第拾壱話 曇り無きお茶の色~timble countenance complexion~
紅魔館主の右腕"十六夜咲夜"を完膚無き迄仕留め、そして出会すは吸血鬼の主人"レミリア・スカーレット"。
部下の尻拭いをするかと思いきや、まさかのお茶会に誘われる事に―――
真偽と正誤不明の幻想×空想譚、此処に開幕。
久しぶりのこのフレーズ。
【屋敷】
漸く、此処の主人に出会したか……正直何処かでくたばるとは思っていたよ。
先ず中国門番さんから。
まさか会話の流れでドンピシャ合点承知の助、旨く潜入の糸口に繋がるとは。
安易・安直の愚直な考えで、以前より、ボコられガメオベラを想定していたが……考えずとも、魔女狩りなんて存在が何処に居ると言うのだ? 寧ろ何だそれは? 異端審問会的なアレか? 何言ってんだ? 世界史無知、乙。
その後に、図書委員。
五色の魔法に続き、陰と陽の魔法を操るとされるセブンス・ウルトラ・ウィッチ。
御本を読むことが好きで、して同業者に本を盗られるのは朝飯前の茶飯事、要はドリンク一杯。
何だか見知らぬ義姉さんも居たが…………同業者に模擬されて義姉さんの二の舞になるかと想いつつも、何だかんだ和解して読書の空間にシェア浸る始末。
赤い髪の小さな使い魔も居たな。
そして冥土……あヤベ誤字った、冥土…………………………うん(諦)。
時を操る能力を持ち、その停止期間中にナイフを配置して、敵を制圧する、スマート・スピーディ・スラッシュのSSS……ナイフは「突き」だからスマッシュ? SSSS。
彼女とは平和的解決が成らず、出来ず、戦闘に持ち込んでしまったが……
戦闘……だったっけ? 彼女曰く、俺が勝利を得た。
そんな感じでこのコーマ館のルートを辿って来ました、何時もの粗筋、モノ語り。
「咲夜、私の目の前に突っ立っているソコな人間は何ゆえ天井を、月を眺めるかのように見つめているんだい?」
「申し訳御座いませんお嬢様。私でもそのソコな人間は、思考も戦闘も底と得体が知れない曲者でして」
「宇宙人とでも言いたいの?」
ああ、髪型が宇宙を通り越して神界に届いていますから……ん? 宇宙は神より上なのか?
「処で何やら物見勝手に私の事を操ろうとしていたみたいだけど……」
「滅相も御座いません。この者は私の手には負えないと、お嬢様にお力添えを頂きたいと思った所存で御座います」
途端に、お嬢様の目が少し下がった様に見えた、視ているのが天井なだけに。
「あら? その言い草は咲夜……侵入者と見据える相手に不覚を取った、シンプルに負けた、と、解釈すれば良いのかしらねぇ? 何で在れ、何時で在れ、お茶の時間もとっくに過ぎているし……」
「私とした事が、お恥ずかしい限りです」
咲夜は膝をついた状態で首を垂れる。
この時点で俺の位置は、彼女たちの会話を交互に聞き取り耳を傾ける、蚊帳の外だった。
「……まぁ良いわ、人間らしい地を這いずる無様な姿を、一瞬だけど見れた事だし」
意思は兎も角、優しいなご主人。
「扨て、お客さん? 当家の側近である咲夜を追い詰め、私の謁見迄来れた強者なのだから、持て成すわ、言葉通りね。……で、聞いているのかしら?」
俺の視線はゴー・ストレート。
「え、マジでファイナルラウンド行っちゃう感じですか? 戦うんですか?」
「何だい聞いているのかい。其方でも構わないけど、小腹が空いているからね。アナタもお茶に参加しなさい……と、言えば、皆目見当が付くわね?」
「おやつが甘ければ、お言葉に甘えさせて……」
「フフッ、決まりね。咲夜、大至急、早急に、私とパチェと客人分の、お茶と菓子を用意しなさい。それがアンタの罰と自負する勢いで、よ」
握る拳を脇腹に置き、指を刺して、お嬢様は命じた。
「畏まりました」
