第壱話 夏を妄想(おも)う~dream encounter~[前編]
『妄想』って、卑語感在るけど、別にそう言う意味じゃあない。
「考える事が沢山」って意味で捉えて、もっと噛み砕いて言うと、過度な期待はせずに、この物語をお読みください。
ミ~…ンミンミンミンミンミンミ~~~~…………ン
なんて、文字で表せればいいだろうか。蝉の音が、そいつを初耳に、其処ら中から鳴り響く。おまけに、滅ぼすなら年末にこの世を滅ぼしてくれと言わんばかりの蒸し暑さ。時節がいいし、紫外線を含め……気温によってじわじわ、UVによってカサカサと嬲り殺されるよりも、除夜の鐘の轟音でそれはもうギャグマンガと言わんばかりの突如ドカン! とした世界滅亡をその瞬間起こして欲しいものだ……と、それ位の事が言える失望的な暑さだ。
除夜の鐘を鳴らすのは冬なのだから時期通りもう少し冷静になってもいいんだが、最早外を出る…いや、外を想うことすら考えとして持つのは、どれだけ馬鹿げた事だろうと…外に出ていて何だが後悔極まりない。今日は外出するんじゃなかった…これは夏であれ冬であれどちらにも耐性がない奴が呟く戯言だ……なんて言える暑さだ……後付けに「まぁ、無理もない」
冬が来たとて月日超えれば毎年やってくるこの暑さには耐え難いものだし……なんてことも言える暑さだ。ある意味この言動も暑苦しい……なんて言え(略
しかしながら可笑しな事も有るものだ。先の説明から見られる風景、基、季節は“夏”。しかも“真”が付属される“真夏日”だと言うのにも関わらず、底に立つ、いや、座っている青年は、今の時期にはコスプレしか気候的に許されない。
コスプレイヤーも何かしら暑さの対策は練るであろう。だがどこがどう見ても丸きり、冬までは行かずとも、秋中旬がよいであろう黒に染まった生地の、前腕の覆いを担当する長袖Tシャツに、肩から胸あたりまでギザギザと逆三角形に広がり、白い肩パッドを連想させるデザインの他、これまた無地の黒に染まった半袖Tシャツを重ねて纏っている。その夏への挑戦と言わんばかりの格好を難無く熟す顔には、一切暑いと思う雰囲気を出さない、涼んだ、というより死んだ真顔で、扇風機【強】位のテンポで無駄事を想っている。考えている。
扇風機[強]とは言ったが、別に涼める訳でもない。
「―――夏…なのか?」
思考の中で得た答えを呟く。誰かに問いかけるように……。可笑しなお頭と独り言である。
序でに言うと髪型も滑稽だ。
前髪、横の髪は真面にボサボサ、草臥れたカールが掛かっており、横の髪は耳を隠している。
ここいらだけ見れば、まさに真面な金髪なのだが…可笑しなのは上の髪。
それは、某ビール会社のオブジェが3つ。
然し左端は黒く塗り潰され、手掴みサイズ。
ほぼ真上の、12時の方向を向き、隣は1時と2時の間へ、更に隣は3時への向きと、北東向きで均等に分けられ生えている。
何かのバランスを取るのか、3つのオブジェの下に、左右対称で纏まった髪が弥次郎兵衛の腕の様に伸びている。
後ろの髪は括られており、狐の尾を思わせるテールが4つある……
この形状は、彼の住む世界、通称“魔法露場”にある特殊な髪型とされ、何かの『動物』をイメージさせているらしいが……
さて、その異形な金髪を生やす人物の名“陽月さくら”と称する青年は、先ず一つ目にその人物…その性分、性格を語るとするならば、名が本名であること。
偽名や、俗に言うキラキラネームでも何かしらのハンドルネーム、ペンネームでもおかしな友人に付けられたニックネームでもない。そして訂正しよう、キラキラもしていない。
お宅の近所に陽月さんなんて苗字の方は住んでいらっしゃるでしょうか? いない筈。然し戸籍は“陽月”で通ってしまうのだ。先程も申し上げたが、本名であるから。異論はない。
もう一つ彼の事を知って置いて欲しい事は、“人間未満”だということだ。寧ろ「人間では無い」と否定したいところなのだが、“魔力”が据える現代ファンタジー世界“魔法露場”において、『感情捨てて、理性で動く』。
