第壱点伍話 夏を妄想(おも)う-dream encounter-[後編]
長いもんね。時間は限られている。だから後編。
前書きも後書きもサイトの設定で2万文字以内ですが、其れ含め、2万文字もの物語をソフトな気持ちで読めるかってんです。俺も読めない。実際は一万越え何千の私の小説……さぁ読め、今読め。
「ねぇ。是非神社でお茶でも飲まない?」
「……………は?」
ぼーっとしていたら、何やら茶会に誘われたような声が聴こえた。
これ聞き間違いだったら恥ずかしいヤツだよ? ヤマネ、ウサギ……ほらクッキーだよ。
ナイフで掴んで紅茶と一緒に食べな……フヒヒヒヒ(棒) 土下座。
「新茶があるのよ。時間があるなら飲みましょ?」
「お断りします」
聞き間違いじゃないと悟った瞬間、咄嗟に拒否反応、危険信号である。
死亡・説教・拷問・恋愛……あ、これは無いな、ウン。
色々考えたいことはあるが、今試行している余裕は無しにして、俺は「じゃ」と言い、すたこら去ってイッ……
左腕以外は動くのだが、左腕は動かない。
腕に圧力を感じる…血圧を測る機械みたいな感じに。
動かない腕を見て、何かに掴まれているのを確認し、その何かの元凶は巫女が引っ張って居る手だった。
何だよ、もう正直これ以上罪も何も背負いたくないのだが……
「すみません私時間がないのでご免被りますが手を放しては頂けないでしょうか?」
割と早口で言った。
時間が無いのは、勿論口実での話……
「一度だけで二度と来なさそうな“参拝客”を誰が逃がしますか? 是非うちの神社の信仰者になってください」
『お願い』と言うより、いっそ『命令』と言うほど、敬語の発音に違和感があった。
先ず俺の意見を聞かない処、清々しく『命令』だよな…清々しく。
取り敢えずそんな理由で茶に誘ったのか……入信フラグね、いや説教か。たかが一度きりの賽銭投羅に、オーバーにも号泣していたのだから。
企業の状態はガチ危ういのね…察せる。だけども知ったこっちゃない。
勘弁してくれアクトカ教。
「二度と来なさそうなら逃がしてください」
「来させる為に、さぁ、茶を一緒に飲みましょう?」
もうグレーな神社と巫女だなおい。これから飲むその茶に催眠薬でも混ぜるのか?
ハクレェイジンジャバンザーイイイイイイ……宗教って怖いな、思考的に。そして反省土下座。
初のお茶の誘いが営利の為の策略とか、全国男子はどう思……ん? あ、左手に触れられた…巫女さんの引っ張る力がつぅぅうよぉぉぉぉくぅなってぇえ……。
巫女さんの増された“腕力”(By.俺)により、引っ張り倒された。
…ハイ皆さん(?)ご想像通りでござんす。
何とか引っ張られた左腕で巫女さんの後頭部強打をカバーしたのだが……
押し倒し状態だと思ったか?
……こ れ はー…
「「…………」」
再び沈黙のデジャヴが…………心無しか……心臓が高鳴る……………離すか
ドンッ!
「痛っ…!」
………………………しまった。
「離さないでよ!もう、頭痛い~…罰として一緒に茶を飲んでもらうわよ。異論は無し!」
え~~~~…………
「え~~~~…………」
心から込めて口に出した。その心には、また何も無かったが……罰ってなんだよ…理不尽とはこの事を言うのだな。
言葉では表現出来る事も無くだが、理解した…。
【縁側】
―――はてさて、なんという状況だ。
人間“生まれて初めての体験”ってのは、意識すれば大小問わず山々あるものだが、例として『モデル歩きの性癖に、裏ピースを追加して歩く』とか……は?(マジレス)
俺は生まれて初めて『誰かとお茶する』を、誘った側の営業利益の為に招かれているのであり、何とも複雑なアレである。
アレと言うのは俺にとって非存在のものでしてぇ~…。
「待たせたわね。はい」
待ってない、帰りたい。巫女はお盆を左隣に置き、そこには小さな和菓子とお茶の入った土瓶、急須が二つ用意されていた。急須の茶は湯気が立っていた。
おぉ~HOTですか? HOTで御座いますかこの時期に? まぁ気にはしないが、ズズズ…
「それ熱いけど…」
「…ん? ああ……あっちぃ~、あっちぃ~なこれ。いただきます」
「色々と遅すぎでしょ……」
巫女さんは呆れる。まぁ変人なのね、という目線で。
舌は熱さを感じているし、思考上舌が火傷状態であることはマチガイないが、感情が無い為『熱い』という表現が出来ないし感じ取れない。
しかし他人の感情はわかる“設定”である。
よくできた“設定”だこと……
「ふぅ~…美味しいわねぇ。今日は見知らぬ新しい信仰者の為に二人分用意して二人でお茶を飲んでしまっているけど」
「ん?」
悪いのか? 何か俺、茶に同席しているの、悪いのか?
