第漆点戻話 朝露に似た色~Scenery~[魔女編]
朝を食べるよ。朝食を食べるよは頭痛が痛いになるのだろうか……
【朝食】
目に映るのは、見慣れも見慣れて無いも無い、霧雨邸の扉。
『トントン…』
「入って来るな~…」
…………。
回って、クラウチングして、よーい、ドン。
「マテ待て! 私が悪かったから入って来い!!!」
「お邪魔します」
何だこの玄関と家内の境目での茶番……
「ノックなんかしなくても普通に入って来いよ、私は暇を持て余した吸血鬼が、直々に私の物を盗りに来たのかと思ったじゃないか!」
盗りに? 『取返しに』ではなく?
「親しき中にも礼儀ありじゃないかなぁ?」
「親友としての仲が成り立っていたことは、こそばゆくも心の地から嬉しい限りだが、そんな仲だったら遠慮せずノックもせず入って来て良いんだよ。元より私が『戻れ』と言ったんだからな」
「今度からはそんなの作らないでおくことにするわ」
お二方は、食事台に配置された椅子に座る。
今回のメニューは、一見何の変りもない、よくある和式のお食事――『白飯』、『魚の塩焼き』、『味噌汁』、『何かの和え物』、お飲み物は、湯呑みに酌まれた『茶』。
有無、有無……質素だが、理想を求める朝ご飯とは、このような形状でこそ[有り]が生まれる理想。
〈理想の思想家〉もいるのかなんて考えると、扨、ご飯が冷める。
「いただきます」
「いただきます」
両者並んで、美味し糧を摘まむ……。
「「…………」」
おかず位置の魚を箸で啄み、摘まみ、白飯と共に噛み締める……しかし噛み締めた結果、食いながら味を判断するものだが、味を判断しようとすればする程、噛み動かしていた口も、箸も、ゆっくりと下がっていった。
その行動は魔理沙にも伝動し、魔理沙は、飯は喉奥に詰め込み、静かに俺に問いかける。
「なぁ、ヒツキ。今回の私の飯……どうだ?」
「これが『炭を食す』と言うか、三角の中にエクスクラメーション・マークが赤色で、若しくはDANGERマークとかCAUTIONマークとか…あ、アレは黄色だったかな? でも黄色い声援が聴こえる様な愉快な味には程遠く、遠く言いまわしてしまったが結論を申すと以上の申し上げたマークを混ぜ合わせた、人間が口にするのも憚る化合物のような味ですねっ、コレはっ……って、魔理っ沙さん、僕のっ座っている椅子の底っ、蹴らないで。3回に1回、僕の脚を蹴らないで」
「何で今回は例え込みで、詳しく不味いと批評するんだこの無情野郎~…!」
「ニャ~…(訳:無情では有るが、気紛れな者でも有りまして……)」
「何が『ニャー』だよ。野良染みていて、寧ろカワイイよ」
ゴフッ…
このお茶も異次元級の味わいでは有るが、おい何つった? ……まぁ互いに、今のは無かったことにしよう…無視しよう…。
「素直に『不味い』と言ったら、親しき中でもそれは『酷い』って言われるでしょうに」
「親しき仲だからこそ、素直に不味いと――言って欲しかったよ、素直に」
「自負の自認は成功の基だが、食材チェックだ…何を入れた?」
「茸」
「んぁ? 茸で味付けしたって言うのか? 調味料にするなよ、食材を」
「いや、これ全部茸で作った」
「…………エ、ドユコトヨ?」
「だからさぁ、茸で作られた『白米』。茸で作られた『味噌汁』。茸で作られた『魚の塩焼き』。茸で作られた『和え物』。全部茸から調合して作った」
あ、アメイジング……魚もか。
調理ではなく調合…、茸風味料理では無く茸そのもので形から味までもが作られた料理…いや調理? 調合理、超合理的、超エキサイティング。
「茸で何でも熟そうとしたその姿勢が、素直に凄いと想うよ」
「お、『素直に』か? いやぁ、それ程でも!」
「……………」
魔理沙は自分の頭を撫でていた自分の手を再びゆっくりと下ろし、ニヤけていた表情をゆっくりと無に戻す。
「ヒツキここはお前が『褒めてない』と、ツッコむ処じゃないのか?」
「義務付けられた覚えが無いわ」
然し直々、ツッコみが絶えなくなったな、自分。
「その後の台詞として『私もちょっと前進したな』と言いたかったんだが、見事空を切ってくれたな」
「期待を裏で切ったって事だろ? この食事こそ期待外れだろうがぁ、衛生管理局的に」
空を切るのは、『空想女』だけで十分だ。
「……不味いなら食わなくていいぞ。確かに料理に関しては、何の前進は無かったし……」
[調合]っつったよな?
