第拾伍話 幽閉されては、さて正道(らいと)~capture~
化物の巣窟、そして魔力無効の屋敷だったその場にて、"陽月さくら"は命を落とす。
死体と言う死なせたくない枷を、どうにかして運び出し脱出を試みる二人だが……
【死亡】
―――“陽月さくら”が、倒れた……!
「ヒツキ!」
話し掛けて来たかと思えば、反射で振り向く頃には倒れ掛かって居た。
その瞬間、博麗霊夢だけは悟った、此奴は死んでしまうと……。
運命は変えられなかったのだ。
「ヒツキ! おい! 返事しろよ! ヒツキ!!」
真っ先に彼の傍へ近付いた魔理沙は、幾ら肩を揺さぶっても、返事はしないし、動かない。
其処に居るのは、魔力を失い、生命を失い、元より生物としての権限が無かった、死体に過ぎないのだから。
「無駄よ、魔理沙。其奴はもう……」
その先を言おうとしたか躊躇ったか、即座に魔理沙は霊夢を睨み付け、立ち上がり近付き、リボンを掴む。
「受け入れろってか、幻想郷だから……」
そう、突如現る謎の屋敷も、其処に佇む蒼い鬼も、益してや魔力封じで息絶える青少年も、其れは現れたのだから、授受する。
だが其奴にだけは、魔理沙は授受出来ない。
「此奴の髪が本当に神様なら、死んでもきっと守ってくれる筈だ。巫女が神を見縊ってんじゃねーよ!」
短絡的で、ヒツキには無い感情が籠った怒号だけかと思えば、魔理沙は魔理沙なりに思考していた。
自分が死んでいる[設定]。
設定……又は天性と書き替えられたし。
何故死んで居たのかは不明だが、彼奴の身体に触れた時……実際は触れたのではなく、触られたとも……森の湿り気さや暑さが吹き飛んでしまう程に冷たかった。
だから此奴の言って居る事は正しいんだろうと。
そして異形たる、魔理沙見込み狐の型を取った、髪の毛の神様が消えた事。
髪の毛の神様はその身に宿った、主を守るとも話して居た。
死体が生きるには、若しやこの髪、基、神が関係して居たのでは?
「それに外来人でも、魔力関係の奴でも、こんなあっさり死ぬなんてあんまりじゃねーか……」
神が人を見捨て、死人に口なしとは巫女のやる事かと、もうそれで諦めるのかと、それに腹が立ち、彼女を怒鳴り、諭す。
だが死から返してくれる命が何処に有ろうか。
命断たれば、皆あの世。
閻魔に寄り冥か地かを定められ、善者は安らぎを、悪者は苦しみを。
その生命の理、死に逝く者へ対しの思想観念。
巫女と言うべき神に近しき位置は、髪の神を見知っても、其れを見るに正しく在った。
予想と同義の運命を、以前より知って居たのだから猶更だ。
「私は諦めねぇぞ。此奴を守るって約束したんだ……」
魔理沙は内心解っていた、死人がもう助からない事を。
口から出任せが実現する彼奴が言うのだから。
神様だとか、森羅万象驚天動地の異形髪が神様だと、只死ぬだけなんて神のご加護はおかしいだろ。
そうだと信じたい気持ちが、負けずに居た。
自慢のマジックアイテム攻撃に火傷すら残せない化け物の住まう屋敷に置いて行く程、彼女の心は腐って居ない。
一日だけの短い様で長い付き合い、異常は日常、それ以上。
魔理沙の“陽月さくら”と言う人物に対する関心は底知れず、天も跨ぐ。
その流星群を追い抜く、築き上げ姿勢に、霊夢は逆に腹が立ちそうだった。
私は私の不明たる意志で、この男を神社から立ち退かせてしまった事、それを何時もの様に、流れるかの様に、腐れ縁仲の魔法使いが知らぬ間勝手に借りてしまった事。
絶交に到るなんて訳でも無いが、今回ばかりは、何か感情的に言い返しそうになった。
だが此処で言い争いを焼べて居ても、遠くで気をふら付かせている鬼に、八つ裂きにされるのは時間の問題だ。
それでもって、コレは自分が起こした問題だと責任を感じている。
