「そのお札に、生前での思い入れでも有るんだね?」

 俺が今、初めて明るい……何だって?

 まぁ良いや、良いやだから、悪くはない、悪い事ではない。

 幻想郷に来てから、霊夢に魔理沙たちの事を、どんな事が有り、如何思って、如何したか、俺なりに、この暇そうな死神に話してみせた。



【閻魔】



 其れからどれくらい話したのだろう……が、正に此処で使うべき処。

 小野塚小町は、他人の冒険譚に、両手で頬杖を作る程此方の話に耳を傾け、目を輝かせ、口はにやけで止まらなかった。

「俺、そんなに冗談が過ぎたでしょうか?」

「まっさか~、今日一お酒が旨い肴話だったよ。と言うか肴しか食べられなかったさ」

 そうか、まぁ弁舌で今まで乗り越えて来たね俺って。

 何故に話す前はあんなに緊張みたいなのして居たんだろうか、と言うかあれが緊張なのだろうか。

 と、俺が考える間、酒をマジに飲む小野塚小町。

「扨てと、そろそろ始業時間だ。言っても、アタイは今日非番だから、構える必要ないんだけどね」

 だから此岸に居たのか……ってのは理由にはならないな。

 でも散歩には丁度良いのか…………ん~……死神の仕事ってのは良く解らないが、やっぱり、俺が死んでから死神の迎えがルーチンワークで無かったのは疑義だな。

 偶然通り掛かった非番の死神が退屈凌ぎで休日出勤なんだ、生き返らせる提案を閻魔に持ち掛けるを合わせて、閻魔ですら俺の死に気付いて居ないのでは?

 なんて思うけど、いや、閻魔なら大丈夫か……大丈夫だよな。

「じゃ、中に入ろうやヒツキ屋。閻魔様は入ってすぐだ」

 法廷の扉を開ける死神、開けて見える空間の奥に、如何にも閻魔と思わしき威風を漂わせる帽子を被った、緑髪の少女の姿が其処には在った。

「……ん? あら、小町じゃ在りませんか? 今週は盆日だから折角死神に特別休養を与えていると言うのに……変に仕事を熟すじゃないですか」

 盆日だって? そうか、世間って言うか幻想郷でも盆日って有るんだな。

 然し其の週に死者出たら盆日中はずっと放棄って事なんだよな……うわぁ。

 おぜうは人間を御飯に喰らうって聞いたし、其の調達、基、狩人が咲夜さんとも。

 て言うか「お前は食べても良い人類?」なんて挨拶交わし躱しの結果が現在娘ポジションに成って懐いて居る妖怪が初期有ったじゃんか。

 アイツも元気にしているかな……なんて、死んだ後じゃあ元気なんて訳が無いか。

 さぁ、今この場面、ラスボスかは解らんが攻略しなきゃだな。

「後、其方の人間は誰ですか? いや妖怪……人間……」

 あ、如何も、早々に人間になりたいかどうかはさて置き妖怪人間ヒムです。

 もうそのリアクション、遠い目線が浮ついたのは良く解って居たし、慣れっこです。

「いえ失礼、人間ですね。重ねて無礼ですが、その方は誰ですか?」

「はい、彼はですね―――」

 おいおいおいおい、まさかの案の定、閻魔も俺が死んだ案件知らない事情だと……。

 確か閻魔は、生前の悪事を鏡か何かで映して天国か地獄かを決める。

 其れが無い、今の今迄彼女は俺を見て居なかった、閻魔としては何たるや。

 はぁ、予想の外れ、そして

「―――そうですか、其れは災難でしたね、外人さん。良いでしょう、最高裁判長、幻想郷の閻魔、“四季映姫”の名に於いて、特別に底な死神の提案を受け入れ、貴方を冥界送りにしましょう……その冥界の管理人である“さいぎょうじゆゆこ”に―――」

