第捌話 歪な属知識の色~ Wu Xing~ [ransack]
遂に辿り着く、噂の館"コーマ"。
妄想を頼りに活動するヒツキは、前門の虎の状態を伺う……。
【門番】
──“コーマ館”と言えば……。
「言えば」なんていう程、知ったかぶりの口ぶりを噛ます“デマヅキさん”では無く、元より、趣旨が違う「言えば」であって────要するに、その“コーマ館”を知った『元』と言うのが、霊夢との会話の内で俺が“コーマ館”の従者だのと、短編的にもそれが切欠で、少々気に留めていた節が有ったり無かったり中間だったりこれが本音だったり。
それからも時々、コーマ館の名前が出され続けて、(その館は何なのか?)、(幾多もの駒を所有して、製造して、飾っていて、稼いでいる豪邸なのだろうか?)と、考え無しの考え、詰まりは、以ての外にも想えるその思考の果て、想いだけでどうにかなるものか……それは道理的に漸く、現地に到達することに成功した。
しかし人生に措いて、一つの難が去るだけでは済まなく、また一難やって来る。
俺如きが人生を語るには烏滸がましい齢ではあるが、何でもかんでも『人生』と釘を打つと、釘づけになるのでは……? ……No。
これ前にも話したかな……? ……déjà-vu。
────現状、現場に戻って。
“コーマ館”の門と、その門番らしき者が、行く先を封じているのだが、その拳法(そうな)姉さん(っぽい)凄腕(の使い手の様な)中国(人間?)、目を瞑って曲者の侵入を、箸で羽虫を掴むが如く、ホワチャアさせるみたいなオーラを放っているとは、俺設定論で感じない分、いや一般視感でも……絶対寝ているよな────極対違う。
括弧内の曖昧表現文と、括弧外の名詞一語一句、合っているのは解るが、他は絶対バラケている……、寧ろ何故、括弧文だけ覚えていたのかが何故、いや謎……。
【閑休】
だから現状に戻ろうって言ったでしょ? はいじゃあ、戻る、戻る。
この中国さんが寝ていることに関しては、業務的に考えたらこれは『サボり?』、と見受けられて終おうか……。
大した給金が鳴かずとも、楽して稼げばそれも良し……逆、だとしたら、雇い主は大激怒ですね。
まぁ給料の良し悪し探りは後にして、こんな田舎感のする田舎館で、+拳法門番を配置して、あんまり出入りが無さそうな処、駒を飾って来賓客に見せびらかす線は軽薄に想えて来たな……田舎ってもっとオープンだろうし。
でも、フォーリンカントリーから移住して来た豪邸宅だからこその警備姿勢なのかね? 伝説のコーマは、思いの外有ったりしてって、その予想はガチで他当たってくださりますように……って、言う思考も後回し。
人気少なく、静寂は見回る、この青々とした環境の中、寝ない方が難しいよね。
……ん? さっきの一文結構意味深だな。
だけど寝ていると、上司さんに見つかった場合、怒られちゃうよね。
『寝るんじゃない、寝たら死ぬぞー……』って。
死因:熱射病または、熱中症、也。
そうそう本日も、掻い潜れないような暑苦しさを纏って居ります、快晴の日本晴れ。
皆さん水分補給はしっかり補給しておきましょう。
『頭痛が痛い』とか『地中の中』の誤文かっ……。
そんな事より、起こしてあげようとか、ナントカって季節の時に、何、猛吹雪山遭難でのあるある台詞を想い付いて居るんだ、俺ぁ。
怒られるから起こしてあげようとか、シンプルにスタイリッシュにスピーディにシャバダバドゥに、さぁ、あぁ。
【発起】
起こそうと試みて見る者の思考は、至って思春期真っ只中の高校生のような考えではあるが、否定はしなく、否定せずとも見る前に、捨てばおk、みたいな『〈言う〉は〈動く〉』で有って、『──どう──起こせばいいか』、否、『何処をどう触れて揺さ振り起こせばいいか』、あらあら思春期、で在る。
発言の根本は、起こした瞬間、セクハラ問題に発展しては、些か困る──訳で。
然し考えを改め、幻想郷に、セクハラなんてワードが、流れているのだろうか……古今東西で日本には有り触れている(セクハラだけに)が、故に忘れ去られる事は無い、現日本国家の長期に渡る問題点。
だがこの門番さんは、人か妖怪か問い掛けずとも、見た目、容姿、頭・胴・腕・脚が霊長類認知で、プラス性別分離の特徴箇所が揃って居る為、女性ではある。
事は慎重に運ばなければ……。