アリスは要らない子ですかぁ? なら帰って宜し?
「冗談よ。そんなマジマジ見つめなくてもいいわ。追い出したりしないし、本末転倒になるから……折角のお茶とお菓子が勿体無いじゃない」
あ、そすか。て言うかもう第一信仰者か俺は。
だがここは敢えて黙って置こう…ズズズ……あっちぃ~…(棒)
「ところであなた。とんでもない勢いでお賽銭入れていたけど」
「二度も壊したり、壊れる原因には致しません」
「それはそれで良いんだけど、一体幾ら奉納したの?」
「稼ぎ量が聞きたいって、か?」
「そんな厭らしい話じゃないわよ……フフ~ン♪」
「おいおい巫女さん。顔が厭らしい」
「あらごめんなさい…フフフ~♪」
何なんだこの巫女さん。
「ざっと一万円だ」
「いっ、1万円!!??」
厭らしい顔はどこへやら。凄く驚きやがった。その勢いに少し引け目を感じたり。
「あんた、お金はもっと大事にしなさいよ。それだけ入れて何をお願いするって言うの?」
なんか悪質な信仰活動している巫女に、ご最もなこと言われたんですけど。
「神社の運営率が上がりますように、と……不作法に声に出してお願いしたんだが?」
「そう言えばそうだったわね……ていうか、その願いも加えておかしいでしょ?」
「何で?」
「普通は自分のために神社にお参りに来ている筈なのに、なんで見ず知らずの始めてきた神社の信仰率を上げるなんて、大金を持って大層なお願いが出来るの? もしかしてコーマ館の新しい使用人さん?」
コーマ館?
この日本の一村には、伝統の遊戯“駒”をコーマなんて伸ばして呼ぶ習性が有り、それら何種類と展示して設けている成金屋敷でもあると言うのか?
「コーマ館が何処だかは知らないが、その見ず知らずの仲での第一印象の会話の流れで、そんな大層な願い事が出来るんじゃないか?」
「あ~…それもそうかしらねぇ~…」
何かを忘れたく、明後日の方向を向くようにして巫女さんはお茶を飲む。彼女の行動は解らんでも無かったので、俺もその行為に参加した。
ちょっとした沈黙の後、俺から口を開く。
「それに一万円入れることにはちょっとした掛詞が有るからな」
「掛詞?」
「一万円……即ち円万が賽銭箱に入れられるっつーことだから『円満に通ず』。途轍もない幸福がおい出ますよってことだな」
「そう……それじゃあこの博麗神社は、信仰者でいっぱい、お賽銭いっぱいの幸福神社になるという理由ねぇ~、有難や~」
思想で幸福になるかは、個人の想い方次第なのだが。
「まぁ、そうなんでしょうね……」
お賽銭いっぱいで幸福とは……金にモノを言っている巫女さんだ。
とまぁそんな感じに、どこかの狂った騒々しいお茶会とは真反対の、静かなお茶会は、二つの意味で協調性無い蝉の音と共に、時を刻んでいった。
「…で」
茶を飲みつつ、余り口にしたことは無い、と言うか無い和菓子を掴んだ瞬間、巫女は俺の手の甲に手を乗せ、詰めていた言葉を吐き出した。
「ここに何の用なの、外来人さん?」
確証有るそいつの悪行を回りくどく質問している教師のような捨て台詞だった。
そう聞こえた。
さっさと白状しろと、面倒だしこいつ悪風評だからこいつでいいか。って内心は大方適当でダメなヤツ。いや別に教師に恨みはないよ? 元より担任教師も家庭教師のトライGさんも付いたことは無いので。
「外来人…?」
空気を読んで違和感のある部分を抜き取り、疑問文を疑問文で返した。
何処ぞの殺人鬼には、おでこに指を捻じり突かれて説教される始末。あれは美しい手と顔をした“女”に限る奴か。あの台詞の時はそうだったな、女性がでこに指を突かれていた。
じょじょっとした考えはよし。しかし何だ? ここ日本だよな。何で外来人とか…?