右手を肩元に構えて、会釈しつつ、時を止めて彼女は即座に厨房へと駆け出した。
一部始終見れる俺は、お嬢様含め、辺り一帯が灰色になっている事を確認し、何ゆえか俺に首を少し傾け微笑んだり睨んだり、表情に忙しない、これから忙しない咲夜さんに疑問を覚えつつ、時間停止の効果が切れた後、お嬢様にゆっくりと、茶の間へと案内されたのであった。
【茶時】
「―――自己紹介が済んで居なかったわね。私はこの『コーマ館』の主人“レミリア・スカーレット”よ。見ての通り種族は吸血鬼。だからと言ってお茶に血を出す訳じゃないから安心なさい」
と言われつつ、メイドさんがゴージャス・イズ『正にお屋敷』なティーカップ3つに注がれるお茶は、赤い。
「応。俺は“陽月さくら”。ヒツキと呼んでくれ。訳と野暮有って館に此処迄来た無法者だ。故に先ず、勝手にこの屋敷に侵入した事を、侘寂入ります」
「フフ、腰掛椅子でドゲザって、詫寂より和洋折衷ね。一応……詫寂なのかしら?」
中立的な行為は疑問しか生まず。
「腰掛椅子で土足の土下座は椅子が汚れるわ。詫寂では無いわね」
同席していた図書委員の事、パチュリー・ノーレッジは口を挟む。
いやほんとマジ済みません。
「それにしても本当に良く此処迄来れた者よ。美鈴を“魔女狩り”なんて題目で出し抜き、白黒と金髪嫌いで今日も愛本窃盗被害遭遇の魔女が、質素に読書空間に招き入れ、剰え、時を止める人間である咲夜の時間停止空間に侵入して、彼女を戦闘不能にしまうなんてねぇ……」
テラスに着く迄に語った俺の経路を復唱するお嬢様。
最後のはマジで複雑なコネが有るのですが……フ~…ズズズ……紅茶だ。
「あら、咲夜負けちゃったんだ。然も時間停止空間に干渉出来るって、一体何者よ、ヒツキって」
「手の内が色々と有る人間紛いの人間と想ってくれれば……」
と開いた手を顔に並べて、真顔のお花、お兄さん元気ぃ。
「然しまぁ、俺は本当に侵入者でしかない無法者だが、良かったのだろうか? こんな奇麗なお庭が眺められるテラスで、秘密の花園女子女子お茶パーティに参加しちまってよぉ」
自分でも何言っているか解らないが、余分な語句を消去で訳せば自ずと……お嬢様は、手の甲で頭を乗っける頬杖を作り、
「良いのよ。アナタの通行経路の途中に若し私が入っていたら、如何なって居たかは、語るも見るも堪えない運命だけど」
と、再度許諾を確認した。
―――このお嬢様、何でも……『運命を操る能力』が有るらしい。
複数ある運命の内、一つを選び、その定め通りに事が運ぶと言う、物凄い概念染みた能力、マニアック過ぎて頭痛い。
「敢えて私は、順路通りにしてみたのよ。私が起こした〈異変〉の時みたいに、ね」
異変……此方側で言う処の“超常幻召”。
「へぇ~。お嬢様『異変』起こした事有るんだ」
俺はクッキーを齧る。
「まぁね。紅い霧を起こして、人間滅して吸血鬼に暮らし易い環境をこの幻想郷で作ろうと企てたんだけど、博麗の巫女にやられてね……大人しく身を引いた限りさ」
指絡み肘付き台を作り、頭を乗せ、右手をアッチに払って語る。
成程、今回聞く限りでは、人為的な異変か。
「巫…霊夢に、ねぇ……」
彼女は、おや知っていたのかと片目を開き、
「アナタは起こすの? 異変?」
手の甲での頬杖で、上目遣いに彼女は問い掛ける。
「起こさねぇよ、このお札に誓ってなぁ」
茶席に着いても尚、鞄を下ろさない無粋なその男(稀に女)から、以前巫女さんより携わったお札が取り出される。
「霊夢からお守り用にコレを貰ったが、同時にコレは誓約書みたいなモンだと想った。汝、この幻想郷にて異変起こすべからず」
「賢明な判断かしらねぇ。あの巫女なら容赦なく、異変解決に赴いて、発症源を駆除するからね。アレもアレで鬼ったらありゃしないわね」
