表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想の現実≠東方空界霊  作者: 幻将 彼
第弐章「青年は近所を回って、色んな住人に挨拶を試みた。」――色彩異変
18/62

第拾話 長く感じる時の色~kāṣāya~〈感情篇〉

十六夜咲夜へのセクハラの末、意識を喪失させたヒツキは、あられもない姿に変貌して居た。



【女化】


 ――何だかとても暖かい。

 今は夏なのに、それでもその夏の暑苦しさを耐え凌いでくれる、そんな暖かさ。

 理屈は通っていないけど、そう、どんな時でも、誰かの愛情籠った抱擁は……暖かい。

 そんな幸せから始まる私の意識は、いかにもセクハラとでしか思えない、女の人の両腕を掴んで、胸にダイブするセクハラから、景色が生まれた。

 

その景色は宛ら、桃色でも、漫画の様な白黒とか、五行思想のイメージカラーには程遠い、言わば――壊色である。


「…ッ、……いきなり何をするのですか貴方は……って、貴女は…?」

 気を落ち着かせて貴女と読み換えたそのメイドさんの目の前には、壊色と言うメルト・ショック・ビコーズ・ギルティ(罪、即ち心がポッキー)、背徳でしかないこの現状に、今にも泣きそうな顔で、小刻みに震えつつも腕を掴む、女性の姿が……。

「うぅ~…、ごめんなさい。またマチガエマシタぁ~…」



 “陽月さくら”の『設定条』―――、

 感情の無い[諸行無情]の《設定》が在るとされ、残された彼の精神は、〈理性〉と、他、類稀なる〈気紛れ〉によって構成されている。と、される。


実際の処、本人にも《設定》といった『自分自身の人間性』が把握出来て居らず、否、把握する気が無く、「取り敢えず自分は〔ロボットみたいな混沌人形〕」、及び〔取説読まない系男子〕という分類で一応括りつけている。


扨て“陽月さくら”は、人・物・事に於いては、興味を示さなければ、情が移ったり、その一つに集中したりはしない。

然し、彼が彼女に変わるその瞬時の出来事に於いては、一つの事に集中が入り……ざっくり言い切ってしまうと、ヒツキが十六夜咲夜の胸に接触した事……オブラートに包んで、女性と過度な接触を行った事により、ヒツキは『〈理性〉が保てない』状況に陥り、逃げ道として『女性(同性)へと変化した』という寸法である。と、される。


変化した彼女は、男版ヒツキとは違い、〈感情〉が豊かである。

が、それと引き換えに〈理性〉は無い。

大体先の一例のように、マチガイで女に性転換して、罪悪感で申し訳ないと言う『悲哀』の初期感情(デフォルト)から始まり、その情一つは暴走の領域である。

情が変わる等とすれば、それもまた然り。

切っ掛けとしては――会話、若しくは、感情言語の含まれた、命令文等々…。

「あれ? 貴女のおでこに紙が……」

何故男が急に女と成ったのかという疑問はさておき、十六夜咲夜は、不吉にもキョンシーのお札の様に貼り付く彼女の紙を指摘した。

キョンシーなだけに、あの一瞬であの男はこの使い魔を召喚したのか……等と考えつつも、別段言葉通じず、腕を前に構えて奇襲掛かる訳も無き、目の前の彼女は素直に、デコに張り付いた紙を取り、凝視した。


その後、十六夜咲夜は、自分にとって不吉な指摘をしてしまった事が、女ヒツキが紙に書かれていた内容を読んでから硬直し始め、その不謹慎さから紙を取り上げて、自身も読み上げて……思い知らされる事となる。


「えーっと……『女と成った俺へ、お前の前にいるメイドさんを、可愛がれ』………」


十六夜咲夜には、高が手紙だけで、猛暑と家業で吸収した体温が引き下がるかの様に、自身の顔が真っ青に冷めて行く不安を、感じ取れなかった―――手紙から目を逸らした時には、その場には誰も、気配含めて居なかったからだ。

代わりに「フフフ…」と不適な笑い声が空間を伝って響かせた。

昼間なのに、肝試しを味わっている気分……手紙の内容だけで、感覚が麻痺し、顔は冷めても頭は冷静さを保てず、身が震え、呼吸が乱れ……先の接触と言い、目の前、に居たか居なかったか、最早定かではない、男か女か、同一・別人も見当が着かない、時間停止にも感化せず看過しない、侵入者の読めない行動・言動に混乱が生じて、如何すればいいのか……。

素より、異性との接触が、先ず無い為、アレが効果抜群であるからして。

主、レミリア・スカーレットに仕える、コーマ館のメイド長。

完全なる瀟洒の従者と謳われ、紅き悪魔の右腕としての立場・責務を、果たして全う出来るのか? 

