第拾参話 人々の想う色~heterochromia~
弾幕ごっこに有るまじき芸当を見せたヒツキは、そして紅魔館のボスと決着を付ける。
館を後にし、湖の畔で魔理沙と再会し、湖の中腹で、都市伝説にも、出会した……。
【敗北】
弾幕は放った者より離れて行く。
俺に向けて放たれるから、俺も離れる。
一気に距離を稼ぐべく、膝を曲げて、お嬢の元迄、飛躍する。
距離稼ぎは直前まで稼いでくれた理由で、指を狐の構えに移行し、お嬢に向ける。
さて、スペルカードルールに倣い、この技に名を付けるのなら……
「陽月狐の邪視」
自分の苗字を技名に入れるとか何だろうな、俺TUEEEを宣言しているんだろうかな、スペカ宣言だけに。
「…………」
吸血鬼は、人間の倍の力を持つ。
だが今は俺の方が上だろう。
でも彼女は俺の速さを見抜き、すぐさま防御態勢に移るのだがだが、何だこの吸血鬼と言う襟高い漆黒マントを付けてフリルがかった白いネクタイリボン衣類、青肌痩せ気味、牙剥き出しの富貴栄華様々なイメージとは真逆のこの小動物みたいな……コレのデコをピンだなんて神も仏も鬼も在ったモンじゃねーな、ファキット。
震えるお嬢の飛行状態をそのままお姫様抱っこで地上に返し、隣で胡坐を欠いて、頭を撫でる。
「俺の負けだよ、お嬢。流石は俺の上司だ」
腑には落ちない、互いにそう想って居た。
動物愛護団体精神で俺は戦意を捨て、片やその敗を口にした当人は膝をついた訳では無く、胡坐なので負けと言うには些か違和。
然し、弾幕に乗る、基、触れても死なない前代未聞の奇術を成し遂げてしまった者に対し、成す術無し、戦意の薄れは有耶無耶で結末迎えた現状に悔し涙で流された。
「うー…」
正確には目尻に溜まって居ただけで流れては居ない、して悔しさは怒りに成らんとばかりに涙目で、手を頭に付けて睨み付けていた。
「何だよ? 負けを認めたんだから負け意外に無いだろ。それとも『負け犬の遠吠えをしろ』が勝敗でのご要望ですか、お嬢?」
涙目を擦って立ち上がり、腰に手を当て指す。
「無効だよ、こんなの。弾幕ごっこの何でもないじゃないか」
以前にも言われたなそんな事。
俺に弾幕奴は向いてないらしい。
「もう一回勝負だよ! 弾幕ごっことして成り立つまで勝負だよ!」
と暴れて襲い掛からんお嬢に対して咲夜の登場、お嬢を引き留める。
「それでは明日の朝食までも抜きそうですよ、お嬢様。夜が強くても使用人は人間ですから使用不能になると言うか再起不能と言うか」
俺、凄い不器用扱いされているな。
まぁ強化ばかり続けていたら、日を三度跨ぐレベルで不能になるのは事実。
ありがとう咲夜さん、フォロミーサンシャです。
「アナタも仕事に掛かりなさい」
小悪魔が一通り教えてくれるだろうから。
「サァイエッスァ」
手足バタバタと駄々捏ねる雇用主を後にして、俺はゆっくりとこの面接会場を去る。
「一応として、若しお嬢様に勝ったら何をお願いするつもりだったの?」
若しも話だなんて、虚しいだけだと思うがね、まぁそんなこと言わず。
「シフト制の勤務で、って願望」
首を傾げたが「あら、そうですか」と一言。
どうもこの幻想郷、アルバイトの概念は無いらしい。
わー、ぶらっくだわー。
低賃金、週休・残業手当なし。
語っているだけで腹痛いわ、片腹じゃなしに。
魔理沙に胃腸薬みたいな茸スープ作って貰お、苦味は無情だから消せるしね。
「失礼しました」
回れ右して一言一礼、再び回れ右。
開扉、退出、右回転、閉扉、閉幕。