ココワマジデジャパニーズ風景ガ整ッタアメリカンデスカ? ソレトモオーストラリア?ドイツ? ドイツノカガクワセカイイチィ……
過去の事を振り返り、少し、ほんの少し、胸騒ぎがした。
「まぁ急にこんな所に来て自覚は無いでしょうけど……」
巫女は怒ること無く話を続けた。
よかった爆破されないで……それはさて置き、急? こんな所? 自覚? これらの言葉に少しばかり確信が付きそうだった。 景色は宛らだが、叶っていたことになりそうだったから。
「あなたは今、幻想郷に迷い込んでいるのよ」
確信した…今俺は異世界転生を果たしている。
「幻…想……郷」
見聞したことの無い、如何にも異世界っぽい名前だったので、博麗神社の時みたくゆっくりとその名を読んだ……からの巫女は話を続ける。
「あなたの住む日本。私たち幻想郷の者たちは“外の世界”って呼んでいて、幻想郷に張ってある結界により、外界とは離れた場所にあるの。一応日本の一部ではあるけど」
日本の一部。
「幻想郷は、外の世界で忘れ去られて、幻想と成り果てたモノたちが行きつく非常の世界……だけどあなたは」
通常の…人間よね……と巫女は確言する。
おまけに
「髪型は変だけど…」
うるせぇ。
普通の人間なら、此処には行けつけないって感じなのだな。だけど俺は能力云々、髪型云々、人間性云々普通ではナイナイのオンパレードだからな。
その“幻想郷”とやらに行きつけるに値するが、別に忘れ去られたとか『非常』と言う訳ではない……と思う。
あわよくばそれで良いのかもしれないが……からして、巫女さんの霊感解答は
「半分正解で半分不正解」
ってところだ。また新たな議論が生まれそうだが然し、そんな事はどうでもいい。
自分がどういった“人種”かなんて、気にする必要はない。気にならない。
そいつが人間であろうと人間で無かろうと、そいつの意思みたいな意思の答えとして、異世界に来れたのだ。
日本の一部とやらは無視して。
色々とまた“設定”をマチガえたとかで、「あ~あ」となりそうだったが、いやなったか? なっている? あ、そう。兎に角もう一度思うが、異世界に来れたのだ。
忘れ去られた? 幻想? 素晴らしいシステムが整った[異世界]じゃないか。
そこで俺が此処に、この“幻想郷”に何の用か? だなんて必要不可欠な意見だ……あれ?『不要な意見』だな、ゴメンゴメン。
無情ながら舞い上がっているのだろうよくわからんが。誰に謝罪? オンナジヤオンナジヤオモテェ~。
「まぁ、さっきのお賽銭箱の復元を見る限り、ヒトの所業ではないわね。さっきの紙とかが原因でここに行きついたとか?あなた風に言わせると“カミの所業”?」
俺風に言わせるって、言わせてねぇよ失敬な………あ、失敬。俺に失敬はご無用でした失敬。
「カミ……これまた半々な解答かな? 神様でもなければ、人でもないし。あの紙だけが原因ではないからなぁ…」
「神様ではない人でもない紙だけではない…それは…“ようかい”類の所業かしら?」
……何か喋りすぎたな。
誤魔化しは十八番まで行かずとも長けた方ではあったが。巫女さんから殺気とまでは至らない戦闘の気が……プロの暗殺者的気配ってやつか。そんな口調で問いかけてきた。
それにしても“ようかい”とは何だ?