「不味いし拙いが、別に食えない事は無い」
「炭だとか、カゴーブツだとか、貶していた奴の言える開き直りじゃないな」
「そうだな、確かに言った、言っちまったが……。一つ話をしよう、お食事中に不作法だが」
「ああ気にするなよ、そんなの……。モノ食いながらは気に入らんが」
それが不作法だろうが。
嗚呼、またツッコんだ…素人の癖に、素人の癖に。
「こんな頓珍漢な頓智クイズが有る……『パンはパンでも食べられないパンは何だ?』」
出題した訳でもないが、出題してない訳でも無く、そんな俺の経緯は南方にでも流しまして、魔理沙の回答。
「腐ったパン?」
正当な正解であるが、この頓珍漢頓智クイズの答えは、
「フライパン」
「なんだそりゃ、しょうもない…」
「あぁ、世界は再び氷河期にでも突入する、下らん問題だよ。この問題に措いての回答は、まず小麦から出来上がったパンですらない。幻想郷にて、現実的なことを語ると、語るが、食べられないパンには当たらない」
「おお、うん」
「食べたら死的な意味で当たるだろうがな、フライパンは…。そこで、幻想郷だが、俺は現実的な回答を持って、正答を組んでみる」
「その答えの答えは?」
「『パンはパンでも食べられないパンは?』――答え『そこにパンが無い』」
「ほう……ほう?」
「だってパンが無ければ、パンは食べられないじゃない……代わりにケーキでも食すか? そんな話でもない」
「ヒツキが持ち込んだんだよな」
「否、パンは持たなきゃ食えない。そこにパンが存在し無ければ食えない。例えそのパンが腐っていても、カビていても、有毒性の高いパンだったとしても」
「持った瞬間蒸発しそうだな……」
「実際俺は……カビでも腐敗要素でも、有毒性物質で蒸発寸前でも、消して終えるからな」
右手を上げて、俺なりの裏の表の答えを、手に表す。
魔理沙はキョトンと、目を点にする。
「何なら此方の『本』を以てパンを創ってもいいですよ?」
キョトンの顔はププッの顔に生え変わり、
「何だよぉ。結局、現実的でも無いヒツキ流じゃんか…ハハハ…!」
「黒いパンより、白いパンが食えることは、食べるにおいて、本望だろ?」
見た目真っ白、中身真っ黒のメニューで括られた朝ご飯は、こんな白黒付かないトンだ会話によって、白のお墨付き……即ち『御馳走様』と合掌して、事を済ませた。
【出発】
アクシデントは有ったものの、その後何事も無く朝食を済ませ、何も会話は生まれない2度目の歯磨きも済ませて……あ、いや、何か魔理沙が
「ヒツキの歯って綺麗だな」
と急に褒めてきた。
――続いて、
「両手の~、人差し指で~、頬を~、突き上げて~、歯を~、見せてみ~?」
何故文節で区切るのかは解らない。
そしてこの令も熟す意味も解らないが、取り敢えず…………!!!!