そーっと、さっさと、見て見ぬ振りして、開門し通過すれば良いのに、門番さんの寝姿を拝観して、彼女の業務に対する怠慢姿勢を解消すべく、起床方法を模索する。
「……壁に凭れ掛かって寝ているなぁ」
後部を見やれば、見事に学校朝礼の野外全校集会、『休め』体制を整えてはいるが、言葉通り、完璧な壁凭れのお休み状態である。
凄腕中国拳法の威圧とか言った手前、張りぼてのお城でも見せ付けられている想いだが、彼女を観察するに当たって、性の本質か、宛ら無情と無常の域から、気──と言うより、目が離せなくなる一つの感想を、言葉にした。
「胸、デカいな……」
寝る子は育つというが、この容姿に対して『子』と称すのは、正論なのかも不可解ではあるが。
例えば森林の中、木々は一定の同種、同幅成長で、等間隔に並んでいる中、一本だけスペースを作って聳え立つ長寿の大樹がその場に在ったなら、目が離せないだろう……。
そんな性を否定するサイズ論を語られても、結果胸に目が行った事に『胸デカイ』と、呟きも入れて終ったのだから変わりは無い。
ヒノヅキさんはお胸がお好き? みたいなタグを付けられても可笑しくは無い。
まぁそんな性癖探りみたいなのを、個人独断で進行していても、これまた楽しくも面白くも無く、愉快でも無い、他視観的に。
流れで想い付く『胸』というワードからの連想は、女性の場合は胸が大きいと、肩が凝る。
彼女きっと肩も凝っている中での安眠なのだよ、きっと……手の打ち様はこうだ。
「ほら起きなさい、門番さん。サボりはメッ、です」
左手を彼女の頭に添えて、〈増加〉能力で“睡眠度”を〈増加〉させ、右手を彼女の肩に乗せて、〈消失〉能力で、肩の“疲労度”を〈消失〉させ、そして体を揺さぶる。
ぐっすり眠れた上に、肩凝りが引いている、なんて安眠……これをご覧になっている肩凝りにお困りの奥様方も、是非試してみてください。
何を持ってしてのセールスでしょうか?
「ふわっ……あ~…………。ぁれ、サクヤさん? 私サボっていませんよ?」
「サクヤじゃないサクラだ。サクラでもないヒツキだ。ヒツキではない俺だ。俺は俺だ」
もういいよ。
「何をお一人で盛り上がっているんですか……、確かにサクヤさんが『メッ』なんてバカっぽい忠告、絶対しないでしょうけど」
「俺は馬鹿でいいから、そのサクヤさんって、神様の様な上司っぽい名前の上司を、陰口語るのは止めなさい」
「なぜ限定された上司っぽい名前なんですか……?」
上司ではあるんだな。
「神様の名前は確か~……、『コノハナントカヒメノミコト』だっけか?」
「ピースは揃って居るのに、何故当て嵌めないんです?」
「馬鹿であるのを示すため?」
「解りましたよ、サクヤさんって神様のような上司っぽい名前の人を陰口語るのを止めますから、馬鹿さん」
解れば宜しい……事でしょうか、これは……?
「それでバイチーさん、こちら“コーマ館”の門番こと、私“紅美鈴”に何の御用でしょう?」
「あだ名を固定呼称してくれた挙句、貴女のご紹介、痛み入る。単刀直入に申して、此ン中入れてください」
「断る。丁重に引き取って」
でっ、しょうけど、其方は丁重さを自重しなさい。
その自重無き断り……単刀は白刃取りより、手の甲で刃紋部を弾き返される始末ですわ。
恩売り事は言いたくないけど、
「一応、寝ている処を起こしたのは、俺だし~、恩着せがましいんだけども、その礼と言うか、この“コーマ館”の見学でもさせて貰えない?」
門番さん、基、“美鈴”は、上目遣いの腐れ目坊やを前に少々悩んで……本当に少々、顔を左下斜めに向けるまで悩み、向けた瞬間、顔を戻し、
「ダメです。お帰りください」
と、即否定。
序に、
「起こしてくれた事は有難う御座います。でもサボっていた訳ではありませんよ? 気の鍛錬です」
と、ご丁寧に感謝の礼、頭を下げた後、言い訳込みで容疑を否定。
続けて、
「最近……というより、ずっと前から、この館は貴方と同じ髪色の、魔法使いに侵入されて、本やらを取られる始末でして。いえ決して、貴方をその魔法使いに見立てているとか、魔法使いさんと接点が有るとか、そんな事では無いですよ?」
言う限りにはそんな事なのでは? と言うか、《《本を盗む同じ髪色の魔法使い》》って……どう考えても────そうだ。
恩に恩を更に売ってみるのは如何だろうか?