西洋の鬼が公認しますか……。
「まぁ、空振りでは有ったが、霊夢の拳は『鉄』其の物、加えて速さはサイクロン級のバズーカ弾と来た」
「アハハ! 当たってる当たってる」
「……それに彼女の、たった一万円入れただけの信仰勧誘活動力、その強欲さは―――」
―――正に〔鬼〕、―――故に〔暴力巫女〕よ。
体験を談して、結を論じ、して、また紅茶を一に服する。
霊夢で思い出したが……俺って此処に来てから、頻繁に茶を、誰かと飲んでいるな。
魔理沙にも朝飯にキノコティーは頂戴して貰ったし。
「おや、あの神社、あの巫女(守銭奴)にそんな大金を出したのかい? 見掛けに寄らず、人の良さだったり、懐だったり、持って居るねぇ。その髪型は、富豪の証かい?」
ゆきっちゃん一枚で富豪とは、トランプゲームで3上がりを富豪と言うのと同じだね。
「富豪の証でも富豪でも無いんだがな。なけなしで出しただけだよ」
「そうなの? てっきり金には困らない裕福なお坊ちゃんかと思ったよ……ん? いや、待って……」
と、レミリアのお嬢、ブツブツと急に考え始める。
「? お嬢様はどうしたんだ、図書委員」
「レミィの考えは大体読めたけど。いいえ、何でも無いわ、此方の話よ」
此方だから、何でも無い事なのか?
「……あぁ、済まないね。パチェの言う通り、何でも無いよ」
何でも無いのか……ま、偶には独り言も大切だよな。
「で、お嬢様の順路通りってのは、霊夢に討伐された順番って事か?」
「そうだね。さっきの会話からその話題を持ち込むヒツキの変換力……話に着きが無いよ」
褒め………としては受けずに流して、
「良し悪し有るんだったら語らなくても良いんですぜ?」
「いや、無いよ。寧ろ思い出に浸るってのも、悪くないと思っただけだよ。その分アンタの話のネタは有り難い」
想いでの浸透に悪し無く、ネタがポイポイ有りが難いのですって。
「アンタを茶会に迎えて正解だったよ、運命通りね」
正解……何がだ?
「正解か?」
「ええ、正解ね」
便乗するかの様に、図書委員。
「今一解らん」
答え求め、投げてみる。
「アンタ言ったね、秘密の花園に男が混じっていいか? と」
「あぁ、うん。はい」
「そう、基本は女しか集まんないから、偶には男が居るってのも有りか、とは考えていたんだよ。そしたら丁度ウチの舘に男が潜入。どれどんな輩かと観察していれば、余りにも人畜無害そうな雨雲みたいな目をした奴だねって。実際礼儀は兎も角、行儀は良い―――よって正解だった」
「やっぱ解らん、幻想郷だからか?」
「幻想郷だからね」
「幻想郷だからよ」
――――理は、幻で塗りたくられたし。
不思議な不思議の国の不思議な館の不思議なお茶会は、扨て、未だ続く。
【駆引】
平和ねぇ、と呟くには確かだ。
紅茶を飲み、目を瞑って椅子に背凭れに背中を預け、青い空と共に塗りたくられた庭園を眺めるお嬢様が、言うのだから、その言動から間違いないと断言できる。
そよ風と、蝉の音と共に…………なっつ、アガガガガ。
思い出したくないモノを想い出してしまった。
何とも人間、何とも記憶。
嫌な思い出程人間って忘れるには……個人差有るが、俺の場合は、どうも忘れた頃にやってくる、鼈噛みつきの鼬ループだ、何方の漢字も書ける自信が無い。
――――そんなのであなたは………
今回は「なつ」から音が発した。
丸で頭にラジカセでも再生されたかのようだ。
―――あぁ、そうだよ。解っているとも。
俺はマチガっている。だけどそれが人間だよ。
『絶対に』なんて真っ直ぐな道は、有りはしないんだよ。
何処かしらで曲がって終うモンなんだよ、人間ってのは……面が倒れるような、そんな面倒な生き物なんだよ。