途轍もない内容発言なので、もっと簡単にと言うより、単純楽式に事実明解に言うと『心捨てて、頭で動く』が正しい。
このような「なんてこと」は、彼がまだ若いから故、“若気の至り”“救いある人生の踏み外し”と言うべきか、能力絡みで度は越しているが。だけど生きるか死ぬかなんてことは個人次第と、“魔力”と言う謎の陰湿な気体により左右される世界でも生死の自己責任は打って付けである……社会的に、生命的に。
ところで脱線して終った本題についてなのだが、陽月には心がないのだ。
心が無い……それはまるで空っぽのお人形。
人の言葉に命じられるがままの、忠実なる下僕……なんてアバウトなキャラ立ち設定などをよくお見掛けするが、陽月は陽月自身で動いたりする。
頭はあるのだ、考える頭は。
まぁ直ぐにして実行に移すことは無く、例えるなら優雅で可憐で孤独でしなやか。
しかし彼は何方かと言うと、素朴でぶっきらぼうで平凡以下の孤独な痩せ気味ごぼう体質の……そして生活はぐーたらの気紛れ代表生物…“猫”の野良型と言った方がお似合いだろう。
陽月自身それを思っているだろうし、先程の文面に適した猫がいるとするなら、いっその事そいつに謝るべきであろうものだ。だが心のない無情の人種“陽月”にとっては、どうでもいいことだ。
謝るなんて気持ちも、何かを成し遂げたいなんて気持ちも、陽月には未来永劫皆無に等しい出来事なのだ。
それが陽月に課せられた…枷着けられた「設定」なのだ。
さて陽月、その時その場その気候の中で、思考回路の出力は『夏なのか?』とまさかの疑問で出してきた。
誰に聞こうがこの暑さ、この騒がしさ、この風情さ、誰もが『夏だよ』と一斉に嫌気顔で愚弄するようなものだが、陽月は本気で思っていた。
本気なんて陽月の辞書に有るのか無いのか読み取り辛い顔と声はしているが……ここからは、陽月の視点から物事を進めていくとしよう。
その方が、微々たるものだが、本当に微々たるものだが、辛うじて面白さはあるだろう……保証も確証も無いが。
【陽月】
“夏なのか…”
俺はそう呟いた。
確かに呟いた。
時計も無ければ録音機も無いから、一人で作った過去の『発言』は『妄言』へと変わってしまうものなのだが……だってそうだろ?
推理小説の鉄板、事件解決に必須、皆大好き“証拠っち”もその場にないのだから。
…いやまあそこまでオオゴトにしなくてもいいのだがな。
たかが2秒18の時間を使って呟いた一言なのだからさ。
しかしここは証拠より論を強調させて頂こう。
そう言った世の中の方が、UFOを見たと言う子供の意見も、信用とまではいかずとも耳は傾けてくれるだろうな……本題に入ろう。
“夏なのか…”
内心で復唱してから2度目となり、呟きも合わせ3回目となるこの言葉。
こんな幼児でも言わない疑問を投げる奴など世界において俺くらいしかいないだろう。
してその理由と真意は
「…………さぁな」
答えにならない思考の答えだ。
誰もいない中、強いて言うなら向こうに蝉が多数、しかし聞かれることはあっても理解はされない。しない。
そんな中で俺はまた呟いた。
寂しい話だ。
突如聞いても理解不能な独り言なんて…まぁ、寂しさは無いけどな。
無情であるが故。
ただ考えた上での理屈。
他人を考えず想いやった上での思考。
然しまぁ何故急に「夏なのじゃ?」とか思ったんだろうか?
無理やり忘れて誰かの為の嫌がらせにでもしようとしたかったんだろうか……ともするなら今の疑問も嫌がらせに含まれるかな……細やかな。
夏……嗚呼、遠い田舎の遠い昔の思い出のようでそして毛から嫌悪感(考えの上で)を抱かせるような嫌(考え)な季節。
その遠い田舎には嫌々(考)行っていたんだろう。
両親に連れられて。
車の冷房は快適(〃)外地獄()。
なんでこんな暑い日に爺ちゃん婆ちゃんの家に遊びに行くんだよ家でゲームしていた方が益しだ…
うん、やはり何かへの当てつけなのかな……この夏に対する――(伏線)。
自慢ではないが、俺は普段物事に対する劣悪間は無い筈なのだ。
それが悪いものだとしても軽く引き受けられると……
危ない密輸売買?