「いやまぁ当然だ。御宅が相当金持ち金目持ちで有るなら、厳重警戒は無論のこと。更に恨み辛み募ったその因縁仲との特徴が合致した奴ならば、……以前より門前払いして当然なのだが。まぁ今回、俺がこの館に入りたがるのは、宛がそいつだからなんだよ」
「と、申しますと?」
「俺は、その本を窃盗し続ける盗賊魔女を退治すべく、その……サクヤさん? だっけか? に雇われた〈ウィザードハンター〉、『魔女狩りの“陽月さくら”』さんよ」
「ウィザードハンター……ですか? へぇ~……そう言う職の方が、いつの間にか幻想郷にはいらっしゃったんですねぇ~」
今考えたのだがね。
「解りました! 何故サクヤさんは私に伝達してくれなかったのは謎なのですが……」
寝てたんじゃない?
「きっと寝ていたんだね!」
「認めるんだ……」
ていうかなんか急にタメになったな。
取り敢えず嘘にも信用を獲得し、美鈴は門を開門してくれた。
「それではハンターさん! お仕事の方、ヨロシクです! ……あ、もし雇い主のサクヤさんに会ったら、私が寝ていたことは内緒にして於いてくださいね?」
開けてくれた訳だし、内緒にしてあげなくもないかな? なんて想えた。
まぁ仮にも雇い主がサクヤさんだから、聞かれたら追加料金込みで語らずを得ないかも知れないけどね★
現実、会う事すらタブーなのだが…………。
そして門を潜ってから俺は広い庭を、ハンターとして警戒するのではなく、侵入者として警戒するのでもなく、じゃあ何の形で警戒すると上げるなら、まず警戒せずに、堂々……でもなく普通に、歩く。
これは普通にバレるのでは無いか? とも想えたが、広大な庭には誰も居らず、館内に入っても誰かに出くわす場面は無く、気紛れな道なりに沿って、バーッと行って、グイっと曲がって、ヒョヒョイと進めば、到達地点は、本が棚にギッシリ詰まった図書館へと、足は踏み入れていた。
【陽気】
適当に進む道中、ガラスケースの一つや二つ、駒の一つや二つ見る事は無かった。
そして適当にドアを開けば、近所の本屋さんではお見えにならない、水族館の水槽のような規模の本棚の列と、それに合わせた本の冊数が、二階を通してまで、ズラリと並んでいた。
背表紙だけ見ていても何の本やらと、他家なので、更に不審者の専ら分際、分子がお邪魔します、なので、手に取る事は無いのだが、この光景を見送る中、先を見通せば、均等に並列を組む、置き本棚の隅で、何かを陰で見つめる態勢を取って居る人影が…………。
「ハァ~、素敵なお方だぁ~……」
誰かを尊敬の眼差しで眺めているようだ。
「イクスキューズミー」
「コアッ?! ……くまっぽい使い魔さんじゃ無かった~……。ホッ、良かった、良かった」
物音立たず立てず静かに背後から、静かに声を掛けたら、驚かれた。
時間差が有ったら、怖がっているのかと想われる驚き方だな……で、実際どうなの?