「………如何したんだい、ヒツキ? カップを持った儘、空を眺めて……空でも飛びたいのかい? それともそのカップを宙に浮かせたい?」
アリスパーティーかよ。
「いや、何でも無いし、空は飛べる。カップは宙に浮かせない」
「然し浮かない顔だよ?」
“設定に基づ”きだよ。
「……あぁ、そうかい、読めたよ~……」
不敵に笑みを浮かべ下目遣いで此方を見つめるレミリア……やべ、又声に出ていたか……と、失態・失言からの緊迫の瞬間等、所詮知れていた一瞬。
其の解、すぐさま。
「咲夜からの報酬が欲しいんだね?」
ほらな、咲夜さんからの戦利品、確かに受け取っていなかったよね………それは予想の外デス。
「何が欲しいんだい? 咲夜を一日メイドに貸して欲しいだったり、咲夜を一日伴侶、若しくは女友達として貸して欲しいだったりの、咲夜の範疇だったら何でもいいよ?」
ソレ、本人がどうなにょ? 俺はお気持ちだけで良いんですが、だけど……
「お嬢様がそう仰るのでしたら……」
ええんかい。
ブラック企業にも似た忠誠心です、犬です。
“さっちゃん”お手。
「おや? 一日伴侶をご所望かい? だったらもう少し、片膝をついて、片膝を立てて、下手に出るべきだと、私は思うけどねぇ……」
英吉利国のプロポーズか、ノンノンだよ、マドモアゼル。
興味もプロポる気も無いけど……で、未婚なの? お嬢様も、咲夜さんも。
序に図書委員も。
あ、因みに「マドモアゼル」は禁句です。
「違うさ。彼女の、従者“十六夜咲夜”の、今日本日の、失態・失敗・失業・失行・失効・失格・失陥・失望・失明・失命・失点・失念・失敬・失礼・失墜・失速・失言・失語・失当・失投・失調・失意を無かった事にして欲しい」
「其処まで咎める気は微塵も無いけど……」
でっしょうね、知ってた。
「只、其の要望は、私の権威有っての願いだ。聞き届けは出来ない。が……何故、そんな御託を、そんな語数を、並べて、並べて迄、そんなにも咲夜を庇うんだい?」
アンタもアンタで御託が多いよ……とは言わずが、祟りなし。
「庇うも何も―――」
無いが、と言う。
何時もの二択。
「無いが、」
ほらな、後は野となれ山となれ。
「アンタ、咲夜さんまだ許しちゃいないだろう?」
野と山を裂く様な、断崖絶壁妄的発言。
「何で、そう思うんだい?」
当然の質問の、更なる質問の質問。
「妄想だ」
と、俺は理論無用の結論を発言し、続けて妄想での理論を語る。
理論有りました、刺激惹起性多能性獲得細胞は有りません。続けます。
「メイドって言うと、ご主人在ってメイド在り、だ。して従者の失敗は、叱るべき、罰与えるべき、調教すべき、で、在るべき主人の特権。まぁ何というか……そういう運命なんだよな、メイドって。ドジっ娘メイドが皿を割っちまったら、巨漢体質のご主人にあれやこれやと好き放題縛られて、嬲られて、弄られて、玩ばれて、そんな思考には成って欲しくないが為に、俺は………」
と、マニアックな、同人的な、我々の業界では的な有り勝ちの語りが出ちまった……『あるあr…ねーよ』、幻想郷とは言え、現実にそんなアバウトが存在する理由ねぇだろ常識的にk………んぁ?
「クックックックック…………」
顔を俯かせて、お嬢様……小刻みに震える。
お隣の図書委員も、そっぽを向いて口を手で抑え、震える。
「アッハッハッハッハッハ…………!!!!」
何なんだこの館のおヒト達は……と、真っ直ぐ正面、向こう岸を眺めて途方に暮れた次の瞬間――――顔を上げたお嬢様は、勢い良く顔を上げ、大いに笑った。
その姿は、姿通り、子供の様に、無邪気に、目を閉じて、涙を浮かばせ、声と息の続く限り、只、笑いという感情を吐き出した。
「妄想wwwでww理由を語るってwwww此奴は飛んでもないお客だわwwwww.