裏組織との暗黒契約?
おk~承認★但し、理屈が通っていればな……
しかし何だ……無情に有るまじきこのマチガイ。
全く以て何がかは解らないが駄目だな俺。
ドアを開けて死ねばいいのに……どんな死に方だ。
夏に対する謎の劣悪感みたいな劣悪感はさて置き、ナツナンテホロビレバイイノニ(ボソッ)、状況を把握しようか。
解っていること、多分夏が大嫌い。
と言う線で語らせてもらって、でどういった傾向でおこなったかは知らないが、今俺は「異世界進出」を果たしていると思う。
創作物好きの諸君なら誰しもが憧れる「異世界進出」。
自分に然程力は無かれ、精々齧り程度で得た部活動のステータス、ゲームでの知識、天性の何たるか位で進出し、異世界ならではの中世時代感溢れる生活。
理屈なんざ、その異世界の形式でとしか断言できない魔法の数々。
恐ろしく屈強で、リアルでは本もしくはゲームでしかお目にかかれない魔物たち…。
こんなラッキーゾーンに行けた俺選ばれし何とかじゃね?
とか思う可哀そうな自分…………うん日本に帰れ。
腐って生きたほうが身のためだぞ……親族はどういうか知らないが。
考えたことは無かったが、俺って親はいるのだろうか……
なんつーか、物心ついたように、俺は2、3か月前に雨の日にこんな風に黄昏ていて………思い出せないな。
まぁいいだろう。
さて脱線しすぎたな。
現状をもう一度確認しよう。
真夏常夏クソ夏の日の中、俺は石の階段に座っていて、右には道、左には道。木々が沢山、山沢山…蝉も鳴いていて……ん?あれれ??
い せ か い な の か???
なんて今更だよなぁ。
蝉が鳴いているし、田舎どうこう話したし。
中世時代っぽい風景だと思ったのだが…考えている中で俺は何を見ていたんだろうか……呆れる自問自答、何も見ずに考え事をしていたとか?
いやまあ深く考え込んでいたのなら、概ね周りが見えないなんてこともあるだろうけど、あんな浅はかな考えの中で何も見ていないのは我ながら少々ヤバいよね。いやまぁでも黄昏てたんだし。
……なんて事があったのか?
妄想じゃないのか?
先程までの証拠ビデオのない出来事……駄目だな俺、本当マチガっているよ。
嗚呼…バーサーカーにでも無残に叩き潰されればいいんだよまじで……
バーサーカーはせめてものファンタジー世界願望の一種だな……屈折にも程あるファンタジー線だが…ま、暗く生きるなや。
「考え事」っつーのは、言わばゲームローディングとかで暇しないよう何らかの説明欄が表示されてそれを読んでいる最中だったんだろうて。
現実的に言うと、白昼夢ってやつかな?
しかしまぁ田舎だな、この感じ。
都会と田舎の区別ってのは、今一解らないものだが断言して田舎だなぁ。
電子機器なんて知らなさそうなくらいの超ネイチャーライフが漂うよ。
唐突に申して悪いのだが、俺は今組体操のピラミッドを思い出した。
組体操はしたことは無いし、なぜ思い出したのかも話せないが、とにかくその組体操のピラミッドで右見て左見て上を見るという動作があった。
左右道なり上は空だが、物理法則を無視してピラミッド中に上を向きながら逆さに、つまり後ろを向いてみようと思う。
と言うか階段に座っているんだし上に何かがあると、要らない組体操ピラミッドでの例えを思い出す前に気付けって話だこの愚図野郎。
ああまぁ、うん…何だ。
顔を百八十度後ろに向けて見ているものの、当然何にもわからん。
と言うか、日照りで蒸された2、3段上の階段が思考上熱い。
頭にカミがいるはずなのにどう言うこった?
全く加護が届いていない……まぁこいつも偶にはサボりたい時があるんだろう。
主人の俺が異世界進出なんざ現実離れした事しでかせば、愛想も尽きるだろうて……
それよか態勢を立て直し、左に首を曲げて上を見上げるか……え~…っと
“シャクド”!