彼女には前向きにはなれないネガティブな思考が漂い、離れずにいた。


――それは全て、ヒツキの手中、ヒツキの『ちょっと本気』の起承転結(シナリオ)の中。


相手の動きを封じ込み、セクハラに見せ掛け、自身と『手』による(ねい)(べん)操作を兼ねに兼ねた、『設定』の応用的活用。

二重性人格のその異性同人(ミラクルハーフ)人種(タイプ)にて、今の自分に無いものは、別の自分が補い、別の自分が持たないものは、今の自分がまた、サポートする。

その循環に似た相対性で成り立つのが、“陽月さくら”の〈至極設定〉……


[太極人間]である。


「ひやっ…!」

消えた気配は、彼女の左に回り込み、絡みつき、手始めに顎を人差し指で撫でる。

冷静こそが、彼女の性格とも言えなくない雰囲気の銀髪メイド“十六夜咲夜”は、感情とその制御が有らぬ方向へと傾いて終って居る為、らしくもない声を漏らす……一種のギャップだろうか?

元より「人」に対して距離を取って居り、願っても無い緻密な接触が、現状執り行われていて、彼女には溜ったモノではない。

「ソンな声を喘がせて、お可愛いメイドさんですねェ~……」

 然しこの人物、この人物達に於いては、〈設定〉なんてメカニズム要素が構成されていて、未だマシだったと思う。


再び“陽月さくら”の『設定条』を読み上げよう。

“陽月さくら”の年齢は[十七]とされており、その意味、[年齢制限(レーティング)]が有るとされる。

[年齢制限]が掛かっている事により、実質的に、その年齢に見合わせた以上の行為を起こさないし、起こせない。

故に、陽月さくら(女)の、十六夜咲夜に対しての愛でる行為は、只、頭を撫でて顎を擽る、小動物への愛で方だけで、それ以上の、十六夜咲夜の身体や精神に関わる不服的・不埒的愚行は絶対に侵さないと言う訳だ。

そして“陽月さくら”は、歳を取る事は無い。

彼がと脳内で言った通り、生まれた頃から十七の齢であって、現実的にその様な人間が居る筈がない。

よって、ヒツキは歳を取る事が無く、永遠の十七歳として世を終わりまで過ごす、不老の存在なのである。誕生日が不明である事も一つであるからして……。


さて、女ヒツキに撫で回される十六夜咲夜は、抵抗出来ず正に小動物の如く、成るが儘に遊ばれていた。

「本当にお可愛いメイドさんですぅ~。お名前は何と言うのですかぁ~?」

「いざ…ょひぃっ…さ、く…やぁ…と」

 『さっきもいったでしょう?』と迄は言い切れなかった者の、時々敏感に反応するも、何とか必死に答える。

 これは[年齢制限]どうこう言っている場合では無い気がする。

「そうですかぁ~、喘ぎ声が実にネコの様で、序に私猫派ですが、メイドさんだけに、主人に従える忠犬なだけに『サク』なのですかぁ~?」

「ちガ……ひゃう! 人情も……在った…モン……じゃぁ……」

 忠犬「サク」、名前も職務も弄ばれる。

「そうですねぇ~…、非人徳的ですもんねぇ~…。でわ『さっきゅん』、お手」

「やリャ…なっ…ん~…」

ゆっくりと弾こうとする手はお手になった。

「お利口さんですねぇ~…、『さっきゅん』わぁ~」

「も、もう…止めっ……ンンンン……!!!!」

遂に小動物の愛撫に、舌先三寸が文字通り、頬に懸かった。

『愛で方にメーデー』と言っている暇も無さそうだ、と言うかもう駄目だ、[年齢制限]15以上でも、流石に過激である。

「止めると申されましてもぉ~…、命じたのは()なのでぇ~…。もしあなたが命じていたのなら止めても良かったのですがぁ~…」

「ンンン………!!!」

これが感情人間、女版“陽月さくら”の〈設定〉。以後、サクラと称す。

するとサクラの鞄から、恰も予知していたが内容の記された紙が、彼女の真横に浮き立った。

内容はこうだ。

『女と成った俺へ。十分に可愛がったか? メイドさんはもうお疲れか? 若しそうなら、負けを認めさせて、館主のお嬢様の所へ案内させる様に仕向けろ。そしたら愛でるのを止めろ。』