そりゃアwww咲夜でも敵わない訳よwwwww」
必死になって、何が可笑しかったのかを、ヒィヒィと息を切らせて喋るお嬢。
そのコメントを、多分草生やして変換する、字幕担当、俺。
後、気恥ずかしさで目を閉じる咲夜さん。
そして笑い堪えるパチェさん
「そういぇばっwwwパチェが何かww気になる事をwww言っていたわねっwwこの屋敷にwwやってきたww理由にも繋がるらしいけどwww何だい?www」
お、漸くお目に掛かる、話せる事が出来るのか。
「此処には幻の独楽、“コーマ”が有ると……博麗神社より館の情報を聞き、妄想でコーマが有ると踏んだのだg」
「アッヒャッヒャッヒャッ……!!!www」
言の葉を遮って、テーブルを蹴って手で腹を抑え、大躍動・大爆笑を披露するお嬢……最早お嬢の品格すらない馬鹿笑いです、ごめんなさい本当に。
「冗談なのか本気なのか解らないヨ…ッハッハッハッハッハ!!!!」
まぁヒツキさんは、妄・想・ですから。
「いや失礼。大変取り乱してしまったね。稀代に見る“人間”だったから……いや思い出したら又湧き出しそうだw ……さて」
暫くして、花園の爆竹が治まり、再び蝉の音が聞こえたかと思えば、レミリアお嬢様は笑いで貯めた涙を人差し指で拭き取り、紅茶を一飲み、心を平常に。
そして、されど、とても上機嫌な気分で言葉を返す。
「先ず残念な事に、この屋敷にそんな代物は無いよ? 此処は、[紅]い悪[魔]の棲み付く[館]と言う意味合いを込めて、“紅魔館”って呼んでいる場所でね」
あっがーん。
「独楽は知っているが、コーマと言う名前の独楽はてんで幻想郷には流れてきた事は無い……向こうの方では、そのコーマって幻の逸品が、流通していたのかい?」
何言ってんだ、このお嬢様……いや、言い出しっぺはヒツキっぺなのですよ。
「いや、妄想」
「それも妄想かい! ww……何だいアンタ、生きる事に於いて大体は妄り任せって言った処の人間かい? ww」
俺は少々考える……妄想、で。ではないな……一応、理に適った、が原動で、原点で、活動している訳だから……
「何事も目的が有った方が動き易いって言った処かな」
「確かにね。何度も言うけど……それでも良く此処迄辿り着いたモンだよ。挙句、内のメイドを負かしちまうんだからさ。それでいて勝利の要望は、身内問題の他所問題、メイドの罪滅ぼしと来た。強大で、厖大で、雄大で、寛大……今日は凄いお客さんが来た日だ。記念日にしたい位だね」
何故、設立したいのかは置いとき
「んぁ……どうも」
右目を閉じて、右を向き、右手人差し指で右頬を掻いた。
「然し、コーマが無いのか……行き詰ったな」
コーマが無し……其れについては別に何も無かった―――だって無いんだし。
「まぁ、妄想からの行動だもんねぇ。妄想が当たるかなんて、壱か捌か……いや、零か壱かに等しい確率さ、ね」
「まぁ望み薄って言うと、其れはもう、透き通って今にも破れそうな、ずぶ濡れの紙みたいな希望だった、と、今更乍ら反省するよ」
しないけど。
「第一に博麗神社で聞いて、何故コーマなんて語句が摘出されて、『其処は独楽の館です』って想ったんだろうか……一応第二候補には有ったのにさぁ。まぁ、幻想郷っつー、訳有りがうん百年、うん千年続いている世界で、金持ちは神妙な経緯で大富豪になったと…………………」
俺はベラベラ喋る中、お嬢様が「何だい意味深重な物言いして?」と質問する最中、有る事を、有る事に、想い付いた。
「お嬢サマ……いや、レミお嬢」
「お、おぉ如何したの? 呼び方改めずとも、態度は改まって?」
そうは見えない……相手は曖昧な感覚を得た、掛詞の後置詞。