…って言うんだったか…忘れたがこんな感じで見上げて――――
【遠目】
熱された階段を超えた頂には人5~6人並べるであろう、左右に柱らしきものが2つ。
その更に上、横向きの、2つ合わさった木の板が天辺に一つ。
そのすぐ下に、まっすぐで二つの縦柱を貫いた板が一つ。
その板の隙間の丁度真ん中に当るところ、額のようなアングル的に将棋のようなものが付けられており…成程、あれは“神社”だな。
神社と言えば、俺は神社のような建物を住処として暮らしている……
いや、暮らしていた。
そこでは神社らしいと思われる仕事も務めていた。
人々の“ホントニオモフ(う)ネガヒ(い)ゴト”を一枚の紙で納めよう。
さぁ、ネガヒ(い)の有る者通りゃんせ。あなたに御縁があらんことを…
…ってのをスローガンに、胡散臭い感が半端ないのだが。
壁付け看板にネオンライトで会社名とガムテープで意気込み6文字くらいをアピールしている3階建ての相談事務所(事務所は2階)のようだが、詐欺グループでもなければ、実際に俺は人の願いを叶える能力を所持している。
こんな姿勢で神社業を営む、否、営んでいた(・・・・・)俺だが、生憎あの門の正式名称は、知らない。
先ず根本的な神社の活動日課とか行事とか、神社で働く人の職名すら知らない。
にも関わらず、飯事のように人の願いを叶えようとする神の偉業のような、なんちゃって営業。
この所業に神社業界は何と申すか……神の罰当たりもいいところである。
そうだな。
これまでのその詐欺みたいな悪戯、悪行を反省して、これからは善の人間として生きることを誓いますとか、箱にお金を収めて祈るとしよう……
箱の名前も解らないんだなぁ、これが。
【上昇】
階段を上る。
辛いことは無い。
運動能力はさして平均だと思う、運動はしないが……。
しないのにどこから来たんだろうか、『さして平均』は……?
何かで聞いた“灼熱地獄”を思わせる陽炎から、加えて光の圧力なんて大それた日差しが差し込む中、額からは汗は一滴も出ていない。
水分を取っていないから? いや、今はお留守だが、この俺の髪が何だかんだ暑さを遮ってくれているのやもしれない。
だが先程階段の熱気は感じたのに……何故だ?
言葉の綾だが、「夏なのか?」と言う発言には、日の暑さを遮っていることも一つだ。言って(ないけど)何になるんだか…。
…ああ、そう言えば俺の髪の毛には神様が宿っていて生きてい…………と、誰に話しているかは知らん台詞を良い処まで考えたが、到頭山頂に辿り着いてしまった。
えーっと、山でいいんだよなぁ、此処。山の上にある神社。
頂上登り切る5段目前から見て気付いていたが、でかいなこの神社門。でかいし、そして俺が考え事をしていても[何かは見ている]事実が発覚した。良かったな、俺。
「は・く・れ・い・じ・ん・じゃ…」
語学力の無さからか、それとも語学力に対する自信の無さからか、気紛れにやりたかっただけなのか、一文字ずつゆっくりと読んでいった。
この独り言は許されるだろうか。
旅人なら始めて来る場所で看板見かけたら口に出して読むお決まりの行為だと思うが……これだけ例を出したら許してくれるよね……こりゃまた誰に、だ?
自身の行動に異世界転生前から悉く(ことごと)呆れた……よ、う、な、ものだが、うん、にしてもこの異世界、随分日本要素が含まれているんじゃないか?
あの何気に作った〈転移空間の穴〉は只のワープ装置だったとか?