小声の驚きと、中声(会話の声量?)で落ち着く其の少女は、一見アラビアンを装った感じのナイトキャップみたいな帽子を被っており、砂漠の国からやってきましたと言わんばかりの。
──―先の帽子には、明治時代の軍曹勲位が付けそうな、下部だけ花弁が散った、向日葵のブローチ────腰元には、物理が謎の、球がトーチ上に浮いているように見える以外、特徴の無いステッキ────上着は、ベルトより下が、ヒラヒラと自由になっている、脛まで伸びた丈の衣類で、長い袖の両二の腕部分には、ベルトが付属────地味に俺から見て右胸に咲く、花のワッペンの前には、リボン結びの後に、更に結び目が続き、垂れさせてからベルトの位置で先端が干された、ビッグ・アンド・ロング・リボン────ショート丈のスカートで露出した長い脚線の他は、全て衣類で覆いつくされた、総合的に[旅人のような衣装]────。
この衣類解説は、もう少しコンパクトにならないだろうか……。
そんなコンパクトにならない旅人衣装は、彼女が、俺が衣装チェックをした視線に感づいて、覆す。
「ああ、この格好? 一応〈魔法少女〉をイメージしてチョイスしたマイブランド。マイコーディネート。マイワンデースタイルコスチュームプレイ」
「いやそんなに横文字を並べられましても……」
そのコーデ、コスチュームプレイと俗な名称を飾った限りでは、殆ど希臘神話の亜馬森さんをモデル名にしたっつー、ネット通販社便りでの購入ですかね?
「私、偶然大学で拾ったこの杖にね、選ばれたらしいの。歴史サークルの子たちが研究していた歴史的な発掘品らしいんだけど……」
尋ねた積りは無かったが、如何やら魔法少女の経緯を解説する──のだが、それで何故、魔法少女……。
「何でもこの杖、太陽の紅炎を転移して放火が出来る杖らしくて……あ、今の“放火”って言うのは、家宅火災的な意味でなく、魔弾放出的って意味だよ?」
「解っています」
解る俺は、相当ファンタ脳です。
「確か名前が“Holding Ozone-Protect Energy”略してHOPEって代物でね、サークルの人達は誰一人として操れる人が居なくて、メンバーの一人が自棄になって、うっかり2階の窓から捨てたの」
「捨てるなよ、歴史の発掘品をぉ……」
「そうだよね。まぁ偶々その場通行人として現れた私がそれを拾ったら、この球の部分が物凄く燃え滾って、杖に選ばれし魔術師! ……って感じで────で、今に至ったんだけども」
「魔法少女はどう言う今至りだよ」
遂にと、魔法少女について教えてくれなかった突っ込みを入れた途端、
「コーラッ、お早熟くん? さっきから溜口多いよ。私これでも大・学・生」
いきなり年の差説教を受ける私……。
「年上? マジっスかぁ~? 高1でテレビ出演決めちゃっている、トールモデルかアイドルの年下さんかと想いましたっスよ~……つい溜口で聞いちゃって、スイヤセン」
「物凄くお世辞冗談で語っているのが、解りやすい敬語だね……寧ろ『軽い言葉』と書いて『軽語』って語りのモンだよ」
「旨いっス先輩」
あ、今からパシリでお茶買って来ましょうか? どっかの神社で、どっかの神社で。
「先輩ってなんだよぉ~、私も冗談だよ、ゴメンね? 溜口なんて気にしないし、所謂、フランク青年なだけだよね?」
「ああ、まぁ」
何か場的に都合の良いキャラクターを確立されちゃったな……。
「因みに魔法少女は、純粋少女だった幼少期の私の為の、ちょっとした夢果たし?」
「えーっと……叶っておめでとう?」
目出度いのでしょうか? 目に痛いのでしょうか?
「ありがとう。申し遅れたけど、私の名前は“マルトゥア”。近い名称で『マラトゥア』と言うインドネシア領の島が在るのだけど、現地語での意味は〈雄のマンタ〉って意味らしくて、知った瞬間『私は雌なのに!』って、友人の前で本気で叫んで笑われちゃったよ……アハハ」