怒るなんてのは、本当にこの場この瞬間では甚だしく愚かしい。
気を落ち着かせ、諭すように魔理沙に弁解する。
「言い方が悪かったわね。若しそうだとしても、取返し付かなかったとしても、諦めた理由じゃないわよ」
後ろめたい事が在ると、彼女は斜め下を見詰める。
「……此奴と一緒に、この屋敷から逃げ出すわよ!」
険相は一変し、霊夢の意気込みが見られた。
それで充分だ。
霊夢も、何だかんだ言って魔理沙と同じ気持ちだと言う事が、確認出来、その返し、魔理沙は微笑む。
意思が疎通した処で、この屋敷の主らしき化物を、二人は睨みやった。
【目覚】
状況を開始する。
蒼い鬼は、叫んだ後、如何やら三人を見失い、怒りの儘に暴れて居り、向こうの空間の家具は滅茶苦茶だ。
今の処問題は無さそうなので、アイツから目を離し、家の間取りをチェックする。
先ず、扉はあかない。
足を上げて蹴ってみても、屋敷を囲む外壁の様に硬く、凹む事さえ無ければ、足跡すら付かない。
恐らく魔力が使えない事から、魔力無効化の結界の一種で膜が有るのだと仮定して置き、玄関からの脱出は諦める事としよう。
では、この屋敷内を渋々探索するとして、道は四つ。
一つは左方向、一つは右方向、一つは鬼の居る直進、最後に、少し、と言うかかなり、一段飛ばしよりか、一階から二階にへと飛び越える事をしなければ行けない程に破砕された階段。
どっかの魔法使いが「ナントカはパワーだぜ☆」とか言う奴でなければ、二階へは悠長に登れた者を。
それに今は死人が居るのだから、担いで登るのも、男性の体重剰え死体、女性には重いし重過ぎるだろう。
行く手は如何する。
右や左に行っても、見えるのは扉だけ。
玄関が開かないのだ、他も結界的閉塞だとか単純に鍵がかかっているとかだったら行き詰まって行き止まって息の根止められて一巻の終わり。
「迷って居ても仕方ないわ。此奴を担ぐわよ」
もうあの鬼が襲って来て居てもおかしい筈が、妙に時間をくれる。
兎に角、あの鬼が二人から目を離して居る隙に、“陽月さくら”の腕を持つ。
「!!」
驚く事に、陽月の身体は生きている以上に、丸で紙を持つかの様に軽かった。
「……軽いわ」
「軽いな……」
つい呟いてしまう程に。
だがこれは好都合、何故此奴が軽いのかは、まぁきっと混沌本とか言う代物が関係しているだろう。
紙のような軽さを想い、連想からそれに到る。
処で連想の思想家は居るのだろうか……そんな余裕にも見られる二人の思考は、その瞬間いとも容易く真っ黒に塗り潰された。
「―――」
「―――!!!」
気付いた頃には、二人は立って居た。
否、立って居たのは今も先も変わらず、然しどこか違和感が、内心引っ掛かって居た。
「……そうだヒツキ! アイツは?!」
違和感の一つとして、肩車をしていた筈のヒツキを離して居た事だ。
離して居た? 何故? 何が此奴を離す結果となった? 離した事が本当だと仮定にして、倒れ方にも続いて疑問になり、違和感を覚える。
さっき確か担いだ、そう、さっき。
だからそのさっきで、離したとするなら、俯せで倒れるであろう筈が、何故か仰向けで倒れている、然も距離は後方に……。
何だ? それじゃあ丸で、時が戻った様な……
「……! 霊夢危ないっ!!!」
何時の間にか、あの蒼い鬼が此方に近づいて居た事を一早く気付いた魔理沙は、霊夢を押し退け―――
「魔理沙っ―――」
「―――!!」
再び、二人は違和感と共に、其処に立つ。
だが彼奴と接触した事を切欠に、彼女たちの違和感は実感へと変貌する。
「……アイツに…………喰われた……」
魔理沙は口を零す。
そう、二人はその言葉通り、喰われたのだ。