「なぁ、ヤマザナドゥっだったか?」

「それは役職名です。そして名乗っては居ませんが……何でしょうか、陽月さん?」

 鼻で息を吸い、口で息を吐く。


「アンタ、閻魔として、大した事ねぇな」

 予想外れ、そして、期待外れ。

 あの世の気温は極寒地獄並みか、俺を除く皆が、言葉一つで一瞬にして凍り付いたのを感じた。

 だが後悔は無かった、後悔等しなかった、する筈も無かった。

 俺はかの紅き館で教わった知識『幻想郷は全てを受け入れる』が、此処に来て守られなかったのだから。

 死人に口なしとは海賊の世界では言うが、目の前に居るのは全量善良の塊、正義の真骨頂、法律も介して裁きを下す道徳の真球恒星、閻魔様だ。

 それが目もくれず耳も貸さずとは、耳なし芳一も聴力を失おうが、見て呆れる程に、流石にマチガイ過ぎではないか。

 知らない、見てない、聞いてない、で全てが受け入れられていると誰が言えよう。

 その遺志たる意思を脳に刻み、口が引き攣る閻魔を見詰めた。

「こ、小町? 何故彼は、私に対してて、せ、煽情的なのでしょう?」

 言葉の震えが止まらなかった。

「さ、さぁ何故でしょう? 彼は~……忘れ去られれた、戦国武将のた魂なんじゃなないですかねぇ~……あ、あの頭ってじじじ実は兜鎧なのかも……!!」

 言葉の震え、そしてギャグみたいに汗が止まらなかった。

 多分、幻想郷史上、閻魔に逆上したのは、事例無く、唯一無二で俺だけなのかもな。

 その点は如何でも良い、後で誰でも褒めてくれてもホメオスタシス、罵ってくれてもノスタルジック。

「話し掛けて居るのは俺だ、部下に出なく俺に話せ邪真陀。オメェの発言そして器は手緩過ぎて、閻魔に程遠いって現実を突き付けているだけだってんだよ。噛み砕いて言うならショボい」

 デスクチェアに座る閻魔は、立ち上がり、全体像を見せる。

 ふむ、スカートの閻魔様とは、いとエモし。

 身長はアイツらに近しい気もしたが、全然。

 ルーミアより一、二個年上の幼女ってサイズじゃないか。

「ヤマダではなくヤマザナドゥです。ヤマザナドゥでなく四季映姫が名前です。今日会ったばかりの亡者に、其処まで言われる筋合いとは、是非理由をお教え願いたいですね……手緩いとは、閻魔に程遠いとは、如何云う訳でしょう?」

 不機嫌そうに近付く閻魔に無心に近付く死者。

 別嬪と小野塚小町は前に言ったが、俺には誰もが毛皮が減った猿にしか見得ないね。

 そんな彼女に俺が告れだって? まぁ猿発言は撤回しよう、確かに別嬪だろうね、美少女。

 ゲームだったら攻略したいキャララントップには入るだろうね。

 としても、俺に彼女は申し訳ないな、彼女に。

「先手の発言でちょっと傷付いたよ。まさか生前の俺を見て居なかったなんて……」

「見ていない……成程、貴方は生きていた頃の貴方を私が認知していなかった事に心痛めたと……?」

 今は以下省略。

「んぁ、閻魔ってのは確か、死者のエピソードをその場で映す鏡みたいなのを使って、善行の積み悪行の為しで天国か地獄かを決める、が相場だよな?」

「確かに、私の持つ浄玻璃の手鏡は、過去を映してこの法廷で採決を測りますが、続けて私からも質問します」

 はいどうぞ。

「昨日のお昼は何方に居たのですか?」

 丸でドラマ警察の取り調べを受けて居るみてぇだ。

 幻想郷の最高裁判官なのだから、流石に畏怖を覚えて無実が事実でも即行「俺がやりました」と告げそうなだよ。

「昼は紅魔館に居たな……」

 何であれ正直にアリバイを伝えるのが俺。

「矢張りそうでしたか。浄玻璃の鏡は、過去を見通すのであれば、今この話して居る一秒前、零点一秒前も過去となり、そして現状で見通せます」

 彼女が言いたい事は、定位置無用の現状監視カメラと言う事だね。

「私が昨日の昼、鏡を通して見て居たのは紅魔館でしたが、不思議な事に紅魔館を覗いても鏡に映るのは、灰色の砂嵐だけでした……」

 彼女が先に言おうとして居る事は凡そ予想出来た、凡そと保険は取っときます。

 それは丸で―――

「丸で貴方が紅魔館に居た事で、鏡の力を発揮出来なかったみたいな言い訳にも聞こえるが、閻魔と在ろう者が人みたいな意見は以ての外、図々しい。生きているだけで周囲に害を及ぼす、其れこそ今日会ったばかりの他人に対してテメェが言うとか、道徳なんざ犬を殺した亡者に食わせちまえ。そして何よりもの要点はアンタが俺を今この瞬間会う迄、存在自体把握して居なかったって事だ。報連相が怠って居たって事だ。ソレで閻魔が務まるのか。万人を裁けるのか。正しさを導けるのか。閻魔は絶対にして個、己が正義と高台に立て。悪いが特例とかで部下の意見に流される程度には、閻魔は容姿から順応していないぜ、お嬢ちゃん?」

 片眼が引き攣るお嬢ちゃん。

「良いでしょう。貴方の言う“己が正義の高台に立つ閻魔”に対する無礼、侮辱、不躾。貴方が幻想郷の一住民としての発言であるなら、法廷を開き、審判を下しましょう………」

