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焼肉 その4
再び気を取り直して、肉を焼く。
「いい?自分のお箸で生肉を触ったらダメだからね」
「……」
もはや返事もしてくれない。
でもめげない。
私の注意喚起は、子どもたちの未来にきっと役に立つはずだ。
「で?さっきの問題は解決したの?」
ふふんっ!と鼻を鳴らすのは、きっとこういう時だろう。
「楽勝よ!竹箸で触ってしまった肉は、もう片面が焼けた後、最後に自分の箸でひっくり返してサッと焼く!カ・ン・ペ・キ・でしょ?」
「なんかムカつく言い方」
何とでもお言い。
難問を解決して、私の頭の中はバラ色だ。
「じゃあさ、その竹箸で今ひっくり返している野菜はどうするの?」
「え?」
―――野菜。
再び私は固まった。
気が付くと、やっぱり肉はなくなっていた。
いや…。
あった。私の焼肉のたれの小皿の中に、ひときわ輝く肉がひと切れ。
「お母さん。お肉食べてないでしょう?入れてあげたからね」
なんと!優しい!
持つべきものはやっぱり娘か!
「ありがとう」
と、目を向けた娘の皿に釘付けになる。
母:娘=1肉:10肉
…人生なんてそんなものね。