「……訳の分かんない事を仰っていましたが、本当に此処に置いて擱くのですか? あのような下賤で下世話、下卑た男を」
「何だい咲夜? 胸触られて下心でも沸いたのか?」
「まさか、彼が再び女になって私が男になってもそのような事は在り得ません」
「男女の仕組みは身体も精神も違うけど、だからこそ、私の物に成った僕ちゃんは、良い様に扱って飽きたら捨てるって物よ」
「おやおや、吸血鬼にしては薄汚い女狐の様な言い分です事」
「私と八雲の狐を敵に回しているのかい咲夜?」
「滅相も無い。私はお嬢様の忠実なる僕です」
「女だけどね」
不敵な笑みが、紅魔の大広間に響いた。
【ちゅ★う★りゃ★く】
些細な敬愛も無くて、ララバイララバイ(子守歌子守唄)。
同じ時間を生きては居ない。
ヴッヴン(咳払い)……何せ五百と十七。
紅い月と人間速度の鼈。
天を舞う雲、地を這う泥の万里。
雪と墨……いや、残念乍ら雪と墨は俺が両方持っている。
それに物理的にも、雪はこの時季では真反対なのだから、彼女が雪なら溶けている故に、下剋上みたいなことに成ってしまった言わば、窮鼠猫を噛む。
その喰らい付きは、鼈の痛感、噛んだら離さず。
齢で大きな差を感じた手前、然し如何やら月をバックに捉えるだけで眺めるだけで、同じ地に棲む者同士の獣だったらしい……なんて、意味深長にも聞こえなくも、あわや上司となった者を討ち取ったなんて結末も……言えなくも。
だがこれを他に語るのは語らぬが語るには難しいな、忘れるレベルで語らず居よう。
【気遣】
紅魔での業務を終え、意気揚々でも堂々でもない真っ直ぐな姿勢で館の帰路を渡り、正門を開ける。
「……あ、お帰りですか、ハンターさん?」
絶対寝てた絶対寝てた絶対寝てた絶対寝てた。
「偉く時間が掛かっていましたねぇ」
門番の言う通り、時刻は山に落ちそうな夕方で、陽を見つめて居れば何時の間にか闇に消えそうだ。
「本業の魔女は捕まえれましたか?」
そう言えばそんな話をしたっけか?
魔女狩り……魔女狩りハンターとか名乗って居たかな?
魔女と言う異端を狩る者を狩る者……一部に於いては確かにその様な業務と言うか業に到って居たような……。
「嗚呼、今日で止める事にしたよ」
「あら、そうだったんですか……良い仕事が見つかると良いですね」
彼女の徒ならぬ気を感じるに、俺の発言が嘘八百で有る事は重々承知の有筈なのに、気を遣わんでも……あーでも。
「此処で働く事に成った。宜しくお願いします、紅先輩」
「そうだったんですか!? 謀った様な胡散臭い職業を模り語って良くその結果に持ち越せましたね!」
「やっぱ気付いて居たんじゃないか」
何、手を合わせて居るんだよ。
「はい! ですが無害な方だと言う事も気付いて居ました、若し有害だったとしても咲夜さんに狩られ、パチュリー様に焼かれ、レミリアお嬢様に召されていたでしょうから」
今日の晩ご飯前提過程の仮定。
「何が兎も有れ、宜しくお願いします! ヒツキさん!」
敬礼ウインク、門番にはお似合いのポーズだ。
「然しもう日が暮れそうな中、まさか晩御飯の調達ですか?」
門番さんが腹減って居るのは良ーく解った。
「別に住み込みで働く訳じゃあないからな。俺の住処に帰るだけよ。また明日働きに来るよ」
「そうでしたか! ではまた明日! お休みなさい!」
「パイ先はお休みばかりするなよ」
この呼び方も、未だ話せる事は無く……。
【眺望】