叫ぶって、大分青春していますね。
「『名前』つう事は、〈死帳予言〉の便乗者……」
予言が原点だから、皆が皆、便乗者だけどね。
「ウム! そーだよ、フランク青年! 清清しい程の〈マルトゥア連結伝〉をスルーしてくれてありがとう!」
己を雌と呼ぶ彼女の話題の渾身のオチには、『まぁ、うん、そうだね』の、常識的な判断出力が下された為、触れなかったが……
「私は貴方に御免なさい」
「いーの、いーのぉ。いや寧ろ『返しが困るわぁ!』とか『下ネタかいっ! 今から行くかい?』ってのが、毎回お決まりかの様に返される話題だけど、オールグリーンスルーしたのは君くらいだよ」
SF的な用語、混じっていませんか? セクシャルファラスメント。
「そんな貴方にお尋ねします。フランク青年の[お名前]は?」
『名前』……と、人っつー霊長類に於いては、姓と名を合わせたモノが名前であるが、それは、俺の住む世界、幻想郷に合わせて対した言い方の〈外界〉では、『偽名』の意味が一般的なのである。
先に申し上げた〈死帳予言〉と言うのは、本に名を書けば、名を書かれた人は死ぬと言う、実に何処出版のシャディ予言だが、俺が所持する混沌本が実在する世界だから、強ち無くも無さそうな予言だったので、対策として人々は、本名を隠蔽・隠匿し、偽名と法の下、自由に名を名乗れる様になったのだ……また満天の星空みたいな、コンナニホンゴオカシイデス。
安心して欲しいのは、その偽名を以て犯罪に走ったりしても、即座に本名が割れるし、巧妙だったり、別名での名乗りだったとしても、意図も容易く見抜けられる、そんな波乱と平和の世界ですので……何事にも悪しからず。
扨、『俺の名は?』と尋ねられた俺には、“陽月さくら”なんてかったるい名が御座いますが、これは『本名』ですので、即ち、俺の名前と申しますと、
「──―俺」
面相筆で半紙に書いて出名。
「随分『漢』が滲み出た様な……若しくは詐取犯行感満載のお名前ですな~」
マルトゥア先輩、目を瞑って顎に指を備えて、心酔。
「……処で『俺』クン」
「ヒツキです………………ぷいー……っ」
「何だい、ぷいーって(笑)。でも良かった……君の名前と、君が嘘吐きじゃないって証明出来た」
形だけ悩む姿を見せた彼女は、
「疑っていたんですかい?」
「滅相も無い。私は只、君が教えてくれた名前を呼んだだけだよ」
「それを俺が馬鹿正直に名前を漏らしたってだけね」
もう、『俺』なんて自己紹介、言わないよ絶対。
「……百歩譲って確かに疑いは有ったけどね。俺なんて名前……好きな子に夫認識して欲しくて『アナタ♡』、と呼ばしているみたいな感じだもんね」
嗚呼、其れ、ちょっと、無いわー。
「カフェ・オ・レが名前の珈琲好きが名乗るかも知れませんじゃん」
後、アナタの呼び方に演技力を込めないで。
「それで呼び名がオレって……どんなマスターだよ」
きっとダンディーなバーテンダー。
「私の杖って、放炎するだけでなく、相手の心を読み取ることが出来るんだよ。〈魂〉が〈太陽〉に置き換えられたと考えてもいいね」
「スケールでかーい」
「その〈太陽〉が、この杖とリンクして、真言なら赤く光って、虚言なら黒く光るってね。名付けて〈ターモレグレイション〉!」
訳は『体温調節』。
この会話、叫びが丁度、対話くらいの音量だが、山彦がそれとなく響いているよ。
「スルーしたら負けかな?」
「いや、あ、うん……スルーして……オールグリーンで……」
表情は手で覆って見せなかったが、彼女には物理が真っ赤に、歴史が真っ黒く塗り潰された。
「ヒツキって名前良いね。私のは適当だけど……ヒツキって、由来何から来たの?」
〈名前〉の話題にて、次に有る有るな話題。
「由来……由来ねぇ……」
由来なんぞ無いようなモノだが……、何せ