だとしたら何処県何処村だよ、畜生。
しっかり[異世界に転生する空間を製作]とか書いたかなんて、まぁ読むのも(思考的に)面倒だからパススルーするが。
腑に落ちないが、そんな気もするが、観光を楽しまないが、楽しむとしよう。
この神社の漢字は、博士の“博”に、昔中国東北部の南部から朝鮮半島北中部まであったツングース系民族の国家「高句麗」の“麗”と書いて“博麗神社”。
その名が飾られている額は、神社であると現している訳だから、少し親近感が沸いたり沸かなかったり。
自分の家が神社だったから判ってはいたが、質素であり神秘的である。
神秘……それはやはり“神様”と言う有無の謎めいた存在がその場にいると言う思想からの元、神秘が付く感想が現れるのだろうな。言っても俺の場合は、思考からの元だがな。
意味合いとして、思想は“瞬時”、思考は“経過”だな。
【境内】
段差が少数ミリ単位で不安定な石道を進む……こける様な不安定さでもない。
神社に来たからには祈願しないとな。悪行を止めて、善人になれますように。こういったお願いで、神様は聞いてくれるだろうか。
何の神様が宿っているのだろうか……
良心的な神か、或いは貧乏神、疫病神、ガムを噛み神ごめんなさい八百万の神様方。
だが八百万と居るなら、若しかしたらイヤ、ヤメヨウ……
待てよ。
悪行とは言え、「とは言え」に非ず、神社での“願望相談”は俺がやっていたし叶えていたのも俺。
自意識過剰ではないが、神様っぽいことを行っていたよな。それに神様は気紛れだが、俺は確実に願いを叶えるという。良い事なんだろうが、なんつーか、人徳的なアレ、ズルいよな。
平たい人間一人が平たい紙一枚で、意図も簡単に、偽りの様に、願いが叶っているんだから。そう考えると、俺の祈願行為って……色んな意味で望み薄。
そうなると、祈りに併せて謝罪も必要だろうか。
いやだが、此処は神社だから謝礼……とかはいいんだ。問題は[どれだけ誠意を見せれるか]だろう。相手は神様であり、此処が神社なら、忘れていたが「銭はどれだけ出せるか」と言うことだろう。
今手元には、何時手に入れたか、F(多分匿名希望)さんが一枚肩掛け鞄の中の懐にて待機している。
此れを5円にしたいが、田舎の役場、両替機は、此処から考えたくもない程遠いだろうし、元より行く気もない。
なので、此処で、此の場で、狡くて某・贋札事件のアレみたいな感じなのだが、〈能力〉に寄る両替を実行したいと思う。異論はない。
「“統一とする聖なる魔導書~cosmos holly grimoire~”
[記術]我が色と気と欲に従い、現在を以て、我が箱の懐に有る一万円札の両を、五円の両に替えるものとする。
但し、この願いが叶いし後に記述元に非が生じたとしても、金が元に戻らない願いとする」
…とまぁこんな感じで、俺の〈能力〉と言うか〈チート武器〉と言うか、簡素で気障ではある詠唱と文面の反面、都合良く願いが叶えられるというわぁぁけぇぇだっっっっ……
フッ、ガシャン!! シャー…パラパラパラパラ。
なんて、オノマトペで現した処だろうか。
先ず初めに、バランスを崩した俺は、前方に倒れて頭を箱にぶつけそうになった処、生きている髪の毛の神様の特性、〈髪神の守〉が発動して俺を衝撃から守ってくれたのだが、その反動と所要物の重みのお陰で、次は後方に倒れて尻餅を付いた。腕に筋力を掛ける程の重みを感じさせる手提げ袋を前方に振り翳して、重力と位置座標による遠心力で支店・力点・作用点のてこの原理の発動から、後方に下がるヤツだな。では無い。扨、何を言っているのやら。
で、あるからして、そんな非科学的要素で括られた非定理を表した処で、結果が不明となっていた[音]、即ち転んで倒れて転倒した[音]なんぞ、100m先に落ちた針の[音]ほど響かず、寧ろ目の前の光景で放たれた[雑音]は、蝉の鳴く[声]さえも掻き消し……。
同時刻、目の前の箱は木端微塵に砕け散った。
―――何て言うか、言い訳に神様を指すのも恐れ多い話なんだが、恐れが多い所為か、その神様の件で何か焦りみたいな、恐怖みたいなモノと、やはり暑さによる混乱みたいなものが生じていた俺には、判断力が欠乏していたようで。
一万円を五円に両替したら、その数2,000枚になるなんてことを全く頭に入れていなかった、どうしたものか。
これは子どものイタズラにしては、己が能力的・魔力的、力も加えて度が過ぎているし、俺は目を開けた瞬間から、十七歳だ。目を開けた瞬間からだが、十七歳だ。
器物破損の罪及び先の“神様ごっこ”の罪で、ムショ行き刑死行きは、免れないな。はははのは。
クソ「夏」め、余計なことを。なんて心許無い、有ったとしても心狭い、黄昏ごとを考えていたら、
カランカラン……。
と、第二の木製音が俺の耳を傾けさせた。この擬態語要るか?