「また明日」か……お嬢も咲夜パイ先も、疎ましく想っては居ただろう俺と言う新入社員。
だがそんな彼女たちですらも「また来なさい」と、俺を迎えた様に話してくれた。
言い草臥れたが、現実味の無い話だ。
俺は只、妄りの目的で館内を掻き回しただけの部外者だってのにな。
それに俺が労働とは、世も棄てたモノではないかも知れない。
門番が夜もすがら門番を勤める訳では無いと知ったのは、俺が湖を四分の一周渡る位に差し掛かった頃、夕日は未だ差し掛かっている頃。
咲夜パイ先が門を半開きに門番に話し掛け、館の中へと連れて行った。
きっと昼寝をしていた事についてお説教を受けて居るんだろうな。
なんて、本館までの道中彼女たちの会話を妄想耽って半周に差し掛かった頃、夕日は肉眼視で後一センチくらいな頃、白黒の魔女が一人畔で体操座りをして湖を眺めていた。
「……ハァ~……」
だが途端に顔を伏せ、声を出す程溜め息を付いた。
「溜息を付けば幸せは逃げるが、然し不幸だからこそ溜め息を付くってのも一理有るよな」
「ヒッ! …ヒツキか、脅かすなよ」
俺がヒツキだと本当に驚いた様に聞こえてしまうな。
「何だよ、私が不幸とでも言いたいのか?」
「只の宣伝だよ。だが不幸なのか」
「不幸と言うか、複雑と言うか……」
あ、括弧察し。
「あ~…何だ。例の、気になる野郎の話か?」
取り敢えず相談がてら、隣に座る。
「……そうだな、多分それでこうやって伏せているんだろうな」
「そうか、お前の今日を俺は知らねぇが、ソイツとは上手くぅ……あ~……」
「何だよ? 詰まる処でも無いだろ」
いや、何かこの言い方セクハラっぽいなって。
「だがお前の言いたい事答えるなら……複雑」
「複雑……」
男女の仲で複雑ってのは、相当昼ドラみたいなドロドロ展開パティーンの気配がするな。
「なぁヒツキ、私ってどう?」
如何って、そんなアバウトな……。
「端的過ぎるな。何が言いたい」
「男のお前からして私って如何だ? って言いたいんだよ。説明させずに察してくれよ」
マジで霧雨みたいに弱い発言をするなこの霧雨魔理沙。
「それは悪かった、何分人の言葉を主語述語整っていたら理解できる性質だからな」
「そして無情の性質でも在った。聞いて損だ……」
「だが他の男には普通に魅力的な女性だとは想われる」
「本当かそれ? 適当に言っているんじゃないよな? 客観的だし」
そりゃあ、無情……ねえ?(知らない誰かへ)
「私って、がさつだし、一方的で、直ぐに人の物永遠に借りるし、男口調混じっているし、部屋の整理下手だし……」
「何かの良心で拾ってくれるし泊めてくれるし、料理はご馳走してくれるし、気になる奴にアプローチの努力惜しまないし」
「云うなそれを」
息の根止められそうな目とトーンで怒られました。
「それに料理って……シチュー位だろ? 他は失敗だし」
「良いんだよ、それも魅力だろ? 女が最初から料理上手って訳じゃないし。だから母親とかに習ったり、更に努力を重ねたり、指傷つけて、其の度手当てして。誰かの為にその飯『美味い』と言って貰う為に、そして又作ってやる為に……」
「結局は……あんま此れ無情人だから言いたかねぇが、愛ってのが大事だって云うじゃねぇか」
「プッ…ッハハハハ………!」
はい、笑われました。
「確かにお前が愛とか似合わねぇwww」
はい、「似合わない」頂きました。
「お前と話していると何か色々馬鹿馬鹿しくなって来たよ」
そうか、何時ものファイン魔理沙に戻って良かったよ……んぁ?