 口元を笏で隠し、息を整え、笏を天上から、思い切り此方へ振り下げるお嬢ちゃん。

「貴方は黒です! 折角の好機を、良心を、慮りを無駄にし、無下にし、剰え他人の失敗を苛虐な叱責で罵るとは、「他人の為に叱る」の度が過ぎます! 寄って灼熱地獄行きとし、その自分の在り方を毎日懺悔なさい!」

 閻魔を見下す死者、腕を組む。

「ほぉ~? テメェの失敗は棚に上げて俺の失敗部分は地獄へと陥れ申すか、ハイ宜しいでしょう……で? 言葉一つで如何やって俺を地獄へ叩き落す?」

 脇を開け、手を開け、口を開け、己ジェスチャーを見せる俺に、戸惑う閻魔。

「なっ……私が貴方を、貴方自身が地獄へと指名したのです! 貴方は貴方の足で地獄へと歩を進めなさい!」

「嫌なこった、容姿のcomplexで裁判する閻魔様の意見なんざ聞いて堪るかってんだ」

「何なんですか貴方は最初から!? 人に道徳だの正しさだのと突き付けて於いて自身は其れに準じようとしない!」

「何なんですかってそりゃあ、少し頭の現実味の(おかし)い人間ですけど? えぇ、怠慢も有ればご期待に添えられない平凡に生きる何処にでも居る人間ですよ? 処で容姿については否定されないと言う事で詰まり自分が容姿にcomplexを抱いているんで宜しいですね?」

「抱いて居ませんし私情で裁判も行って居ません! 人に怠慢は有っても今はさっさと立ち上がりなさい! 寝っ転がってはしたないです!」

「御母ちゃん、実を取って、名は捨てて良いから」

「誰が母ですか!?」

「じゃあまんまロリっ子だな、見た目通りロリ、閻魔ロリ、ママロリ?」

「ロリロリ執拗い! ロリでは無くこう言う見た目で実際はもっと……って女性に何発言させようとして居るんですか!」

「気にしてない」

「私は気にして居るんです!」

「知ったこっちゃない」

「ならば道徳は何処行く風ですか?!」

「その前に彼岸に風って吹いて居るの?」

「質問を質問で返さない!」

「もう何回も聞いたわソレ」

「聞かない様、努力をしろ!」

「処で見た目について今気にしました?」

「質問を亡者にしないでください!」

「いやだって論争の風に流されましたし……」

「なら周りを飛び交って居るでしょうが!」

「質問を亡者ってその例えオフィスジョークですね解ります」

「勝手な見解をするな!」

「でも事実でしょ。俺が渡る時、結構川に霊魂埋まってたぞ」

「だからこそ私が閻魔として明くる日裁いて居るのです!」

「でも俺は裁けてないよね」

「裁いたでしょたった今! 焦熱地獄逝きと私は断罪しました!」

「いや閻魔がそう仰るのは解りますが、だからってソレ強制力無くね?って話」

「思えば何故彼は反論して居るの……?! ええいもう小町、彼を力づくで連行しなさい!」

「ええいもうって自棄を漏らす奴初めて見たわ」

「くだらない点に揚げ足を取って初見の感想述べないでください亡者!」

「己的にくだらないとは想って居るのな」

「えーと、でも四季様? 一応アタイは不幸な彼を現世に送り返すべく参上した理由であって―――」

「口を出さずに亡者を追い出せ舌を出さすぞサボり死神……」

「死神の立場で不幸で見立てるな黙って立って居ろ死神……」

「はいぃ~…」

「くだらないのは貴方の思考。貴方がどんな存在で在れ、生き返る事が出来たのに何故貴方は自ら愚行を働こうとするのですか!?」

「愚行だろうが其方は俺がどんな存在だと向こう見ずってのが許されねぇっておめぇらが愚行だ。確かに死人が生き返れる事どんなラッキーだって、幾星霜、星の数と居る罪人が蜘蛛の糸に縋って天国に行きたい位で欲しがる其れを与えられて、生き返った其奴は五分の魂なのではと幸運度を疑うだろうが、幻想郷何でも在りき、されど死は、どの倫理でも受け取ったらそれ以上は無い」

 そう、長らく台詞ばかりの戦争だったが、死すればもう何も無いのだ。

 其奴は居ない、居ない事にしなくては行けない。

 その倫理を覆して生き返らせた結果、神レベルの所業は人では扱え切れずに、別途で後悔した愚か者を俺は知っている。

 確かに彼女たちは閻魔だとか死神だとか打っ飛んだ幻想生物のテンプレ上位個体だろうが、然し対象は人と、人間と、そう称してくれている、不特定多数十人十色、事偶数奇数単位で馬が合ったり、相容れないと複雑で極まるちっぽけな存在だ。