「(ボソッ)俺の本名が“陽月さくら”ってなもんで、下の名で呼ばれるのは女っぽいから、姓を取り出してヒツキって名乗っているだけなんだけどなぁ」
「おやおや、私たちは何時から本名を発表しちゃう程、親しい仲になったんだい?」
あら、声に出ていた。
「……って、ヒノヅキサクラ? 嘘、ホンモノ?」
あら、存在知られていた。
「ホンモノであれニセモノであれ、名乗れば老若男女問わず、即射殺対象の異例特別重要危険犯罪者、陽月さくらですよぉ~」
「確かに言葉に出すのも、間接的恐ろしい犯罪者って世間では言われていたけど
……それも嘘だよねぇ?」
逃げるなら今ですよ? 私は犯罪者……あなたを猟奇的に犯すかもしれないよ? 罪に積まれるかも知れないよ? 広げる忠告にて、彼女の杖は赤く光る。
「……そうか、本当なんだね。それで、本名ヒノヅキサクラ君、別名ヒツキ君、君の罪名は?」
彼女は次にと質問を変えて来たのだった。
ここで逃げないのも、威圧が向こうの世界の法とか政府とかで決定付けられる恐怖であって、此処は幻想郷と言う隔離の地帯だからなのかな、然し罪名を訪ねるのも無神経というか、趣味悪いというか……それこそ逆に怖いというか。
「異例中の違令の武器、〈異器〉の所持。それが俺の罪だよ」
銃刀とヤクを掛けたような罪だと想えばいいです。
使用の事例によっては、器物損壊や殺害云々。
「在るんだねぇ~、本物の噂ってのは。高々武器を持っただけで、周囲の皆を巻き込んで、中心的にこんな若い子を血眼で殺しに掛かるなんて……世も狂って居るよね……」
彼女は同情の笑みを零し、俺の頬に手を添える。
左利きなのだろうか? それとも杖を持っているから空いている手で添えたのだろ
うか? 何方にしろ、不要なことだ。
世間が恐れを生じて、世論に危険を投じるならば、それは正しいことなんだろうて、何せ世界を変幻し兼ねない武器、凶器、兵器なのだから。
その所持者である俺一匹、誰一匹消えた処で、他は悲しみに浸りはしない。
それこそ、恐れ、慄き、迷い、震え、狂う。
誰も彼もが『アイツを殺せ』、『アイツは疫病神』だ、と。
[知る者は恐怖、知らぬ者は幸福]とは、良く言ったモノだ、我ながら。
だから俺は彼女に、今考えた事全てを縮め、纏め、包めて、ぶつける。
『心配は無用。何故なら俺に心は無いから』って……
「……………………………………………………………………………………姉さん」
わお。
「え? あ……お……アッハハハハハ! お姉さんか! いやぁ、参ったなぁ~困ったなぁ~! うんうん、よしよし。カワイイ弟よぉ! とっても怖かったんだねぇ~……お姉さんがハグしてあげる」
「いやあの今のは言葉の綾と申しますか台本の台詞を言いマチガえたと申しますか……モゴフッ!」
「うんうん、何言っているか謎な分、かわいいぞこのヤロ~、フフ~♪ 台本間違えていてもアドリブ通しで何とかなる~…………って、アレ?」
男子諸君は、母性溢れたお姉さまから、胴と腕でギュッと優しく、お日様の匂いと暖かさに包まれたなら、それはもう興奮が奮闘のフンガーで真っ赤っ赤だろうが、このような淫らな思考にしか辿り着けないのか、思春期め。
もっとこう、安心出来るとか眠くなって来たとか……而して、そこのそこな青廃年は、
「ブッ、セツマーカーハンニャーハーラーミーターシンギョウー……カンジーザイボーサツギョウージンハンニャーハーラーミッタージーショウーケンゴーウンカイクウ……」
まっさっ青にも近く、目を下方に凝視させて、小刻みに震え、読経し始めた。
「お、おーい。悟るな、唱えるな、弔うな~。これはお姉さんの包容力に昇天死? 己で唱えて弔い? いや自分に向けては無理だよ、カムバー……ック」
続いて、第二演技。
「擬音生者の鐘の声、所業無情の響きあり。者等送受の花の色、生者必衰の理をあらわす」
驕れる人は久しからず、只何時かの夏の夜の夢のごとし……『イン』、デワ、ナイ、ヨ?