「なぁヒツキ! 私、お前と……」
「待て魔理沙、何か居るぞ」
「え?」
【舞踊】
湖の上で、何かが蠢く。
「あ、ありゃあ何だ?!」
先の氷精等ではない、青くなく、白い。
本当に水上でうねる、スケート場でも無いんだぞ、何ならスケートが幻想郷に伝わって居るのか、忘れ去られる事は無いだろうよ。
なら何だ、水上で踊るスポーツは。
幻想郷ではどんな運動が目星にされて……
「見るなヒツキ! ありゃあ“くねくね”だ!!」
「!?」
魔理沙が俺の目元に手を、身体に身体を、覆い被させる、倒れる。
“くねくね”……確か理解しちゃあならねぇ、白い謎の、都市伝説上の生き物。
そいつを見れば、最後には狂っておしまい。
だが……。
「何が“狂”だ。京の凶みたいな今日が郷で経、興有ろうが、だから俺には大した事無ぇ……」
不幸の最上位みたいな今日が幻想郷で運命だったろうが、魔理沙の手を掴み、視界から払う。
「退け魔理沙。都市伝説なんぞ、文字通り伝説にしてやる」
立ち上がる、勇気など必要なく。
「止めろ、ヒツキ!」
「Oh、イブニングのイトナミはビギニングしないのですカ?」
「「!」」
その場に居るのは、麦藁帽子を被ったお嬢様みたいな大和撫子擬き。
「おろ、Sorry。フィールド・ネクスト・ホースがステイではイトナミも有りませンワ」
その女性、忍者が水蜘蛛で水上を渡る様に滑る。
「アンドテルレイト。アイのネームわ“風蘭想和”。“幻想の思想家”、いゴ、おルックノウを」
((何言ってんだ、此奴))
だが聞き覚えのある言葉は「フィロノエマー」、此奴もあのカチューシャシュシュポニテ女“空雛”と同じ『思想家』とやらの類だろう。
「ヒツキ若しかして此奴……昨日のカラヒナって奴と同じ類の人種か?」
「そうだな、用心はしておけ」
そして恐らく先の発言は自己紹介、名はフランソワ……だがその名前は。
「フランソワってのは、仏蘭西の男姓名じゃねぇか?」
そう言おうとした矢先、魔理沙が口を挟む、悪いとは言ってない。
「Oops、そうなのでスか?! アイわボックス入りドウターでシたので……ノーレッジわアンビグスなのです。“Ms.ドゥリズル”」
“霧雨”の姓を儘英語読みしたのだな。
男性名女性名を秘匿にする教養って何やねん。
「“風蘭想和好”って改名した方が良いな」
「名案です! Mr.ソルナ」
名案は言えるのな。
「butミッシングですMr.ソルナ。“思想家”はネヴァーラヴでジョブではありまセん」
ソルナ……あぁ、陽をソル、月をルナで“ソルナ”。
「成程な。そして俺の名を知っていると言うのは如何せん……誰情報だかは見当が付くが」
「NO、“カラヒナ”はラビットもホーン、アイわビフォウよりユーをニュウでしたのよ」
“空雛”からの情報ではない……と言う事で良いんだろうな、一語一句が日本語だったり英語だったりでややこしい。
「ユーをサーチしていました“Mr.ソルナ”。ユーをキャンファインドでハッピーでス!」
何が喜んでいる様だ……えっと、俺を探していた? 見つけられて嬉しい?