箒、が落ちていた。持ち手が竹で、先は…何だ? 木の棒が沢山? そんな竹箒だ。
見上げた先には、女性……と言うより女子? と言う程の若さ引き立つ容姿で、しかしどこか大人びた感じが……しない、俺はしない。その人物はとにかく赤色が目立つ格好をしていた。
赤の袖なし衣装(ただし二の腕を見せて、手先も覆いつくすであろう振袖を装着している)に、赤いスカート。
頭の後ろには、顔を遥かに上回った大きさのフリル付きリボン、これまた赤色。
両方のもみあげから垂れ下がった髪は、筒型の何かで包まれているこれもフリル&赤。
胸元には赤色とかけ離れた色をした、別件で目立つリボン。
何をイメージしたかは知らないし、解らないし、解る気も無いし、自分の、衣類の一部一部への知識不足で、大した解説ができない&誰に解説しているんだ? に苛まれるが……恐らく神社の関係者と見て間違いないだろう。
関係者は、『まるでギターが弾けなくなったロックスターのようなポーズだ。』な感じに手を震わせ、口を開き、その目線は砕けた元[金を入れる箱が在った場所]を凝視していた。
「私の……お賽銭箱は…?」
全身を震わせつつも、ゆっくりと、靴を地に刷らせて歩き、震えた声で彼女は問いかける。
その響きは今を煌めくスーパースターの艶美声☆ 『ぅわたしのぉぉぅう、おぉぉさいせぇぇんヴぁこわぁあぁあぁあ~……』 今日も明日もルルルォックゥンロォ~ル………さてさて、思考にて反省土下座。
彼女は誰に問い掛けている? 俺じゃないよね? お暇して良い?
「ねぇ、そこのあなた……私のお賽銭箱は?」
摺足は俺の真横で止めて、ゆっくりと首を此方に向けた。即ち、問い掛け先は俺デシタ、どうしよ。
・黙して立ち去るか
・顔を隠して、黙してはいちょいと通りますよ、すいやせんと、
・何か気の利いたこと言って立ち去るか
・冗談言って立ち去るか
・自分が壊したと正直に言いつつ何か言い訳をした後、立ち去るか
典型的クズだな。
先ず立ち去ることをやめろ、容疑を否認したことになるぞ。
ならどうするか。容疑者でなく現行犯……弁解させてくれ。
元々この髪の神様が守護発動したお陰で、器物破損の容疑が掛けられているんだし……正直これはカミサマが悪い。
そういう事でも無いのだが、そういう線で
「ここが神社なだけに、“神隠し”にでもあったんじゃないか?」
冗談言ってごまかした。
いや相手からは『こいつふざけているな』って受け取られるかも知れないよ?
でも僕は自分が壊したと正直に以下略で話しているからね。
うんはいそうです僕がやりました。
心から申し上げますが、僕が壊しました。
髪の毛が神様? なにそれ、バカなの死ぬの?
動いてないし、髪の毛が壊したとて壊した瞬間を見たなら、誰がどう見てもブロークン・バイ・ヘッド・バッドでしょ?
百歩譲って髪で木製品を壊すは、正に神業……くだらんわ、ボケ。
出来たとしてもそれは自分の体の一部なので………結果俺が悪いわけですよ。
なんて容疑を認めてはいますが、心からの申し上げは彼女には聞こえてない、聞かせていないので
「そっか。神社だもんね。仕方無いわよね~」
冗談で返すしかなかった。
ていうか返してきた……台詞の後ろには(笑)でも付いていそうな。
鈍感に渡れば、いい感じの路線に思える程……
「そうだよ。あははのは~…(棒)」
そんな俺は冗談言ったご身分だが、端的に流れに乗るしかなかった。
だって私脳内カーニバルフェスティバルだけどコミュ障なんだも…
フォンンンン!!!!