予1、妖的な意味の“ようかい”ってことなのかしら?↓
答、たぶんそれ。
予2、それともスライム的な意味での“ようかい”かしら?↓
答、それ“モンスター”
予3、この[スライム的な意味での“ようかい”]って、どっちの意味なのかしら?↓
答、巫女さんがお金入っただけで厭らしい顔をなさったから多分厭らしい意味での“溶解”
きっと日本(の一部)だから妖的な意味の“妖怪”ってことで。はい最初から決定されていました。
え?神でも人間でも無かったら妖怪なの? この尋問……
しかしまぁこの異世界……異世界らしい様な話。
「妖怪? 妖怪がいるのか? 幻想郷には」
「ええいるわ。巨万とね。ところで質問を質問で返すのやめてくれない?」
ついに怒られました。スンマセン。学校の先生から教わっていない劣等生なんです。
「それは悪かった。妖怪…って訳では無いな。だが俺の住む世界では妖怪みたいな人間は沢山いるぞ能力的に。妖怪そのものってのは、あんまり見たことはないが」
「そう……まぁあなたはその、能力的に妖怪以上のイレギュラーだけど、それについては何て言うのかしら?」
「何を言うも何も……」
『しっかりと人間だ』ってのは詭弁なので、濁して“俺の住む世界”についての事を語ったのだが、見事、突っついてきたな。
どうしよか。
向こうは完璧に俺を(妖怪の類じゃないか?)と疑っている。
どこがどうまで妖怪かはさて置き、こんな『規律改定の書』を持っていたら疑われるのもショウガナイショウガナイ。
だがここで素直に“設定”どうこう言うのも「アイ・アム・アヤカシ」って言っているようなものだしなぁ……あ、そうだ。
「俺は………………………………………………………………………“俺”だ。」
間合いは5秒くらいだろうか…静かに風に吹かれた草木が音を立てる……
忘れていたが、蝉の音も…そして巫女は言った。
「ああ、うん、そうね……」
ぎこちない台詞。
当然だな。
外れた言動にも程が有りす「とある人物により作られた」
「……え?」
……え? 俺が首を傾げたかった。
何故言った? ていうか俺が言ったのか? 信じられない。元より信じない。『作られた』だなんてさらっと…
「俺は、さっき見せた紙を…複合して作られた…絵のような存在……」
おいおいおいおいおい。何で言ってしまうんだ。
馬鹿か? 馬鹿なのか? 言ったら“妖怪”類と断定されて、先程のお祓い棒で『成敗。』だぞ。何故にの多分論だが。
「絵…? つまり、おとぎ話の人物みたいな感じかしら?」
巫女さんは続きが聞きたいと言わんばかりの返答。
おとぎ話とは随分メルヘンチックな比喩だことで……ナンデダヨチクショウ。
説明は不本意ながら続いた。
「俺の持つ本は、“理が適った願い”を書けば、その通りにできる魔導書。名を“統一とする(コスモス・)聖なる(ホーリー・)魔導書”」
「豪く長い名前ね」
「まぁ、持ち主にとって心臓みたいなアイテムだからな……名前長い方が長生きするみたいな? それに何でも出来ちゃうしね」
『何でも出来ちゃう』言うな、俺死ね。
「それで…あんたが生まれた経緯は何なの?」
「さあな。何せ俺を書いた人物は、人絡みのトラブルで新しい自分に生まれ変わりたかったみたいでさ…それが嘘か本当かは解らないんだけど……」
「どういうことよ?」
「俺は、その前世の人物の記憶を諸々、欠乏が激しいが曖昧に受け取っている。そこから得られる悪態な性格も…この本もだ。だか、確証はない。そう施された“設定”は、すべて俺の体内で生成され、一つの厄介な人体生命として活動しているのだから……」
もっとも悲しいことは無いが、悲しいように空を見上げる。
どうしたんだ俺。マジでらしくない。『らしい』とは俺にとって哲学的論文が必要なんですが…