丸呑み、噛み砕き、喰われ方なんて想像したくは無いし、乃至想像したくないで留まって居る分、喰われ方は不明。
だが喰われたと言う実感だけが頭には流れて、彼女たちを恐怖で震えさせる。
「何だよコレ……私たち、喰われて居るのに……生きて居るってよぉ……」
以前にもこのような経験は、弾幕ごっこで成った事が在る。
何時だかの、異変でも、スペカ攻略失敗で、やり直しが効いた。
「そうだ。コレは弾幕ごっこで相手のスペルカードに当たった時のやり直しが効く奴だよ、霊夢。深く考え込むことはねぇよ、ヒツキじゃあるまいし!」
無理にでも笑ってそう考えると、気が楽になった。
バイオレンス的、ホラーチック的展開だったとしても、コンティニューが効くとなると命未だ棄てたモノではないが、気楽して油断して、また喰われたと言う実感と共に時間が戻るのは、命に近き精神が参ってしまうだろう。
後、死人を題目にしたジョークは如何したってブラックだ。
だが今はそうやって己等を鼓舞する外ない。
奴は何の前触れもなく、途轍もない速さで此方に近付いた。
如何にか彼奴の気を逸らす事が出来ないだろうか……
「……紅い鬼」
霊夢が呟く。
すると蒼い鬼は、物音に敏感な耳を澄ます兎の様に、可愛さはアレには皆無だが、何故か周りを警戒し、途端に
「アカオニさん! 御免なさい!! ……ボクはアナタにはチカヅかないから、ニンゲンと仲良くシテ……」
隠れるなんて雉の如し、いや朱鷺の如しと言わんばかりの体格。
併せて、アレ程の繊細さは夏に紅葉で天から桜色の雪降る様……要約すると、論外。
延いては頭を抱えて怯えて居るからと言って同情はしない。
三度も殺されては、巫女も仏も在った者ではない。
モノローグを語るみたいなモノ語りを、されど二人、小説を知らず、ヒツキが生前に呟いてくれて良かった。
外の世界の童話であろうその「泣いた紅鬼」とやらを知らなければ、続編に当たりそうな「消えた蒼鬼」を思考して居なければ、この答えには辿り着かなかった。
蒼鬼の情勢は、紅鬼と人間との和親条約で拘束され、そして情緒は湯呑満杯、表面張力が働く程に不安定。
唯一の親友、紅鬼がその場に居ると言う考えだけで、この鬼は、敵役で在る事に参って来て居るらしい。
ならばと二人は、その手を利用する。
「紅鬼さーん!コッチコッチ! 向こうに悪い蒼い鬼が居るよ~!」
「助けてー、紅鬼さーん」
と、法螺を吹くのだが。
「!! ガァァァァァァ!!!!」
「――――――――」
――喰われてしまった。
「此方側に誘い込んでしまったな……」
「嘘を付くのも、頭を使わなきゃね」
ご利用は計画的に。
但し、結末「狼少年」事態に陥っても、当局は一切の責任を負い兼ねます。
「紅鬼さーん! 右側の部屋からやっつけてくださーい!」
狂気に暴走する蒼鬼は、右方を見やり、壁を破壊して如何やら在った右の部屋で紅鬼と対峙する。
括弧居ない。
「紅鬼さーん! 奥の部屋に誘い込んで~」
「!! ガアァァ………」
敵役に拍車が掛かって居ると言うべきか、間抜けか。
その間に、赤子を抱えるよりも楽な、小石を持つ様に、着の身着の儘と勘違いするかの様に、女性なら羨ましがるこの体重、いや流石に異常……陽月さくらと言う人間紛い身体の男を、二人して互いの肩に負ぶって担ぐ。
関係無いがこの二人、実際に赤子を抱えた事は一度も無い。
それよりこの紙より軽いこの軽さ、内臓や骨格、筋肉とかには問題ないだろうかと心配したくなる程何処までも異常だが、矢張り、それより、そんな事より、屋敷脱出が先決だ。
「魔理沙、決めて」
霊夢は魔理沙に行く道を託す。
「右だぜ」
何と理由も無い。
魔理沙が右側でヒツキを担いで居たからに過ぎないが、が理由に過ぎない、が理由にならない。
だがこの危機的状況で直感的な魔理沙の即決断は頼もしい。