こちらに棒状のものが降り掛かる。
バシッ!
と俺はそれを左手で受け取る。
反射神経は良い方の“設定”でござんして。
どうでもいいけど当り一面に風が広がって吹いたような……
「弁償して?」
冗談も証拠も必要なく、威圧掛かった笑みを浮かべて、請求と制裁を横暴にも同時に寄せて来た。
「わかった」
即答した、可能だからな。それに俺が悪いし、な、ハッ!
「へぇ…見た目の割に物分かりがいいイッ…!?」
ところで俺の左手、呪われているんすよ……いや唐突な中二病告白じゃねーヨ。
だがさっき使った“書物”で『足された能力』ではある。
文面はきっと中二病だろうな……残ってはいないが。
それらは全て、俺の体の中に入ってある……今はその話は良いだろう、左手の話だ。
|この左手の能力は、掴んだモノの力を増幅させる能力“与願の左手”。
与願とは、仏像が様々な手の構えを施すことによって何かが起きると言う“印相”の内の一つ。
実名は“与願印”。
「何かを相手に渡す」と言う力と意味が込められており、それを固体液体気体プラズマも含め、生物の持つ様々な“力”を、幾多の形で増強させることができるという何とも「現代ファンタジー漫画」みたくアレンジされたスキルである……って
「「?!」」
彼女が振りかざし、左手で掴まれた「棒」には“圧力”が施され、“無力”な自分は左手のみと言うか、掴んだモノのみしか能力の対象にしかならない為抵抗ができず、そのまま腕諸共後ろに下げられて……
「「……………」」
互いの距離が近づいた。
その差、約15cm、一般文房具の定規が一つ入る差だ。少しばかり彼女の吐息が当たる。
目は黒く艶やかに輝き、近くから見ると本当に若いと感じる程の白玉肌と顔つき。
これは所謂、“ホットな展開”と言う奴さんだろうが、嗚呼確かに夏だから暑いな……また夏かおんどれ。
悪いが、性的何たるかは俺の無情が有る限り、在り得ない。
無情が有るって何か矛盾…隠語で――“設定”とあるはずだろうに…
「……これは、どういう意味の弁償よ」
彼女はつっこむ。何食わぬ顔で。
「これと言うのは事故だが、ほれ。別件で弁償は済んだよ」
目と顎で指す…壊れ散った木屑の残骸がばら撒かれている所を…彼女曰く[賽銭箱]のあった場所を…まぁ名前は知っていたけどね。
…変な意地は張ってねぇって、マジレスマジレス。
「え…!?」
砕けていた賽銭箱跡地には、しっかりと賽銭箱が配置してあった。
「嘘…何で?」
破壊されたことがレム睡眠中の夢の様だったので、彼女は夢から覚める為か、そんな事は無いと思うが、賽銭箱を触って、叩いて、丸で開け方が不明の宝箱に触れるように手あたり次第に探ってみた。
しかしながら箱には一切、継ぎ接ぎも張りぼても施していない程元通り…奇麗に前の状態に戻っている。
これもまた“設定”だ。
タネと仕掛けある“設定”。
「あなた…何したの?」
「これだよ」
1枚の紙を見せる。
彼女が手に取り声に出して読み上げる……いや読むなよ。
「記術。我が罪と、被害者である、我が目前にて正当暴衛を繰り出すなにがし衣装を着る彼女の横暴さから、この博麗神社の賽銭箱の損壊を無かった事とする。但し記術元が損壊を得たとしても、この記術内容に影響は起こらないものとする……ふ~ん……」
ビリッ…
彼女は読み終えて間もなく紙を破った……いや破っても構わないよ。
良いんかい(独り突っ込み)
「本当だ。破っても賽銭箱に何も起こらない…ガキ染み文章の反面よくよく見るとこの紙、確かに霊的何かが漂う感じがするわ」
霊的だったかはさて置き、まぁ正解。
紙に保険を取っていれば、切っても燃やしても対象物に影響無しさね。
と言うか霊的何かを感じ取れるんだ…まぁ田舎だけあってか?