「but、アナタわナッシング。アナタわ、アンハッピーのパストをレシーブし、アンド、ユーわユーを、ロストした……ウィーがもっとクイックであれば……」
フランソワとかセイ、レディはフェイスをハンドで隠し、メイビーソロウ。
「Sorry、“完全言語翻訳-language barrier free-”」
彼女が詠唱を唱えれば、あらゆる言葉が彼女の周りを囲み、それらを取り込む。
「コレで大丈夫です、Mr.桜ソルナ。私は曖昧な言語ですが、全て日本語に聞こえるでしょう」
名前はその名で定着名の名。
「では改めて謝罪します。死ぬ以前の貴方を見つけられなかった事……本当に、ごめんなさい」
フランソワ改め、風蘭想和不は水面より陸に上がり、地に膝を付け、脛を付け、正座、掌を地に付け、腰を下げ、土下座。
「待て、ジャパニーズ・ドゲザにリスペクトしたのかは知らねぇが、及び高が一人の見知らぬ命に対しお前が膝を付けて謝る事ではない」
「いいえ、同士候補である貴方の命を、この足使っても辿り着かず、救えなかった事は膝を汚して謝っても足りない事です!」
必死の絶唱、関係無いが、手が何とも奇麗で真っ直ぐだ。
「お、おいヒツキ……私はまた話の大凡が理解出来なかったから、何故またこんな、女を醜態晒す状況に陥って居るんだ?」
俺が聞きたいよ、俺ですら他人の彼奴に対して、俺が代わりに謝罪の対象にされて居るなんてよぉ。
「頭と腰を上げろ……何なら立ち上れよ大和撫子。男女が共に協働するこの時代、女が黙って男の後ろ三歩下がって着いて行く時代は云百年前の常識だ」
ゆっくりと顔を上げず、素早く顔を上げて、顔を赤らm…
「そ、それは遠回しにプロポーズなのですか?!」
おい如何してそうなる。
「行けません。私には大切な想い人が……!」
あ、じゃあ大丈夫ですね。
「いえ、ですが過去は乗り切らねば……貴方も」
何故同一人物に捲くし立てたがるよ。
「俺は過去には居ない……今が俺だ」
おぉ、吾乍ら名言出ましたわぁ。
「そして『過去』の彼奴は、彼奴が導き出した『瞬間』だ。その瞬間に死のうが、何処かで生き長らえて居ようが―――それで何の理由で俺を生み出して、どっかに消えて、俺を路頭に迷わせるかも知れないなんて可能性が運命其処に在ろうとも、彼奴の勝手だ。誰も咎めれないし、咎める必要も無い」
わぁ、我乍ら気障だぜ全く、片膝までついてさぁ……やっぱプロポーズじゃねーか。
「それが貴方なのですか……。何と、心此処に在らずとも厳しく、そして温かい、道徳さが在る言葉」
温かさなんて在ったか?
「やはり貴方は我々と共に世界の均衡を保つべき存在です……」
フランソワズは、俺の左手を両手で掴み包む。
「是非とも! 私たちのフィロノエマーに……!」
「あぶないヒツキ! 其奴から離れろ!!」
文字通り横暴にも、箒をバッター……いやゴルファーだな、叩きつけに来る魔理沙。
それを掴み取る俺。
「ありがとよ魔理沙。言ったろ? 『用心はしておけ』ってな」
「心用いない無用心のお前だからな、私が用心しておいて良かったよ」
「だがこの大和撫子が『擬き』だから何か仕出かす事は目に見えて居たさ、物理的にな」
そう、『何か』……目には視得て、理解は南に飛び立つ燕の様に、詳しい終着点が解らない、そう言った『何か』。
魔理沙はそれを不審に思い、さて何故横に箒を振るかこの霧雨ンタル魔女。
「おや、無心ですからこの幻は心に来るかと想いましたのに……残念です」
手を放し、遂に立ち上がる。
じゃあ、ヴィランの立ち回りをどうぞ。