「そいつは転生された奴なのか…それとも新しい生命体なのか…解らないことだらけなんだよ……」
今日は本当よく喋るな……自己紹介にしては長すぎるモンだぞ。
後8人くらいつっかえてるんだからさぁ、早くしろい。
「でもまぁ、そうして悩んで暗く生きるのも何だし、取り敢えず『俺は俺だ』って言う深い意味はない適当な自称を飾ったってだけだよ。悪かったな、最初変な紹介して…」
「……あ、いや、いいのよありがとう。そこまで話してくれるとは思わなかったから………後ごめんなさい。妖怪だとか疑って……複雑なのね、あなたの人生って……」
彼女は頭を下げてから、俺自身に情けをかける。不要だってマジで……まぁそんなストレートには言わず
「いいさ、普段の生活上気に病むことではないからな。先ず気に病まない。俺は“無情”だからな」
とソフトに誤魔化す。いや真実本当だけど……
「それも…あなたの言う、施された“設定”?」
「ああ、心が心で動じないって感じで、変わりに頭で考えて行動するってね」
「そうなの……で最初に戻るけど、あなたはここでどうしたいの?」
うんまぁ、そうなるわな。すんまへんなぁ脱線して。
『前世』どうこう言う前に『俺は俺』なのだから、その俺がどうしたいかだよね。あれ? 鳥肌が……
「私は神社で巫女をやっているけど、外からか、若しくは何らかの原因で現れた妖怪が、悪さした、若しくはこれからするってなら退治する“妖怪退治”も専門に営んでいるのだけど……」
妖怪に対する殺気の様なモノはここからかぁ……巫女さんはご多忙なのね。
巫女であり、妖怪専門の暗殺者……それに引き換え俺は。
「安心しろ。幻想郷がどういった場所でどういった生活でどんなルールがあるかは知らないが、俺は俺の“設定”に従うだけで、悪さも何もしたりはしないさ。もし誰かが命じた“一理有る悪行”の場合は働いちまうかもしれないが。あわよくばこれ以上誰にも会わない方が良いってこったね」
ま~我ながら味なセリフを。味はきっとビターコーヒーですかね。味覚も無いのですが……。
この台詞の真意は『何もせずにだらだらと過ごしたい』ってこった。言わば只のニートですよ。
だどもこんな台詞で誰が信じたりするのか? たかが言葉に味と偽りの高揚感を乗せただけの……………ん? と今し方下方を見やる。
「どうでもいいんだけど、手を退けてくださります?」
さっきからずっと手を掴まれていたんだな、何とも無いのかな? 巫女さん。
あ、いや無いか。
今俺は和菓子を掴んでいるのだから、そっちに何らかの“力”が伝わっているのだろうね。
「いやよ。それは私が食べるもの。あなたが退けて」
物欲しさにずっと手を乗せていたのか、この賽銭貧乏巫女。
もう縮めて貧乏巫女。
だが、いいタイミングだ。
お茶も飲んだし和菓子には手が付けられなかったが、ここでお暇させてと……………
「もう一度言わせていただけますが、手を退けてくださいます?」
退けようとしたら、退けてくれなかった。巫女さんは真剣な眼差しで
「私が手を退けたら……あなたはどうするの?」
最終審査……と言っていいのか、意味深な言語が飛んできた。
どうする……とは、これからどうやって生きていくの? とか、何をしでかすの? とか……いやもしかしたらこの和菓子の話か?
「油断はしないわよ……」
ああ、このシリアスな展開……絶対、意味深。
「手を退けたらあなた…………帰る気でしょ?」
……………へ?
「絶対そうよね、お茶飲み干しているし。言っとくけど、私があなたをここの信仰者にする為にお茶に誘ったんだから……素性は二の次よ」
なんだっそら……最初に素性聞いといて二の次とか。
これではガチで帰れまテンな展開になってきたでござる。いや、元より帰る場所は無いんだがね。どうしましょ?