「此処で働かせてくれないか?」
その一言は、心とは違う、本能的何か、スピリチュアル的何かが無神経で働いて出た言葉では無く、本当に自分自身が思い、考え、想って、放った言葉である。
と言う事は、言う迄も無く、言われなくても、言わずもがな、余計なお世話だ、解っていた。
然し言ったか如何かは……いやもう、そのネタ良いよ、掘り返して来なくて、古い。
―――然し、天上天下・唯我独尊、その何ともブンブンな拳挙ワードが、悪い意味でマチガイ無いの、ウルトラ・ノット・イン・エデュケーション・エンプロイメント・オア・トレイニンのロクデナシ人間型ロボット混沌対極設定人間擬き“陽月さくら”さんが、働くという道を選んだその理…………。
―――博麗神社への参拝からの賽銭奉納に於いては、先ず、お金が必要だ。
まぁ、それだけ。
衣食住は『本』が在れば、問題無い。
ネットカフェみたいなモノだから、使うのも勿体無い気もするが……。
扨て、この頼み、お嬢は引き受けてくれるや否や…………豈図らんや、此れって、『お嬢様級』の戦利品だよな。
一人雇うのだから、それは勿論、経営者が居ての求人募集……いや先ず此処、就職とかアルバイト・パートを必要として募集いるのかという疑問がだなぁ……
「良いよ、雇おう」
あrrrrrrrrrrrrrっぁあ……軽い、テキストだけに。
読点込みで七文字。
容量で言うなら14バイト……アルバイト求人だけに、ッフゥ~↓↓
「丁度私もアンタを誘おうと思っていたんだよ。アンタみたいな珍生人物、早々居ないからねぇ……」
「コーマは在らずとも、新たな駒が手に入るってヤツですかい?」
「そうだよ、弁舌だねぇ……アニ。“サヴァーニ・アンティベシラ・スカーレット”……其れがアンタの、私のモノとしての証明だよ」
スカーレット………
「お嬢様…?! 宜しいのですか、この男を紅魔館の、増してや、スカーレットの姓で置いてしまわれて……」
「何だい咲夜? 私の提案が不服かい?」
「い、いえ……お嬢様がそう仰るならば」
―――何も問題は無い。
無論問題は起こさない積もりさ、ね。
愚図な案から始まり、それに伴った因、然し事は幾らか運、そして空想的な縁であり、結果は恩だ。
このお茶会は、望まず、して紛い物の、面接だったんだろうて……入退の練習していなかったから、嗚呼無くて良かった。
兎に角、雇ってくれた義理と、このお茶会への招待への義理を果たす為、コレに見返る程の働きをせねば、な。
「で、雇うのは良いけど、アンタ何ができるんだい?」
ぁ面接有ったお。
おおお落ち着けけけおぅれぃぃぃぃ(俺)、専属先の希望を、希望を希望を希望の花、聞か聞か聞かれ気化冷凍法……良し、クールダウン、クールダウン……うっそ~ん。
「掃除ならドントカム」
「ドンと…………ぇ無理なの?」
「申し訳ございません、出来ます」
「いや其処まで畏まらなくて……… !」
お嬢様の表情が、一瞬だけ景色を塗り替えた俊足の何かを見かけたかの様に、脳に閃きを得た様だ。
してトーマス・アルバ・エジソンは電球を生み出す。
何時の話だ、何の話だ………いや電球が頭上で光る奴……有んじゃん?
「咲夜、一寸着いて来なさい」
「咲夜さん虐めんなよぉ~……」
「安心なさい………私は今、機嫌が良いからねぇ」
そう言ってメイドを連れて何処かへ、イソイソと立ち去ったお嬢様。
取り残された俺と図書委員は、取り敢えず、お茶を飲み干して、片や読書、片や黄昏で、夕日に差し掛かりそうなその時を、静かに過ごすのだった。
俺は正直、陽月さくらの冗談が談笑にはならないと想う。
思うは失礼だね、ならない。
「君は馬鹿か?」みたいなモノ。