夜目が良いとかもその一つかな……てかガキ染みたとか言うなよ。
ファンタジスタ思考だよ。
「と こ ろ で」
あ…ヤな予感ですわ…ウワァコッチキタ…
「誰が『横暴』よダレが?」
下弦の月みたいな目でこちらを睨み、“設定”の記述にいちゃもんを付けてきた。
「いや見ず知らずの参拝者に賽銭箱破壊されて容赦なく襲い掛かるってさ~…いや田舎なら有り得る風習か。田舎以前の色々なケースが見られるよな。賽銭泥棒とかの…」
「そうよ。そりゃ壊されちゃあ例えそれが空の賽銭箱だったとしても、神社の損害……って最初何て言ったの?」
? 自分の台詞(思考)を一々記録しているわけが無いじゃろがい。
「空の賽銭箱なのか。それはそれは、何れにせよ損害しそうなお先真っ暗神社業でして…」
「有耶無耶にしないで! …ここに何しに来たの?」
『何しに来たの?』と言われると……
「…参拝?」
その2文字を口にした瞬間、彼女は両手で口を隠し涙を流した。
1個十円の、包みを開け運が良ければ当たりでもう1個貰えるよく駄菓子屋に売ってある飴玉くらいの極大な涙粒だ。
……何この特定された飴玉の例……ってのは無視して、
あの~これは~「やーい、陽月が女泣かしたぞ~」「最低~陽月くん最低~」…小学生の煽りが来るヤツとかなのかね?
顔には出さず悩むフリみたいな悩むフリをしていても仕方が無かったので、取り敢えず賽銭を済ましに行こう……
アクシデントから着席して、いざこざに会いやっとこさ起立できたが、流石に重いな…5×2000円のお金は。
もう体操座りで移動しようか…ズボンが破けるわ。
一円ずつ、夢とともに貯められた満タン貯金の瓶の重さが解る気がするよ。それにしてもこの鞄、腰の幅ほどしかない割には…いや割越して四次元カバンなんだけどさ、重さは反映されるって…辛いなぁ、こいつら(・・・・)も。
されどそんな重さ、五円一枚を持つかの如く、その最中コイントスもできるかのような直立姿勢で歩行運搬し、して本当に本当の5円をカバンから取り出し
「投羅、投羅投羅投羅投羅投羅……………………」
それは正に、体に七つの傷を持った男の形相であり、不老不死となり百年の月日を経てエジプトで世界侵略を企む吸血鬼の掛け声のような喝采と殴打……とまではいかないが、腕だけその二人の域に達しそうな勢いだった。
風が巻き散り、銭はマシンガンのように打たれ、また砕けそうなほど賽銭箱の古傷が開き始めているのが見えたり見えなかったり……この動作、正直もう止めたい……思考的に。
然し5円と言う巻き添えたちは、あるものは賽銭箱に納まり、あるものは入らず終い…にはぜず、透かさず手に取り入れ直し…
「投羅ぁ~…」
気合と締まりのない声の後、最後の5円が投羅された。
『投羅』って何だ『TO☆U☆RA』って…
※※※※よい子も悪い子も絶対にマネしないでください。天罰が下り、あなたのお受験は確実に落ちる結果となります※※※※
最後に一礼二拍手…一礼し、
「この神社の売り上げが上がりますように…」
と呟いてから回れ右をする。
彼女を見やった。
さっきの泣き顔は、俺の〈投羅〉の所為か吹き飛んで、呆然として突っ立っている。
最初に善人どうこう願おうと思っていた処、賽銭が空と言うことを聞いて気紛れの皮肉で、神社の進捗を祈ってやった。
進捗どうですか?
進捗ダメダメです! イェア…
…ところで参拝の作法ってこれで合ってんですか? イェア…
「クスッ……礼と拍手以外全然合ってないわよ、その参拝…」
彼女は鼻で笑った。
やっぱ作法マチガっていたんだ、傷つくわ~…この神社に。
しかし心でも読んだのか? 霊的感覚持ち主の……えーっと、誰だ?
「私は博麗霊夢。この神社で“巫女”をやっている者よ。異形な髪の参拝者さん?」
……そうか巫女だったのか、巫女装束だったのかその衣類は…何気納得。
ふむ…じゃあ俺も巫女? ……いや嘘冗談、男の神社職名は“神主”ってくらい、知っているさね……異形な髪?
――――瞬間、ふと夏を思った。
後に書くだけ有って、後編へ続く。