「……あのぉ~何の勝負かは知らないんですが、男の私が「負けを認めろ」って言っていますぅ~…序でに「お嬢様の処への案内」もぉ~…」

 撫でで嬲られるメイド十六夜咲夜、ここぞとばかりに威光を見せる。

「そんな事ッ…出来る理由にゃンン~…!」

僅か二秒の根気でした、本当に有難う御座いました。

更に紙が手配される。

『それでも聞かないなら、お前の想う恥ずかしい事を彼女に――俺、死にたい』

「ハズカシイ……コトですか……」

個人的意見が摘出された、予約指令(タイムライン)である。

やっとこさ愛撫から解放されたのかと、硬直で手が顔元まで、猫の手で上がっていた、その緊張を緩めようと片目を開けた矢先、顔を両手で掴まれ、その視線はサクラの顔正面へと持って行かれた。

「な、何を……」

「男の私からの指示です――認めないなら、恥ずかしい事を……」

猫撫で声だった喋り方は、真剣に恥辱を受けんとする、何だソレ?

「――接吻を行使するしか方法は有りません。僭越至極恐縮千万若気の愚鈍乍ら、唇、失礼頂戴致します」

この娘、無駄に丁寧に発言する点、頭良いのでは? 

一瞬リラクゼーションに浸った十六夜咲夜は、接近してくる彼女に、漸く慌てる行動を移させた。

「ちょっ、ちょっと何をしているの、貴女!? 仮にも女同士だし……は、恥ずかしくないの?」

サクラは目を開けて、動きを止める。

普通は止まらない筈が〈感情人間〉と言えよう、但し感情に関する言語には反応するのが、サクラ。

「はい、恥ずかしいですよ? 私が想う恥ずかしい事なんですし、だからこそ目を閉じて居るのであれば……。でもこの行いは〈私〉が決めた事なんです。自分の意志を曲げるのは、自分を見失います」

「良い台詞だけど、行為は捻じ曲がっているわよ……って、来ないで!」

もう彼女に言葉は届かない、元より届いていたのが奇跡と言えよう……。

彼女との会話成立は、「感情×自分」に関する話題だけで有り、それ以外は通じない。後は一人勝手に、一人気に、独り言に、語っているのだ。


十六夜咲夜は、咄嗟の判断、否が応の想いの最終手段で、彼女の胸を丁寧に、然し鷲の鋭い爪で獲物を捕らえる様に掴む。

「ほ、ほら……胸を、触れているわよ? 触れられているわよ? ……これは? は、恥ずかしくないの?」

「アナタがそう想った(・・・)のなら、恥ずかしかった(・・・・・・・)のでしょう……アナタの中では、ね。然し、だから私はそれを恥ずかしいとは想わない。何度も言いますが、私が羞恥だと想っているのは『接吻』……想いは一つだけで、一人だけに、絞られ…て…」

最後まで言い切らず、そして進む。

「い、いやっ…」

十六夜咲夜にとっては最後の、即座の切り札も虚しく朽ちて、成す術無かった。

先ず力量が、この世界を救わんと言わんばかりの豊満が心臓個所に詰まっている乙女が、その豊満の強大さにて、力を語っているような圧倒的な握力で、十六夜咲夜の肩を、痛み迄与えずとも、洗濯バサミで挟まれた衣類の様、突風吹いても飛ばされないかの様、しっかりと掴み。

足に於いても、丸でその場に接着設置されている石像のように、又もその豊満がモノを語っているのでは? 等と、ずれる気配は一向に無い。

女性にしては、有り得ない力の持ち主で在る。


そしてやっと、吐息当たる距離間で耐えられなくなった十六夜咲夜は、

「解った! 解ったから! お嬢様の所へ案内するからぁっ! もう、ヤメテえええぇぇぇ……!!!」

「始めからそうしろや」

「きゃあ!!!」

館内中に響き渡ったと想う音量の降伏宣言を叫んだ後には―――

吐息の当たる眼前にて男版・陽月さくら、ヒツキが、立って居た。戻って居た。近付いて居た。

 色々と驚愕の余り、十六夜咲夜は全身全霊全力を腕に掛けて、ヒツキを押し掃った。

ヒツキは上身平行、片足、片足でゆっくりとバランスを取り、何とか起立状態を維持し、十六夜咲夜は、全力を腕だけに掛けた為、足への気配りが出来ずに尻餅着いて転倒した。

「大丈夫か?」

と、敵ゆえに、友人を侮辱した(かたき)役故に、手は出さないから手を差し伸べない、とも、声だけは掛けてやる、心理掴めないヒツキ。

「イッタタ…大丈夫な訳が無いでしょ! 何よ、あの弾幕ごっこは!? 弾幕のダも無い只の戯れじゃない!!!」

「ガキのように悪しき戯れ(・・・・・)が含まれた、肉弾戦では有ったでしょ」

(真顔)