「平家がお好きなのは解ったけど、それでいてナゼにアレンジを施す?」
「……いや、申し訳ない。無を掴まなければ、また狂って終う処だった」
「ほ、ほーう。『ケダモノに成って終う』と訳せば良いのかな? きゃあ~、男はコワイコワイ。雌マンタが襲われちゃーう。でもカワイイ義理の新弟になら、襲われても良いかもね♡」
「色々と歪んでいる…………ニートって言ったか、今?」
ゆがみ、詳しくは言わないが……取り敢えず正気は保てました。
【陰気】
「そうだ! 私は弟をつくりに来たのではなく、弟につくられに来たのだった!」
その反対語……先の『ニートに襲われホニャララ……』と繋がるから、止めた方がいいよ…………誰がニートだ、誰が。
「あれ? つくれ……つくられ……あり? おり? ハベリ?」
「いまそかり」
ラ行変格活用。
「ま、いいやぁ。ちょっとこっち来て」
再び、マルトゥア専用、本棚の隅にて眺める……痛ぇ、ちょっと静電撃が……。
その眺める視界には、パジャマ姿の女子が本を読んで居た。
「パジャマっぽいけど、向こうにいらっしゃる方の服装は[魔法ローブ]みたいなものだよ? 一応言っておくけど」
俺の〈観察眼〉の最初にチェックする部分を見極める姉さんは、テレパシーでも使う超能力者ですか……って、姉さんは良い年の[魔法少女]でしたね、杖の色が色々変わっている処、俺の目先に着く色の魔法でも使っているんでしょう定速で杖を隠すよ、姉さんは。
「魔法ローブ……魔法使い?」
「そう、魔法使い“パチュリー・ノーレッジ”。別名[七曜の魔女]」
「七曜?」
「うん。属性ってあるじゃん? ほら、何曜日~とかの頭文字を取ったヤツで、ご、ご……」
「五行思想」
「そうそう、五行思想。ひつき君案外、ソッチ系博識だったり好きだったりする?」
「好きか嫌いかは無いが、似たような事を営んでいるから接続検索で」
「ほうほう、深そうだねぇ~。また今度向こうで会う機会が有ったら、ゆっくり話そうよ」
俺はもう向こうには戻る気無いのだが……と言い掛けたお口は、念の為チャックしておいた。
「彼女はね、その五つの属性を操るに加え、もう二つ、陰と陽の属性も操るア・ロット・オブ・アトリビュート・ウィッチなんだよ」
横文字がお好きなんですね、全然解りません。
「そんな[多色魔法使い]な彼女に弟子入りしたく眺めていたんだけど、またの別名が〈動かない大図書館〉。名前通り究極が付く程の愛読家、いや愛本家でね」
林檎携帯の家?
「『本イズ私』みたいなスタンスで熱読していて、物凄く陰湿な目付きだけど、しているから、思いっ切り見た目判断だけど、悪い人では無いんだろうけど、半信半疑って処で、弟子取ってくれるか……悩んで悔やんで苦しんで、心の準備をしていたんだよ」
あぁはいまぁ、尊敬して居るから近寄り難くて、そんな自分がもどかしい。
もどかし過ぎて結果、尊敬するお方まで短所チェック入りまぁき添え食らわせた、みたいな感じに、己の心境を語ってくれて、どうも堪忍な。
って理由でも無い口振りだな、流れが良く解んないよ。
「成程。然しまぁ聞く以前から解る話、俺の存在を知っている事から解る話、姉さんはここで言う外来人っつー、俺と同世界の住人な訳だが……。何故ここに来て彼女の弟子入りなんかを選抜したんだ? と言うかどうやって入って来たの?」
博麗大結界が、想いの外ポンコツなのでは? と。
「どうやって……魔法少女の事について考えていた時かなぁ? なんかこの格好どう考えても魔法少女じゃないな、って疑心になっちゃって……」
まぁ、俺はそれを砂漠を超える旅人衣装と勘違いした位だからな。
「で、気が付いたらこの図書館に。最初は入った時はビックリしたね。私はここを知っているからさぁ~……」
え? 知っている? それは詰まり、知っていた?
「以前から知っていたのか、姉さん? この図書館……て言うか、幻想郷自体?」
「そうだね。何せこの世界は……」
「コラーッ! 先程から何をコソコソと騒いで居るんですかあああ!!!」
頭と背中に黒い羽が生えた赤髪のロングスカートOLが、両腕を万歳してプンスカ『コァーッ!』と、不審者2名を取っちめにやってきた。
『コソコソ騒ぐ』とは騒ぎなんですかね、実際? 確かにコソコソ話して、騒いで語ったのは事実認めざるを得ませんが。
「ヤバッ?! 小悪魔っぽい使い魔さんだ!!」
声掛け初めに反射で驚き語った奴、此奴かぁ~。
何かまた『大妖精』と同じように、名の無くて、しがない『小悪魔』みたいな存在だな。
愛称込めて『こぁ』とか『ここぁ』とかどうだね? 『こ』を一個増やしたのは、紛れも有る〈気〉ですが。
さてとて、姉さんが両肩掴んで決意を表す眼差しで熱意を話す──のは良いけど、肩は離してくれ、身動き取れない。
「仕方が無い……良いかい?」
良くない……仕方有るから、考えれば。
「今こうして使い魔の小悪魔さんに見つかって終った。だが終ってない。でも今気は引き締まってはいる!」
ちょっと何言っているの、この人。
「君と話したのと、弟が出来たからだね。素晴らしき安堵の時間だったよ。こうなったら猪突猛進で弟子入りを懇願するしかない!! かわいい弟は私を置いてここから逃げて!!! それと私……今でも魔法少女に成る事が夢だったのおおおおぉぉぉぉ……」
戦闘態勢に入ったような戦場BGMが脳内で流れた気がした。
そんな状況下、俺は、至る処が死亡フラグで極まりない早口台詞を語り、七色の魔女に向かい去った彼女に向けて、棚から顔だけを出して、言葉を返した。
「あ、そう」
「酷いな、君ぃ!! 感想ドライすぎるでしょ??!!」
去り行く(逝く?)彼女はさり気無く、洒落たことを申しましたが、それよりかは彼女が最後に放った、お洒落コスチュームの……彼女の幼少期『から』の夢についてですね。
純粋が大学年齢でも続いているってのは、きっと『素晴らしきかな、人間よ』に値する心の持ち主なのでしょう、命短し変せよ……。
然しコスプレと言う、衣類にまでもその心を表して、既に腐っているような……これが本当の宝の持ち腐れ。
「今、不快な事を考えられた気がする……」
杖が赤いの?