「ZE☆」
「『ZE★』じゃねーよ、テメェ…嵌めたな」
「嵌めてねーよ~。只、引っ掛かって貰っただけだよ~」
同じじゃねぇか…
「よしよし、ヒツキのカワイイものがご拝謁できたと言う訳で……出掛けますか!」
『うっわー』で、『このままじゃ終われない』ってヤツ……
「俺のカワイイもの? 可愛い……何だお前、俺を愛の対象に見立てられるのか?」
「あ、ば……阿婆擦れてんのか、お前!? 愛とか、マジの真顔で言うなよな!」
マジの真顔、違いない……言葉なんて所詮、俺には文字だ。
「愛?(疑問) 上(机の空論的な意味で)、(故に)俺の勝ち」
「そんな勝利宣言が有って堪るかぁ!!!」
色々と、一方通行の馬耳東風で言い合った、食後歯磨き後の身支度――その争いは玄関にて終止符を打ち、
「私はこの森から、あっちの方角へと、箒を使って空を飛んで突き進む!」
「あっちの方角の先に、何の用が有るって言うんだ?」
「野暮用だよ! 来るなら頑張って付いて来い! 来ないなら留守番宜しく!」
成程、外出しなければ俺は、神社の宴会時間までずっと、このガラクタと木漏れ日便りのお屋敷でずっと、座禅を組まなければいけないのか……中々骨のある修行、一つ悟りでも開けて新たな道へ進めそうだな……よし、外道を進もう、物理的に、単語一句的に。
「私のコレクションが盗られたら困るから、後者は絶対無いけどな」
「選択権無いやん…」
早く大人に成りたいわぁ~…、何時成れるかは誰も彼もが不確かな時事ですがね。
「時にヒツキ君。空は飛べるのかい?」
「時に聞くなら、後一万年は待て。外界の一般常識では『人間は空を飛べない』だろうて」
一万年待って、人間は飛行の進化を遂げるかは定かでは無い。
「それだけ能力を御持ちで御空を飛べないとは不憫ですね」
瞬間移動なら出来るが……
「私の知っている限りでは、外界人は鉄の塊を大人数で浮かせて飛行していると……知り合いから知ったぜ?」
「お前が知っているのか、知り合いが知っているのか、知り合いも満を持して知っているのか、ちぐはぐな知識だな」
何にせよ、大人数の飛行なら、俺一人で飛行が可能な路線は、遥か宇宙の彼方だよ。
「取り敢えず、お前は飛べないと…ふんふん…。あの本使って飛行が可能にならないのか?」
「悪いが俺は、存在した瞬間『レベル100=人間』の陽月さくらさんだからな。これ以上は強くなったり技も覚えたり出来ん理由よ」
「ふ~ん……それじゃあヒツキはこれ以上、前に進めないって理由か」
「意味が深そうな言い草だな」
「限界を超えてこそ人間…って奴じゃないか?」
有無、それも深し。
「魔理沙には色々と教えられる物事が沢山有るな、丸で学校の先生だ。よし解った。お前のその名言・名文・名句に乗ってやろうぞ」
「ああ、頑張れ。勝手に」
『それじゃあ私はお先に行くぜ』と、脚早く彼女は、野暮用を済ませに飛び発った。
そして俺の方は、例の本を取り出し、新たに自分への〈設定〉を[追加]する。
[追加:陽月さくらの能力に、飛行、及び浮遊の能力を永久単位の追加とする。飛行・浮遊の速度は……(中略)……又、この〈設定〉は、陽月さくらの千二十五万三百九十枚に渡る〈存在〉の一部として、追加するものとする。]
身体が軽くなった様な気がした。
丸でRPGのメッセージウィンドウだ。
それから俺は、邪念も妄念も、文字通り右手で打ち消し、空を飛ぶイメージを左手で浮かばせた。
するとどうだろう? 足が地面から離れ、両足の影が見えるじゃ、あ~りませんか? 飛行するに当っての移動をも難無く熟し、間も無くして、正真正銘の鳥人間が、森の中で存在していた。
成程、これが空を飛ぶって感覚か……更にこれは、飛行機とか鳥人間コンテストの『何たら号ちゃん』とかの、物便りの飛行ではなく、魔力によって生み出された、人間単体での飛行……スゲェ、マジスゲェ……。
速度を制御し切って羽搏くこの飛行ならば、魔理沙にも軽く追いつける……。
この新たな飛行能力を以て……さあ、歩いて行くか。
茸って、万能だね。
魔理沙の和食派は当二次創作品のスマホゲーのボイスで知りました。
彼らの昨日魔理沙がパンを13枚キープか14枚目かとなったのかは、真っ白に燃え尽きたボクサーの生死の不明の様に、知られざる話。