急ぎ右方へ進む。
「ドアは?」
「真っ直ぐ!」
人を担いで二人三脚みたいな状況、彼女たちは颯爽だ。
―――開いた。
手前右に長拾い腰掛け椅子と、左奥には台所。
知り合いより聞いた事の有り見た事の有る外来の物ばかりだ。
「ちょっとヒツキを頼むぞ」
頼むと言う程の重荷ではないが、こんな状況でも目星い物を探す星弾幕の魔法使い“霧雨魔理沙”。
然し今回に限っては金目の物を蒐集したかった理由では無く、彗星の振動でシンクから落ちて割れただろう皿の破片。
「コイツでアイツの目にぶつける」
恐らくだが、喰われる前の一機目にて、二人の喧騒最中あの鬼が長々と遠方の広間で縦横無尽の右往左往で暴れて居たのは、目と耳に損傷が有ったから……。
「あの時はモタモタしていたが、今回は時間が有る。何なら紅鬼騙し討ち作戦もな☆」
奴にとって微力にも、霊夢が視力、魔理沙が聴力を奪っていたと、基、魔理沙風に言わせれば『借りていた』とは、好都合にも程度がある。
更に言えばそれを分析してしまうは、魔法使いの目は何たる天賦の才を秘めた白狼天狗の千里眼を有頂天超越して月まで届く目。
魔理沙は内心そう自賛していたが、いけない、月はあんまり良い思い出が無い。
「それは良いけど、じゃあ何故アイツは二機目と三機目は直ぐコッチに向かったのよ? おまけに紅鬼の発言も聞こえた理由は?」
部屋を出て、直ぐ近くのドアノブを捻るが、鍵がかかっている。
すると、奥の右側から、否、蒼鬼が暴れて居た方向の道から、滑る様に出現。
透かさず魔理沙は鬼の両目目掛けて破片を投げ飛ばす。
見事命中し、再びなのかは予測の範疇、視力を奪われ、鬼は目を瞑り悶える。
「紅鬼は後ろの部屋だ! さぁやっちゃえ~!」
又も法螺を吹くが、今度はその場から動かず暴れる。
流石に学習はするよな、失敗を学ばぬ猿じゃ有るまいし。
「視覚、聴覚が失われていりゃあ、後は嗅覚とか触覚に味覚……後は第六感的な感覚とかじゃねーの? 理性崩壊しつつも、一応頭有りそうな鬼なんだっ……しっ!」
「おぅわっ?!」
脳筋だろうか、然し魔理沙の試みも同系統、崩れた階段の方へと飛び出した。
不幸中の幸い、崩れているとは言え、ギリギリ登れる段差は有る。
目が見えない中、一心不乱に腕を振り回す蒼鬼。
何とか脇下を掻い潜り、段差に足を付ける。
………訳では無く、ソレを通り越して、二人は飛行能力が戻ったのかと言わんばかりに、階段段差に一歩も足着く事無く、引っ張られ状態にも、天性の反射神経、見事足に筋力を乗せ、蒼鬼の腕に当たりそうな紙一重、二階へと進出。
跳躍先の壁にはぶつかって。
魔力無効の屋敷が一体何故と思ったが、ヒツキの手が不思議な手だから、それが力に成ってくれた? 希望は有る、ヒツキは生きている、未だ死んで居ないと甘ったるい都合を働かせ、解釈した。
「こうなったらひたすら上へ!」
魔理沙は指差す、上へ行けたのだから。
壊れて居なくて、且つ、こんな力がヒツキに残って居たなら、真っ先に選んで居たのだろう。
兎も角、一階の見取り図を視認したが用無し、右も扉左も扉、何方にせよ用無しとすぐさま体勢を立て直す。
鬼が二階へと昇りたそうに二階床に腕を伸ばして此方に伸ばすも、二人は後退し、それに準じて鬼は更に近付こうとするも、一階天井に頭ぶつけ、玄関側へと転げ落ち、何とも知力お粗末な獣畜生の姿。
一階へと通ずる階段を横切り、左の方に階段を発見。
「昇れー!」
生を必死に求める様に、命に懸命にしがみ付く様に、魔理沙は豪勢に合図を出す。
急速に振り向き階段を上る。
上昇先見えるのはドアが二つ、左にと正面。
然し魔理沙の思考は真っ直ぐに決まって居た。
「ズゥー…ン」
「な、何だ?!」