「旨い事――そして男の貴方が言うんじゃないよ!」

「旨いんだ、有難う」

自棄になってナイフをまた一投する咲夜だが、髪神の守で防御し、ベクトルを失って自由落下するソレを、刃から掴み取った俺である。

「い~ぃナイフだなぁ」

鍛冶職人のように柄と刃の先端を摘み持ち、眺めて、適当な感想を述べ、続いて思い出したかのように

「ナイフと言えば、俺は時の止まった空間に干渉出来ていた訳で、お前がナイフを自力で彼方此方、東奔西走で設置する姿は、実に滑稽のオワライモノだったぜ」

  ナイフを返し、言葉を返す。

「煩い、忘れなさい……」

 顔を伏せるメイド。

「…処で、何故アナタは時の止まった空間に干渉できるのよ? 能力無効……と言っても、私は能力を発動出来ている訳だし……」

「そもそも敵がそのトリックを教える訳も無いし」

「それもそうね。忘れて頂戴、さっきの質問は。負け犬の細やかな遠吠えとでも思ってくれていいわ」

「ほう、負けを認め、自分で自分の事を犬と認めちゃいますか? サクちゃん」

「サクちゃん言うな。犬は認めないけど……負けは認めるわ。精神は兎も角、いや、精神を拗らせて、身体には……何の外傷も無い。只の魅せ集り屋(パフォーマー)か、油断した処をナイフで刺して腸を裂く猟奇の(ホワイトチャペル)殺人鬼(・マーダー)かは知らないけど……」

 倫敦より()づる切り裂き権兵衛じゃねぇよ、百歩譲って名乗るなら、ポントゥーンorクレイジーエイト。

「少なくとも武器を持っておいて負傷させず、只言葉巧みに相手を満身創痍にさせるのは、『弾幕ごっこ』的に、“美しさ”の理に適っているわね、gentleman」

発音は神掛かっていますが……胸に顔を突っ込むことが、ですか? 一応接触も有った点については……

「仕方はさて置き! ……て言うか女性の方の貴方は、私を舐めたわよね? それと貴方って女性だった時の事を、覚えている者なの?」

「覚えていない」

サクちゃんって呼んだのは、偶然だ、空前の偶然。

その舐めたって行為が女と成った俺に有ったのなら、先の美しさに適っていると言う前言は撤回なさった方が賢明だぜ?

「………」

 何故か咲夜は、壁と床の隅っこを向いて黙り込んだ。

 塵でも残っていたのかな?


【成果】


「兎に角! 私の敗北です。然し、貴方は解っているのでしょう? 貴方の其の要求(せんり)品は、このコーマ館の主をも敵に回さなければ行けない程の大要求だと……。私には手に負えない分、お嬢様のティータイム前の暇潰しになれば、好都合なのですが……」

 まぁ、俺は虱潰しに、だし?

「それとも、吸血鬼で在るお嬢様との対決を避けて、別の要求でもされますか? ヒノヅキさん」

おぉっと、此処で所有名な亜人が出ますかい。

吸血鬼のお嬢様に仕えるメイドさんって……成程、コレは如何わしい。

煩悩は払拭すべく、右手で頭を掻いて。

「咲夜さんって人間だよね?」

「ハイ、人間ですが? 苦情がお有りで?」

「お無しで―――」

 『~情』ならば。

 それよりも質問返しで答えてしまったな。

 何か候補っぽいから謝ります。

「―――いや失礼、二つの意味で――一つは質問に質問で返して。更に申し訳なき事、男に二言無しと、時は大江戸徳川のお膝元、武士は殿方が多し。現代では其の謂れ謳われ、されど其は、男子(おのこ)女子(おなご)も付かぬ曖昧模糊の性人(さがびと)。少々拙者の発注、変更させて頂き候」