「然し悪い話では在りませんよ? “フィロノエマー”は『彼方の世界』の均衡を保つべく結成されたチーム。貴方はその均衡の保持者として加担出来るのですから、何をそんな断る必要が有るのです」
「通称“思想家”とか名乗って、他者の思想を見知らぬ誰かがはいそうですかと首を縦に振って和気藹々、怪しさ満点宗教団体みたいな奴らと共にするのを断らない方がおかしいだろうが」
おまけにその内の一人には友人と愛人が消されかけたし、何なら世界均衡者である奴が自然を消したしな。
「空雛の事も申し訳ないですわ。あの子と今逸れて居ますが、見つけたらお仕置きのパンパンテュテュです」
仏蘭西語でお尻を叩く事。
武器が折られてプライドも折られる悲運な娘ね。
「彼女の事は森にでも擱いて置いて」
悲運な娘。
「貴方の“思想家”としてのポテンシャルは極めて高いです。空席である葉の座を……」
「行け魔理沙、十八番のマスパだ」
「マスタースパーク!」
間髪入れる間も無く八卦炉から恋色云々の巨砲が湖の水を裂く。
「幻影です、Ms.ドゥリズル、火力も良いでしょうが、人を惑わす幻想が……」
長話は他所でやってくれや。
「陽月“狐の邪視”」
再び間髪入れず、幻影から現像へと姿を見せたフランソワズの眼前に出で立ち、俺は吸血鬼のお嬢には打てなかったデコピンを、この和洋折衷の邪教徒お嬢に向けて撃った。
その吹っ飛ぶ勢いはマスパと同等、又もや湖が裂けて、フランソワズは森の彼方へ消えて行った。
火力だろうが幻想力だろうが原点は力、そしてお前の敗因は、お喋りが過ぎた様だな。
湖には、良い迷惑だろう。
今度裂く様な事が有ったら湖の精か、若しくはネッシーが現れるかもな。
「空想、幻想……」
魔理沙が珍しく呟く。
「何だ、俺か」
「お前じゃねーよ、私は私だ。で何が言いたいんだ?」
「それはお前だ」
「結局の処、お前は何の思想家候補だったんだろうかなって」
「知らん。少なくとも俺はそっちの方向に向かわない様努力しないよ」
ハルバードに執着する空想女と言語が曖昧な幻想娘とお友達ごっこは御免だ。
「それで~お前って、死んで居たのか?」
あぁ、そんな何処情報話も、あのアマ漏らしていたな、プライバシー侵害だぞ。
「そういう[設定]だ、俺はその勝手に死んだかどうか知らん或る男によって創造された死人だが……人間とも、人形とも、妖怪とも……まぁ幻想郷でなら妖怪紛いで良いだろうかな、じゃ妖怪だ」
「何一人で決定して居るんだよ」
「お前は妖怪の友達は嫌か? って事だな。友だった奴が実は人間じゃなかった、それは喜劇か悲劇か」
「別に嫌でもないし、悲劇でも無い。妖怪の知り合いは紅魔館含めて沢山居るし、其れにお前はお前だろ? お前が私の友達で何も否定する事は無いぜ」
良い友を持ったよ、俺は。
「そうか。それはそれとして魔理沙。“くねくね”を視認しかけた際、何か云い掛けなかったか?」
その瞬間魔理沙の体がビクついた気がしたが。
「あ~……、良いや。あの後じゃあ言う気も失せちまったよ」
そうか、じゃあお前のタイミングでどうぞ。
「じゃあ、どうするヒツキ? また私ん家に泊まって行くか?」
今日か、今日は~……
「あら? ヒツキじゃない、こんな所に居たのね」
もう夕日は微塵の具合、世界に光が失われ、俺の髪が照明となる頃に、空から巫女は現れた。
博麗神社の巫女……“博麗霊夢”が此処に。
第弐章「青年は近所を回って、色んな住人に挨拶を試みた」――色彩異変〈完〉
括弧文を付けたがるのは、自分が「彼」と言う三人称的ペンネーム故の性、まぁ性格を知ってのこの名前の手前、如何してもやりたくなっちゃうよね、括弧文。
生意気な小説作家で済みません。
では次章へ。