 人の理を外して再び世界と相まみえた処で、其れを万人が受け入れるだろうか。

 違う、違う、間違う、間違う過ぎている。

 受け入れるべきは、何時何処だって無なのだ。

 失くしたり、亡くなったり、見当たらなくなって泣きたい気持ちは有るだろうが、何れ受け入れなければ行けないのが無なのだ。

 夢を無と表すのも詰まりは、現実を受け入れろって事だ。

 ……そうか、じゃあ何故俺はあの時、其の選択をしてしまったんだろうな。

「だがな、生き返らせてくれるなら其れは其れで別に良い。今はお前らがこうやって失敗してくれたから、再び揚げ足取り、蘇生の為の交渉材料にはなる。何より幻想郷だ、何でも在りき、授受回避不可避なら、尚の事そうしやがれ、然し筋は通せ」

「何が仰りたいんですか」

「反応が鈍いな。母親のくだり、名を捨てて、実を取れって話だろうが」

「だから何が仰りたんですか!」

 本当に鈍い奴だと、何時の間にか涅槃仏の体制を止めてから胡坐を掻いて、胡坐を掻いた状態から交差している足の筋肉に力を入れて立ち上がり、


「だから言うも何も、不手際有ったんだから『ごめんなさい』でしょーがっ!」


 俺は滅多叫ぶ事は無い、と言うか叫ばない。

 死人だからのはっちゃけ? 魂のみだからの虚勢? コレが本当の心からの叫び? 魂のロックンロール? 未だ引き摺って居たんだこのネタ。

 その叫びが殿内を木霊し、その言霊を全て閻魔の方へ収集させた。

「………ッ!! ご……」

 震える閻魔は、怒り浸透手前の苛立ちではなく、本当に、いやマジ本当に、親に叱られた子供の縮まりの様に、腕は降ろして拳が挙がって、顔を下に下げていたが、心を落ち着かせる為、深呼吸をし、手を真っ直ぐに膝横に付け、

「この度は、此方の不手際により、対応を疎かにしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」

 九十度の最敬礼を、閻魔はその場で見せた。

「ちょ、ちょっと四季様ッ……、仮にも相手は亡者ですよッ……? 他の亡者や死神に見られては……」

「いいえ小町、外来人の死者で有れ、気配遮断が施せる能力者で有れ、我々が彼の死を見逃し、正当な裁判を無下にした挙句、死者を生き返らそうとした事実は、外道に位置する道理です。そして其の全責任を背負うのは閻魔として当然の役目、当然としての善行よ」

 謝罪態勢の儘、上司は部下を説得させる。

「そうだ。個体、地位、態度、どんなデカい奴でも、失敗や間違いにケジメは着けなければ行けない」

 今回は、只謝って欲しい。

 そんな簡単な責任の遂行を、如何してこうまで大袈裟に言い争ってまで遠回りしてしまったんだろうな。

「少々上から物言う具合が気に入りませんが……」

「滅相も無い、俺はあくまで正しさとマチガいに従順なだけだ。中立を目指す平均的な平衡主義……」

 そして、マチガイを犯した愚者は膝を床に着け、膝の前に掌を並べ

「この度は、能力に寄っての御社への業務妨害、それに伴う罵詈雑言、紆余曲折な論争の発端、御社の例外優遇への断固拒絶を働いてしまい、誠に申し訳御座いませんでした」

 土より下にて座る、して土下座。

 見た目若干幼女の閻魔に対して、阿鼻地獄より下に落ちそうな男の決意。

 コレを見て隣に居た死神が何より驚きに口を開く。

「本当アンタ、掴めないね。男の矜持で土下座はしないんじゃないのかい?」

「あン時は、点で重くは無いと想って居た。非が有ったのは先ず其方からだったとも想って居た。何方かと言うと友人に近しいとも想って居たので、寄って胡坐での謝罪だったが、鬱陶しいならソレも含めるが?」

 死神は鎌を持ち乍ら腕を組み、片眼開きで鼻息を吐く。

「いや、良いよ。行動が最底辺なら、全て上回っちまうモンさね」

 優しいな、死神って。

「……ッ、お前さん本当そう言う所だよ……」

 ヤベッ、声に出して居たか。

「二人で何をコソコソ喋って居るのですか?」

 最敬礼体制から、口元を笏で隠す閻魔の成りを、威厳を戻す四季映姫・ヤマザナドゥ。

「中立と言うなら私こその立場です。心意気は認めましたが、矢張り貴方の説法には―――そう、あなたは少し無駄が多すぎます。序に小町も共に其処に正座しなさい」

 コレ長くなる奴だよ……と、座り混じりに死神はアドバイスをくれる。

 それで良い、俺には閻魔を虐げるなんて幻想郷が現実に飛び移る位、前代未聞の異変を起こしたのだから、その頃現世は卯の刻、正午迄説教を聞かされても、渡り賃で御釣りが出る位は安い物だった。


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