陽月さくら 適当に「舞」を踊ってみた。

「して、その要求は?」

 左腕を胸元まで上げ、左手の甲の上に直角で右肘を添え、右手→左手←右手→。

猫の手で交互を、側頭にくっつけ、首を傾げて、要求は?で、手を此方に差し伸べる。

猛暑とは言え、お互いに冷静になり、手を元の位置に戻す。

取り敢えず此処は、場の空気を和ませるべく、

「その前に、咲夜さんの時間停止能力が俺だけ非対称になった、の絡繰りを、御教え進ぜよう」

「あら? 敵乍ら、どういう風の吹き回し?」

「強いて言うなら、涼風欲しいでしょ? って、原状回復に」

唇を紡ぎたくなる表情の咲夜。

「貴方に合わせた私が馬鹿だった」

 額に手を付けて、反省文を述べる咲夜。

「仮に合わせていたと言うなら、22点だ」

「ナニユエ?」

振付の少なさと、犬の癖に猫被っt(不適切な発言の為、カット)


「ずばり、俺の時間に関与しない抗原は、この“目”に有る」

「目?」

 説明しよう、そんな勢いで左目を指し、続いて右目を指す。

「[幻想之目]、そして[現実之目]。この二つの目は、一見只の目に過ぎない」

「まぁ……目だからね」

「然し、だ。咲夜さんの『時を止める』だとか、空間的な外傷は受けないように出来るのが、現実之目を閉じる事、そして幻想之目を開いている事。『時が止められた』という〈現実〉に関与せず、『時が止まった』と言う〈幻想〉に干渉する。寄って俺は時の止まった世界に入れると言う訳だ」

聞き手の咲夜、顎に手を添える振りも考える振りも見せず、目を半開きにして返す。

「貴方、戦闘中に目なんて閉じていなかったわよね?」

「ハイ済みません。時間停止世界に入れた頃からその理由を考えていたんですけど、正直自分でも解らない理屈なんて考案を言っても仕方ないじゃん、言ったけど。……っつー屁理屈で、取り敢えず出任せで語りました」

「寧ろ良く出任せで語れたわね」

 私はこんな奴に負けたのか……そんな溜息交じり、メイド呆れる。

「まぁ社会や現実に於いて、時間と言う概念が大体を支配し、それに反抗すべくの社会精神……ざっと〈反射神経〉っつうスキルが俺に備わっていて、止まった時間でも動いている時間でも俺には関与されない、みたいな度量じゃない?」

「何かそれって不老不死みたいじゃない? 不老不死のヒノヅキさん?」

魔法使いじゃ在るまいし。

「不死じゃねぇぜ、俺は? 怪我はするし、殺せるし、死ねる」

だが、老けない。

「物騒な話は良しとして、戦利品の変更、教えなさいよ」

「おぉ、そうだったな。まぁ此の頼みは、此処に来る前の噂たる想像から出来た俺の願望――――なんだがね。前置きも要らず……」

 十六夜咲夜は、息を、唾を呑込む。


「この館は伝説の独楽が有るとされる“コーマ”の館として認識し、果て此処迄参上したのだが、この館に独楽は無いのですか? 有るのでしたら是非それを戦利品として拝ませて頂きたいのですが……」

 

十六夜咲夜は苦みと笑みを合わせた顔をして、ハテナを存分に複製し、理解した瞬間遂に、脛を付いて手を付いた。

「私は高々空想論で館に出向く侵入者に負けたと言うのか……」

 遂に俺の想っていた台詞迄も復唱しやがった。

「もう駄目だわ。今日の私は満身創痍……いえ疲労困憊ね、だったのね。脳から戦闘能力が打っ飛んでいる奴なんて私の相手にならないわ。矢張りお嬢様のティータイム前の運動。差し引いては、アフタヌーン・ティーを遅れてしまった償いに、憂さ晴らしの肩書で、彼を餌にするのが妥当ね……」

従者(おまえ)等「人」を何だと思っとるんだい。

「あら、人間で下僕の分際で私に何をくれるのかしら、咲夜?」

「! お嬢様……!」

その声は咲夜の目の前の、その先……俺の後ろから放たれた。

素直に振り向く俺の、その場には、空に近い銀髪色をした髪、羽を生やし、犬歯が異様に尖った……即ち牙を生やす赤い瞳の幼女が、只静かに微笑んで居た。



駄洒落が効いて居るかも知れなくて「ウワァ…」とか思われるでしょうが、不思議の国のアリスをリスペクトしての文章です。

逆にアリスの方が効いて居なかったらごめんなさいね、本当に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