だが後、二・三段と言う所、屋敷中が揺れ出し、二人は体勢を崩した。
揺れる原因として、屋敷の中で解体作業が行われたからだ。
音は近く、唸り声もする……あの無能鬼は、如何やら跳躍と脳筋硬度でこの2階へと突破進出したらしい、無念だ。
倒れてからか、倒れた所為か、二人の脚の筋肉が思う様に動かない、階段で座り込んでしまった。
「後、もう少しだってのに……!!」
「こんな所で……」
魔理沙の勘は、外へ進出する為の希望が、奥の扉から囁いて居るのを、お互いに隙間風から聴き取り感じ取って居た。
此処迄来ての脚の竦み、気持ちの惜しみ、だが恐怖は無い。
階段の下で地獄を彷徨う無気力な生命体の狂気や攻撃は、今迄の異変に現れる妖怪達の手札より毛色は断然違う。
コンティニューが効くならまたもう一回やり直せば良い。
残機が残って居ればの話。
それよりも然し、たった一人の青年を救いたいと言う、か細い可能性の願い・祈りを実現する気持ちに彼女たちは奮起していた。
互いに歯を食い縛り、いい加減言う事を聞かない脚に対して彼女たちは拳を振り翳す。
「動けこの莫迦脚っ!!!」
「生まれ立ての件みたいに震えてんじゃねーよっ!!!」
魔理沙は霊夢の脚を、霊夢は魔理沙の脚をと、お互いが隣り合わせの脚を殴打し、貫くような痛みで和らげる。
瞬時、片足だけの処置、何とか立ち上がり、その後すぐ鬼がもう終わりだと耳に悪い咆哮を飛ばし、一方ヒツキの手を掴んで、両者片足で鬼から遠ざかろうとする。
鬼は階段をとばして、飛び掛かって襲い掛かる。
魔理沙と霊夢は、左の部屋の扉を、殴打で痛めた手でドアノブを我慢して捻って開扉し、ヒツキと共に飛び込んで部屋に入る。
間一髪に蒼鬼の奇襲を回避した。
蒼鬼は其の儘真っ直ぐ出口と思わしき先の部屋へと突貫して入室する。
魔理沙と霊夢、何とか避け切ったが、不幸にも出口間近でラスボスを配置してしまい、万事休す。
一瞬が長く続いた館での激走、彼女たちの体力は声が出ない位に疲弊して居た。
それでも何とか歩く事だけは許され、再びヒツキを担ぎ出す。
「ハァ…ハァ…どうしようか……」
魔理沙は、休みたい声で霊夢に問い掛ける。
「ハァ…ハァ…あの寝床の下……穴が有るわ……ハァ、有る程度の…私たちが入れる位に……隙間を開けて……下に向かっちゃうけど…そこで体力を……回復させましょ」
この期に及んで未だ運動をさせるとは、だが良作だろう。
「そうだな……ベッドを押せる……力が残って居るかな」
傷んだ手の甲を見やる。
握っては見るが、何とも非力……女には相応しいか弱さだと内心笑い、それは表情にも、吐息も交えて出ていた。
「何笑って居るのよ」
「いやさ、誰か支えてくれる奴でも居てくれねぇかなって、ちょっと寂しくなっちまったよ」
「本当に何笑って居るのよ」
貰い笑いで返答する霊夢は、それ以上詮索しなかった。
火力は好むが、努力だと言った力は魔理沙との仲では禁句で有る事を霊夢は知って居る。
若しかしたら別の力なのかもとは思ったが、無論余計な詮索は余計な行為で余計な争いを生むと考え、除外した。
「ほら、行くわよ」
動く二人に、床の軋む足音が鳴った後に、声が放たれた。
「マ”テ……」
声は鬼のいる部屋から聞こえて来た。
息切れが続く中、今にも倒れたいと言う目で声のする後ろを見やる。
「ゴッチエゴイ”……ニガジデヤル」
突然話し掛ける蒼鬼から、意外な言葉。
理性を取り戻したのだろうか……。
「ハァ…ハァ…どうする?」
「一応…ハァ…確かめて見ましょ」
小説のモチベーションと申しますか、慣れと申しますか、こっから乗りが来たみたいな感じだと思います。
初期に比べてちゃんと小説している、成長見込みは有るもんだ。何の話だよ。