「まあいいや。パチュリー姉さま~!!!! この私“リーン・ノーレッジ”を、[義理の弟]という名目で、弟子にしてくださあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……………………………………!!!!!!!!!!!!!」
名前まで決めていたのかぁ~……偏りというか、矢張りの意見、歪んでいるというか。
彼女が懇願の『ああああ』を何秒伸ばして叫んだのだろうか……何時の間にか『ああああ』は、何か燃え滾るような音が聞こえたと想ったら、悲鳴の『ああああ』、断末魔の『ああああ』に摩り替っていた。
その頃の俺と言えば、顔だけ現場から出して、文字通り暴走する姉さんを眺め、同じく飛行状態で隣から眺め、顔を合わせて「何ナンでしょう? 一体全体……」と、「俺も解らん」と、言わんばかりに“こぁちゃん”と一部始終を傍観していた……(殺伐音だけしか聞いていないと想われたモノローグは何だったのか……いや、本当に)。
騒動が静まったかと想えば、パチュリー・ノーレッジらしき人物から『小悪魔、この太陽のように暑苦しい娘を、窓から放り出して』と、命令が放たれた。
姉さん、南無阿弥陀仏……そしてドーマンセーマン、アンパンチ。
「は、はーい」
『まだ曲者が此方に居ますが……』とチラ見して、主人の言い付けを実行する赤髪の悪魔の名は、やっぱり『小悪魔』と言う、しがない使い魔さん。
名もないしがない娘は、『大ちゃん』と『こぁちゃん』だけにして欲しいと、無心にも想うよ。
「うー……ん、重いです~……この太陽さん」
「ちょっ……女の子に『重い』って直球表現、失礼でしょ? この使い魔さん。お姉さま、この娘にもう少し教育が必要なんじゃない、かああああぁぁぁぁ……!!!!」
「きゃあああああぁぁぁぁ……!!!!」
両手で荷物よりか、招かねざるモノを抱えた『こぁ』は、羽で飛行して、ゴミの詰め込まれたゴミ袋をゴミ捨て場に投げ捨てるように、遠心力を加えて窓から投げ捨てた──途端に、掴んだ手は離れず、己の個体までも外に投げ捨ててしまった。
「ええ、如何やらそのようね……」
この魔女も、強いて俺も、互いが互いで、外に飛び出して行った彼女たちの扱いが酷い温度である。
窓は空いているが、陰湿である……あれ、温度ではなく湿度の話?
それと姉さん、心肺停止しそうな叫びと倒れ様では有ったが、殊の外元気そうだったな。
「そこに隠れているもう一人……あなたも出て来たら?」
おや? ご指名か? で、なくても、姿を見せようぞ。
「コホッ……あなた、誰?」
「俺はヒツキ。内の姉がご迷惑をお掛けしました」
「これはご丁寧に……。何しに此処へ? アナタも本を掏り取る泥棒かしら? コホッコホッ……」
如何やら此の図書館の長は、病弱らしい。
と、言った処で、後半に続く……。
一日の、スケール広めて人生の後半とは、何時から開始するのでしょうね……、スケール広める話では無く、現状からどういった傾向で後半にやらブツブツブツブツ……。
会話やモノローグ、彼らの心理ですら幻想ってのが僕のスタンス。
若し「え何でこうなった?」と理解出来ないのであれば、其れは幻想言語と称して、納得してください。
又は、作者が現実を理解して居ない可哀そうな人とも。