ちょっと貧しい女の子と一つ屋根の下で泊めて貰おうかしら? 夜にはお月様に向かって祈りを捧げてから眠るのよ。
『明日もイカレタ一日でありますように』って……どこぞの赤毛の少女だか。赤毛の少女はこんな阿呆な祈りは捧げねぇよ、まぁ巫女さん赤いが。
そして何を思っているんだこのマッドヘッダーは。追い込みに彼女は
「信仰者になって」
と一言。何とも執念深い巫女さんだこって。
この状況を打破するために、何を以て信仰何たらを求めているかは知らないけども、止むを得ない。
「解った、また来る。来たら毎回賽銭入れてやるよ」
「本当? ならいいわ」
手を放してくれた。信用するのが速いし軽いな。
だがお陰で、来たら賽銭しなければいけないんだよな。この巫女さんはもうご満悦だし……。
もう人と関わらない方が良いと言った手前、関わって終う考えるだけで面倒な約束してしまったな…………約束……か…………。振り払え。
「ごちそうさまでした。お茶、新茶だっけか? 美味かったよ」
味覚は以下略。
「……! ちょ、ちょっとどこ行くのよ?!」
巫女は慌てて、後ろ姿を見せる俺を叫んで止める。
信仰者が出来た事に、どんだけ嬉しいんだよ。
「ここは妖怪が山程いるのよ? 言わばあの山程!」
何その見苦しい幼稚な例え。
「幻想郷に住む妖怪と人間は『共存生成のため妖怪は人を襲わない』ってのがルールとして一つだけど、外界から来た人間に妖怪は容赦ないわよ? 私の知り合いにここから元の世界に帰せるヤツがいるから、そいつに頼んで…」
俺が言うのもなんだが、チートな知り合いがいるもんだな。
「忠告ありがとう紅白の巫女さん。あんたとの過ごしたお茶会はそれなりに忘れない」
まぁこれから賽銭を貢ぐ関係になるんだし…ハハハァ~
「それに、俺は元居た世界には帰る気は無い。死んだら死んだで自業自得だし、若しかしたらそれは本望かもよ、俺は知らんが」
無茶苦茶な台詞だ…自分でも解っている。
自分事なのに他人事みたいに物言って、同情を引きたいってわけでも決してあるまいに……
別にいいさ、元いた世界に帰されるよりは……死……ねぇ……考えたことは大いにあったが、それが間近で身近に有るとなると……ま、これまた何も無いんだが。
無いことは幾らでも有るな、俺は。
「待ちなさい!」
巫女が再び叫んで、再び退去を止める。
何だ? やはり田舎もんのルールとしてここでのお散歩は見過ごせないか、妖怪みたいだと言うことで退治されるって筋書か? さっきの棒…大幣だったか?
あれで打ってきたが、増幅前から中々の剛腕だったぞ。女性に言うべき言葉なのか……と考えていたら。
「はい、これ」
振り向き目線を少し落とした先、一体どこから出したのか巫女の手には、異様な模様が描かれた紙が5枚……恐らく“お札”と思われる紙が、渡されるようにこちらを向いていた。
「あんたは、素性は複雑でおまけに妖怪以上に危ない能力を持っているわ。でも何かを起こす気はない。何の目的もない。あんたが自分の手口を晒した手前、そう言ったことは本当なんでしょう?」
「ああ、うん。はい?」
「私はあんたが外界で何があったかは知らないし知る気もないけど、それでもあんたが人間である以上、対抗する力が有ったとしても見過ごす訳にはいかないわ。それに外来人だとしても折角出来た信仰者なんだし。でも私は私で忙しいから……お守りに……持ってなさい」
――――。
賽銭箱を壊した挙句、似非感覚で修理を施した台詞的に死にたがりの無法者に、賽銭の礼なのか…これから通い詰めてくれるごひいきの様なものか…茶に続きここまで………ああ、お茶は勧誘の策だったな。
「でももし、あんたが『あの力』で異変だの何だの悪行に手を染めようって時は、私は賽銭箱に変えられようとも、あなたを退治しに行くからね」
恐れを知らない異変解決者の凛とした宣戦布告。
「ああ、肝に銘じておくよ」
「あら、心の無い人間に銘じられる肝が有ったのね……不思議」
教えた“設定”に、皮肉を込めて物語る……信じているのか信じていないのかどうでもいいのか。
俺自身がそれを考える事にどうでもいいと思っているのだが……寧ろ何故あんなにも自分の事を語ってしまったのか考えたかった。
知った被りで俺の性格を語る巫女にあざとさをも考えるが。
俺は、知られたかったのだろうか……自分と言う存在を……この巫女さんに。
【間奏】
何を馬鹿げたことを……。
本に書かれた“設定”は専用の『消しゴム』でも使わない限り絶対に消えない記術だ。書き方もどうこうあったが、それだけが唯一の消去法……そして、書き方が大まかなら、抵抗力無しに最大値で反映されるデリケートな代物だ。俺自身の“設定”は、前にも言ったが体内に保存されてある。つまりはもう、完全なる人間の一人として存在してしまった[絵本の中のキャラクター]なのだ。
そいつの性格はざっくり言って、無情、気紛れ、妄想癖、少々根暗。
そして誤りの多い不完全で完全な人種。これらが俺の全てだが……俺はその内の無情だから「知って欲しい」なんて事は……いや、もう止めよう。
自分について度を越して語るなんて、どれだけのナルシストだ。自分好きなんだ。
まぁ、語る事が情報提供を視聴しても覚えないから無いから様様なんだよ。
さてそろそろお札を。
今現在カミサマがいない不安定な中、思考と建前からだが、巫女さんからの護符…有難く受け取るとしよう……
「…………宴会…」
巫女さんは寂しさが溢れるような声で何か呟いた、ように聞こえた…気のせいか、呟いたことが……
「夜に神社で宴会があるの…」
「…は?」
宴会…確かにそう言ったか? 宴会と言えば、酒やらツマミやらを食し飲み騒ぐあれか? うむ、気のせいにして欲しかった…
「日が沈んでも生きていたら神社に来なさい。宴会に参加させてあげるわ」
これまた突拍子もないお誘いだこってからに……
宴会か…俺、齢十七の未成年だけど酒飲めるかな?
ていうか飲んでいいかな? ダメかな? 法律的に……いやでもここ“幻想郷”だから法律は届かないかな? “幻想郷”にも法律有るのかな?
ま、宴会時に容赦なく出てきたら、水にでも変えればいいさ。
大丈夫だろうか? 宴会っつーことは大勢で騒ぐわけだから……この巫女さんのあの信仰活動の性からして、知り合いってロクな奴いないんじゃないか?
そのロクデナシの中に『私の酒が飲めねぇのかグヘッwグヘヘwww』なんていう奴が………と思うのは俺だけだろうか……俺だけであって欲しい。
「判った。もし、生きて居たらな……日没に、来てやんよ」
「ええ、来なさい。来た時はあなたを“幻想郷”の一住人として迎え、盛大に盛り上げてやるわ……後片付けが面倒だけど……」
私的本音を包み隠さず、巫女さんは宴会開演の意図を教えてくれた――――。
頑張ることは嫌な俺だが、彼女が二位と願望者にそこまでしてくれるのなら、頑張って生きねばな……。
そんなこんなで、ミッション付、宴会の参加には一応頷いて置き、博麗神社を…
「あ、そうだ」
おい俺が今「…後にした。」と思い掛けた処を。
何だよ? すぐ止めやがって、この腋露出巫女。略して腋巫女。
「あなた、名前は?」
ハイゴメンナサイ『腋巫女』『貧乏巫女』だなんて言って(頭で)。
確かに教えていませんでしたね。まぁ嘘のような名前なんですが、単に、オシャレとの様なモノして有る、一応戸籍上存在しちゃっていない名前を紹介させて貰いまして。
「陽月さくら、それが名前だ」
「そう……よろしくね、さくら」
一見さんに対してもう名前呼びか。
「んあぁ…“ひつき”にしてくれないか? 女みたいだからさ」
女みたいとはこれまた建前、しかし綽名で通して貰う様頼む。
「え~…そう? 男の人でも似合うと思うわよ? 特にあんたみたいな奴は」
何の企みが有るのか……巫女はにやけて物言う。
「どういう奴だよ」
まったくだ。
「ふふ…じゃあ改めて…よろしくねヒツキ。後賽銭アリガト、ヒツキ」
「賽銭アリガトって、これから貢いで貰える癖して……この――――」
あれ? 何か言ったか俺? 巫女さんはキョトンとしている……その後
「クスクス…これまたアリガト。健闘を祈っているわ」
感謝し、微笑み、応援の言葉をくれた……
まったく、最初から名前呼びだ、純粋…かどうかは謎、俺の話を聞いてくれるだ。
意外と――――――――……んあ?
また何て言った? ていうか思った?
最初は飛んだブラック企業の巫女さんだと思ったがよ、――――――――――って奴だったよ……は?
マジ何言ってやがんだよ……ワカラナイ。本当にワカラナイ…
階段下り行く先で思い想った時、
「愚かだな」と言わんばかりの…忘れていた暑中に、(思考上)救いのそよ風が一つ、俺を小馬鹿にして飛んで行った……どんなそよ風だか…。
そんなこんなで俺の進行は、博麗神社を後にした………………やっと思えた。
博麗霊夢とはそうやって知り合った。
てな理由で、次回もお苦しみに。